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あんたに俺らの痛みが分かるんか?!分からへんやろ!

高校二年の彼に言われたこと言葉は、
いまだにはっきり覚えている。

その時の教室の空気感、
机の位置、彼の興奮した息遣い...


特別支援学校で高等部二年の職業コースの担任になってすぐ、クラスの男子にこう言われたんや。

彼が授業中、突然酷いことを言って、
ある女の子を泣かせた。


だから少し時間を置いた後、落ち着いてから彼を呼んで2人で話した。
『何があったの?』って努めて穏やかに聞いたんや。そしたら、彼にこう言われたんやな。


『先生には、俺のこと分かりますか?俺の痛みが分かるって言うんですか?まだ4月になって、新しく担任になったばっかですよね?俺はまだ信用でひんと思ってます!』


『そうか...せやな、まだ全然分からへん。それは間違い無いし、否定もできひんよ。
でもさ、痛みってなに?なにが傷んでんの?』


『先生は、俺や俺らが(クラスのみんな)が、今までどれだけ辛い思いしてきたか知ってますか?

俺たちは、みんな自分がアホやって知ってます。周りの他の奴らより、めちゃくちゃアホでした。それは自分でもよく分かってます。
でもね、先生!!

俺らはそれで、アホやってことで、ほんまに辛い思いしてきました。どんだけ頑張ってもアホにしかなれんくて。アホやってことと、みんなと同じにならへんことだけ分かってる。なのに、みんなにめちゃくちゃ馬鹿にされていじめられ続ける気持ちって、先生分かります?ほんまにずっとずっと死ぬほどいじめられてきましたよ。それがどういうことか、分かりますか?!?!?!』

めちゃくちゃしっかりした口調で、
でも涙を溜めながら必死に語る彼に私が言えたのは、


『そうか...そうやな。そうなんやな...辛い思い、たくさんしてきたんやな。その辛い思い、全部分かるなんて絶対言われへん。絶対に言われへんけど、
私は君のこともみんなのことも、これから少しずつ分かっていきたいと思うし、支えていきたいと思ってるで。』

その後しばらくの沈黙があって、
彼は教室を出て行った。
もう1人の担任と、泣かせた友達に謝りに行ったのだ。

重たい時間やった...
彼がいなくなった後、めちゃくちゃ大きなため息が出て、肩や背中に重たーい漬物石みたいなやつが乗っていた。



彼が私に言いたかったこと。


コイツは信用できる人間なのか?
俺らのことを理解する気があるのか?
俺らの痛みに寄り添ってくれる気があるのか?


ヒトとして生きていくために、本当に大切な感情。相手を疑うこと。

傷つきまくってきた人たちの嗅覚はすごい。
その人が自分を本当に大事にしてくれる人なのかどうか、一瞬で見抜く。憐みや同情をかけるだけの人であるかどうかも一瞬で見極める。



いわゆる経度知的障害という範囲で、知的障害を証明する“療育手帳”を持っている彼ら。


彼らは分かってる。


自分が他の子たちと同じになれないことを知っている。そしてそれを理由に、死ぬほどいじめ抜かれてきた過去を持っている。


小中とそんな生活を続けてきたら、高校生になる頃には、多くの場合が精神的に参ってしまった末の二次障害を併発していて、不安が強くなったり、攻撃性が強くなったり...人によっていろんなしんどさが増えてしまった状態にある。(もちろん、そうでない子も沢山いるよ)



小学校ではどうにか普通学級にいたけれど、学年が上がるごとに学習にはついていけず、友達作りもうまくできない。居場所がなくなって、どうにかこうにか支援学級に入る。


自分で納得して支援学級に行った子は、支援学級という確固たる居場所を見つけてキラキラ輝き出したりする。自分が主役になれる場所を、生まれて初めて見つけた時の顔をする。

でも、家庭環境やその子自身の性格、あとはその時周りにいた人たちからの支援の有無...
そんな理由で、前向きになれないまま大きくなっていく子たちもいる。


本当はいろんな支援を受けて生きていくべきやったのに、誰にも何にも支援を受けないまま、高校まで普通学級で過ごしてきた子もいる。授業中はひたすらうつ伏せで寝て、それ以外の時間だけでどうにかこうにか必死で居場所を見つけようとしてきたんやて。


