母の味〜家を出る娘からのリクエスト
夜な夜な自分の部屋でゴソゴソと荷造りをしている娘。
そんな引越しの準備をしている娘に聞いてみた。
「ねぇ、お母さんの料理で、なにか食べておきたいものある?」
すると、荷造りの手を止めて、どことなく照れ臭そうにこう答えた。
「ハンバーグ」
私は、ハンバーグを上手く焼いたためしがない。中に火が通らないことを心配して、どうしても焼き過ぎて固くなってしまうのだ。
ところが割と最近、オーブンで焼けば固くならないことに気付いた。
それで、念のために娘に聞いてみた。
「ハンバーグって、固いヤツ?固くないヤツ?」
すると娘は笑いながら、
「固いヤツ」と。
やはり、昔から食べ慣れたものがいいらしい。
***
こんな会話をしていて、思い出したことがある。
幼稚園でのお誕生会の時のことだ。
その月のお誕生日の子は、保護者と一緒にステージの壇上で、みんなにお祝いされることになっていた。
11月生まれの娘は、私と一緒にステージへ。
そして、先生からひとりひとりインタビューされる。
先生は、マイクを娘の口元に持ってきて、こんな質問をした。
「お母さんの作るご飯で、一番好きなものは何ですか?」
私は、娘が何と答えるのか内心ドキドキしていた。(ハンバーグかな?炊き込みご飯かな?餃子かな?)
すると娘は、ハキハキとこう答えた。
「アルミの鍋のうどん!」
先生方から、クスクスと笑いが起こった。
"アルミの鍋のうどん"とは、そう、つゆとうどんがセットになってアルミ鍋に入っているアレだ。たしかに娘は、このうどんが好きで、お昼ご飯などによく食べていた。
が、
しかし、
これは母の作る料理とは言えない。。。
このお誕生日の席で、なんということ??
私は、恥ずかしさのあまり思わず立ち上がって娘に耳打ちした。
「炊き込みご飯にしようか」
と、無理矢理娘にそう言い直させた。
***
そんな小さかった娘も、もうすっかりいい大人になってしまった。
「固いハンバーグ」は、決して美味しいと言えるものではないだろう。
しかし、娘にとっては、これが「母の味」なのかもしれない。