【朗読フリー台本】エピローグ

何かの物語のエピローグ風な台本です。
主人公の一人称で描かれる小説みたいな雰囲気です。

ご利用の際は利用規則をご一読下さい。




利用規則


◆この台本の著作権は全て影都千虎に帰属しています。
 商用・非商用問わずご利用いただけます。
 ご自由にお使いください。

 利用時のご連絡は任意です。

 音声作品には以下を明記するようお願いいたします。
・作者名:影都千虎
・当台本のURLまたは影都千虎のTwitter ID(@yukitora01)

 配信でのご利用も可能です。
 配信で利用される際には、上記二点は口頭で問題ございません。
 また、配信で利用される場合、台本を画面上に映していただいて構いません。
 台本のアレンジは自由ですが、台本の意味合いが大きく変わるような改変(大幅にカットするなど)は不可とします。
 便宜上、一人称・二人称を設定しておりますが、いずれも変更していただいて問題ございません。
 性別の指定はございませんのでご自由に解釈下さい。

◆無断転載、改変による転載、自作発言は絶対におやめください。


台本


 不要なモノを整理していると懐かしいモノを見つけた。
 ああ、そういえばこんなものもあったな、なんて少し懐かしく思うが、同時にどこか他人事のような奇妙な感覚もあった。

 記憶はあれど、感情はもうここに無い。
 昨日の自分は今日の自分とは別人なのだ。
 別人の感情など理解出来るはずもない。

……なんて格好つけたいところだったが、嫌な記憶に対しては相応の負の感情が残っていた。
 全く、人間の記憶というのはどうしてこうも不便なのだろうか。
 必要なモノと不要なモノを区別して、残したい記憶を自由に選択できればよかったのに。

 さらに困ったことに、嫌な記憶ではないが出来れば忘れてしまった方が楽な記憶というのも残り続けている。
 ここまでくると最早嫌がらせの領域だ。
 お陰で永遠と燻る負の感情とは別に、悪くない感情が存在していた。
 それはそれ。これはこれ、と区分して考えたがる性格故だろう。

 どれに対しても、何に対しても、誰に対してもそうだ。
 全く、本当に困ったものだ。
 どうせ負の感情の比率が多いのだから悪態だけついていればいいものを、途中で悪くない感情の存在を思い出して留まるのだ。
 だからいつまで経っても消化しきれずに腹の底で渦巻くんじゃなかろうか、とも思うがどうしようも無さそうだった。

 それからというもの、僕は相変わらず平々凡々とした凡庸な日々を送っている。
 頭の中はいつだって言葉で溢れているが、それを感情のまま文字として綴ることは少なくなった。
 全く無くなった、という訳ではないがひとつの形になるまで綴ることはほとんどない。
 ごく稀に、過去に綴ったものに付け足して形にすることはあったが、ひっそりとそのままにしておくようになった。
 必要性を感じなくなったのだ。
 そうだろう。僕が本来綴りたいものとは全くの別物なのだから。

 それでも稀に綴るのは、勿体無いという貧乏性故なのかもしれない。
 或いは、他人との感覚の違いを楽しんでいるだけなのかもしれないが。
 僕からすれば記憶と感情の残滓にすぎないが、他人からしてみれば物語の成り損ないなのだ。
 角度によって変わるものの見方を面白がってしまうのは昔からの性分だ。

 しかし、だからといって大っぴらに見せびらかしたいわけでもないので、こうしてひっそりとやっている。
 こんなものを覗き見るのは相当なモノ好きだろう。

 これから先も、僕は思い出した時に度々文字を綴るのだろう。
 文字を綴ることは僕にとって呼吸に等しい行為だ。
 相当なことが起こらない限り、これを辞めることはないだろう。

 昔から何かと僕を真似る者は多かったが、僕と同じように続ける者は一人もいない。
 僕はいつでも自分のことを、どこにでもいるありふれた極々普通の人間と信じて疑わないが、もしかしたら文字を綴るという一点においては大多数の人間とは少しだけ違うのかもしれなかった。

 こんな言葉を綴って、この話は終わる。
 格好つけた言い方をするのであれば、これはとある日の僕のエピローグ。
 だが非常に残念なことに、僕の人生におけるエピローグはまだ先のようだから、この先ももうしばらくは平々凡々とした日常が続いていくのだろう。



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