私の帰りたい場所
帰りたい場所。
ゆっくりと道端に咲く小さな花の名前を思い出しながら、坂を上る。
気がつくと、目の前に広がる緩やかな山々。
その時、こだまするように各駅停車の列車が山肌の線路を音を立てて通り過ぎていった。
亡き父とこの道を歩いて駅まで行ったような気がする。
私が故郷を離れる時、一緒に歩いた道。
故郷の町を散歩して思い出すのは、父のサンダルばきの足音。
右足の踵のできものをかばうように、カタッカタッと、過ぎていった。
その道の反対側は海に続いていた。
日々色を変える水面。
春はかすみにむせび、
夏は熱を放ち、
秋は澄み切り、
冬は凍てつく。
視線の先は緑豊かな地元の半島。
反対は遠くかなたにかすむ半島。
しばらく時間を忘れてぼんやりとながめている。
ここに帰ってくると、ああ今日もこの景色に会えてよかった。
どこにいても、どんな暮らしをしていても、いつも何かに守られているような気がする。
ありがとう、私のふるさと。
いつまでも、散歩のできる街でありますように。
こころから、祈っている。