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カヨのトワイライトデビュー

カヨは四月から小学生。小学生になったら「トワイライト」に行くことが出来るってお兄ちゃんに教えてもらっていたからずっと楽しみにしていたよ。中学校に行ってないお兄ちゃんが「トワイライト」に行くようになって、おうちでトワイライトの話ばかりしていたから、カヨもずっとうらやましかったけど、小学生にならないと行けないって聞いてずっとがまんしていたよ。トワイライトから帰ってくるお兄ちゃんが、よくお菓子やバナナを持って帰るのがうらやましかったわけじゃないからね。

今日、小学校からおうちに帰るとトワイライトの青い車がむかえに来てくれて、トワイライトのおうちに連れていってくれた。トワイライトのおうちはカヨのおうちよりも大きかったよ。カヨのおうちのお部屋は二つだけど、トワイライトのおうちはお部屋が四つもあったから、どの部屋で遊んでもいいよって言われたよ。ぬいぐるみもたくさんあったから、ぬいぐるみさんの部屋もつくったの。

「カヨちゃんひさしぶり! 会いたかったよ」
ミシガンってお船のレストランからもらったケーキを食べていたら、お正月にお宿に泊まった時に遊んでくれた、高校生のサヤちゃんが来てくれてびっくりした。トワイライトには毎週、サヤちゃんのようなやさしいお姉さんやお兄さんがボランティアに来てくれるんだって。

「ちょうど近所の三井寺で、ライトアップしているからサヤちゃん、夕食のあとにカヨちゃんを連れていって」
センターのスタッフの人が貸してくれたタブレットで、いっぱい桜の写真撮ってきたよ。後でお母さんのスマホにカヨが撮った写真送ってくれるって言っていたから楽しみ。帰る前にみんなで銭湯に行ったら、カヨの好きなネコちゃんがいて、これから毎週ネコちゃんと会えるのが楽しみ。でも銭湯の中で楽しすぎて、サヤちゃんにお湯かけていたら隣にいたおばちゃんに怒られたから「うるせぇメスブタ!」って言い返してやった。

一緒に銭湯に入ったセンターのスタッフさんが、帰りの車の中で「さっき、お風呂の中でおばちゃんに怒られた時に、何でおばちゃんにメスブタって言ったの?」って聞かれたから、「だって家でお母さんがうるさい時に、すぐお父さんが言っているし」って教えてあげた。保育園の時から先生に「カヨちゃんは口が悪いからなおしなさい」っていつも言われていたから、センターのスタッフにも同じこと言われるのかなと思ったら、「そっか・・・教えてくれてありがとう」って言われてびっくりしたよ。

おうちでも、保育園でも、まだはじまったばかりの小学校でも、そして今日の銭湯でもいつもいつもカヨは怒られてばっかりだったけど、トワイライトの人からは一度も怒られなかった。怒られないってうれしいな。

おうちに帰るとお兄ちゃんが迎えに出てきてくれたけど、お母さんは出てこなかったの。お兄ちゃんは何も言わなかったけど、お母さんが台所で泣いていたから、きっとお父さんに「うるせぇメスブタ」って言われたのかなって思った。泣いているお母さんを見ているとカヨも悲しくなるから、お布団の中で来週のトワイライトのことを考えることにしたよ。

【解説】

この物語は2022年6月より、京都新聞(滋賀版)にて月一の連載としてはじまった「こどもたちの風景 湖国の居場所から」の前半部分の物語パートです。こどもソーシャルワークセンターを利用する複数のケースを再構築して作っている物語なので、特定の子どもの話ではありません。

ここのところセンター内の居場所活動以外の話が多かったので、久しぶりにセンター内の居場所の様子を紹介しました。今回の主人公は第八話に登場した当時は保育園児だったカヨちゃんです。四月になって小学生になったので楽しみにしていたトワイライトに参加出来るようになりました。そしてそんなカヨちゃんを通して伝えたのは「心理的虐待」が子どもに与える影響です。心理的虐待の対応件数はこの十年で爆発的に増えました。これは心理的虐待が増えたわけではなく、心理的虐待の一つのパターンとして「面前DV」が法律に明文化されたこと。そして警察と児童相談所の連携が密になったことでDVによる家庭トラブルに介入した警察から児童相談所への通告が急増した結果と思われます。

目の前で毎日のように家族間でDVが行われている環境で子どもが育つことで子どもの情緒に大きなダメージが加わることは子どもに関わる専門家は知っていますが、そこに対する児童福祉として直接子どもを支援する施策はほとんどありません。子ども自身が強く望まなければ一時保護のように家庭と分離して支援することはないですし、専門機関が介入して夫婦間などの家族内の人間関係が劇的に改善するようなことはまず起こりませんし、そもそもDVが起こりやすい背景に困窮や保護者自身の発達課題やメンタル課題、依存問題などが潜んでいることもあります。

そしてカヨちゃんのような幼児期や小学生の低学年の子どもなどは社会性を身につけはじめる時に、ベースになる人間関係が家庭での家族の姿になるためにDVが日常である姿を誤学習することは多々あります。そして保育や教育の現場ではその誤った行動を指導や教育で子どもに指摘するのですが、子ども自身は「自分の言動」を注意されているのではなく、自分がダメな子と認識する負のスパイラルに陥りやすいわけです。

ケアを目的としたトワイライトのような居場所は、心理的虐待によって誤って身につけてしまっている対人コミュニケーションを、従来の指導や教育ではなく体験を通して包み込みようにゆるやかに変容させていっています。

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