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⑩「ひかりが私にくれたもの」 - 胞状奇胎という流産の先に見つけた幸せ-

第9章: 再び歩み出す - 幸せの実感。

気付いていないだけだった!
全部、最初からそこにあった。
私が、見えていなかっただけ。
気付かず、受け取れずにいただけだった。

「私には、これだけのものがあったんだ……。」

コーチとのセッションで、私の心に少しずつ灯った光。
それが、日常の中でさらに鮮明に輝き始めた。


ある夕方。
疲れた体を引きずるようにしてキッチンに立っていると、長男が後ろから飛びついてきた。

「ママ、何作ってるの?」

これまでの私なら、
慌ただしさに気持ちが追いつかず、
「今忙しいの!後でね。」
と言い返してしまっていただろう。

でも、その日は違った。
振り返ると、
笑顔で私を見上げる長男の顔が目に入った瞬間、胸がじんわりと温かくなった。
「カレーだよ。一緒にやってみる?」

彼の目が輝き、小さな手がエプロンの紐を結ぼうとする。
その手に自然と自分の手を重ねたとき、遠い記憶が蘇った。

初めて妊娠したとき、心から願ったこと。
「元気に育ってくれれば、それだけでいい。」

もう叶っていた。
目の前で笑っているこの子たちが、
その証拠だった。



夫に対しても、
少しずつ気持ちが変わり始めていた。

ある日、夫が帰宅すると、こう言った。
「今、洗濯機を回してくれれば、夜、僕が干すよ!」

私は一瞬、どう返事をすればいいのか迷った。これまでは、夫の手伝いに感謝するよりも、

「私ができていないから仕方なくやっているんだろう」と勝手に解釈していた。

でも、その日は違った。

「夫がこの時間を使って家事をしてくれるおかげで、私は後のことを気にせず、子どもたちとゆっくり過ごせているんだ……。」

彼は、私が少しでも休めるように、
家族が快適に過ごせるように、
自分のできることを全力でやってくれていたのだ。
それを私は、自分への批判だと受け取っていただけだった。

初めてその気持ちを素直に受け止めたとき、心がふわっと軽くなった。
自然に言葉が出た。
「ありがとう」と。

夫は少し驚いたような表情を見せた後、
いつもと変わらない口調で言った。
「当たり前だよ。」

その短い言葉の奥に、感謝の気持ちが込められているのが分かった。

「いつも家族のために頑張ってくれてありがとう。」と。

彼の言葉の裏にある愛情を感じたとき、
私たちの間に流れる温かい空気を初めて意識した。

幸せは、「感じるもの」

その夜、子どもたちが寝静まった後、
私は一人でリビングに座り、
静かに考えていた。

「ずっと幸せを探していたけれど、
実は、もう持っていたんだな。」

愛する夫、元気な子どもたち、私が努力して得た資格と仕事
――それらはすべて手の中にあった。

でも、
私はそれを感じる余裕を持たず、
ただ自分を追い詰めていた。


コーチが言っていた言葉が蘇る。
「幸せは頑張るものじゃなく、
受け入れるものです。」
その意味が、今なら少し分かる気がした。



翌朝、
「ママ、大好き!」と言いながら、
子供たちが、私にぎゅっと抱きついてきた。

これまでの私なら、
忙しさにかまけて「はいはい、後でね」と流してしまっていたかもしれない。

でもその日は違った。
私は彼をしっかり抱きしめ返し、子供たちに伝えた。
「ママも大好きだよ。」
それだけで、心がふわっと軽くなる。

こんな簡単なことで、
こんなにも満たされるなんて思いもしなかった。

幸せは、特別なものではない。

こうした小さな瞬間にあるのだと、初めて気づいた。

私はずっと、
「幸せになるためには何かを得なければ」と思い込んでいた。
でも実際は違った。

幸せはずっと私のそばにあった。
ただ、それを見つける視点が欠けていただけだった。

家族の笑顔、
自分がこれまで積み上げてきた努力と経験
――それらを感じることができるようになった今、私はようやく「幸せ」の本当の意味を知り始めている気がする。

そして、
心の中で静かに誓った。

「これからも、ちゃんと感じていこう。
自分が持っている幸せを。」

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