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茶道具の新しい「伝来」のカタチ? ブロックチェーンを利用した "モノオークション" とは

先日、Henkaku Communityというコミュニティで「mono auction(モノ オークション)」というオークションイベントを開催しました。オークションというと高級なアート作品を競売しているイメージがありますが、この「モノオークション」というのは、コミュニティに寄付された物品を、コミュニティ内で流通する換金性のない通貨(トークン)を使って競り落とす、楽しいお祭りのようなイベントです。

このモノオークション、ちょっとめずらしい特徴を持っています。それは、物品の「継承」に焦点を置き、モノの移転をブロックチェーンに書き込んでいるということ。通常のオークションが所有権の移転で終わるのに対し、モノオークションでは落札後も物品の旅が続きます。

オークションが、継承…ブロックチェーン…物品の旅??

なかなかパッと伝わりにくいこのシステム。今回は、モノオークションの概要の紹介と、そこから見えてきたこれからの「ものの価値」を考えてみようと思います。

モノオークションの発想は、茶道具の「伝来」から

まずは、特徴のひとつ「継承」から説明します。これは茶道具の価値の創造から着想を得ています。

一般的に、オークションでやり取りされるようなアート作品の価値というのは、「作者」に注目されることが多いですよね。ゴッホ、ピカソ、ウォーホルなどなど。「誰が作ったのか」、その作者のブランドが市場価値を決定づける重要な要素となり、落札するとそれを所有することができます。

しかし、茶道具は少し異なります。現代でこそ作り手に注目されますが、むしろ「誰が使ってきたのか」という使い手に重きが置かれてきました。良いお道具は「伝来物」と呼ばれ、誰から誰へ渡ってきたかという来歴を記す「箱書」がつき、これが非常に重視されるのです。

なぜ「使い手」が重要なのか。それは、茶道具が単に飾るものではなく、実際に茶会や茶事で使われるものだからです。織部の茶会で使用された、遠州が所有していたといったストーリーとともに、茶を愛する人から人へ渡っていくことで、茶道具はどんどん付加価値がついていくのです。

また、千利休による「物の価値の大転換」も関係しています。当時、中国からの道具(唐物)が最も珍重されていた時代に、利休は日常的な道具に新たな価値を見出しました。漁師が使う魚籠や竹筒など、茶道具として価値のなかった日用品を見立て、新たな意味付けをすることで、唐物と同等の地位にまで高めたのです。

もともとの道具として価値がなかったものでさえも、人から人へ渡り、ストーリーが追加されることによって価値を増していく。これが、モノオークションのアイデアのヒントとなりました。

モノオークションの仕組み

さて、ではどうすればコミュニティ内で継承や循環をスマートに促進できるでしょうか。モノオークションでは、人から人へ渡すために循環のルールを作り、さらに「箱書」をブロックチェーンに書き込むことにしました。

茶道具の箱書は、その道具の歴史や使用者を記録するものですが、箱を開けないと見られません。しかし、ブロックチェーンに記録すれば、プラットフォームに依存せず、いつでもどこでも誰でも、その物品の来歴や現在の所有者の情報を確認できるようになります。また、ブロックチェーンの特性により、一度記録された情報は改ざんが極めて困難で、透明性と信頼性が確保されるということもあります。

▼ ざっとした流れは以下の通り

- コミュニティのメンバーが物品を寄付されると、オークション担当者がそれぞれにデジタルな証明書(NFT)が発行します。

- このNFTには、出品者の情報だけでなく、「1年に1回引き継ぐこと」などの循環ルールも記録されます。

- オークションでは、お金の代わりにコミュニティ独自のトークン(通貨)を使い落札します。このトークンは、コミュニティへの貢献で獲得できるもの。例えば、イベントの企画や運営を手伝ったり、コミュニティのサイトやアプリの改善に貢献したりすることで取得することができます。金銭ではなく、コミュニティへの貢献度がオークションでの購買力となります。

