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お人好しくらいしか褒められることのない俺の起業
俺は先日、仕事を辞めた。
いや、事実上解雇になった。
「君の誠意、真面目さは私たちは買っている。でも、営業は結果がすべてなんだ。
この会社は基本給が安く、契約数で歩合給が出る。正直、君に向いているとはいいがたい。」
上司のその言葉を受けて俺は会社を辞めた。
決してブラックだったわけではない。誰も俺を責めなかった。
だが、営業にありながら、契約を取れない俺は肩身が狭かった。
「あなたはいい人だった。でも、いい人なだけでは一緒に居られないの。」
4年一緒に暮らした彼女と結婚を考えていた矢先に振られてしまった。
途方に暮れた俺は、ふとみた掃除専門のハウスサービスの看板にインスパイアされて「なんでもやります屋」を始めることとした。
立ち上げた会社の電話が鳴った。
初めてのお客さんは「借りていた部屋を立ち退くことになった。でも、今抑うつを発症した自分には、部屋を片付けることができない。なので依頼したい。」とのことだった。
部屋の片づけくらいなら、この俺にもできるだろう。いそいそ現場に出かける。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします。」「ああ、ありがとう。手伝えることは何でもするけど、自分で動けないんだ。段取りもできなくて・・」
「僕(俺とは言わない)にお任せください!」
開始早々、テーブルのコップを割る。
「ああああごめんなさい、。弁償しますので!」「いいよ。どうせ捨てるつもりだったから。」住人は手早く割れたコップを片付け、新聞紙にくるんで「割れ物」と書き込む。
カーテンを外そうとしてカーテンレールが外れた!「あああ」「大丈夫。…敷金ちょっと上がるかもしれないけどそのままで。」
トイレを掃除したペーパーを流そうとして詰まらせる。「ああああ」
「問題ないよ。まず水を全て取り除いて、上から取れるだけ取って、あとはゴムの吸引で・・・」
「押し入れのふすまがレールから!」「これくらいどうってことないよ。」手早く直す。
そして終わってみたら、梱包できてない荷物の山が・・「・・ダンボールを近くのスーパーでもらってきて・・」
スーパーで段ボール箱をもらって帰ってきたら、荷物はきれいに仕分けられていた。「・・ありがとう。」丁寧に梱包する。彼が。
「・・・あの、今日はお代いりません・・」いつもそうだ。やる気がから回っても、何をしても能力がない。仕事も、家事も。
ところが、
「ありがとう。君を見て、勇気が出た。
今まで僕は何をしても何もできなくて、結果、会社も彼女も失った。(俺のことじゃないか・・)そのせいでひどく落ち込み更に何もできなくなっていた。
でも、君とこうやって荷造りや掃除をしてて、自分にもできることがあるって受け入れられた。何かができた。つまりは救いになったんだ。
もしよかったら、僕も君の仕事に加わらせてもらえないか?」
俺は複雑だった。でも、何かができるから、人の助けになるとも限らないんだな。
今彼は優秀な部下であり、同僚であり、そして今は、
部屋を片付けるのを「手伝ってくれる」会社としてそこそこ売れている。