溶ける01 記憶の宮殿1
どれだけの時間が経ったのか。
いつの日からか、牢を囲む壁の、遥か遠くの高窓から、光が入らなくなった。星の小さな光さえ届かない。
それは看守の私刑だったのか? 私から光さえも奪うことが?
私の犯した罪は、それほど軽蔑されるものなのか。
ああ、笑いが止まらない。
私は、人を喰った。罠に陥れで戯れに殺した。何人も。何十人も。
愉快なゲームだった。ターゲットの情報を集め、行動を予測した。そこへ導いた。デッドエンド。
私にとっては、それは裁きでしかない。おそらくこの世でもっともふさわしい罰を与えたにすぎない。
死刑のない、なまぬるい法では人間は裁くべき罪人を裁けないからだ。
この法がどれほど不完全か、人間を真に罰するには法によってではなく人間は人間の手によって消すしかないではないか。
そして、法の不完全さは私のようなものを存えさせる。いつまでも、いつまでも。
重犯によって懲役は五百年に及んだが、常識に照らし合わせれば、私は寿命を全うできるはずだ。ただ場所は、この独房だ。
ときに看守の頬にキスをした。頬骨が覗くほどに。
遊びがすぎると拘束衣で包まれ目覚めている間は、椅子に縛り付けられた。
何の刺激も、変化もなくなると目を閉じた。
やがて、私の中の、「宮殿」の扉は開くーー。
外の世界で、私は目に付く見苦しい存在はすべて片づけてきた。
そして今は、そんなゴミクズが視界を汚すこともない。
全ては鮮明、理路は整然。
真新しい、過剰な興奮は訪れないが、なんと心安らぐことか。
宮殿の中で、比類のない愛しい母といつでも共にいられる。
彼女がここを去ることなど、絶対に起こりえないのだ。
牢が檻なら、私の頭蓋は記憶の宮殿。
我が永遠の聖母よ。
母の膝に頭をあずけ、その体温を感じる。
すべておぼえている。すべて、すべて、すべて!
母のスカートの皴の一本一本まで。淑女の美しい足を隠す柔らかいループ。
母さん、今この部屋から、不必要な父は追い払いました。