見た目では分からない。


めちゃくちゃ男前のヤンキーもおったし、
真面目な硬派!みたいな人もおる。
夏は常に金髪にして、友達と海で女の子をナンパすることばっかり考えてる奴もいれば(成功率は低すぎるらしいけど笑)、ゲームオタクやアニメオタクをしながら、ひたすら引きこもりを楽しむ奴もおる。


みんな、そのへんの高校生なのである。

見た目はただの高校生。
だからこそ、彼らは傷つく。
心ない人の言葉に傷つけられる。


何でお前は分からんのや?!
何でナンボゆーてもできひんのや?!
何回同じこと言わせるんじゃ!お前、なめとんか?

なんかあの人おかしいよな。
なんかちょっと...ちゃう感じするよな?
(コソコソ話)

...


できないのは、分からないのはその子のせいじゃない。その子を理解しようとしてくれる人がいない、冷たい環境のせい。


1人の人間としてその子を大事にしてあげられない、冷たい社会のせい。



彼と私がやっと心通じたなーと思ったのは、学活で、みんなでクラス目標を決めよう!となった5月頃。


一生懸命に発言する子もいたけど、
去年のクラス経営がうまくいってなかったせいもあって、だらだらした空気感を引きずっているのが私は嫌だった。


どうせ頑張っても意味ないよ。
俺らどうせ、アホやねん。


そんな空気感が納得いかなかった。
だって、一人一人を見ていたら分かるねん。みんなほんまにいろんなことができるし、物事によっては私なんかよりずっと能力が高い子もいたりして。


遊ぶ時は遊べばええし、ふざける時は死ぬほどふざけてもええから、やる時はやれるって自分でおって欲しい。だってそれが、二年後に社会に出た後、彼らの力になるから。誰かに信頼されたり、大事にされたりする糧になる。



こんなにできる子たちやのに!
こんなに優しい子たちやのに!
めちゃくちゃええ子達やのに、なんで自分の力を自分で大事にしてやられへんのや?



そう思ってたら私次第にワナワナしてきて、
ずーっと黙ってたくせに、突然怒ったわけよな。


『あのさ、もうそういうのん、やめへん?
自分のこと、自分でアホ扱いして大事にしないん、やめてくれへん?そんなん見てたら、先生らみんなめちゃくちゃ悲しくなるんやで。分かる?

ほんまはできること沢山あんのに、できひんぶりして。ほんまは分かることだらけやのに、分からんフリしてることあるやろ?自分の力甘く見てるで!そんなんあかんわ!

ちゃんと自分らのこと自分らで大事にして!
できることはやりなさい!
甘えんとやりなさい!
君らはアホやないねん!アホやって自分で自分をいじめるんはやめて!』


私はこういう話になると、感情が入りすぎて、半泣きでワナワナ震えるので生徒たちはだいたい引く笑
(教員生活ラストの一年は、毎度円座で語りながら泣いていたし笑)

長ーい沈黙の後、

突然やたら真面目に発言しだす彼ら。
なんやねん、よー分からんわ。

しかし、可愛いな。
なんか急に、頑張ってるやん。


死ぬほど疲れるけど、
なんかちょっと笑える。


そんなこんなの1年間。



そのクラスの3月末。
彼は私にこう言ったわけ。


『俺、ほんま、先生が担任でよかったっすわ!ほんま、よかったっす!俺らのこと、めっちゃわかって、励ましてくれて、たまにめっちゃ怒ってました!笑
でもそれが、ほんまよかったんす!先生、ほんま感謝してます!』


完全に金八先生の世界観...
もう笑うしかない。



この1年間は、精神的に死ぬほどすり減る時間やった。いろんなことがありすぎた。ストレス性の咳が1年間止まらなくて、生まれて初めて咳喘息にもなった。そんな楽しい楽しい一年やった。


こんな子たちが今もそこらへんに沢山沢山いて、誰かの助けを求めているかもしれないってことを私なりに今伝えたいと思ったわけです。だから、また続きを書きます。


仕事の時は、何より言葉を選んでいる。今どんな言葉を伝えるべきで、何に耳を澄ませるべきかということについて死ぬほど考えている。
(たまに失敗して、痛い目にもあうけどね)
でもまだまだよ。もちろん、それは分かってる。私は、まだまだ成長中。
ほんま、まだまだである。



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