2年越しの静かな背中に
《熾烈な攻防は劇的な展開を見せ、観客席を埋める水色と赤の熱狂は増すばかり。画面越しに伝わる熱の中、その人はあくまでクールで淡々として映った。》
川崎市民になって十数年。フロンターレは家族が応援していて身近に感じてはいたものの、正直さほど関心が高いわけではなく。試合はせいぜいテレビのハイライトをたまに見るくらい。2019年ルヴァンカップ決勝、札幌戦は、そんな私が、さらに言うと、先に勝敗を聞いた上で録画を観たにも関わらず、心奪われた試合でした。
見どころだらけの名勝負。中でも延長戦後のPKによる決着は、何度見ても勇気をもらえる大好きなシーンです。
そのPKで、山村和也選手は2番目のキッカーでした。小林悠、中村憲剛という二大看板選手の間で登場し、さらりと決めて、淡々と戻っていく彼。オリンピック代表経験があり、いくつものポジションをこなす選手で・・・なんて当時は知らず。ただ、熱戦の中にあって、どこか涼やかな雰囲気が心を惹きました。
《落ち着いた佇まいから生み出される、力強く優美で確実なプレー。その躍動を追う一方、見えない場所での姿に思いを馳せた。》
その後、少しずつフロンターレの試合をテレビで観るようになりました。
気になっていた山村選手。そのプレーのファンになるのに時間はかかりませんでした。恵まれた体格と身体能力。技術の高さを感じさせる安定性。そこから生まれる、美しいヘディングやロングパス、力強い守備、正確なシュート。
それとともに魅力に思えたのが、最初の印象と同じ冷静に淡々とプレーする姿でした。控えめで、どこか質の高い仕事を黙々とこなす職人のような。
背景にあるものも知りました。試合に絡めない時期も地道に努力を積み上げてきたこと、その姿が周りの選手にも影響を与えたこと。2020年のホーム広島戦でのゴールシーンで、静かな当人とは対照的に喜びを爆発させるチームメイトの輪が忘れられません。きっと、悔しさの中でのぶれない努力を知っていたからこその、優しい輪。
《眼前にはあの日と同じ2番目のキッカー。近くて遠い聖地では、勇気を出したご褒美と呼ぶには幸せすぎる光景が待っていた。》
2021年春、私はある決心をしました。「等々力に行く」。それまで、現地観戦はとてもハードル高く感じていました。でも、フロンターレ、そして山村選手を現地で見たいという気持ちの方が強くなって。その頃は怪我で離脱中だったけれど、今から頑張って慣れておいて復帰したら堂々と応援に行くぞ!と。そんな長期プラン(笑)を胸に、いざ聖地へ。
思い切って行ってよかった。独特の空気に多少気後れはしたものの、楽しさの方がずっと上回りました。帰り道には余韻とともに、「次いつ?いつ行ける?」という問いを巡らさずにはいられなくなるほどに。
何回目かの現地観戦となった天皇杯2回戦、長野戦。離脱後初めてベンチ入りした山村選手は、延長後半に交代出場し、復帰を果たします。メンバー表で名前を見つけたときの、そして、生のプレーを見られた喜びは言うまでもなく。でもそれだけではなかった。
決着はPKへ。私にとっては、あのルヴァンカップ決勝の再現のようなPK。あの日と同じ順番で、さらりと決めて、淡々と戻っていく彼。同じ時間、同じ場所に自分がいることが夢のようでした。
《今日も、その姿を追い続ける。》
2021年ACLグループステージでは、途中出場を含め全試合に出場した山村選手。本当にもう、寝不足上等、至福の期間でした。いつも最良の準備をして、出番ではきっちりと求められる成果を出して。良いときもそうでないときもきっと変わらない、職人然とした姿を追う日々がただ楽しいです。熱いものを内に秘めた穏やかな笑顔がこれからもたくさん見られますように。