【声劇フリー台本】夢見る代替品

夢見る代替品が知りたくなかった事実に直面する一人用陰鬱台本です。
終始暗い上に情緒が不安定なので苦手な方はご注意ください。救いはありません。

ご利用の際は利用規則をご一読くださいますようお願い申し上げます。


【利用規則】


◆この台本の著作権は全て影都千虎に帰属しています。

 商用・非商用問わずご利用いただけます。
 ご自由にお使いください。

 利用時のご連絡は任意ですが、ご連絡をいただけますと大変励みになりますし、喜んで影都千虎が拝聴致します。

 音声作品には以下を明記するようお願いいたします。

・作者名:影都千虎
・当台本のURLまたは影都千虎のTwitter ID
(@yukitora01)

 配信でのご利用も可能です。
 配信で利用される際には、上記二点は口頭で問題ございません。
 また、配信で利用される場合、台本を画面上に映していただいて構いません。


 台本のアレンジはご自由に行いください。
 便宜上、一人称・二人称を設定しておりますが、いずれも変更していただいて問題ございません。

◆無断転載、改変による転載、自作発言は絶対におやめください。


【台本】


 最初は奇妙な違和感だった。
 なんだろう、何がおかしいのだろうとしばらく漠然ばくぜんと考えていたら、急にそれに直面した。


 昨日まで一緒に楽しく会話していた人たちの中に、僕が昨日までいたはずの場所に、僕ではない別の人がいた。
 しかもそれは、僕のことを大層たいそう嫌っている人で。
 楽し気な輪の中に入ることも出来ず、ただ茫然ぼうぜんと立ち尽くす僕を嘲笑あざわらっているような気がした。

 僕はそれを直視できなくて逃げ出した。


 逃げ出した先では、僕が今までやってきたことを別の誰かがやっていた。
 周りの人たちはそれを当然のように受け入れていて、僕の存在など最初から無いかのようだった。

 なあ、なんでだよ。
 昨日までそれをしていたのは僕だろう?
 しかもそいつは、僕がしてきたものを自分のもののように振舞う奴だったじゃないか!
 みんな、みんな酷い奴だって言っていたじゃないか! なのに、なんで。

 あまりにも受け入れがたい光景に、僕は思わず叫んだ。
 だけど誰もそれを聞き入れることはなくて、僕に冷ややかな視線を向けるだけ。

 耐えきれなくなった僕はまた逃げ出した。


 行きついた先では、恋人だったはずの人間が全く知らない他の人と仲睦なかむつまじそうにしていた。
 目の前にいる僕には目もくれない。

 なあ……誰だよ、そいつ。
 お前と付き合っているのは僕だろう?
 どこに行くつもりだよ。僕のことを無視するなよ、なあ!

 すがるように叫ぶが声が届くことは無くて。
 二人は笑い合いながら人込みの中に消えていった。

 気付けば僕は涙を流していた。
 ただただ、訳が分からなくて泣いていた。


 涙は止まらないが、そのまま一縷いちるの望みをかけて唯一無二の親友に連絡を取ろうと思った。
 お前ならば、きっと。そう思った。
 だけど連絡先に親友の名前など無くて。
 慌てて他の連絡手段を確認してみても、親友の名前はどこにも存在しなかった。

 僕は親友ではなくなっていた。


 それを自覚した瞬間、僕の目の前は真っ暗になる。

 ぶちりと電源を切ったように何も見えなくなって、思考だけが明瞭めいりょうになっていく。
 そして、僕と同じ声で囁く声が聞こえてきた。


 お前に居場所があるとでも思ったのか? 自惚うぬぼれるな。
 お前は、ただの代替品だいがえひん
 足りない場所に都合よく当てめていただけ。

 これが本来あるべき姿だというのに、ずっと勘違いをしていたなんて。

 馬鹿だなぁ、夢なんか見て。
 馬鹿だなぁ、希望なんか持って。
 馬鹿だなぁ。馬鹿だなぁ。

 せめて、代替品だいがえひんらしくしていたらまだよかったのに。
 傍観者ぼうかんしゃを気取って、大人しくしていたらよかったのに。
 そんなどうしようもない欠陥品けっかんひんは廃棄しないと。

 じゃあな。


 その声を最後に、僕はどこまでも、どこまでも落ちていく。
 最期に一瞬だけ、地面のようなものが見えた気がした。



 ぐしゃり。

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