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予備試験刑法で過失犯が出題されない理由

予備試験の過去問をやりまくった人なら知っていると思うが、予備試験の刑法で過失犯を問う問題は今まで出題されたことがない。

予備試験だけでなく、その前身たる旧司法試験でも、事例問題として過失犯が正面から問われた問題は出題されていない。

過失犯は法学部では誰もが習う重要分野であるはずなのに、なぜ試験では出題されないのだろうか?

今回は、過失犯が予備試験で出題されない理由について、いくつかの仮説を考えてみたい。

仮説その1 特別法を出題したくない


まず考えられるのは、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」などの特別法をなるべく出題したくない、という動機だ。

過失がよく登場するのは交通事故であり、その場合は刑法ではなく特別法が絡んできてしまう。予備試験ではなるべく基礎知識を問いたいから、刑法以外の特別法をあまり出題したくないのだ。そうなると、必然的に過失を問う問題は作りにくくなる。

もちろん、業務上過失致死傷罪など刑法犯でも過失の問題は作れなくはないので、この理由は決定的な理由とは言えない。

仮説その2 知識を問いにくい


過失犯の処理方法は、まず予見可能性があるかどうか、その次に(結果回避可能性を前提に)結果回避義務が認められるかどうかを考えていくのが基本だ。しかし、これだけでは知識によって差がつかない。結局のところ、あてはめ勝負になってしまう。これは、知識重視型の予備試験とは相性が悪い。しかし、あてはめ重視型の司法試験では何ら問題がないため、出題に抵抗はない。実際、平成22年の司法試験では過失犯を正面から問う問題が出題された。

仮説その3 他の論点と融合させにくい


今の予備試験は、一つの問題が出題され、その中にいくつかの論点が含まれている仕組みになっている。そして、総論と各論の論点を満遍なく問えるようにしているのだが、過失犯だとこれがやりづらい。過失で出題されそうな論点といえば信頼の原則か過失の共同正犯ぐらいだが、そのような問題が成立するシチュエーションは極端に限定されている。信頼の原則ならどうしても病院の中になってしまうし、過失の共同正犯なら工事現場になってしまう。病院や工事現場で、詐欺や強盗、横領などのド派手な論点が問えるだろうか?平成22年司法試験は何とかこねくり回して不作為犯と融合させたが、過失も不作為犯もどちらも総論なのでバランスが悪い(ダメ出しばかりで申し訳ない)。過失が総論である以上、各論と融合させるべきだが、そのうまいやり方がなかなか思いつかない。

以上のような事情があって、過失犯は今まで一度も出題されていないのだろう。しかし、試験委員としては、どうにかして過失犯を出題したい、というのが本音だろう。予備試験は満遍なく知識を問う必要がある。でないと、受験生は山を張って特定の論点しか勉強しなくなってしまうからだ。

過失犯が出題されるかどうかは、試験委員会の「ひらめき」にかかっている。過失犯の知識を問えて、なおかつ刑法各論の知識も問える美しい問題さえ思いつけば、出題されるだろう。これからの予備試験試験委員会の活躍に期待したい。

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