どうでもいい話(2023年 9月分)
シーン・ビジネス⑯
ちょっぴりキャピッとした女性スタッフ二名と働いていた時の話。
館から「店員に対するイタズラ電話が横行している」との注意喚起が有った。
最初に連日のように頻繁に掛かって来ていたのは、4ブロック先のアクセサリー屋さん。
働きに来るの、嫌だっただろうな~(しみじみ)
やっぱり可愛い感じの女性スタッフが固まってた。
「だってさ、Nちゃんも気を付けて」
「分かりました!」
なんてスタッフに注意を促した、その日の夕方。
♫プルルルルル
「はい、毎度ありがとうございます。…」
店舗に掛かってきた電話に出たのはNちゃん。
客注の問い合わせかな?なんて店内から様子を見た。
ガチャンッ!
速攻で受話器が置かれたので、慌てて駆け寄った。
「え、ちょっと、どうしたの!?」
「○、○○さん!『パンツ何色?』って聞かれました(震)!」
「ぇえ!!?」
そんなベタな!!?
と思ったのは、内緒だ。
イタズラ電話の注意喚起は有りしたが、電話の内容は受けたスタッフに配慮されて、周知されていなかった。
「うあ~!も~!キモ~い~!」
「だよね、よしよし」
Nちゃんは両腕を摩り、完全に総毛立ってしまってる。
こういう電話は執拗いくらい掛かってくるから、早めに撃退しなければ。ウチの店舗にも被害が拡大してしまう。
「もしも、またイタズラ電話掛かって来たら、私に代わって」
「わ、分かりました~(震)」
なんて伝えて、バックルームで水を飲むのに しゃがんだ瞬間だった。
♫プルルルルル
「はい、毎度ありがとう…」
電話に出たNちゃんが、受話口を手で塞いでバックルームを覗いてきた。
「かっ、掛かってきました~(小声)」
早速かよ、早いな。
「分かった、代わる」
私は受話器を受け取り、息をふぅと吐き、にこやかな笑顔を作ってレジカウンターに立った。
「お電話代わりました、○○が対応致します」
『○○さん、今日はいてるパンツ、何色?』
「そういった ご質問には、お答え致しかねます」
『い~じゃん、教えてよ』
声の質からして、そんなに年配な感じはしない。2~30代かな。
「営業妨害になりますので、こういった電話は止めてください」
店舗は23時閉店、私が休みの時は 3~6時間 若い女性スタッフが独りで お店番をする。
そんな時に掛かって来ても すぐには代われない。
電話を無視する訳にもいかない。
懇切丁寧に反感を持たれないよう、妙に刺激しないように、細心の注意を払って応対した。
『ね、ね、暇ならさ、お店抜けて相手してよ』
はあ?何言い出してんだ、コイツ。
「相手のしようが ございません」
『こんな電話でるなんて、はぁッ、暇なんでしょ』
ぶっちゃけ、暇であるから電話対応出来てるんですがね。
間に挟まる荒い息が超キモいんだけど。
この電話は、私が先に切ったら負けだ。絶対、自分からは切らんぞ。
「この電話には他の店舗やお客様からの問い合わせが入ります。長時間の通話は他の方に迷惑になりますので、お控え下さい」
『今さ、お店に二人 居るでしょ。茶髪の子と、黒髪の子と』
!!?!?
え!? 何コイツ、どっか お店が見える所から電話 掛けてる!!?
『どっちでも良いからさ、ちょっと お店抜けて来てよ』
どこだ!? どこだ!? どこだ!!?
店舗の様子が伺えるのは、隣接する大通路、館内を横断する空中連絡通路、階上のエスカレーター乗り口、等。
くッ…様子を見られてるんなら、ここで慌てて通路に探しに出ようものなら、イタズラ犯を喜ばせるだけだ!
『ねぇねぇ、はぁッ…今いいところだからさ、ちょっと こっち来てしゃぶってよ』
誰が行くか!
とは思いはせど、ここで激高しては犯人の思うつぼ。冷静に得られた情報を分析せねば。
『こっちに来て』という事は、店舗のすぐ近くから電話を掛けている。
店奥のレジカウンターから階上は見えないが、大通路にも橋にも電話を掛けている人は見えない。
『いいところ』とキモい息使いから察するに、今現在、ガチで いいところ と思われる。
『しゃぶ』れるのは局部まる出しでも、他の お客様に騒がれない場所。
──トイレか!!!
