<文献紹介 第3弾:麻酔導入は鎮静剤ではなく、音楽が有効???>
非薬物療法は様々な場面で使用されている。以前、胸腔ドレーン抜去時に音楽を使用すると鎮痛効果があるか、検討した研究をご紹介した。今回は、「超音波ガイド下で末松神経ブロック」を実施する際に効果があるかを検討している。
【ご紹介する研究論文】
Music versus midazolam during preoperative nerve block placements: a prospective randomized controlled study
リンク:https://rapm.bmj.com/content/early/2019/06/25/rapm-2018-100251
【背景】
術前の不安軽減のための音楽療法の効果は。University of PennsylvaniaのGraffらは、超音波ガイド下末梢神経ブロック施行3分前のノイズキャンセリングヘッドフォンを使用した音楽視聴の効果を鎮静薬(ミダゾラムを静脈内投与)と比較するRCTを行った(n=157)。介入前後に、State Trait Anxiety Inventory-6(STAI-6)を使用して不安のレベルを評価した。
【方法】
研究デザイン:RCT
実施のタイミング:局所麻酔または術後鎮痛に適応する術前超音波ガイド下末松神経ブロック実施前
介入群:ノイズキャンセリングヘッドホンから音楽を流す
使用した音楽:Marconi Union(https://www.youtube.com/watch?v=UfcAVejslrU)
対照群:ミダゾラム(1〜2mg静脈内投与)
【評価方法】
⚫︎患者
・不安の程度を評価:STAI−6
・処置に伴う満足度
・コミュニケーションのしやすさ
⚫︎医療者
・コミュニケーションのしやすさ
【結果】
・処置前後の不安尺度の変化は両群間でさはみられなった。
(音楽群:ー1.6 SD10.7、ミダゾラム群:ー4.2 SD11)p=0.14
・処置による満足度はミダゾラム群の方が高かった(p=0.01)
・コミュニケーションの困難さは、医療者・患者ともに音楽群の方が高い結果であった(それぞれp = 0.005とp = 0.0007)。
【結論】
術前の不安軽減に音楽が使用されることが多いが、薬物との比較試験は初である。しかしながら、不安スコアの変化に群間有意差はなく、患者満足度スコアはミダゾラム群で高く患者・医師ともに音楽群の方がコミュニケーション困難という認識が高いという結果であった。
【私見】
音楽群とミダゾラム群で不安尺度の変化量には変化はなかった。ということは、処置中の不安増減にはミダゾラム群でも音楽群でも差がないことになる。
しかしここで注意しなければならないのは、抄録には「不安尺度の総合点」が記載されていないことである。STAI-6は点数が高いほど、不安が強いことを示す尺度になる。そのため、両群がどの程度の不安を感じていたのか気になるところである。
また、痛みの程度(NRSやVAS)も評価を行っていない。「不安は軽減されたんですけどやっぱり痛かったんです。」という場合だってあるだろう。
最後にコミュニケーションが困難になっていたことを医療者・患者が実感していた。処置前後で、体位の変換などを行う必要がある。医療者-患者間のコミュニケーションが阻害されることは、安全性の担保にも問題が出てくる可能性がある。例えば、「骨伝導式イヤホン」を用いるとどうなるだろうか?ヘッドフォンではなく「カナル型イヤホン」の場合はどうだろうか?
音楽群療法で焦点となるのは「音楽の好み」になるが、音楽の提供方法にも注意するがある。
音楽療法には様々な可能性秘めていると思う。そのため、様々な方法を試しながら臨床応用に繋げることが出来れば良いなと思います。
※STAI-6(20項目:各項目1-4点で評価し、点数が高いほど不安が強いと評価される。)