夏の終わりのかくれんぼ
これは、自分でも判読不能の文字。
21年前に書いたものです。
ボツになりましたが、自分では気に入っている投稿文でした。
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「お母さん、かくれんぼしよう!じゃんけんぽん」
私の鬼。
小高い丘の上に登って周りを見渡すと、隠れたはずの子供達がすぐに現れる。
「じゃ、次お母さんかくれてね。1、2、3、4…もーいいかい?」
太い木の陰に隠れている私の姿は、小高い丘に登ってもすぐには見つけられない。
「お母さーん、どこ?」
「お母さーん」
5歳と3歳の幼い2人が、私の姿を探す。
「お母さーん」
いくら探しても見つからない。
いつの間にか、ひっそりとした公園。
遠くでカラスの鳴く声が聞こえる。
おかしさをこらえながら、息をひそめて隠れる私。
「お母さーん」
私を呼ぶ声も、だんだん不安げに小さくなっていく。
お姉ちゃんの後ろをトボトボとついて歩く弟。
2人は探すのを諦めたのか、しょんぼりとした表情でブランコに腰かける。目で私の姿を探しながら。
「どーして見つけてくれないの?もう、虫に刺されちゃったよ」
しびれを切らして出て行く私。
「ね、お母さん、一緒にブランコ乗ろう!」
私の膝に乗る娘。
いつの間に、こんなに重くなったんだろう。
夕方の風が気持ちいい。
私は夕日に向かって大きくブランコをこいだ。
「さ、もう帰ろう。お風呂に入ってご飯食べなきゃね」
3人で手をつないで家まで歩いた。
この子達は、この日のことを覚えていてくれるのだろうか。
私は忘れない。
夏の終わりに2人が一生懸命私の姿を探してくれた日のことを。この夕日のように、ちょっびり眩しくて切ないひとときがあったことを。
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