店舗真横の細通路先には、お客様用トイレが有る。
おそらくトイレに潜む直前に、自店に立つのスタッフを確認したんだろう。
うわ~…壁と通路を挟んで真隣に変質者が潜んでるとか、キモ過ぎるんやけど…(震)
だが、情報が足りない。
女子・男子・誰でもトイレの3箇所に分かれている。
犯人が潜むトイレを特定しなければ。
私はイタズラ電話を左耳に当てたまま、レジ下に設置されている館の内線電話の受話器を持ち上げた。
押下したのは、警備室。
内線を右耳に当て応対には答えなかったが、電話口の警備員さんは黙って切らずにいてくれた。
私は間髪入れずにイタズラ犯に質問する。
「今、どちらにいらっしゃるんですか?そちらに向かいます」
『隣の男子トイレの個室』
はい、アウト。
「お疲れ様です、○○店です。卑猥なイタズラ電話を受けてる真っ最中です。隣りの男子トイレの個室から掛けています。警備員さんを寄越して下さい」
プッ…ツーツーツー…
イタズラ犯の通話は切れたが、すぐ見回り中の警備員さんを向かわせる、との事で、私は二つの受話器を置いた。
タイムラグで犯人は逃がしてしまうかもしれないが、トイレ前の細道には防犯カメラが設置されている事は『目撃・通報談③』の経緯で知っている。
防犯カメラにトイレから出てきた人間は、必ず映る。
少しして、警備員さんが店舗に早足で様子を聞きに来てくれた。
「今ね、もう一人が男子トイレの中の様子を見回りに行ってるから、安心して」
「ありがとうございますぅ(安堵)」
キモかった。マジでキモかった。
警備員さんの話だと「男子トイレの個室から一人男性が出てくるのを確認した。断定は出来ないけど、その人物で確定だろう。顔も見たし、防犯カメラにも映ってた」との事。
警備員の巡回も増やしてくれて、毎日必ず様子を確認しに、声を掛けに来店して下さった。
こうして、卑猥イタズラ電話事件は幕を閉じた。
その後『パンツ見せて』という電話は無くなったけど、完全な無言電話は暫く頻発した。
その都度「営業妨害ですので、止めてください。警備員呼びますよ」と言ってから受話器を置いたよ。
も~、イタズラ電話の応対、面倒臭~い。
⑰に続く──
一家全員、アレ③
私が小学三年生くらいまでは、毎年母方祖父母の家に、母姉揃って帰省していた。
夏場の じぃじは いつもタンクトップにステテコ、爪楊枝を咥えて団扇でパタパタ仰いでいたのが印象的。
じぃじ は真面目なイタズラっ子で、子供の頃の話とか、現役時代の話とか、何度聴いても面白くて好きだった。
今回は、まぁじぃじは置いといて、ばぁばの話。
ばぁば は多趣味で、五円玉で兜作ったり、チラシを細く巻いた筒を繋いで一輪挿し作ったり、ハンドクラフトの前進をやったりしてた。
いつも原付飛ばしてパチンコ行ったり、パートに行ったり、凄くアグレッシブな方だったと思う。
おしゃれで お化粧も必ずしてて、カラオケ行ってたりしてて。
そりゃそうか、逆算したら当時還暦迎えたばっかだ。まだまだ お元気な訳だ。
そんな ばぁば は、孫を驚かすのが大好き。
「ほれほれ○○、見ててごらん」
何してたか覚えてないんだけど、ばぁばが突然、ガポッと口に手を突っ込んだ。
「ばぁ~!」
!!!??
ばぁば、総入れ歯だった。
入れ歯なんてテレビのCMでしか見た時無い頃よ。衝撃だったよ、歯茎に生え揃った歯がポコッて全部取れちゃって、唇は しおしおに しぼんでるし。
それを見ていた私の母親。
「お母さん!入れ歯だったの!!?」
娘にも教えていなかったようだ。
あくる時。
ばぁばはボリューミーな短いパーマヘアーが多かった。
「ほれほれ○○、見ててごらん」
髪の毛に手を入れたばぁばの天頂部から、パチッパチッて音がする。
「ほう~ら!」
!?!??
ズルリンと剥がれたそれは、頭皮に付いた髪の毛の塊。衝撃だった。ばぁば、カツラだったんだよ。
それを見た母親の台詞。
「お母さん!? ア○トネイチャーだったの!!?」
なんか、いくらするの とか、大人な話に発展してた。
他にも、ばぁば がこっそり教えてくれた。
ばぁば は お化粧が大好きだから、スッピン見せるのが嫌で、眉と唇にカラーの墨を入れたんだって。
「墨入れてすぐは唇がたらこみたいに ぽっくぽくに腫れちゃって、家族のみんなにバレないか恥ずかしかっただよ」
それを聞いていた私の母親。
「あ、だからか~!温泉とか行っても全然化粧落ちないな~って、思ってたんだ!…え?いつ入れたの?」
「アンタが まだ実家に居た頃」
「嘘おッ!!!?」
ばぁばは、孫を驚かせようとして、一番 娘を驚かせてた。
ちゃんちゃん。
④に続く──
シーン・ビジネス⑰
公私共に色んな出来事があったけれど、楽しかったバイト時代も そろそろ終了。
私は、正社員への道を選んだ。
暗黒の正社員時代。
全部が全部、という訳でもなくって、楽しかった思い出も沢山有るよ。
だけど…ここまでグダグダ語ってこなかったのは、思い出したくなかったからだよ、察してくれ。
話を進める前に、一応 バイト期間中の分断分断で語っていた別表題を、時系列で並べておこうと思う。
『ワンダーワールド(以下略)』
↓
『就活②』
↓
『水子の魂─一子目─』
↓
『目撃・通報談③』
↓
『水子の魂─二子目─』
↓
『目撃・通報談④』
↓
『線維筋痛症と私⑫』
↓
『軒昂じいちゃん①』
↓
『痴漢とコート①』
↓
今このへん。
↓
『就活④』
