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第4章「付き合う」って「向き合う」と知った6カ月記念日

第4章
「付き合う」って「向き合う」と知った6カ月記念日

12月になるとデリヘル業界は盛り上がりを見せる。

ボーナスが入っているとか、クリスマスがあるとか・・・

いつも以上にお客様と過ごす時間が長くなり
出勤した日はクタクタで倒れこむように寝る日々でした。

「ゆきさ~ん!まだ寝ないで~出勤中だぞ~御指名ですよ~!ゆきさ~ん」

(少しだけ寝させて(涙))

渋々起き上がり
お化粧直しをして、指名して下さった方のお名前チェック


「おっ!ケン様か~♪」

その頃には
ある程度甘えられて、プライベートの話しも出来るし
彼の会社での相談を聞くのが楽しみになっていました。。

「会社の人とうまくいってるかな~」

少しづつ会えることにワクワクしながら支度をして

送迎さんが待つタバコ室へ
ゆき「送迎さ~ん準備できたよ~」

送迎さん「あ~い!ゆきさん今月のオプション鞄に入れた?」

ゆき「バッチリよ!今月のオプションかなり好評なんだよね~」

送迎さん「そりゃそうだろ!サービスでサンタの格好してくれるなら男は喜ぶだろ~」


ゆき「そうなの?(笑)」


うちのデリヘル会社では月替わりのサービスオプションを準備していました。

時には
どこを隠しているか分からないTバックパンツとか・・・

時には
アリエナイくらい薄い黒色のパンストを破いてもらうサービスとか・・・

女性には理解できない月替わりサービスオプションを行っていました。


特に1年の中でも一番人気だったのが
「サンタのコスプレ」でした・・・。
(ま~一番無難ですよね)


サンタのコスプレを鞄にひそめていつものラブホテルへ・・・


ベルを鳴らして出てくる彼は
いつもより少し笑顔。

(何かいいことがあったのかな?)


ゆき「今日も呼んでくれてありがとう!けんさん^^
    お風呂入れてる?」

けん「あっ・・・いや。まだだよ。」

ゆき「おい!時間もったいないじゃんかよ!うっかり屋さんやね(笑)」

けん「いや・・・あの・・・」
ゆき「???」

けん「もうすぐクリスマスやんか・・・やから・・・あの・・・ケーキ一緒に食べない?」

ゆき「優しいやつか!!」

彼は私を喜ばせようとケーキを準備してくれていました。
それも・・・


ゆき「ホールケーキ!?2人じゃ食べきれないよ!!」


気合入れすぎてホールケーキを買ってきてくれていました(汗)


