「背伸びするあなた」と、試行錯誤の制作
こちらの絵本のような物語は、カメラマンの輝さん言葉と絵を一緒に紡いだものです。
今回は、輝さんの言葉やイメージを中心に絵を制作させていただきました。
最後のシーンは輝さんが撮影された、夢のような光景を絵にしています。
■試行錯誤の制作
まず、1枚目の「背伸びしても届かない蛇口」のシーン。
こちらは写真などから描いたのではなく、言葉から描きました。
難しかったのが、引きのこのシーンで子どもの可愛さやこの光景の愛おしさを伝える点。
これまで子どもの表情や仕草や肌の柔らかさなどから直接的に子どもの可愛さを表現してきました。今回はその直接的な表現はできない。子どもの後ろ姿と洗面所全体の風景だけで、どのように愛おしさを表現したらいいか試行錯誤しました。
工夫した点の一部は以下のとおりです。
・生活感:2歳くらいの男の子と家族の生活を感じられるように、引き出しにもタオルをかけたり、お風呂や洗面所で使うおもちゃが落ちています。手を洗うハンドソープもお肌に優しいものに。慌ただしさが伝わるようにタオルや洋服などがグチャっとしています。
・後ろ姿:手を一生懸命伸ばしていることがわかるよう、肩を入れて顎が上がっている感じに。足の指は可愛い爪先立ちに。
・構図:まず、洗面台や洗濯機との比較で子どもの小ささを感じる構図に。
・色味:時系列を感じるシーンなので、少しノスタルジックな雰囲気に仕上げたくて緑〜青ベースにしました。
・彩度:登場人物である子どもの彩度と背景の彩度を変えて、親が子どもの後ろ姿に目を向けていることを伝えました。
・コントラスト:ドラマチックさを感じるように光を感じる窓と影を強調しました。
結果、部屋や背景から「その人の生活」が、後ろ姿からは「その人の性格」まで表れる、ということを改めて学びました。
3枚目の洗面台のシーンでは、成長した後ろ姿に。
「いつのまにか私の心配をよそに何もなくても手を洗ってるあなた。」の言葉の通り、1枚目と比較したときに男の子の背が伸びたこと、だけどまだ幼い背中であることが伝わるように描きました。
小物:仕掛けとして、洗面台の右上にずっと育てているネモフィラの花を咲かせて連動を持たせました。
生活感:1枚目の生活に比べて少し慌ただしさを感じる要素を減らしました。
壁にシールを貼ったりしてその子の好きなものも表現しています。
恥ずかしいですが、後学のために没とした絵も掲載します。
【Before】
【After】
変化がわかりますでしょうか。Beforeでは、背景を詳細に描きすぎていて、何かノスタルジックな雰囲気がないように感じます。好き嫌いもあるかと思いますが、私自身は「何か、心に響かない‥」と考え、描き直しました。具体的には、色味や背景をぼやかしたり彩度を下げるなどしました。デジタルだとすぐに調整できるのかもしれませんが、アナログだとゼロからの描き直しとなります。でも、だからこそ出来る質感や生感があるので、私はアナログの水彩画が本当に大好きです。
1枚の絵を通じて「心を動かす」というのは、本当に困難で、だけど楽しい挑戦です。
3枚目は、ネモフィラと菜の花に囲まれた空間で、しゃがんだお母さんと男の子が優しくお話しているような瞬間。こちらのシーンは、元となるお写真があります。
本当に美しい光景で、特にお母さんがお子さんを愛おしく思う気持ちが美しく、見ていて何度も涙が出そうになりました。
このシーンも、この幻想的で柔らかい雰囲気をどう出せるか試行錯誤しました。
【Before】
【After】
Beforeでは、ネモフィラを詳細に描こうとするあまりに部分的に濃くなりすぎてしまって、主役である2人に目が向かなくなってしまいます。全体的により淡く仕上げることで、天国のように美しい雰囲気を目指しました。
物語として描くこと、その人以外のものでその人を描くこと、幻想的な愛おしい光景を描くこと、全てがとても幸せな挑戦となりました。
輝さん、素晴らしい機会をくださり、本当にありがとうございました。
輝さんは、ご家族の愛おしい気持ちを優しく写真に映してくれるカメラマンさんです。ぜひ写真を見てほしいです…!出張撮影もされています。
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