↓
『線維筋痛症と私④』
↓
『痴漢とコート②』
↓
『夢のマイホーム①』
何か抜けてるかもしれんが、大体こんな流れの3~4年間だった。
一年以上前の記事が ほとんどで閲覧困難かと思うので、気になる方はこっちから探してくれ。
https://note.com/yukipochi_2022/m/mb2b4523227c8
これ以上は優しくしないよ。
因みに『痴漢とコート①』が発生した翌日(同日?)、私は普通に定時で出勤して、何となく、世間話でT店長に事件の顛末を話した。
「え!? 大丈夫!? そんな時くらい、休んで良いんだよ!?」
「?…いや、何か、平気っスね」
自分でも何でか分からないが、口の中が切れてる以外は、至って平常だったのだ。
それを聞いた、T店長。
「気が知れない」
もの凄~くドン引きした顔で半歩後退して、言った。
あ、こういうの、演技でも態とらしく傷付いたフリするか、もっと茶化して話さないと、普通の乙女は引くんだな。
なんて、勉強になった。
地味に、T店長の反応の方に少し傷付いたのは、内緒だ。
─どんどん抜かされていく件─
バイト半年も経てば、近隣店舗の様相も変わってくる。
I店の店長が退職された時、何となく近所に住んでたし早遅出来るし、私の番かな、なんて思ってた。
蓋を開けてみたら、私より数ヶ月後輩のバイトMさんが店長に抜擢された。
私はヘルプに入ってI店のことを教えたんだけど、何となくモヤッとした。
他にも新店オープンや退職なんかで店長の席がバンバン空いたけど、私に回ってくる事は無かった。
まだ向上心だとか野心だとか持ってた肝っ玉の ちっさな若造だよ、面白く無かったのは、言うまでもない。
実は私に店長の話が来なかったのにはカラクリがあったんだって、後に知る事になる。
─ガラス割った件─
バイト副店長になって半年後くらいかな、大きめなショッピングモールが郊外に建った。
T店長が新店オープンの兼務店長に抜擢、私も設営を手伝いに行った。
ほぼほぼ商品を並び終え、最後にレイアウトチェックをしていた設営3日目。
「ここの棚の高さ、揃えよう」
N課長が言い出したので、什器移動の慣れてる私は 率先して作業をしていた。
重さのあるガラスの棚板を、一枚一枚 運ぶのが、時間ロスに感じてしまった。
あれって強化ガラスなのかな?
120×40cm 15mm厚・5kg程の、T店より丈夫そうなガラス板だった。
雑巾を挟んで そおっと二枚重ね、可動式のアームから ゆっくり持ち上げ、膝で立ち上がりながら回転して、背後の平什器の上へ。
そんな感じで壁什器 全撤去して、特に何も起きなかった。
アームの高さを調整して、今度は一枚一枚ガラス板を戻していく…
コツッ… パーンッ☆
ッ!?!??
それはそれは見事な、破裂音だった(遠い目)
や、や、や…やっちまったああああぁッ!!!
自分を中心に回転して戻して行ったガラス棚板の端っこが、僅かに先に設置したガラス棚板の角に触れてしまったんだ。
ほんのちょっとだよ、ほんのちょっと(号泣)!
「○○!!? うわっ!!? お前、やってくれたなぁ!!!」
「ごごごご、ごめんなさ~い(泣)!」
しかもね、寄りにもよって割れたのが、点先の通路に面した長い丈の、角を丸くカッティングした特注ガラスだったんだよ(遠い目)
ガラス板は砕け散りはしなかったものの、半月型に蜘蛛の巣状に剥がれ落ち、「ぶつけて割りましたね」って、誰が見ても明らかな状態。
隠せもしないんだよ(泣)!
「うわ~、これ…うわ~、たっかいんだぞ~!? 十万ぐらいだったかな~?」
「じじじじ…じゅうまん!!?」
課長の焦り方が半端でない。
そもそもが新店オープンの門出の時に縁起でもない。
しかも特注ガラスだから、新しいのを発注して届くまで、代替できる棚板も無い。
う、う~わ~!どうしよう、どうしよう(狼狽)!
「ごめんなさい!手持ち無いので、ガラス代は給料から天引いて下さい(号泣)!」
そうなのだよ、僅かばかりの蓄えは、先日の引越しで使ってしまったばかりなのだよ(遠い目)
くうぅ~…給与の3分の2が吹っ飛ぶけど、背に腹はかえられない…
こんなことなら、家電もカブも買うの待てば良かったあぁ(号泣)!
そうなのだよ、身一つで先輩宅に居候してたから、なぁんも持ってなくて、洗濯機と冷蔵庫と なんやらかんやら、ついでに120ccのカブ(原付)を乗り出し30の新車で現金払いしちゃったばっかだったんだよ(遠い目)
「ガラス代は…ガラス代は、必ず、弁償しますからぁ!ごめんなさぁい(マジ泣)!」
「あ~、うん、そっちは経理に話しておくから。とりあえず、棚 何とかしないとね」
「あ゙い゙!」
こうして、折角通路側に面してオシャンティーに湾曲していたガラス板は、ガムテでベタベタ養生され、1番下段で ひっくり返して角面を通路側にする事により、パッと見、どうにか形にはなった。
あ~も~、次の給与まで気が気じゃなかったよ。
事ある毎に謝り倒したよ。マジで。
何度か新店のヘルプに入って、割れたガラス板を見る度、いたたまれなくて新店のスタッフにも謝りまくった。
そのうち、新しいガラスがやってきてて湾曲したオシャンティーな店構えになった。良かった。
「はい、○○さんの分」
翌月、店長から手渡しで頂戴した給与明細は、速攻 開封した。
だが、明細上ではガラス代は引かれていなかった。
手続き間に合わなかったのかな?
