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<文献紹介13段 ICU人工呼吸患者は「無鎮静」で管理可能か>

「Light Sedation(浅鎮静)」から「Non sedation(無鎮静)」の時代へ?!

はじめに

過鎮静の弊害や鎮静剤そのものの副作用が言われ始めたことから、集中治療での「鎮静」のあり方が議論されている。「Light Sedation(浅い鎮静)」、「Daily Interruption of Sedation(鎮静の一時中断)」はそんな中、鎮静剤の使用量を減らす対策として有効性を示すエビデンスが少しずつ蓄積されている。これらを実施することが人工呼吸器装着時間やとICU滞在期間が短縮されることが示されている。
では、鎮静そのものをやめてしまえばどうだろうか?!
極論になるかもしれないが、鎮痛をきちんと行い鎮静そのものをやめるとアウトカムは向上するのだろうか?!

今回はそんな疑問を考える上で
「ICU入室中の人工呼吸器装着患者に対して、無鎮静または浅い鎮静を実施した時のアウトカム比較研究」
をご紹介します。

参考文献:

Nonsedation or Light Sedation in Critically Ill, Mechanically Ventilated Patients. Olsen, H. T., Nedergaard, H. K., Strøm, T., Oxlund, J., Wian, K.-A., Ytrebø, L. M., et al. New England Journal of Medicine, NEJMoa1906759.(2020)

URL: http://doi.org/10.1056/NEJMoa1906759

【研究方法】

●研究デザイン:
多施設(スウェーデン、ノルウェイ、デンマークの8つの施設)、RCT(ランダム化比較試験)

●研究対象者(P):

・18歳以上
・スクリーニングの24時間以内に気管挿管を実施し、
 かつ24時間以上の人工呼吸管理が予測されるもの

●割付方法:
スクリーニング後、1対1の比率で介入群と対照群に割付を行った。

●介入群(I):鎮静を行わない

必要な場合:モルヒネのボーラス投与を行う
自然な眠りを促す方略:非薬物療法(モビリゼーション)、薬物療法(鎮痛薬)※睡眠薬の使用記載はない

●対照群(C):軽い鎮静(RASS:-2~-3)をする

日中の鎮静中断(Daily Interruption)
・早朝、鎮静を中断し患者が苦痛を訴える、不穏症状が出現し始めるなどした場合、鎮静を再開する
・鎮静開始48時間以内はプロポフォールを使用し、その後ミダゾラムに変更していく

 共通事項

※デクスメデトミジンは使用しない
※硬膜外麻酔は使用しない
※痛み:アセトアミノフェンを含むオピオイドを投与し鎮痛を図る

●収集したデータ

主要評価項目(Primary Outcome:O)

・90日時点の死亡率

二次評価項目(Secondary Outcome)

・90日までの血栓塞栓性イベント(肺塞栓または深部静脈血栓症)
・28日以内の昏睡-せん妄がない日数(Coma-Delirium free day)
   昏睡評価:RASSで評価
        RASS>―3→昏睡ではない
        RASS≦―3→昏睡
   せん妄評価:CAM-ICU
        CAM-ICU:陽性→せん妄
        CAM-ICU:陰性→せん妄ではない
・28日以内のRIFLEスコア(最高値)
        RIFLEスコア:急性腎障害の評価指標になる
・28日以内のICU滞在日数または死亡までの日数
・28日以内の人工呼吸器を装着していない日数

【結果】

●主要評価項目:90日時点の死亡率

介入群:42.4%
対照群:37.0%(差5.4%、90%信頼区間:-2.2~12.2、p=0.65)

●二次評価項目

・90日までの血栓塞栓性イベント
介入群:1名(0.3%)
対照群:10名(2.8%) 統計学的有意差なし(p値記載ない)
・28日以内の昏睡-せん妄がない日数
介入群:中央値27日(IQR:21-28)
対照群:中央値26日(IQR:22-28)統計学的有意差なし(p値記載ない)
・28日以内のRIFLEスコア(最高値)
介入群:中央値2(IQR:1-4)
対照群:中央値2(IQR:1-4)統計学的有意差なし(p値記載ない)
・28日以内のICU滞在日数または死亡までの日数
介入群:中央値13(IQR:0-23)
対照群:中央値14(IQR:0-23)統計学的有意差なし(p値記載ない)
・28日以内の人工呼吸器を装着していない日数
介入群:中央値20(IQR:0-26)
対照群:中央値19(IQR:0-25)統計学的有意差なし(p値記載ない)

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図:介入群と対照群での鎮静頻度の違い
※介入群(無鎮静)の方が覚醒した状態で過ごしているのが分かる。

【薬剤使用量(※期間内の総投与量)】

プロポフォール使用量(1~2日)
介入群:0.22mg/kg/h(0-0.0054)
対照群:0.84mg/kg/h(0.29-1.2)

プロポフォール使用量(2-28日)
介入群:0mg/kg/h(0-0.013)
対照群:0.0064mg/kg/h(0-0.034)

※体重60kgに投与する場合のイメージ
1%ディプリバンキット50ml (10mg/ml)を使用した場合
ディプリバンを6ml/hで投与すると、1.00mg/kg/hになる。
 3ml/hで投与すると、0.50mg/kg/hになる。
 1.5ml/hで投与すると、0.25mg/kg/hになる。

