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臨床心理士なるみの『ブリーフセラピーびいき』第3回

朝夕にはもう夏の終わりの気配が。うっすらと待ち遠しい秋が忍び寄ってきました。今回も引き続き、ブリーフセラピーに見た希望の光についてお話ししていきたいと思います。どうぞおつきあいください。

「原因探しをしない」というカルチャーショック

 大学院時代、自分が学んでいたセラピー理論に疑問を抱き、臨床心理学そのものに思い悩んだ時に偶然出会ったブリーフセラピー。最大のカルチャーショックといえば、ブリーフセラピーも家族療法も、クライエントが語る症状や問題について「誰か」や「何か」に原因を求めないという点だった。それどころか、人間の行動や心理的問題に対して、唯一の原因を特定することは不可能であるというのだ。今となっては自分の中で当然のことになっているが、天地がひっくり返るぐらいの驚きだった。原因探しをしない、ということは、それまでに受けてきた臨床心理学の教えの前提が変わることであった。いや、臨床心理学だけでなく子どもの頃からのお勉強全般をも含むかもしれない。原因の究明という、当たり前の科学的態度を、根本から見直し、認識を改める必要性すら出てきた、自分自身の世界観がゆらぐような大事件であった。

オーマイガー!(嬉しい驚き)

 クライエントが「ある人物(例:配偶者、子ども、親、隣人、職場の同僚、上司)がかくかくしかじかで辛い。日々ストレスでいっぱいである。」旨、面接で訴えるとしよう。個人を対象とした心理療法では一般的にまず、学術理論に照らし合わせて問題を分類し、その原因を究明しようとする。そしてこの原因に対する自己理解や気づきを促したり、改善させたりすることで、症状や問題状況の解決、解消をはかる。何を問題とするか、何を原因として推測するかは学派、流派の理論によって異なるが、おおむね原因として推定されるのは、クライエントの「過去のトラウマやトラウマティックな経験」、「幼少期の重要な他者との関係性」、「何らかの能力や機能の欠如」、「機能低下」、「行動特性」、「自動思考」、「認知パターン」などいずれも個人内にある要素の何かである。

 セラピストは理論上、蓋然性の高い原因を推定し、クライエントに対して直接または間接的に原因事象への直面化を行う。クライエントは洞察、学習、再学習、認知の再構成、行動変化などを通じて、原因とされる何かを修正したり、自己理解したり、成長したりするよう促される。このようにクライエントの何かを直したり、正したり、何かに気づかせたりして問題を解決することが、すなわち治療であると考えられている心理療法の世界で、「原因を探さない」なんて、そんな治療理論があり得るのか?と最初は思った。

原因を究明せずして解決できる?!

鍵は、システムという捉え方

 原因を探さないのなら、家族療法もブリーフセラピーも一体どんなことをしているのかといえば、原因を探すことなく直に解決を探したり解決を構築したりしている。そのために援用しているのが相互作用という視点だ。問題とは個人の内面ではなく人と人の間に生起するものとの考えから、個人の内面ではなく、個人と個人の間の関係性、具体的にはやりとりによって相互に影響し合うパターンを見る。それも個人 × 人数として捉えるのではなく、家族なら家族、カップルならカップル、その人ならその人の内外環境を含んだ一つの全体、一つの有機的なシステムとして捉える。そのシステム内のメンバーが言ったりやったりしていることのうち、クライエントにとっての問題につながっている相互作用(悪循環)を見つけて交通整理し、悪循環が止まり、良循環に替わるような行動を介入案として提案する。

 悪循環を回しているのは「良かれと思ってそうしている行動」であるが、その解決行動を止め、さらに別の行動に替えることで、相互作用(悪循環)のパターンを変え、クライエントにとっての問題の解決・解消を目指す。あるいは、焦点づけられていなかったけれども実はすでにある解決、うまくいっている相互作用(良循環)を拡張することで問題を解決・解消する。システム内のやりとりを片道通行ではなく円環する相互作用として見るが、これが円環的因果律によるものの見方である。

 相互に作用し合うシステムの中で、どれか一つの片道通行のやりとりを「これが問題の原因である」と断定することは不可能で、それは数限りない相互作用のうちの一つを原因と見ているに過ぎないと考える。例えば「今日ここまで特に問題なく過ごせたのは何が原因?」と問われても、「これこそが原因だ!」と何か一事象を取り上げるのは無理があるように、今起きている何かを結果として、何か一つの原因に帰属させることは、現実的には不可能なのである。仮にはっきりとした原因があるように見える場合でも、詳しく観察すると、一つの原因というよりは、少しずつ積みあがった様々な要素の最後の一押しに過ぎないということはよくある。

修理や手術などには、直線的因果律が必要不可欠

 誤解なきよう付け加えると、「問題には原因がある。原因を突き止めることが解決の条件である」という直接的因果律は、しごくまっとうな科学的なものの見方である。故障したモノの修理や外科手術など、直接的因果律による問題解決は私たちの暮らしを助けてくれている。システム理論もまた科学的概念の一つであり、円環的因果律も原因論の一つである。つまり、直接的因果律や原因の存在を否定するものではなく、人間関係という有機的で複雑で不確定なシステムにおいてはよりフィットする枠組みで捉えた方が、有効な手段が生まれやすいということである。

クライエントの負担を軽く、シンプルに

 心理療法や人間関係上の問題解決において原因を追究しないことの利点は、クライエントが誰かや何かと敵対の関係になる苦しみを避けることができること、原因は分からずともとにかく問題が解決すること、という風に、できる限り労を伴わず快方・解決に向かえることだと自分は思う。心理療法を学び始めた当時の自分にとっても、シンプルにこの点が大きな希望の光となった。原因の究明と改善のプロセスにはどうしても、後悔や反省、自責感情や処罰感情などの心理的負担は避けがたい。そしてその負担を負ったところで、問題が解決するならまだ救いもあるが、そうでないことの方が多いように思う。それでなくとも今いまの問題に苛まれているクライエントに、できるだけ負担なく、少しでも早く、解決に向かうことを願えばこそ、ブリーフセラピーはとても良い優れた技術だと思った。

次回に続く

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