課長にも確認したけど、のらりくらり言い訳られて、酒の席で冗談交じりに お咎められ続けただけだった。
保険でも降りたのかな。
─一番でっけぇクレームの件─
バイト時代は まぁ、私自身はそんなに大きなクレームを受けるケースは無く、接客に関しても スタッフが受けてるのを途中で入れ替わって話を聴いたり、商品系も返品・交換等で済んだりしちゃうから大して解決に手間取ら無かった。
そんな時代に初めて受けたとも言うべき、一番でっけぇクレームは、同業者からだった。
自社の別店舗からの電話だ。
まぁ引き金になったのは、元々 自店の お客様からの申し出ではあったんだけど。
あれは個人情報保護法が施行された一年後、メンバーズカードが ただのスタンプカードに成り果てた後の、二度目の優待セールの時じゃった。
それまでDMハガキを持参した お客様のみ、優待セール期間中は割引購入出来ていたのが無くなった後。
メンバーズカードご提示で、優待割引が受けられる仕様に変更になった。
提示が必要とはいえ、即日その場で発行出来る ただのスタンプカードである。
一番最初のDMハガキ廃止直後の優待セールは、会計時にメンバーズになった事として、よっぽど断って来なかったお客様以外、メンバーズカードを発行して全対象品全て会計時に割引した。
もちろん、本社からも上記の対応で、と指示が有った。
それだとね、ほぼほぼ全ての会計が二割引。
毎日100件中、2~3件しか正規の会計が無かった。
DMの頃は概ね優待6割、正規4割。
差は歴然である。
ていうか、ちょっと考えたらそうなんだろ、て分かりそうなもんである。
利益になりはしても、利益率が下がってしまうから、本社も頭を抱えた訳だ。
その次の優待セール期間からは「会計時にメンバーズカードは発行出来ても、割引出来るのは次の会計から」となった。
これもこれで薄らぼんやりしているけれど、まあ「やったー♪じゃあ期間中に また来まーす♪」なんて喜んで下さるお客様も多くいらしたんで、なんともがな。
後々聴いた販促部S女史の話によると「割引出来るのは “次の期間の” 優待セールから」だったらしいんだが、そんなの確認しようが無い。
発行番号から確認しようと思えば出来ても、半年前の日報をひっくり返したりせねばならず、確認に掛かる時間が膨大。
「流石にそこまでは出来ません!」
て言ったよ、ちゃんと。
本社からの指示メールには「次の会計から」としか記載されておらず、本社内でも混乱していたんだと思う。
メンバーズカードのナンバリングは本社では管理していない。
表向きは「次回会計から」とし、ごねる方には「内緒ですよ」と、会計を二回に分け「単価の低い会計一点 後、メンバーズカードを発行 後、割引価格で残りの会計」が主流になった。
面倒だろ。ここまで読んで面倒臭いと思ったろ。ごめん。
優待セール中は一般では閑散期に当たるが、その期間は自社は かきいれ時。
めっちゃ混む。
楽しいくらい売れる。
そんな時に、一本の電話が入ってきた。
自社系列の他店からだった。
商品在庫の問い合わせかな、なんて思ったんやが。
『メンバーズカードを忘れられたお客様から「前回は会計の時に割引してもらったんだ」と言われまして、そちらで購入したと言うじゃないですか。どういう事ですか!』
あれ?知らんのかな。
店番を見れば新しい。
切り替わり後にオープンした新店の店長から問合せだ。
ああ、そうだ、この前に一悶着有ったんだった。
最初は “いつ” “誰が” とか そういう話じゃなくて、単に
『そちらのスタッフが間違った対応をしています。どういう教育してるんですか。ルール分かってるんですか?』
的な話から入られたんだ。
初っ端から喧嘩ふっかけられたんだよ。
もちろん、こちらとしては店長と私が一丸となって本社からの指示はスタッフ全員に周知させている。
困った自体に陥れば必ず みんな一報、口頭なり電話なりで確認してくれる。
大体にして私も店長も優待中フル日勤務なんだ。何か起きたら知っている。
「そんな筈は無い、自店では きちんと優待ルールの周知・徹底をしている」
自店スタッフが疑われたのが頭に来ちゃってね、私も若かった(遠い目)
自社の従業員なら加減無用。
怒鳴りはしなかったものの、かなり強めの語調で反発しちゃったんだ。
ルール分かってないみたいに言われるから「こう、こう、こうだ、という内容の社内メールも読みましたよ」て、全部あまさず切り替わった後の優待ルールを口頭説明。
その間スタッフ二人にはレジと採寸・試着の お客様をお願いして、私は電話を耳に当て応対しながら店内を歩き回ってストックをガンガン店頭に出してて。
とにかく、矢のように忙しいのに、なかなか新店の店長は引き下がらない。
そのうち、先に言った『お客様から~』の話が出てきた。
「? それって…お客様が購入されたのは、いつ頃の話です?」
『半年前の優待の時』
ここで漸く「あ、ああああ!アレか、あん時のか!」てなったんだ。
「あの時は、即日発行 即時割引 出来たんです」
『そんな筈は無い!』
そんな筈は有るの!
2~3回 言ったけど全然信じて貰えないから、DMが無くなった経緯~初回の優待ルール~今回の優待ルールに変更になった旨を、懇切丁寧に説明した。
『なんでそんな事になるんですか!ウチではクレームになっちゃってるんですよ!』
知るか!