- 落札されると、物品のデジタル証明書(NFT)は新しい所有者に移ります。こうして、物品の移動の記録が残ります。

ルールでの記載に従って、オークションは開催され、物品は最低でも1年に1回、常にコミュニティ内を循環し続けます。

上記にも書いていますが、オークションで使用しているのは、コミュニティ内でのみ流通する換金性のないトークン(仮想通貨)です。コミュニティに貢献することでのみ取得できます。

コミュニティのために良いことして、それで貯めたトークンを、モノオークションの落札に使う。トークンの循環としても良いサイクルが出来上がりました。

コミュニティでストーリーを追加する

とはいえ、人から人へ渡すだけで、価値は上がるのでしょうか。茶道具で言えば、有名な茶人の箱書であれば価値は上がりますが、誰も知らない人の箱書であれば、意味は薄れてしまいますね。

そこでモノオークションでは、コミュニティ全体でストーリーを作り、物品に新たな価値を付与する工夫をしています。

例えば…

茶杓の命名式:
コミュニティのメンバー全員で、出品された茶杓の銘(名前)を考案し、投票で選ばれた名前を正式につけました。今回は、MINTAさんが提案した「春雷竹(一期一会の出会いを現しつつ、力強い変革も思わせる名前)」が選ばれました。ちなみに、次のイベントでは、竹筒に銘を入れる案も。

キーボードタイピング選手権:
出品されたキーボードを使って、タイピング選手権を開催しました。エンジニアよりも学生のほうが強かった!そんなエピソードも、このキーボードの新たな物語に。

コミュニティ茶会の開催:
出品された茶道具を使って、コミュニティメンバーを招き、茶会を開きました。実際に使用されるシーンを作る機会を設け、この道具はあの茶会で…という共通の思い出になりました。

こういったコミュニティ全体でのストーリー作りによって、出品物はただの「モノ」から、コミュニティの共通体験や思い出が詰まった特別な存在へと変化していきます。

ここで、松岡正剛さんによる「物」についての文章を引用しましょう。

もともと日本では「もの」という言葉に、二つの意味をこめていたんです。ひとつは「物」という意味。もうひとつは「霊的なもの」という意味。スピリットのことも「もの」と呼んでいたんです。「霊」という字も「もの」と読みました。「もののあはれ」の「もの」がまさにそれだったんですね。
(中略)
そういった「もの」の気配を感じていきながら、「もの」を語る、あるいは「もの」になりかわって出来事を語っていくことを、「もの・かたり」=「物語」と言った。だから当時の物語を読むときは、「もの」にひそむ意味を大事にしたほうがいいわけです。

「世界と日本の見方」 松岡正剛

たとえばコンビニで買える100円のペンでも、自分で買うのと、好きな人からもらうのでは、感じる重さは全然異なりますね。モノの価値とは、市場での価値ではない。ストーリー(物語)によって、もの(物)にもの(霊的なもの)を込められるのでは…と思います。

単に、茶会やったり、キーボードでタイピングしたりするのが楽しいというのもありますが笑、そんなわけで積極的なストーリー作りも重要なのです。

大きな存在より、身近な存在。コミュニティ主体での価値づくり

現代社会では、自分の価値や生きる意義を見出しにくくなっています。関西学院大学の柳澤教授は、資本主義の全面化により「大きな存在」(宗教的なもの)を感じづらくなったことが原因だと指摘しています。(参照:利他学会議vol.3 第一日目 「推し×デジタル」分科会2

その結果、人々は身近な存在に価値を見出す傾向が強まっているとか。例えば「推し活」のように、個人やグループへの強い愛着を通じて、自己の価値や意義を感じようとしています。

コミュニティや共同体が求められているのもこの流れのひとつ。大きな存在が失われた現代では、身近な存在として「コミュニティ」が新たな価値(単なる経済的なものではなく、人々にとって特別な意味を持つもつもの)を生み出す場になるのかもしれません。

そう考えると、モノオークションは、現代の時代に即した形で、新しい価値を創造しているのではないか…。そんな風にも思いますね。

ともかく、何よりも今後も最新のテクノロジーとコミュニティで、いろいろ実験を重ねていけたら面白い。ぜひHenkaku Communityでいろいろ実験していきましょう!


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