日本の伝統陶芸に息づく「鉄釉（てつゆう）」の魅力を深掘り

日常の食卓を美しく彩る器。その中でも日本人の生活に古くから根づき、深い魅力を放つのが「鉄釉（てつゆう）」です。

鉄釉とは、鉄酸化物を主な原料として調合された陶芸用の釉薬（うわぐすり）のこと。その美しさは多彩で、茶褐色から深みのある黒まで、鉄の濃度や焼成の条件に応じて表情を変えるのです。

多彩な色の秘密

鉄釉の色は、その焼き方次第で驚くほど多様になります。酸素を多く取り入れる酸化焼成では、温かみのある赤褐色や飴色を帯び、反対に酸素を抑えた還元焼成では、深く落ち着いた黒や濃茶色に変化します。

色味のバリエーションを簡単にまとめると、

• 黄色釉：低い鉄分で温かな黄褐色。

• 飴釉：つややかで温もりのある茶色。

• 黒釉：鉄分濃度が高いと現れる深い黒。

• 柿釉：柿の実のように赤みを帯びた茶褐色。

これらは鉄の濃度や焼く温度、そして焼くときの酸素の量によって絶妙にコントロールされています。光沢のあるものからマットな質感まで、多様な表情を見せてくれます。

気になる安全性について

「鉄」と聞くと、「食品に安全なの？」と気になる方もいるかもしれません。しかし、陶芸用の鉄酸化物自体に毒性はなく、適切な調合と焼成が行われれば、日常の食器として全く問題なく使用できます。ただし、不十分な焼成やひび割れがあると、微量な金属が溶け出す可能性も指摘されていますので、信頼できる作家やブランドを選ぶことが大切です。

日本の歴史に刻まれた鉄釉の物語

鉄釉は日本陶芸の歴史と深く関わっています。鎌倉時代（1185-1333年）頃に導入され、江戸時代（1603-1868年）にかけて瀬戸や美濃、常滑などの産地で日常の器として広く普及しました。

特に瀬戸焼では「鉄赤釉（てつあかゆう）」として茶筒や茶碗に、美濃焼では「黄瀬戸（きぜと）」や「黒釉」など多様な技法で酒瓶や飯碗、茶道具として重宝されました。また、常滑焼は鉄分豊富な土壌を活かして茶壺や茶器に特徴的な赤褐色の味わいを生み出しました。

驚きの事実

実は、鉄釉は特別な用途だけでなく、昔から庶民の日常生活を豊かにする身近な存在として愛されてきました。日本の美意識は、完璧さよりも焼成中の自然な変化や偶然性を愛するところにあり、鉄釉の偶発的な色合いや質感がその美学を見事に体現しているのです。

現代でも、多くの作家や窯元が伝統技術を守りつつ、新たな表現方法を模索しています。あなたも身近な器に秘められた鉄釉の歴史と魅力を感じてみてはいかがでしょうか。