【声劇フリー台本】守りたいもの
愛する人の為に選択を迫られる台本です。
純愛と言い張りたい。
各一人用台本を読んでからの方が二人用台本をお楽しみいただけると思います。
二人用台本では「」と【】で読み手を分けて記載しています。
【】や《》の箇所はそのままでもお読みいただけますが、読み手の方のお名前などお好きなお名前に変更された方が一層お楽しみいただけるかと思います。
ご利用の際は利用規則をご一読くださいますようお願い申し上げます。
【利用規則】
◆この台本の著作権は全て影都千虎に帰属しています。
商用・非商用問わずご利用いただけます。
ご自由にお使いください。
利用時のご連絡は任意ですが、ご連絡をいただけますと大変励みになりますし、喜んで影都千虎が拝聴致します。
音声作品には以下を明記するようお願いいたします。
・作者名:影都千虎
・当台本のURLまたは影都千虎のTwitter ID
(@yukitora01)
配信でのご利用も可能です。
配信で利用される際には、上記二点は口頭で問題ございません。
また、配信で利用される場合、台本を画面上に映していただいて構いません。
台本のアレンジはご自由に行いください。
便宜上、一人称・二人称を設定しておりますが、いずれも変更していただいて問題ございません。
◆無断転載、改変による転載、自作発言は絶対におやめください。
【台本 side A】
この瓶の中身を飲み干せば、目の前にいる【こいつ】だけは助かるらしい。
それを【こいつ】は知らない。これは、俺だけに開示された条件だ。
飲むことを拒めばどうなるかは分からない。
俺たちを攫ってきた奴は悪趣味なコレクターだ。
きっと、尊厳を踏みにじるようなコレクションの一部にされてしまうことだろう。
俺はどうなってもいいが、【こいつ】がそうなるのだけはどうしようもなく耐えられない。
だから、さっさと瓶の中身を飲み干してしまえばいい。
そうして、【こいつ】だけでも助かってくれればいい。
分かっている。
だというのに、この期に及んで決心がつかないんだ。
「大丈夫だ。俺が何とかする。だから、そんなに心配するな」
不安げな表情を浮かべる【お前】を安心させるように声を掛ける。
いつも通りに出来ているだろうか?
いつまで経っても未練がましい俺の本心が【お前】に伝わってはいないだろうか。
この瓶についてだけは、絶対にバレてはいけない。
このことを知ってしまえば、きっと優しい【お前】は俺の代わりに喜んで瓶の中身を飲み干してしまうだろう。
「【お前】のことは、俺が絶対に帰してみせる」
「【お前】をあんな奴のコレクションになんてさせないさ」
「大丈夫、俺を信じろ」
ポケットに手を突っ込み、その中に忍ばせた瓶に触れる。
瓶の中身は猛毒だ。
この量を飲めば確実に死ぬだろう。助かることは無い。
……死にたくない。
まだ、生きていたい。
【こいつ】と一緒に過ごしていたい。幸せな日々を送りたい。
ずっと、生きる意味を見出せずにいた。
いつ死んだっていいと思っていた。
それなのに、肝心な時に覚悟が出来ないなんて。
本当に、みっともないな。俺は……
約束の時間は刻一刻と迫りくる。
もう、時間がない。
最期に、どんな顔をしてどんな言葉を言えばいいのだろう。
「……一つだけ、覚えていてほしいんだ」
考えている内に口が勝手に動き出す。
「俺は、【お前】のことを心の底から愛してる」
違う。そうじゃないだろう。
【こいつ】の重荷にだけはなりたくない。こんなことを言えば【こいつ】は気にし続けるに決まっている。
少しでもこれからの【こいつ】のことを考えるのであれば、いっそのこと突き放してしまった方が良かったはずなのに。
そんなことも出来ない、【お前】を開放してやれない不甲斐ない俺をどうか許してくれ。
「俺に出逢ってくれてありがとう」
そして俺は、瓶の中身を一気に飲み干した──
【台本 side B】
僕がこの身を差し出せば【彼】だけは生きて帰れる。あの人とそう約束した。
その約束の内容を、【彼】は知らない。僕とあの人だけでした約束だ。
僕たちをここに連れてきたのはおかしな趣味を持ったコレクター。
特に僕のことを気に入っているらしく、僕のことをコレクションに加えたいんだと、そう言われた。
あの人とそんな話をした部屋には、液体で満たされた瓶の中に静かに浮かぶ目玉や心臓があった。
多分、僕もそういう道を辿るのだろう。
【彼】にはあんな姿になって欲しくない。
健やかに生きて、天寿を全うして欲しい。
