【声劇フリー台本】蛇のような

じわじわと『何か』に対する恐怖を募らせていく一人用台本です。
少し陰鬱としていますので苦手な方はご注意ください。

言葉では形容できない恐怖のようなものを感じていただけたらと思います。

※ご利用の際は利用規則をご一読くださいますようお願い申し上げます。


【利用規則】


◆この台本の著作権は全て影都千虎に帰属しています。

 商用・非商用問わずご利用いただけます。
 ご自由にお使いください。

 利用時のご連絡は任意ですが、ご連絡をいただけますと大変励みになりますし、喜んで影都千虎が拝聴致します。

 音声作品には以下を明記するようお願いいたします。

・作者名:影都千虎
・当台本のURLまたは影都千虎のTwitter ID
(@yukitora01)

 配信でのご利用も可能です。
 配信で利用される際には、上記二点は口頭で問題ございません。
 また、配信で利用される場合、台本を画面上に映していただいて構いません。

 台本のアレンジはご自由に行いください。
 便宜上、一人称・二人称を設定しておりますが、いずれも変更していただいて問題ございません。

◆無断転載、改変による転載、自作発言は絶対におやめください。


【台本】


 得体の知れない不安の様なものがずっとまとわりついてくる。
 不安と言うべきなのか、それとも恐怖と言うべきなのか。
 自分が何に対してその感情を抱いているのか分からないからハッキリとした言葉では表せない。
 ただただ、「何かがおかしい」と奇妙な違和感だけを抱いているのだ。

 蛇のようにじっとりと絡みついてくる『なにか』。
 逃げ出した方が良い。関わらないほうが良い。
 ただただ臆病で、弱い僕の中にはそんな薄暗い感情だけが渦巻いていた。

 最初は、そう思っていた。
 ずっと、そう思っていれば良かったのかもしれない。

 慣れと言うのは恐ろしいもので、いつしか僕は最初に抱いていた感情をすっかり忘れてしまっていた。

 きっと、何も知らなかったからそう思っていただけなんだ。
 一歩踏み出してみれば、なんてことはないじゃないか。
 だって、こんなにも楽しいのだから。

 ところどころに感じる違和感だって気のせいだ。
 まだまだ知らないことが沢山あるからそう思ってしまっているだけだ。
 大丈夫だ。全部全部、僕の考えすぎだ。

 今思えば酷く短絡的たんらくてき楽観的らっかんてきだ。
 こんなにあっさり騙されてしまうなんて、馬鹿だなぁ、僕は。
 能天気にも程があるだろう。

 気付いたときには何もかもが手遅れだった。
 蛇のように僕に絡みついた『なにか』は、僕のことを絞め殺そうとしていた。



 ヒッ……





 怖い。
 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 一度『楽しい』と感じてしまったが為に、こんな汚らしい感情を抱いている自分が嫌だ。
 だけどどうしようもなく怖い。逃げ出したい。
 最初から近づくんじゃなかった。あの恐怖心に従っておけば良かったという後悔が襲い来る。

 一度気付いてしまったからにはもう目を逸らすことはできない。
 僕は『なにか』の正体を知ってしまったのだ。
 知ってはいけなかったものを知ってしまったのだ。

 僕はそれまで、どうやって話していただろうか。
 これまで、どんな風にいただろうか。
 怖いという気持ちが先行して分からなくなってしまう。

 ダメだよ、まだ気を抜いたらいけないのに。
 『なにか』の正体に気付いたと、『なにか』に気付かれてはいけないのに。
 僕はまだ道化ピエロでいないといけないんだから。
 そうでなければ僕は、『なにか』に喰い殺されてしまう。

 でも、どうやって?

 このまま上手に道化ピエロでいられたとしても、蛇のような『それ』は僕のことを殺す気でいるじゃないか。
 だったら気付かれる前に、どこか遠くへ逃げてしまった方がいいんじゃないのか?
 そうすればもう、こんな怖い思いをすることなんて──


 あ。


 ぼく、は。

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