「本社の指示です。クレームになっているなら、まずは営業に伝達と確認を取って下さい」
最初っからエリアの営業さんに連絡してくれていれば、ルールの変化の成り立ちだって知っている筈。
なんやかんや、まだゴネられそうになった小一時間の通話の終いに
『──あ。混んできたんで、また掛けます』プチッ…ツーツー…
てね!切られたんだよ、一方的に!
「うちなんか最初っから忙しかったっつーの!!!」
てね、叫びたかったよ。お客様いらっしゃるから呑み込んだけど。
「長かったっスね、何の電話だったんスか?」
「ん、何か、新店からクレーム。優待ルール守れって。『守ってます!』て言っといた」
多分、聞いてきたK君には今の説明では分からなかったと思うけど、直ぐに忙しさに うやむやになった。
その数時間後。
再び新店から電話が有り「嫌だな…」て思ったけど、私は電話に出た。
『営業さんに確認したら「確かに前回の優待は、そうだった」と、言われまして…』
だろう、すっとこどっこい!一昨日来やがれ!
「左様でございますか~」
とりあえず、新店の店長が一言謝罪して、この大忙しの最中のクレーム事件は幕を閉じた。
まずねお客様からクレーム受けたらね、地方の店舗に難癖付ける前に、直属の上司に確認と報告をしようね。
因みに、この翌々回の期間からだったかな、期間中に発行したメンバーズカードの空欄には発行年も記載するよう、本社から指示があった。
え~、面倒臭~い。
て、思ったけど、ひょっとしたら、あの日 私が閉店後に びっちり事の顛末を あまさず記入した日報も、関係していたかもしれない。
まあ、お客様からも似たような問い合わせが多かったんだろうて。
─人は変えられない件─
ある時 突然、ちょっと寂しそうに店長がポソッと行ってきた。
「『人を変えるのは難しいから、自分が変わるしかない』んだって」
「……」
え?突然、何の話???
て、マジで思った。
本っ当に何の脈絡も無く、突然言われたんだ。
「どうしたんスか?突然」
話を聞けば、M氏に そう言われたんだそう。
何て答えたら良いか分かんなくて「そうなんスか」としか言えなかった。
店長、何に悩んでたんだろう?
人が関係するって事は、N課長?スタッフ教育?
なんやかんや色々と思い当たりはしたものの、突っ込んで聞いちゃ行けない気がした。
よもや…私の事じゃあ、あるまいな…
色々と言いたいことを呑み込んでるなら、ハッキリと口にして欲しい。
結構ズバッと言うじゃん、店長。
その日から、店長は変わってしまった。いや、変わろうとしていた。
元々 化粧品の訪問販売をやっていた店長の接客力は凄い。
店長が接客した お客様の購買率も客単価もセット率も、群を抜いている。
だけど「接客は嫌よ」て言って、ずっと自分から声を掛けに行くことは無かった。
それが、ガンガン自分から声を掛けに行くようになったんだ。
皆様 買われていくから「凄いなぁ」とは思えど、私はアンチ接客派だから「何で、突然???」ていう方が大きかった。
多分だけど店長は、率先して接客する自分を見せる事で、スタッフに、私に背中で教えようとしていたんだと思う。
思いはしてたんだけど…
真似したところで真似にすらならない。
お一組様一点がせいぜい。
私が「接客しよう」と声を掛けると、ほぼほぼ逃げられてしまう。
やっぱり、私は接客しない方が、売れるんだよな。
─N課長─
二年目の春に、NR店にヘルプに行った時、エリアの違う店舗で初めて、引き抜かれたばかりのN氏と出会った。
その時は凄く明るくて元気な人で、話易いな、なんて思った。
何か時給の話になって、私は初めて時給が上がったのは一年目に20円、最近キリが悪いからと10円プラス副店長手当が着いた的な話をしたんだっけな。
そしたらN氏は
「えー!? そんなに上がってないの!? 僕だったら1ヶ月目に まず10円上げるよ!!」
て言ってた。
そうそう時給の話を他スタッフとする事なんてないから、気になってたんでN課長に担当が変わってから、新人さんとか新店のスタッフさんに ちょろっと聞いてみた。
「え?上がってないですよ」
みんな、口を揃えて そう言った。
どころか、半年前くらいして聞いてみても、やっぱり上がらない。
一年しても上がらない。
私の時給も上がらないのは まあ良いとして、他の頑張ってる方々に嘘まで付いて気に入られようとしたN氏根性が気に食わない。
時給アップには申請等 色々と大変らしいけど、それなら最初から言わんで欲しい。
あの人は、タヌキだ。
⑱に続く──
シーン・ビジネス【番外編】
─ネクタイうんちく─
検索すれば出てくるけど折角の知識を持て余してるのは勿体ないんで、一部から“ネクタイのプロ”と称された私から皆様へ、ビジネスにも創作にも役立つポイントを紹介しようと思う。
先に言おう。
私、自分にネクタイを結べない。
スーツやワイシャツが綺麗に描かれていても、意外とネクタイの結び方は適当な作家さんが多い印象(自分棚上げ)。
なんでかって理由は簡単だ。
学生服が造りネクタイ、既に結ばれた状態の、首裏でパッチンするやつだったんだ。
「ネクタイ結べないから、結んで下さい」て言うビジネスマンのお客様は多かったし、中には手持ちのネクタイ全部結んで下さいって猛者もおったよ。
自分に結べなくても恥じる必要は無い。
私は店頭トルソー等のディスプレイに結んで結んで、結んで結んで習得して、気付いたら対面では結べるのに、いざ自分に結ぼうと鏡に向かって首にネクタイ引っ掛けた瞬間、
