「寝ても覚めても」感想
作品概要
「寝ても覚めても」は「ドライブマイカー」でアカデミー作品賞にノミネートし、世界中で注目される濱口亮介監督による三角関係を描いた恋愛映画だ。
内容としては、こんな感じだ。
大阪で一目惚れし、出会った男性・麦に恋に落ちた主人公。だが、愛していた麦は行方不明になってしまう。数年後、東京で暮らす主人公は彼と瓜二つの男性・亮平に出会い、戸惑いながらも、再び恋に落ちる。しかし、行方不明になったはずの麦も東京に現れ…。
感想
アカデミー賞に同じくノミネートされた3角関係の恋愛を描いた「パストライブス」を思わせる数年越しの複雑さがあるが、実際この主人公も設定も複雑で興味深い。
そもそも瓜二つの男性に偶然別々の場所で会うというコンセプトからして面白いが、そんな行方不明になった麦が数年後、TVの人気俳優になっていたり、合コンに誘う事になる亮平の同僚が演劇をかつてやっていたり、幼馴染の春代がシンガポール人と結婚していたりと色々と癖の強い設定がたくさんある。そして、それ自体が必ずしも伏線として機能する訳ではなく、奇妙でシュールな笑いを誘うのが特徴的だ。
主人公の唐突な行動はもちろん、突然の大地震や幼馴染との再会など「え?」と観客を一瞬固め、ストーリーに引き込んでいくのが濱口監督のスタイルらしい。
観客はとことんリアリズムで描かれた登場人物のセリフや彼らの生活環境に対して、あまりに「映画的」な展開や設定に一瞬困惑し、それを信じて物語を楽しむか、これはフィクションだと考えるか判断を迫られる(そうこうしているうちに2時間くらい経っている)。
そして今作は恋愛映画として宣伝されているが、必ずしも人の共感を誘うような「典型的な恋愛」を描くために作られたというよりも、むしろ興味深い設定のキャラクター同士を合わせたらどんなやり取りや出来事が起こるか?という事の実験をしているようにも思える。またそんな「実験」を通して作品がどんどん人間の深さのような物を描いていくようなイメージだ。
主人公は登場人物達が劇中に話すように「フワフワしているが、ある時急に一直線」といった周りからは不思議がられるような性格の持ち主だが、不思議な人を惹きつける魅力があり、それが恋愛関係を複雑にしていくというのはフランソワ・トリュフォー監督の「突然炎の如く」を連想させる。
濱口監督のスタイル、今後ももっと深掘りしていきたい。