色々な形の『幸せ』に触れて、【彼】自身が沢山幸せになって、生きていて良かったと思ってほしい。
こんなところで、あんな末路を迎えるなんて絶対にダメだ。
だから僕は、喜んでこの身を差し出すよ。
あの人への合図は、この薬を飲むこと。
この薬を飲むと、眠るように死に至るらしい。
最期に【彼】の前で汚い姿を晒さないで済むのは本当に良かった。
「ありがとう……ごめんね」
【彼】は僕を安心させるように優しい言葉をかけてくれる。
きっと、今頭の中でこの状況を打破する方法を色々と考えているんだろう。
【君】のことだから、もしかしたら自分を犠牲にする方法まで考えちゃってるのかもしれない。
ダメだよ。絶対に、【君】を犠牲になんかさせないよ。
これは、いつも自分を犠牲にしてしまう【君】を助けられる最初で最後のチャンスなんだから。
「【君】だって、あの人のコレクションになんかなっちゃダメだよ」
「【君】のことは信じてる。だから、一人で頑張らないで?」
「【君】ってば、いつも無茶しようとするんだもん。僕は【君】のことが心配だよ」
本当は、まだ死にたくない。
もっと……【君】と生きていたい。
【君】と一緒に、幸せな日々を過ごしていきたかった。
どこかずっと、死に場所を探しているような【君】の生きる理由になりたかった。
【君】の隣で、【君】がもう「いつ死んでもいい」なんて思わなくなるようにしたかった。
だけどもう、僕にはそれが出来ないんだね……
悔しいけれど、その役目は他の誰かに譲るよ。
そろそろ、約束の時間だね。
僕は最期に上手に笑えているかな?
「……え? 急に、どうしたの?」
最期にどんな言葉を言おうかと考えていたら、突然【彼】の口が開いた。
やめてよ、ねえ。【君】は今、何を考えているの?
「僕も、【君】のこと愛してるよ! だから……!」
僕が次の言葉を紡ぐよりも早く、【君】は感謝の言葉を口にしてどこからともなく取り出した瓶の中身を一気に飲み干した。
【君】が夥しい量の血を口から流して倒れていく。
その瞬間、僕の頭は真っ白になった。
【二人用台本】
「……あの人、まだ来ないね」
【ずっと来なくていいだろ。あんなクソ野郎】
【大丈夫だ。俺が何とかする。だから、そんなに心配するな】
「ありがとう……ごめんね」
【なんで《お前》が謝るんだよ。《お前》が謝る必要なんてないだろ?】
「でも……あの人は、僕のことを気に入ったって言ってたじゃんか」
「僕のせいで、《君》は巻き込まれたんだし……」
【《お前》のせいなわけあるか】
【あのクソイカレ野郎さえ居なければこんなことにはなってないんだからよ】
「それはそう……そう、なんだけどね」
【《お前》のことは、俺が絶対に帰してみせる。だから安心しろ】
【《お前》をあんな奴のコレクションになんてさせないさ】
「ありがとう。でも、《君》だって、あの人のコレクションになんかなっちゃダメだよ」
【ああ、分かったよ。大丈夫、俺を信じろ】
「《君》のことは信じてる。だから、一人で頑張らないで?」
「《君》ってば、いつも無茶しようとするんだもん。僕は《君》のことが心配だよ」
【ははっ、大丈夫だって。今までだって何とかなってきただろ?】
「その何とかしてきた方法が心配なんだよ」
「僕だって、《君》のことを守りたいよ」
【ッ、ありがとな。やっぱり《お前》は優しいな】
「優しくないよ。《君》だからこんなことを言うんだよ」
【そっか。それでも……十分優しいよ、《お前》は】
【……なあ】
「なに?」
【一つだけ、覚えていてほしいんだ】
「……え? 急に、どうしたの?」
「まってよ、なんでそんな」
【……俺は、《お前》のことを心の底から愛してる】
「ッ!」
「僕も、《君》のことを愛してるよ! だから──」
【俺に出逢ってくれてありがとう】
「どうしてそんなことを言い出すの? それじゃあ、まるで……」
「待って、その瓶は一体──ッ!」
【──ッぐ、ガハッ! ゴホッ、ゴホッ……】
「あ……ああ、ああああ! ああああああああああ!」
「やだ、いやだよッ! なんで、どうしてそんなことをするんだ!」
「僕が死ねば済む話だったのに、なんで……なんでッ!」
「ダメだよ! 目を開けてよ……ッ!」
「うあ、あぁ、あああああっ!」
「どうして……どうして、こんなことをするんだよ……っ」
「今度は、僕が《君》を助ける番、だったのに……っ」
「……そっか、そういうことだったんだね」
「最初から、どっちも生きて帰すつもりなんて、なかったんだね……」
「あは……ははは……はははははははははははッ」
「それなら……せめて、《君》の隣で……」