母とミシン vol.2
ミシンの配送の手はずを整えるため
実家に赴いた。
*ミシンを配送することになったいきさつは
こちらから → 「母とミシンvol.1」
やる気はマックス!
それなのに母が
「やっぱりこんな古いもの直さなくても…」だの
「こんな古いもの
宅配屋さん運んでくれるやろうか…」だの
「やっぱりミシン捨てた方が
スペース空いていいんじゃないか…」
と言いだした。
修理費が惜しくなったのではない。
長年コツコツと商売を続けてきた母は
わたしなんかよりよっぽどお金を持っている。
原因は「もう自分には価値がない」と
思い込んでいることだ。
そこに輪をかけ父が
「そんな腐ったミシン直さんでも」
と言い出した。
わたしは鬼の形相で父を睨みつけ
「あのねーっ、
お母さんが元気でないと
いちばん困るのお父さんやろっ!
お母さんがいなかったら
シャツ一枚タンスから出せないくせに
ミシンの修理くらい
気持ちよくさせたげなさいよっ!」
長年連れ添ってきたくせに
妻がどれだけミシンを
大事に思っているかわからない。
あんたの目は節穴かっ。
しかし年寄り相手に激昂しても
得るものはない。
今やるべきことは配送だ。
わたしは気持ちを落ち着かせ
母に言い聞かせ始めた。
「いい?
宅配業者さんは運ぶものが古いとか
そういうことはどうでもいいの。
運賃をきちんと払いさえすれば大丈夫。
同じお金を出すなら
わけのわからん今時のミシン買うより
気心の知れたミシンに投資するのが
生きたお金の使い道というものやろ?」
「そうやろか…」
そうやろかじゃないわいっ!
ミシンがなくなってスペースが空いたら
心にもぽっかり穴が開くくせに
80年も自分と付き合ってきて
そんなことすらわからんのか。
威張る人間と卑下する人間、
どちらがめんどうかと言われれば
卑下する人間だ。
威張る人間などたやすい。
話を聞くふりをして
「そうなのーわーすごいわーすてきうらやましいさすがだわすてきだわ」
と言っておけばまちがいない。
しかし卑下する人間はそうはいかない。
言葉選びには慎重さを要する。
わたしの母も卑下する人だ。
気配りに気配りを重ね
めいっぱい気持ちを上げるのに尽力しても
次の瞬間にはまた勝手に落ちている。
かんべんしてくれと言いたい。
この世でいちばん話が通じないのは
1親等の人間だとわたしは思う。
それでもどうにか母を説得し
発送手配を終えた。
あとはミシンの引き取りを待つばかり。
母の気が変わらないうちに
さっさと運び出してほしいものである。
〜つづく〜
(2018年9月10日の記録)