あれ?どうやって結ぶんだ?コレ…
な自体に陥り「まぁ、自分に結ばなくても良いや」と、ドアノブに引っ掛けてネクタイを結んで凌いでいたという。
ネクタイってのは、まず結び目さえ作ってしまえば調整が利くもんで。
おじさま営業M氏から習ったポイントなんかも含めながら、みんなで格好良いネクタイ結び、極めようぜ☆
因みに、言葉だけだと想像しにくいかと思うので、終盤に図解も描くと思う。
─ネクタイ基礎知識─
結ぶ説明には部位の名前が どうしても必要なんで、簡単に。
ネクタイの両端は “大剣・小剣” という。
でっかい方の角が、大剣。
細い方の角が、小剣。
簡単でしょ。
大検裏にはループという、結んだ後に小剣を通す輪っかが有る。
素材なんかは一昔前はシルク一択だったけど、今ではポリエステル等の化繊から木綿や麻なんかの天然素材も増えている。
結びやすいのは、表地がシルク100%が一番だけど、結ぶ練習をしていると表面が毛羽立ってくるから、お気に入りで練習しちゃダメ。
結びを極めたいなら練習用に安価なネクタイか化繊のを一本用意しよう。
ネクタイの長さはは147cm。
大剣側と小剣側は中央で斜めにぬい合わされていて、この縫い目が、ネクタイを綺麗に結ぶ目印になる。
─ネクタイの種類─
一般的なネクタイは大剣幅が7~8cm。
それより細いナロータイ、薄地でスカーフみたいなアスコットタイなんかがある。
因みに、蝶タイは特殊な方に分類されるので、説明は省く。
─結び方(ノット)の種類─
検索すると めっちゃ出る。
ここでは基本の結び方のみ紹介する。
※出来る結び目は台形だが、分かりやすく三角で説明する。
・プレーンノット
一番一般的な結び方。
結び目は片側に倒れた逆三角になる。
大剣先 小剣先の角がピタッと合わさったら、バランス良く結べた印。
・ダブルノット
プレーンノットを一巻多く巻く。
結び目が多くなるが、片側に倒れた逆三角には変わりない。
・ウィンザーノット
一番ややこしい結び方。
綺麗な逆二等辺三角形の大きな結び目になるが、大剣のバランスが取りにくい。
・セミウィンザーノット
ウィンザーノットより一工程少ない。
綺麗な逆二等辺三角形の結び目になる。
『プレーン』『セミウィンザー』の2種類おさえれば、オケ♪
ちょっと色々、記憶違いを起こしていたので、一度削除して説明し直します(礼)
─結び方─
とりあえずネクタイの結び方自体知らない方の為に、手順のみ記載しようと思う。
レクチャー動画とか沢山有るから、そっち観た方が分かると思うよ。
ネクタイを結べて初めて後述のポイントが生きるんで、ご存知の方は読み流して。
因みに、私は対面結びしか出来んので、逆結びだったりする。
左右どっちでも、結べりゃオケ。
・プレーンノット
①ワイシャツの襟を立て、首にネクタイを引っ掛ける
②中央の斜めの縫い目を大剣側を長く取り、肩ヨーク(ワイシャツの身頃と肩の合わせ布)の胸側の線に合わせる(図:ポイント①)
③大剣を小剣の下からクロスさせて、巻く
この時、小剣は表を 大剣は裏を、前面に向ける。
④勢いのまま裏に行った大剣を 後ろから首の輪っかを通り、小剣に巻きついた大剣の輪っかに通す
⑤大剣を引き結び目を整え、小剣を引いて首にギュッと絞める
襟を戻して、完成ー☆
・セミウィンザーノット
①ワイシャツの襟を立て、首にネクタイを引っ掛ける
②大剣側を長く取る。
③大剣を小剣の下からクロスさせ、勢いのまま 首の輪っかの上から中へ引き込む
④大剣側から回し付け、小剣側の後ろから首の輪っかを通り、大剣の輪っかに通す
⑤大剣を引き結び目を整え、小剣を引いて首にギュッと絞める
何か抜けてなければ、完成ー☆
─結び目の調整─
一番やりがちなのが、結んだら直ぐに小剣を引いてギュッと絞めちゃうこと。
これあかん。
出来た ばかりの結び目はデリケートだから、小剣を引いてしまうと形が崩れてしまう。
また、小剣も引っ張れば良いというものでも無い。
仮に上記の方法で絞めると、出来た結び目は緩まり、長方形になる。
横から見ても薄くなる。
これ、カッコ悪い。
結び目は前から見ても逆三角、横から見ても逆三角がベスト。
「えー、長方形になっちゃった(汗)」
なんて事でもノープロブレム。
その状態からでも直せちゃうから解かなくて良いよ。
まず、少しネクタイを緩めよう。
ネクタイの結び目の上に、大剣側が一部 のぞいているだろう。
そこに指を突っ込みたまえ。
逆の手で結び目の逆三角の下の頂点を軽く押さえ、指を大剣側に回すようにしてネクタイを引き出しつつ、大剣を引っ張るんだ。(図:ポイント②)
コレだけで、綺麗な逆三角に整うよ。
小剣を引く際は、結び目を適当に持つと結び目が崩れるので、逆三角の下の頂点を支えるように。
緩める時は結び目を下に引けば、シュルッと小剣が引かれ、抜けちゃえば解けるし、首が通るくらいで止めれば結び直さなくて良いって訳。
最初にネクタイ結び考案した人、天才と思う。
─大剣のバランス─
これが一番 厄介である。
僅かなら上記の方法でも調整出来るが「小剣が大剣より凄く長く出てちゃった(汗)」なんて時は、結び直した方が早い。
ここで生きるのが、プレーンノットで紹介した「大剣・小剣がピタッと合わさった」長さ。
キュッと絞めた時の大剣の長さが、一番綺麗なバランス。
この長さ、いちいち覚えるの大変じゃね?
