レモンドロップ
この世界のどこかには、嫌なことが全てレモンドロップのように溶けてなくなる国があるらしい。
わたしたちが暮らす街で、前触れもなく大雨が降った。その日は小さな部屋の中で、二匹で寄り添って過ごした。翡翠がつくるこの空間では、窓の外に潜む鋭利な言葉は丸みを帯びて、ふっくらとした塊となって私の耳を塞ぐ。地面を叩きつける雨は次第にきめ細かく、少し甘くなる。舐めたことはないけれど、匂いが変わるのだ。
くぐもった雨の音。わたしはずっと立てていた耳を伏せて、目を閉じた。翡翠が私の耳をぎゅっと撫でつけるので、私の頭はつるんと丸くなって、気づけば深い眠りに落ちていた。
最初にこの歌を聴いた時、私は “Where troubles smell like lemon drops” と聞き間違えた。嫌なことはすべてレモンドロップの匂いがする国。
目を覚ます数秒前、口の中に酸っぱい味が広がった。翡翠がまな板の上で果実をとんとんと切る音がした。雨が小降りになっていた。