誕生日のプレゼント①
ある日曜日の午後。
夫婦は街の中心部にある電器屋へ向かった。
ネットで見て気になっていた「壁寄せテレビスタンド」の現物が、実際どんなものなのかを確かめるためだ。
エレベーターで、売り場の4階へ。
数日後に53歳の誕生日を迎える夫と、2つ歳下のその妻。夫が先にエレベーターを降りた。
お目当てのコーナーへ向かう途中、ふいに夫が足を止めた。彼の視線の先には、ずらりと並んだ腕時計のコーナー。そう言えば「腕時計のベルトを取り替えたい」と言っていたっけ。妻は今朝の夫の発言を思い出していた。
夫が佇むそばには、ガラスのショーケースにスプレーを吹きかけ、白い布で掃除している若い男性店員の姿。夫は彼に声をかけた。
「すみません、ちょっとこの腕時計見せていただけませんか?」
夫は、ショーケースの上段に陳列されている腕時計を指差した。
"腕時計のベルトを取り替えるくらいなら、いっそのこと新しい時計を買ってもいいかな…"
夫の頭の中には、そんな考えが浮かんでいた。
夫が選んだ3本の時計は、どれも赤札の付いたセール品。
「えーっ、9,800円?お父さん、ある程度のものじゃないと恥ずかしいよ〜」という妻に対し、「いや、これで充分」という夫。
倹約家の夫は、高級な物を身に付けると、どうも身体がムズムズして落ち着かない。"自分には高級な物は似合わない"…昔からそんな風に思う人間なのだ。
つづく