PP Conflictsについて:最終回(Young et al. 2008)
これまで3回にわたってPP ConflictsについてYoung et al. (2008) をレビューするかたちで検討してきました。今回が最終回となります。
↑前回までの記事です。
今回はYoung et al. (2008) の“Suggestions for future research”に書かれている内容です (pp. 211-214)。
将来研究に対するいくつかの示唆のうち「PP Conflictsへの対応」という部分をレビューしてみます。
日本型のコーポレート・ガバナンスが有用?
Young et al. (2008) はPP Conflictsへの対応として新興国についてはドイツと日本のコーポレート・ガバナンスのシステムがヒントになることを示しています (p. 213)。
これは経営者、債権者、従業員、および政府の強力なネットワークが存在することが理由です。
ただし、Young et al. (2008) は課題も指摘しています。Chirinko and Elston (2006) を引用するかたちで「銀行が企業と債権者と株主の両方として共通の役割を果たすことにより、銀行がリスクを少数株主に転嫁することができる」(p. 213) と記述しています。
上記はドイツを対象にした研究ですが日本でも当てはまるのかが興味深い点です。
複数大株主の存在
PP Conflictsへの対応としてもう1つ挙げられていたのが複数大株主です。ちょうど筆者も複数大株主に関する研究を進めています。
所有権と支配権が複数の大株主に分散され、個々の株主が会社を支配できるほどの大株主ではないとします。
この状況下では、会社から資金を流用するには大規模な連合の相互作用(または共謀)が必要となります。結果としてPP Conflictsが緩和される可能性があるのです。
しかし、支配連合同士の共謀の可能性もあります。実際、複数の理論研究が大株主同士の共謀の可能性を指摘しています。一方で複数大株主の存在がコーポレート・ガバナンスに好影響を与えることを示唆する実証研究も多く存在します。
日本の上場企業でも複数大株主を有する企業が存在します。複数大株主がPP Conflictsを緩和する存在なのか、今後も調査していきます。