【読書記録】君嶋彼方さん『君の顔では泣けない』角川書店
やっぱりこれ、好きだ。
冒頭の不穏な雰囲。
「年に一度だけ会う人がいる。夫の知らない人だ。」
初めて図書館で、この本を手に取ったとき、始まりの一文に心を掴まれ、立ったまま読み続けた。
途中の会話を読んでるとき、あれ?となる。
ページを戻って、会話の最初から読み直して、頭の中で「これは、まなみで、そっちは水村」と数えながら会話をなぞり、ん?あれ?じゃあ、俺っていう人なのか?えっ?お母さん?坂平って誰?
また前のページに戻る。
いくら読み直しても分からなくて、もう少し読み進めれば分かるのかな、と先に進むが、違和感はさらに強くなるばかり。
待って、待って。だとどういうことなの?
そして、ある事実を突きつけられ、心臓がギュッと締め付けられる。鼓動が速くなる。そんなこと、そんなこと、ある?
そして、また最初から読み直す。
あっ、ごめんなさい。これ、冒頭16ページ読む間のことです。
16ページだけで、5周はして、それでも動悸がおさまらなくて、一旦本を閉じて、休憩。
その間も、表紙の女の子の視線が気になり、でももう一度開くにはまだ心が定まらなかった。
10分経ってようやく落ち着き、恐る恐る読むのを再開した。
そんな思い出。
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青春物としては、割と定番な設定。今までも小説や漫画でたくさん読んできたし、ドラマでもあった。だけど、それまで読んできた話は、どれも戻れることが前提で、そこを疑ったことなんて一度も無かったんだよ。でも、実際、意に反してこんなことが起きたら、そりゃ、いつ戻れるかより、本当に戻れるのかをまず疑うよな。でもそこを疑うことって恐ろしくて、不安に向き合ってしまうと、口に出してしまうと、疑うことで戻れなくなるのではないか?と理不尽な恐怖がわいてくる。だから「大丈夫」と言い聞かせるしかない。
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過去の記憶と繋がっていることで、確かな自分を生きれている。
記憶と繋がらない体で生きていく不安定さが、私には恐ろしくて、自分がどれだけ過去という手応えに頼って生きているのかを実感。
過去なんて必要ないと、うそぶいてきたけど。