ノンノン。
プレーンノット結び方②をやれば、大体この長さになるんだな。
コレ、教わったんでなく気付いたの、私(ドヤァ)
いやまぁ、常識だったんなら、ゴメン。
因みに、プレーンノット以外の結び方だと、結んだ後の小剣は短くなるので、あくまでもプレーンノットを基準とした長さ。
参考画はコチラ↓
https://x.com/yukipochi_2022/status/1701574115621208567?s=20
誤記
─結び方─セミウィンザーノット
④
大剣側から回し付け ✕ → 小剣側から回し付け ○
後、添付画の結び方それぞれ②、裏側の縫い目の青い線を一部 削除忘れてました。
混乱させてしまってたら、ごめんなさいです(礼)
いや ちょっと、このままではネクタイプロの恥なんで、ネクタイむすびかにアドバイスを載せた改訂版と、物凄くどうでもいいマメ知識も添付しておきます(礼)
─ディンプル─
ネクタイの結び目の下に出来る“えくぼ(凹み)”を、ディンプルと言う。
コレは おじさま営業M氏が教えてくれたんだけど、普通に結んでもネクタイの中央は綺麗に凹まない。
M氏の情報だと「格好良いディンプルはM字型になる」らしい…
試行錯誤の末、綺麗なM字に凹んだディンプルを作れるようになったんで、ちょいとコツおば。
ネクタイの結び目を絞め付ける前に、小剣を谷折りにしておく。
小剣の谷折りに沿って、大剣を折り込むと、綺麗なM字のディンプルが出来る(図:ポイント③)。
結び目を絞め付け、小剣を引いてワイシャツの台襟にキュッとして、結び目の上が見えないのが、綺麗な結び方と言われている…
が。
ぶっちゃけ、そんな絞めると苦しゅうてかなわん。
私はいつも、ゆる〜ん、と絞めてた。
─衿型との相性─
ワイシャツの衿型は多種多様。
レギュラー・ワイド・ボタンダウン・ピンホールetc…
基本のレギュラーカラーとワイドカラーを例に説明する。
レギュラーカラーの様に、角度が狭い衿型には、プレーンノットが合うとされる。
ワイドカラーの様に、角度が広い衿型には、セミウィンザーノットが合う。
ついでに言うと、ドゥエボットーニの様に、台衿が高い衿型には、大きめの結び目が合うとされる。
この辺を抑えておくと、通な感じがする。
─オマケ─創作のヒント
ディンプルは作り込まねばM字にはならない。
普通に結ぶと 凹みの無い逆U字か、片側に波打ったN字になる。
逆U字は清潔感が有りビジネスマンに多い。
N字はネクタイを結び慣れてない方や、気にしない方に多い。
この辺 描き分けられたら、通な感じがする。
ネクタイは、表地で復元性の高い芯地と裏張りを包んだ構成になっている。
正方形の紙にネクタイの模様を描き、裏を向け90°傾け、左右を折ると裏側の模様を再現出来る。
人物の動きに合わせて棚引きひっくり返ったネクタイを描く時なんかに使えるかも(??)
日本では右上がりのストライプがメジャーであるが、右下がりが間違っているかと言うと、そんな事は無い。
右上がりのストライプは、ヨーロピアンテイストスタイル(英国式)。
右下がりのストライプは、アメリカンスタイル(米国式)。
どっちに傾いていても、間違いではないのよ。
むしろ、右下がりのストライプのネクタイは、通かもしれない。
参考画はコチラ↓
https://x.com/yukipochi_2022/status/1701922681371943366?s=20
⑱に続く──
一家全員、アレ④
アパレルの年末年始も掻き入れ時、クリスマスが終われば、息付く間もなくクリアランスからの福袋準備、そして迎える お正月…
特に私は年中無休の店舗にいて、大晦日の夜にセッティングしてから帰宅した150以上の福袋が、遅番で元日出勤したら既に完売してた、なんて事もざら。
社員になって元旦休業の店舗になり初めてヘルプで入って、飛ぶように売れる福袋を販売出来た。
もちろん、大晦日は自分の店舗の福袋セッティングをしてからの元日である。
そんな2回目のヘルプの時だったかな。
母親から新しい旦那さんを紹介したいから、元日 実家に帰って来い、と言われた。
えー…ヤダ。
思ったけど、まあ折角 身内になるのだし、顔くらいは合わせておこうと了承した。
「私、元日は福袋 売りに行っちゃうから、昼過ぎるよ」
ヘルプ先のシフトを 例年なら14時上がりのところ、12時上がりにしてもらった。
元日、福袋販売中でも店内はごった返しており、セール品が飛ぶように売れる。
店舗が落ち着くまで あくせく販売していたら、気付けは12時半。
「──あ!店長、私 今日12時上がりでした!」
「え!? そうだったの!?」
いつも店長より長く店舗に居る元日、つい、ごった返した店舗が楽しくて自分の予定を忘れちゃってた。
「なんか、母親の旦那さんが実家に来てるそうなんで、上がります!」
「え!? そういうの早く言って!! 早く上がって上がって!」
まだ若干 混雑していて後ろ髪引かれたけれど「ごめんなさ~い(汗)」と上がらせてもらった。
ヘルプ先から実家までは微妙に路線の連絡が悪く、駅で検索したら到着予定が15時近くだった。
「13時半には着く」て言ってあったけど、流石にな、と思い母親に遅れる旨をメールした。
「ごめ~ん、遅くなった~!」
「お寿司とってあるよ、食べないで待ってるって言うから、待ってた」
「え!? 先に食べちゃってくれて良かったのに!ごめんごめん(汗)」
実家の居間には新しい旦那さんが座ってテレビを観ていて、母親が食事の支度に台所に立つ間、先に一言ご挨拶をしようと 私は居間に向かった。
何て挨拶しようかな~、なんて忙し過ぎて考えてもなかったんで、無難に新年の挨拶でもしよかな~なんて考えつつ、旦那さんの横に腰を落とした。
「遅い!!!」
──え!?
