カヨはお宿に泊まったよ
カヨは今、五歳。ひまわり組で保育園のブランコで遊ぶのが大好き。お正月は保育園がないからおもしろくない。お父さんとお母さんは「お正月はお祝いでお酒を飲む」って言って、朝からずっとお酒飲んでたけど、お正月でなくてもいつもお酒のんでるのに変なの。お兄ちゃんは中学生。怒ったらすっごくこわい。でも「とあいらいと」ってとこに行く日はやさしいので、毎日「とあいらいと」に行ったらいいのになぁって思っている。お兄ちゃんのお父さんは死んだから、カヨのお父さんとお兄ちゃんは仲が悪くて、よくケンカしているんだよ。仲良くしないとダメなのにね。
この前、お兄ちゃんを家に送ってくれる「とあいらいと」の人が、カヨに「お泊まり会」があるから遊びにこないって言ってくれたの。カヨも「とあいらいと」にずっと行きたかったから(とあいらいとは、小学生にならないと行けないんだって)、すぐに「行く!」って言ったよ。そのあとに「とあいらいと」の人が「お泊まり会」のしおりをもってきてくれたけど、カヨは字が読めないからお兄ちゃんが読んでくれた。「やんけあびわきゃん」っていうのが、お泊まり会の名前だったけど、すぐ名前忘れちゃった。持っていくものは、いつもの保育園の時と同じで、お兄ちゃんが全部準備してくれた。大好きなぬいぐるみをもっていきたいって言ったら、怒られたけどこっそり持って行ったよ。
お宿についたら、保育園の子はカヨだけで、あとはみんな小学生だったからドキドキしてたけど、みんなやさしい子ばっかりだったから良かった。「ばでぃ」って言う大人の人が発表されて、カヨの「ばでぃ」はサヤちゃんっていう高校生だったの。サヤちゃんとみんなで晩ご飯の買い物に行って、カヨは買い物のくるまを押してお手伝いしたら、みんなから「すごいね」ってほめられた。生まれてはじめてのおかいもの楽しかったな。晩ご飯は「みんなの食堂」ってとこで食べたよ。おばちゃんたちが作ってくれたご飯おいしかった。お兄ちゃんがたまにごはん作ってくれるけど、残したらすっごい怒るのでご飯の時間は嫌いだったけど、この日のごはんは楽しかった。
お宿にもどったらみんなで「おばけやしき」して、カヨはおばけになって、大人の人をいっぱいおどかしたよ。お風呂はサヤちゃんと一緒に入ったの。サヤちゃんといっぱいお風呂でお話したよ。カヨはおじいちゃんもおばあちゃんもいないけど、サヤちゃんはおじいちゃんと一緒に暮らしているけど、おじいちゃん病気でいつも看病しているって言ってたから「えらいね」って頭なでてあげたの。
朝起きてから、「やんまーみーじあむ」にみんなで遊びに行って、サヤちゃんと一緒にいっぱいゲームしたり、乗り物乗ったり、やまのぼりした。レストランでご飯食べたあとにみんなでだるまさがころんだした時は、サヤちゃんにずっとおんぶしてもらってたよ。サヤちゃんの背中あったかかったよ。帰りの駅で「サヤちゃんを家に連れて帰る」って泣いちゃった。サヤちゃんも泣き出しちゃったから、カヨがまんして一人で帰ることにした。家に帰るとお兄ちゃんがやさしく「楽しかったか?」って聞いてくれたから、いっぱいお泊まりのお話したよ。また次も遊びに行きたいなぁ。
※「とあいらいと」
こどもソーシャルワークセンターの夜の居場所トワイライトステイのことで、カヨの兄が毎週通っている。
※「やんまーみーじあむ」
長浜市にあるヤンマーミュージアムのこと。今回のお泊まり会で二日目に子どもたちが楽しんだ。
【解説】
この物語は2022年6月より、京都新聞(滋賀版)にて月一の連載としてはじまった「こどもたちの風景 湖国の居場所から」の前半部分の物語パートです。こどもソーシャルワークセンターを利用する複数のケースを再構築して作っている物語なので、特定の子どもの話ではありません。
第7回から新たな主人公で物語をすすめています。前回の高校内居場所カフェからヤングケアラーのピアサポーターになった高校生のさやちゃんが今回の物語に登場しています。そして今回は幼児のカヨちゃんを主人公にしてみました。今までの話はすべて思春期世代の中高校生が主人公だったのでかなりタッチが違っていたと思いますが、幼児期の子どもにはセンターでの居場所や体験活動がこのように見えているのではと思いながら、お正月明けの冬休みにヤングケアラーの小学生を対象に行った「ヤンケアひこキャン」のエピソードを入れ込んで話を作っていきました。
申し込み時には15人の子どもたちだったので、ピアサポーターをはじめとするマンツーマンで関わるボランティアを確保するのに苦労していたのですが、ところが次々の子どもたちがコロナに感染したり、濃厚接触者となってしまったので、あわてて特別に幼児も参加となったわけです。改めてコロナ禍の子どもの活動づくりの難しさを感じた「ヤンケアひこキャン」でした。
印象的だったのはカヨちゃんのような幼児をいつも面倒みているヤングケアラーの中高校生が、このお泊まりで下の子がいなかったことで、家で自分の時間を謳歌したことでした。ヤングケアラー支援では、どうしても相談やオンラインサロンなどの思春期や若者向けの支援メニューが目立ちますが、やっぱり居場所や体験活動があることで家族がケアから休めることの意味の大きさを感じています。