見出し画像

ヘボコンの思い出

もうあれから5年も経つ。ある日、友人アイ村氏が「ヘボコン」なるイベントに出る仲間を集っていた。ふとカレンダーを見ると、私はその日休みであった。特に何を考えるでもなく「いいよ」と答えた。

ヘボコンとは「技術力の低い人限定」で参加することができるロボット相撲大会のことである。去年あたりに開始され、友人アイ村氏は前回大会に出たのである。

詳しいレギュレーションは知らないままに我々は地元のサイゼリヤに集った。いちおう打ち合わせということだったが、我々の話題は「なぜサイゼリヤは100円でワインが提供できるのか」「リッチーブラックモアの新バンドのボーカルは誰か」というようなものだった。結局、機動面は友人アイ村氏が作り、私は攻撃面を作ることになった。あとは当日に現場で合体させる段取りだ。


私は当時の職場の社割を使い、スチロールのマネキンを買った。それをベースに小細工をしかけることにした。
スチロールを加工するためには電熱カッターがあると便利だ。だが、そんなものをわざわざ用意するわけもなく、単なるカッターでザクザク切る。ボロボロとスチロールの破片は舞い散った。そのような場合は木工用ボンドを切り口に塗ると固まる。ひと手間加えて作業の効率を上げた。

ここで、後に司会者から「見事な机上の空論」と言われた作戦をお伝えしたい。まず、私のメカ「モンロー」(言うまでもないが、これは楳図先生の名著『わたしは真吾』から拝借した)はいくつかのギミックが施されている。まず、首もとのスピーカーからは山田耕筰の「ふるさと」が流れる。これで相手の里心を刺激し、戦意を喪失させるのだ。ちなみに、この「ふるさと」は私のウクレレ一発録りである。
次に、左右の眼が違う色を発することで相手を眩惑させるのだ。こちらは、出番待ちの間に赤色が消えてしまったが。
最後に、頭のなかにはドライアイスが仕込まれており、そこにお湯をかけることで煙幕を張ることを可能とした。
以上のような三段攻撃で相手を土俵の外まで吹き飛ばすという目論みである。

当日、会場である難波の老舗「味園ユニバース」の宴会場に到着。何年か前に河内家菊水丸の盆踊りで来たホールの隣である。

ここで我々は、お互いドライアイスを用意していないことに気がついた。あれがないと攻撃力は半減である。開始まで時間がない。私は大阪名物「北極のアイスキャンデー」まで決して急ぐことなく歩いた。

北極のアイスキャンデー屋の店員さんは金髪髭野郎だった。たくさんの味のアイスキャンデーがあったが、私は「ここはミルク一択だよな」と思い、それを1本手に取り140円を支払った。その際「持ち帰りで、二時間!」と極めて不自然なことを金髪髭野郎に伝えた。金髪髭野郎は無愛想に「持って30分スよ」私に言った。私は「じゃあ、それで」と答えた。
味園ユニバースまでの帰り、パチンコ屋の警備員が若いニーチャンに「2度と来んなボケがァ!」とこれ以上無い至近距離で叫んでいた。

無事にドライアイスを手に入れ、いざ一回戦へ。相手は東京からわざわざやって来たというお兄さんだった。お互いのメカの素晴らしい点を赤裸々に語り、いざ勝負開始。圧勝であった。

聞けば、お兄さんは『ラジオライフ』なる雑誌に連載をもっている漫画家さんとのことだった。ヘボコン体験レポートという名目で参加したとのことだった。我らがマシン「モンロー」を写真に納め、彼は群集の中に消えていった。

その後の我々の結果については割愛する。次々に敗者の想いを背負い、モンローはおでこに新垣結衣さんの写真を貼られたり、現場でカスタマイズされ続けた。

揺るぎない事実としては「田宮模型最強伝説」ということである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?