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【幻想一品】兜から考える幻想世界②

こんにちは、同好の友人たち!
ずいぶん待たせてしまったが、幻想一品シリーズを再開する。
どうぞよろしく頼む!

今回は兜から幻想世界を眺める試み、第二弾。
二人称、つまりは打撃を打ち込む側から見た兜について考えていくよ。

君は今手に肘から指先程度の長さがある長剣を持っている。
非常に難儀なことであるが君は一撃であの素晴らしき兜を被りし暴漢を討ち倒さねばならない。さぁ君なら彼のどこに襲い掛かるだろうか?

これはフランス式ヘルメットのレンダリングモデルだ。
幾つか示唆的な特徴がみられるだろう。
よく観察して打ち込むべき場所、弱点があるかどうかを見破るのだ。

画像のヘルメットをよく見てみよう。いかにも強そうな目から上にかけての補強は中に分厚い鉄の層ができていることがよくわかる。

それから、首まで守る形のバイザーは、首を突こうとする君の一撃をすでに予期しているようにすら思える。もちろん首の横は鎖帷子で守られているに違いない。

では、もう一度問おう。君は奴のどこに渾身の一打を食らわせる?

兜の弱点

兜の弱点を見るには、次の3カ所へ注目するといい。

  • 鉄板が平たくなっているところ。

  • 破壊できそうな継ぎ目。

  • 鉄板が薄くなっているところ。

打撃に対して概ね強いとされる形状は球形だ。球は力を分散させ、鉄板が変形したり、破れたりすることを防いでくれる。球でなければ曲面、最も弱い形が平面である。

更に言えば曲面で斬撃を受け流す事は、攻撃者に大きな隙を与える。その点でも防護として曲面は優れている。

例えば写真の兜の頭上を見て欲しい。
写真から想像するに、彼の頭上に張られた鉄板はやや弧を描いた曲面、乃至は平面の鉄板が張られているとわかる。

もし彼に頭上から攻撃を与えることができたならば、剣の一撃は鉄板を破るかもしれないし、固定具が外れれば頭を打ちのめし、気絶させることができるだろう。

若干ゆがめるだけでも、中に納まった球形の頭はその衝撃をもろに受けることは間違いない。

さらに頭上の平面が目立つ十字軍の兜。
正面にあしらわれることが多い十字は宗教上の背景もあるが、
補強の役割が強かったという。

継ぎ目はどうだろうか?向かって右側に鋲で止めている部分が見えるね。

鋲で留め合わせている部分は無骨でかっこいいが、戦場でそれを見せびらかすのはお勧めしない。なぜならその部分は確実に衝撃に弱いからだ。仮に留め具が弱ければ、数度の打撃を与えることで兜は役に立たなくなるだろう。

薄くなっている可能性で言えば、補強のされていない額上部分が怪しい。

鉄板は叩いて曲げることで成形されていく。その過程で鉄は強くなるが、一方で薄くなって割れやすくなることも注目してほしい。

この形の兜は鉄板をまげて作っているため比較的厚みは安定しているが、球状に叩いて作るバイキングの兜などは叩き具合により思いのほかぼこぼことしており、穴が開きやすくなっている。仮に穴が開いたまま戦場に出ようものなら、やはりそこを集中的に狙われるだろう。

兜の弱点が“ある理由”

ところで、なぜ兜に弱点があるのだろうか。
この部分を見ていくと急激にファンタジー世界の兜が面白くなってくる。

兜に弱点がある理由は『そこへの攻撃を想定していないから』『コスト(重さ、価格、視界、快適性)を改善するため』が考えられる。

例えば先ほどのフランス騎士。頭上からの攻撃に弱いと書いたが、彼が馬上に乗っているのであれば頭上の防護は必要だろうか?

確かに落馬後の戦いは想定されるが、それよりかは自分より低い位置にいる相手との闘いを想定している作りに思える。

また、右手部分の鋲を仮になくすとすると、一枚の鉄板を首側から叩いて作るしかない。これは非常に骨の折れる作業で、コストが跳ね上がってしまう。であれば一度鉄板を作り、それをまげて鋲で留めるという製造方法が合理的という事になる。

コストを度外視した兜と言えばこのコリント式兜だろう。
物凄く重く、数を作ることも難しい兜だが、
その強靭な設計は多くの出土品が完全な形で
残り続けていることからも想像することができる。
集団で正面から戦う当時の戦闘においては、
まるで重戦車のようなこの兜が重宝されたことだろう。

ここから、この兜をかぶる兵士は『低い位置の敵を相手に戦い』、『コストを優先するような時代、場所、戦場、地位にいる』という事が見えてくる。

どうだろうか。だんだんとファンタジー世界が見えてこないだろうか?

例えばこの画像の鎧を見てほしい。
特徴的な首下だけを守る分厚い鎧は、
彼が小さな脅威との戦いを想定していることがわかる。
正面からの攻撃という意味で先ほどのフランス式兜を
特化させたのがこのバシネットである。
馬上槍試合を想定したこの形状は、
取り回しの良さに対して正面への強靭さを誇る。
ローマ軍の兜はコストを重視し規格化された
最も優れた一品であると言える。
ジャングルでの戦闘には聴覚と視覚を優先するため、
可動式の頬当てが重宝されるシーンも多かった。
一方、実際に着用した兵士からは
その潰れやすさ、頬当て部分の破損に不満が尽きなかった。
錆びるとすぐに蝶番が動かなくなるため、
兵は四六時中兜を磨くことになる。

敵の目線に立って装備を考えるという事は、逆を返せば装備者が想定する敵を想像することにつながる。もし幽霊を相手にするような地域の冒険者であれば聖水をかぶるだろうし₍もしくはその聖水を保持するような機構が備わっているかもしれない₎ドラゴン退治をするのであれば頭上の攻撃や毒の霧に対応できるような密閉性と頑丈さに特化した兜をつけていることだろう。

最も、ドラゴン退治に天井の平たいバケツヘルムで挑んだとしても決して場違いというわけではない。兜は基本的に大変高価で一生ものだ。きっと彼はその弱点を知っているからこそ、より注意深く敵に挑むことだろう。

以上が敵の目線、二人称視点に立った兜への考察だ。
次回は兜を実際にかぶることをイメージして、ファンタジー世界を見ていくとしよう。


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