プロポフォールの使用量は介入群で多く、特に2日間の使用量が多い結果であった。

ミダゾラム使用量(2-28日)
介入群:0mg/kg/h(0-0.000005)
対照群:0.000187mg/kg/h(0-0,003410)

ミダゾラムは介入群ではほとんど使用されておらず、対照群で使用していた。

モルヒネ使用量
介入群:0.0060 mg/kg/h(0.0036―0.0140)
対照群:0.0073 mg/kg/h(0.0027―0.0110) 実験開始から3日間のデータ

介入群:0.0051 mg/kg/h(0.0023―0.0110)
対照群:0.0045 mg/kg/h(0.0018―0.0088) 実験開始から3日間のデータ

※体重60kgに投与する場合のイメージ
10mg/20ml(=0.2mg/ml)の濃度のモルヒネ注射を0.2ml/hで投与すると、0.66mg/kg/h投与することになる。


●有害事象の発生頻度

=重大なもの=
挿管チューブの自己抜管(1時間以内の再挿管が必要なもの)
介入群:4(1.1%)
対照群:1(0.3%) p=0.20

中心静脈カテーテルの自己抜去(4時間以内の再挿入が必要なもの)
介入群:0
対照群:0

=有害事象=
挿管チューブの自己抜管(24時間以内の再挿管が必要なもの)
介入群:31(8.9%)
対照群:14(4.0%) p=0.01

中心静脈カテーテルの自己抜去
介入群:3(0.9%)
対照群:3(0.9%) p=1.00

静脈留置針の自己抜去
介入群:9(2.6%)
対照群:10(2.8%) p=0.87
他の挿入物の自己抜去(例:NGチューブ、動脈圧ラインなど)
介入群:53(15.2%)
対照群:32(9.1%) p=0.01

【結論】

人工呼吸器を備えたICU患者では、90日での死亡率は、鎮静なしの計画に割り当てられた患者と、毎日中断する軽度の鎮静の計画に割り当てられた患者で有意差はなかった。

【私見】

=無鎮静は浅い鎮静と比較してアウトカムは向上するだろうか!?=

結果からいくと、「無鎮静」と「浅い鎮静」のアウトカムに差はない結果であった。そのため、「無鎮静」に鎮静方法をシフトしてもアウトカムが向上するわけではなさそうだ。傾向としては90日死亡率は「無鎮静」の方が多く、挿管期間・28以内のせん妄・昏睡期間は「無鎮静」の方が短い結果であった。
「無鎮静の方が良い!だから、積極的にしましょう!」という優位性は示されていない。
「じゃぁ、無鎮静は止めたほうがいいんだね。」と思う人も多いだろう。しかし、両方の介入を比べた際、どちらの介入を行ってもアウトカムに差がないのであれば「”無鎮静”でも”浅い鎮静”でも」どちらでも良いと考えることができる。鎮静は減らしていきたいというトレンドの中では、”無鎮静”が「アウトカムを改善するケア」と強く主張ができなくても「どちらにしても変わらない(劣っているだけではない)。」ということが分かること”無鎮静”を実施してもいい可能性を秘めている。

=無鎮静は安全か?!=

本研究は有害事象の頻度が評価されています。その結果、一時間以内に再挿管をしなければしけない事象、中心静脈カテーテルを自己抜去されすぐに再挿入をしなければいけない事象の頻度に有意差はなかった。しかしながら、どちらが多いかと言われると無鎮静の方が、自己抜管や自己抜去の頻度は増える結果だった。ここで注意してほしいのは「無鎮静を実施していた患者の中で、鎮静が必要になった患者も無鎮静群」として含まれているため、「本当に鎮静が必要でなかった患者」と「浅い鎮静」を行った患者の比較にはなっていない部分には注意する必要がある。ただ、臨床現場で自己抜去が起こった事実は「統計や数」では計り知れないものになる。そのリスクを考えた上で、実施する体制を組む必要はあるだろう。

=看護師の負担はどうか?!=

「無鎮静」下で管理をする場合、挿管中の患者との意思疎通が増える可能性がある。また、正直なところ、自己抜管などの事故が起きないかと不安がある。鎮静をすることで「何らかの安心感」があったように思う。これまで、鎮静を行ってきたという”病院システムや病棟文化”を変化させていくことの負担はかなりものになる。

=患者の精神的なアウトカムはどうか?!=

「鎮静」は悪なのだろうか。患者にとって見通しが立たない日々の中で、起きた状態で過ごすことは本当に大丈夫なのだろうか。本研究ではICU入院中の患者のQOLやPICS・PTSDとの関連は評価されていない。こういったアウトカムとの関連性も合わせて評価した上で、「鎮静」はどうなのだろうか?!と考える必要性が出てきそうである。

おわりに

結局の所、「人工呼吸器管理患者は一律、鎮静を行う」からこの患者にとって、「鎮静は必要か」判断して使用するにどんどんシフトしていくだろう。そのため、ICUで人工呼吸器を装着した患者が苦痛が少なく快適に過ごしているか、せん妄などの症状がなく安全に治療が受けれられる状態か、患者一人ひとりをアセスメントし「鎮静が必要なのか?!」を評価していく医療者のアセスメント力が必要なのだろうと感じる部分が多い。

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