大きい方が喜ぶかな?と照れながら話してくれた
彼の顔は本当に優しさがにじみ出ていました。


お風呂にお湯が入るまで
ケーキを食べながら笑いの絶えない時間を過ごし

一緒にお風呂へ入り、持ってきていたサンタさんの格好をして
彼の「うん・・・。悪くないかな・・・」と照れた顔が面白く笑い
ベットに向かう・・・

ブーブー・・・・

「サービス終了まであと15分」のお知らせアラームが
部屋中に響き渡る・・・・

彼は少しだけ寂しそうな顔をして天井を見上げ
「先にシャワー行ってきて・・・・」


この瞬間に


私たちは「お客様」と「サービス提供者」と思い出すのです。


一人でシャワーに行く私。

私に背を向ける彼。

世界で一番近くにいるのに
世界で一番生きる場所の違う二人になる。


二人ともシャワーを浴びて
送迎が来るのを待ちます。


ブーブー・・・・


ゆき「送迎さん来たみたい・・・そろそろ行くね」

けん
「あのさぁ・・・付き合うのは無理かもしれないけど・・・LINEの交換とかは無理かな・・・」

ゆき「・・・」

けん「ダメだよね・・・ごめん」

勇気を振り絞って言った彼の気持ち・・・

でも・・・
連絡先を教える事は命取りになります。


もし、個人的な連絡先を教えてしまえば
お店以外で会えないか?と連絡が来たり

昼夜問わず
しつこく電話やメッセージが来る可能性もありますし

それよりなにより
お店のルールを破る事になる。

もしトラブルがあっても
誰にも相談が出来なくなる・・・。

ものすごく怖くなりました。

その日は
「ごめん。お店のルールだから・・・」と断りました。

ただ・・・
そこから彼の粘り強さはすごかった・・・・。



約2年間



「連絡先教えてくれないか!」このフレーズを
何度も何度も繰り返し私に伝えてきました。


さすがに2年も言われ続けると・・・
教えちゃいます(笑)

連絡先を教えると
朝は「おはよう」
昼は「午後からも仕事頑張れ」
夜は「頑張りすぎるな」


外で会いたいとは言わないけれど
控えめながら
積極的な力強いエールのメッセージが
毎日送られてきます。


(この人・・・凄い人だな・・・。)


そんなある日の事でした。


私は本業である営業で
関東への長期出張が決まり



生理でもない期間に
デリヘルの仕事をお休みする事になりました。


ネットには私の出勤表が公開されますので
彼は私に連絡をしてきました。

ケン「体調でも悪くしたの?」

ゆき
「いやいや、本業で出張いく事になったからお休みするの!」

ケン「そうか!よかった。気を付けて行ってらっしゃい」

何気ないLINEのやり取り。
思えばその頃から「なんか・・・彼氏みたいだな・・・。」って少し感じていたのかもしれません。


同じ時期に私の友人からも
「コンパがあるから一緒にいかない?」と
連絡が来ていましたが
同じように「出張なんだ~」と断っていました。

2016年4月14日
その日は仕事でもいい商談が出来て気分もよく
夜はワインバルで関東の友人と飲み会をしていました。

ブーブー

友人「ゆき~携帯なってるよ~」

ゆき「電話?」

友人「LINEだとおもうけど」

ゆき「はいは~い」

携帯を開くとケンさんからでした。

ケン「心配しています。何もなければ連絡ください。」


少し「彼氏ヅラかよ💦」と少しムッとしながら

ゆき「今友達と飲んでま~す」

けん
「あ~良かった!!
熊本では凄い地震があったって昼間にニュースしていたから
仕事が終わってすぐ連絡したんだ!
あ~無事なら良かった。
遅い時間にごめん。楽しんでね!おやすみ」

ゆき「・・・」

このとき私はふとこんな事を考えました。


行き先は親と会社の人は知っていましたが
それ以外の人には「出張」とだけ伝えていました。


確かに
「もしかしたら熊本かも!」と
考える事もあるかもしれないが・・・


心配をして連絡をくれたのは彼たった一人でした。

(親以外で心配してくれるのは彼だけって事か・・・)

この時私は「この人となら付き合えるかも・・・」とおもい

私はお酒の勢いもあって


ゆき
「心配してくれてありがとう!今度一緒に食事でも行かない?」

けん「えっ!ちょっと電話してもいい?」

ゆき「いいよ♪」


ブーブー


ゆき「はーい」

けん「お店以外では会えないんじゃなかったの?」

ゆき「たまにはいいじゃん♪明日帰るから駅に迎えに来てね♪おやすみ~」

けん「あっ・・・おい!」

今考えると
大胆な行動を取った自分に拍手したい。


結果的に
この食事がキッカケで私は彼と付き合う事になるのです。

付き合うにあたり
デリヘルは
決まっていた出勤日をしっかり出勤し
お世話になったお客様にきちんとお別れのご挨拶をして卒業。


どのお客様からも一緒に働いていたスタッフも
「二度と戻ってくるなよ!幸せになれ!」と言っていただき
本当に嬉しかった。

そして
手取り10万円で働いていた超ブラック企業にも別れを告げ
転職活動をスタート。
デリヘルで沢山の方のお悩みを聴いていたこともあり、
電話でのお悩み相談員として活動をする事になりました。

