【文献紹介 第15段:ICU退室後に生じる慢性疼痛とは?!】
【はじめに】
皆さんは「慢性術後疼痛(CPSP:Chronic postoperative surgical pain)」をご存知でしょうか?
いわゆる、創部の痛みが術後3ヶ月以上も持続する状態のことを指します。この慢性術後疼痛は退院後のQOLの低下に影響することが示唆されています。
では、重症疾患に罹患しICUに滞在した患者ではどうでしょうか。彼らも同様にICU退室後に慢性疼痛に悩まされていると聞きます。しかし、実際のところ具体的なところはまだわかっていない現状にあります。ICU退室と言えば「集中治療後症候群:PICS」が有名ですが、これには「慢性疼痛」は含まれていません。今回は、ご紹介する文献を通して、この慢性疼痛についても考えるきっかけになれば嬉しいです。
では、実際、どの程度の患者がICU退室後に慢性疼痛に悩まされているのでしょうか。
文献をみていきましょう。
集中治療後症候群:PICSに関するサイトは日本集中治療医学会が分かりやすい。
リンク:https://www.jsicm.org/provider/pics.html
【文献】
Occurrence and Risk Factors of Chronic Pain After Critical Illness.
Critical Care Medicine, 48(5), 680–687. 2020.
Koster-Brouwer et al.
URL:http://doi.org/10.1097/CCM.0000000000004259
【目的】
重症化後の慢性疼痛の発生、危険因子、日常生活への影響については、体系的に検討されていないため、慢性疼痛の発症率や因子を明らかにする。
【方法】
・研究デザイン:コホート研究
・研究場所:オランダにあるメディカルセンターのICU
・研究期間:2013~2016年
・研究対象者(P):研究内に48以上ICUに滞在し生存してICUを退室した患者
この研究対象者をベースに3段階のプロセスで、慢性疼痛の変化を行っている
1段階目(コホート1):上記、研究対象者
2段階目(コホート2):ICU退室後、1年が経過し新規の慢性疼痛を発症し、
質問紙調査に解答した患者
3段階目(コホート3):調査病院から50km以内に居住し、追加研究に同意された患者 た患者
=研究を3段階に分ける目的=
●コホート1
・ICU退院後1年後の新たな慢性疼痛の有病率
・経過観察中の死亡、新たな疼痛を伴わない生存、新たな疼痛を伴う生存の3つのアウトカム
を組み込んだ予測モデルの構築
●コホート2
・疼痛の臨床的特徴と日常生活への影響
●コホート3
・侵害受容性または神経障害性疼痛の特徴の存在を評価
【結果】
研究対象者:
コホート1:1842名
コホート2:160名
コホート3:42名
【慢性疼痛の発生率】
1年生存した患者(1368名)のうち、17.7%(95%CI : 15.8~19.8%)
【慢性疼痛の程度】対象患者(コホート2:160名)
・質問紙調査回答1周間前のNRSの状況:中央値4(IQR:2 -6)
・10%の人が平均的な痛みの強さが0と回答している
(これは継続的な痛みではなく発作的な痛みであることを意味している)
・疼痛が発生部位:胸郭(32%)、脚と膝(29%)、足(26%)、
肩(25%)、背中(21%)であった
・複数の部位の疼痛を自覚している患者は68%で、
オピオイドの使用(14%)抗神経障害薬の使用(6%)
・疼痛の行動的影響は、日常生活活動、社会活動、移動の領域で最も顕著で
あった。
【慢性疼痛に影響する要因】
影響要因として「年齢・性別・重症度・APATCHE Ⅳ、高炎症を呈している日数、鎮静日数、疼痛(NRS>3)自覚した日数、オピオイド投与した日数、ICU滞在日数」との関連性が検討された。
その結果、
・性別(男性であること):–0.634 (p<0.001)
・高炎症日数:0.086(p=0.009)
が関連していた。
【考察】
新たに発症した慢性疼痛は重症患者の頻発する疾患であり、その影響を受けた患者の日常生活への影響は相当なものである。
【私見】
如何だったでしょうか。
1年間の追跡の結果、約20%のICU退室患者が新たな慢性疼痛に悩まされていることが明らかとなっています。その多くがNRS4(中央値)と高い痛みを自覚していました。
PICSと同じでICU入室中だけではなく、ICU退室後も見据えて関わっていく必要があることが分かります。ただ、今回の結果では慢性疼痛に影響する要因として「性別(女性に比べて男性の方が発生しにくい)や炎症が高い日数が長いこと」が挙げられました。性別と聞くと介入ができない項目になります。なので、結果からこんな介入を行っていく必要があるよねといった示唆は得にくいように思います。
ただ、今後も色々な研究を通して、少しずつ明らかになっていく中で介入方法を検討していくことが大切かなと思いました。