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⑧「ひかりが私にくれたもの」 - 胞状奇胎という流産の先に見つけた幸せ-

第7章: 本当にいなくなってしまったんだ
〜手術後に感じた悲しみと、「ひかり」。幸せを探す決意〜

手術の翌日、
友人グループにLINEが届いた。
添付されていたのは、生まれたばかりの女の子の写真。出産報告だ。
ふっくらとした頬に包まれた愛らしい顔。

だが、
見た瞬間、胸が強く締め付けられた。
誕生日は約1ヶ月前。
「可愛い、、、女の子の赤ちゃん、か…。」

携帯を持つ手が震える。
私は何も返信できず、そのまま画面を閉じた。

「生まれてから1ヶ月も経ってるじゃん…
どうして、今。。。
なんで、
もっと早く知らせてくれなかったんだろう……」
彼女は何も知らない。
悪くないのは分かってる。

でも、
もう少し早く。
妊娠中に、いや、流産を知る前に、報告されていたら、、、
心から祝福できたのに。
今の私には、その余裕がない。
自分の心が小さいのが苦しくて、
何も言えない自分が情けなくて、
私は、ただ目を伏せた。
別の友人たちからの祝福のメッセージを知らせる通知が何度も鳴っていたが…
私は、開くことができなかった。


手術後、
あれだけ悩まされていたのに、
悪阻の症状は嘘のように消えていった。
驚くほどに。
吐き気も眠気も、だるさも、どこかへ消え去っていた。

手術から一週間後。受診の日。
内診台に乗り、再びモニターを見つめた。
分かってはいたが、、、
もう何も写っていなかった。

出血は続いていたが、
hCG値は急激に下がっていた――
「ひとまず、安心ですよ」という医師の言葉が、少しの安堵とととに、大きくはないながらも、癌のリスクという、まだ油断ならない現実を突きつける。

「本当に、いなくなってしまったんだな…」
帰宅した私は、「これが夢だったら」と何度も思った。
でも、現実は変わらない。


その数日後。
仕事帰りに幼稚園へ子どもたちを迎えに行った時のことだった。

自転車に乗せようとしたとき、
長男が、同級生に向かって、突然言った。

「ママのおなかの中の赤ちゃん、死んじゃった!」

相手の子供は気にする様子もなく遊び続けていたが、
近くにいたその親が、
「あら…大変でしたね」と。
何とも言えない表情を浮かべて、
子供を連れて足早に去っていった。

まだ誰にも話していなかった妊娠と、、、流産のこと。
それを長男が突然口に出したとき、私は立ち尽くした。

「なんで、そんなこと言うんだろう……」

胸が締め付けられるような痛みが走り、
涙が止まらなかった。

赤ちゃんがいなくなったことを、
まだ自分が受け入れきれていないことに気づかされた瞬間だった。


術後1か月が過ぎ、生理が再開した。
医師からも「順調です」と言われた。
体は驚くほど順調に回復し、
妊娠前の状態に戻った気がした。


けれど、
心は違った。

ふとした瞬間に襲ってくる虚しさが、消えることはなかった。

記録に残らない、幻の第三子。
私と家族以外、誰もその存在を知らないまま、
この世界から消えてしまったんだ。

しばらく経ったある日、ふと、私は思った。

「妊娠できたこと自体が、奇跡だったのかもしれない」

長男も次男も、妊娠・出産に大きなトラブルはなかった。
だから、妊娠したら赤ちゃんに会えるのは当然だと、どこかで思っていた。
だけど今回、妊娠のリスクや命の儚さを痛感した。

長男の妊娠がわかった時、
まだ、性別がわかる前。
悪阻ピークが過ぎて、少し余裕が出てきて。
毎月の検診で、内診台ではなく、お腹の上からエコーするようになって、
確かに、お腹の中で育っていると実感した頃。
妊娠できて、赤ちゃんが産まれることは、希望で。「ひかり」そのものだと思った。
「ひかる」んじなない。
私に取って、妊娠は、「ひかり」そのものだと思った。

そして、それは今回の妊娠でも同じだった。
お腹に来てくれた命。
まさに、希望だった。
私はその赤ちゃんに「ひかり」と名前をつけた。
心の中で。

性別は、ほんとのところは、分からない。
でも、
夫婦ともに「女の子だったらいいな」と期待していたから、きっと女の子だったと思う。

私たち家族の元に、
わずかな時間だったけれど、
やって来てくれた「ひかり」。


彼女が生きられなかった分、
私が人生を諦めるわけにはいかない。

「幸せに生きたい。いや、幸せを感じたい。」
これまで私は、自分の幸せを追求することをどこかで諦めていた。
家族のため、子供たちのため、それが当然だと思っていた。
だけど、今、「頑張るだけじゃダメだ。幸せを感じられるように、生きよう。」と強く思うようになった。


「幸せって、何だろう?」
その問いが頭を巡るたび、私は迷子になりそうだった。
だけど、この手で「幸せ」を見つけたい。
「ひかり」のことを思うたび、私はそれを強く願うようになった。

赤ちゃんが教えてくれたのは、「命の奇跡」。

心の中で小さく芽生えた希望が、私を新しい旅へと誘っていく。

――「幸せ」を探す旅へ。

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