新しい生活
大好きな人との生活

やっと私にも人間らしい「幸せ」がやってきたのかぁ~と
幸せいっぱいでした・・・。

人を好きになる事が怖かった私に
一人の人を愛する気持ちを思い出させてくれたケンさんに
何かあるたびに「ケンさんの彼女で本当に良かった」と伝えていました。


そんなある日の事でした・・・。


けん「もうすぐ俺たちも付き合って6カ月だね」

ゆき「そうだね~」

けん「せっかくだから・・・プチ旅行しちゃう?」

ゆき「えっ!いいね~♪」


6カ月記念日は少し遠出をする約束をして楽しく計画も立てていました。

その日から2週間程度経った頃だったかな

来週旅行だ~♪と私は楽しみにしていた日

彼から連絡が入りました。


けん「ゆきの仕事場の近くまで来たから一緒に帰ろう!」

ゆき「珍しい~!今日なんかあったの?」

けん「ちょっと話があるんだ~」

ゆき「なになに~♪」

けん「会ってから話すよ!」

ゆき「了解」


いつも通りのLINE。
別に何の心配もしてなかった。

けんさんに会ったらいつもと様子が違った。

すこし・・・頑張って笑ってる感じ・・・。


ゆき「けんさん話しってなに?」

けん「・・・。お~ちょっとサプライズなんだけど・・・」

ゆき「えっ!待って~♪なになに?」

けん「・・・。ビックリすんなよ~」

ゆき「うんうん!」

けん「実は・・俺・・・ガンだって!食道がん!転移する可能性もあるガンなんだって!」

ゆき「え・・・」

けん「・・・」

ゆき「嘘よな?」

けん「まじ」

ゆき「・・・」


以前から飲み物を飲み込むときに
違和感があると言っていたので
病院で検査をしていたらしいのですが
その結果「食道がん」と伝えられたそうです。


けん
「ごめん・・・。旅行の日は病院に行かないといけなくなった」

ゆき「・・・・」

けん「ごめんな・・・」

ゆき「その日私もついていくよ!病院ツアーだね」


必死に笑いながら言ってみたものの
目には涙があふれてきて辛かった・・・。


6カ月記念日当日
大学病院に私たちはいました。


その日初めて
彼のご両親にお会いしました。

お父さんもお母さんも
とても優しそうな方で
「今日はありがとうね」と伝えてくれた。

多くの検査を受けて
担当してくれる先生と今後の事についてお話しする事になり
呼ばれるまで待っていました。

「〇〇さ~ん」

私以外全員立ち上がったけど
私はまだ日の浅い彼女だから待っていた方がいいかな?とおもい座っていると

けん「ゆき。一緒に行くよ」

この時私は「あ~この人の彼女なんだなぁ」と思いながら
先生の待つ部屋に入っていきました。

優しそうな眼鏡をかけた先生。

先生「はじめまして。こんにちは」
けん「こんにちは」

最後に入ってきた私の顔をみて先生が
「妹さんですか?」

と声を掛けられ
私はあたふたしていたら

婚約者です。

私は彼のこの一言で


どんな事をこれから言われても
前を向いて
未来を信じて生きる!

決めているんだと確信しました。


その力強い答えに
人目をはばからず泣き
一緒に立ち向かう事を覚悟したのでした。

出会って4年
付き合って6カ月。

人を好きになり、大好きな人と一緒にいる事は
当たり前なんだけど・・・当たり前じゃない。

大好きな人と過ごす時間を大切にしてほしい。


幸せは当たり前じゃない。

大好きな人と生活できる事は当たり前じゃない。

付き合う事で
相手と向き合う。

幸せな気持ちからの「向き合う」ではなかったけれど
どんな形であれ「向き合う」というのは
幸せのになる為の一つの試練なのかもしれない。

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