溶ける02 探検家01
母の膝でまどろんでいるとーー
ーーもう目覚めなくてもいい。
突然、眩い太陽の下で息も絶え絶えにランニングをしている自分に気づいた。
灼熱の下の眩暈。だが、乾いた風が心地よい、海岸線に植えられたヤシの木々の向こうをカモメが掠めていく。
吸い込まれるように飛翔し、その延長線にモータープールの移動販売車が見える。
「おそーい! 待ちくたびれておなか減ったじゃーん」
「もう食ってんだろ……」
「あ」
言葉が消え、次にホットドックが消えていく。
「ほんと、よく食うな」
飲んでたウォーターボトルを奪われる。飲み口から大量にこぼしながら飲み続ける。
「ばててんだよ。水ぐらい飲ませろよ」
「あんたが遅いからジョナサンにホットドック盗られるとこだったじゃん」
「慌てて食うからのどに詰まらせたんだろ。カモメだってお前から食い物盗むほど無謀じゃない。車道に叩き出されて、バードストライクの弾にされたくないだろ。この前のトンビみたいに」
「次はソーセージ焼いてる鉄板に落としてやるわよ」
「それも食う気だな」
「そーれ!おなかいっぱい水飲んでいいよ?アハハ」
洗車用のホースから大量の水が避ける間もなく、飛んできた。
悪びれる様子もなく近寄ってきて、
「久しぶりに走れてすっきりした。おなかすいたから帰ろ?」
びしょ濡れの顔を覗き込んでくる。
「ホットドック一本じゃぜーんぜん足りないっ」
(大喰らいめ)
ため息をつきながら、タオルで顔をぬぐう。
「今日はお前が作るんだぞ」
「わかってるわかってる。今日は断然チキンが食べたくなった!」
「帰るか。メシが終わったら画像の整理もしなきゃならないし」
男が先に歩き出すと、女は立ち止まった。
「今度いつ出発する?」
「まだ先だよ。とにかく報告書をまとめてスポンサーへ提出しないと金にならない」
「それなら、先にさー」
「?」
「結婚してくれない?」
「えっー……と」
「なに? 私に不満があるっていうの?」
「いやっ。いやいやいや! おまえ、よく考えたのか?」
「考えた。…それでわかった。考えても、考えなくても、答えは変わらないって」
「……お、おぅ」
「で? 返事」
「……出発する前にじゃなくて、帰って来た時に返答する。わかるだろ? 俺の職場は人間がいない場所なんだ。そこでよく考えたい。こんな都会で何か考えても正しい答えが出せるとは思えない」
「密林の中の山頂で神様に神託でも受けるっていうの? これは、わたしとあなたの、人間と人間と生涯の問題なんだからね。まじめに考えなさいよ!この仙人!」