旦那さんは開口一番、私の方を向きもせず、怒声で言った。
「あ~、ごめんなさい。先に食べててくれて良かったんですけどね~」
精一杯の営業スマイルは、口角が引きつってしまったよ。
旦那さんは その一言以来、終始無言。
あたしゃね、ずっと年末から連勤してて、ちゃんと福袋販売って理由が有る遅刻で、ちゃんと遅れる旨も連絡してて、別に待たずに食べててくれて良かった状況下で、なんで怒られなきゃならないんだ。
待つって言ったの、そっちだろ!
第一印象 最悪だったから、未だに母親の旦那さんは苦手である。
⑤に続く──
シーン・ビジネス⑱
何か忘れてる事が有る気がするけど、とりあえず先にコマを進めるとする。
館が定期的に開く接客セミナーやクレーム研修なんかに積極的に参加しつつ、就活④を経て社員になった私は、本社の指示で外部の中間管理職セミナーを受講する事となった。
「え?私だけなんスか??」
「私は受けなくて良いんだって。○○さんだけ」
店長職を既に全うしていた店長らは対象外。
私は副店長だったから受講せねばならんらしい。
何か、名称的に お堅いイメージが…
正直、独りで行くのは怖かった。
だって、中間管理職の ちの字も知らんバイト上がりだよ、会社勤めもした時無いんだよ、怖ぇよ。
まあ会場に行けば同じ会社の新人さんとか居んのかな~、なんて軽い気持ちで赴いた。
私独りだけだった。
後から聞いた話、あの時 社員になったのは初回に社員にならなかった残りの店長ばかりで、副店長から社員になったのは私だけだったらしい。
じゃあさ、一般で応募したスタッフは結局全員 落としたって事だよね?
だったら最初っからバイト店長にだけ声掛けて、大っぴらにしなきゃ良かったのに…
なんてモヤッとしたものだ。
さておき、中間管理職セミナー内容は ほぼ抜けてしまったんだが、一つだけ印象に残っている授業が有る。
部下の育成方面の話になるのかな。
「お一人、部下を思い浮かべて下さい。居ない方は想像して下さい」
という事だったんで、私はT店の女のコちゃんを思い浮かべた。
テキスト冊子には四コマに分けた罫線が入っていて、それが2ページだったかな?
1ページ目には「部下の良いところ」と その理由、2ページ目には「部下の悪いところ」と その理由を記載していく。
凄い困った。
1ページ目はサクサク埋められたのに、2ページ目が全然浮かばないんだ。
制限時間ギリギリで どうにか2コマ書いたけど、一言二言。
講師の先生は「どうですか?1ページ目よりも、2ページ目の方が埋まったでしょう」と言う。
え!? 全然、埋まらなかったけど!?
なんかね、普通の人はね、だれかを ほめるよりも けなす方が得意なんだって。
私あんまな~、部下には そういう負の感情は抱かないんだよな~…
自分がそんな人間出来てるとも思わんし。
部下がやりきれんのは私の伝え方が悪かったんだなって思っちゃう。
上司に対してだったら腐るほど愚痴が出てくるんだけど。上司にだったら(笑)
─初めての引き継ぎ─
社員になってからも数ヶ月間、T店に所属していたが、とうとう卒業するに決まった。
それまでT店の雑務は全て私がやっちゃってたもんで、既存のスタッフに仕事を少しずつ教えて行っていたんやが。
私は既存店の店長になる事が決まり、別店舗から副店長が異動してくる。
初めて話を貰った時「──え。」てなった。
私の代わりにT店に来たのは…
本社面接で隣に座っていたM店の副店長。
えええぇー…
社員になりたくてなりたくて仕方なかった、あのコである。
や、やりずらい(号泣)!
こういうとこやぞ、こういうとこ。
こういう微妙な働く者の心の機微に疎いから、色々と言われるんやぞ、本社。
「あ…先日はどうも…今日から、よろしく…」
「よろしく…」
前みたく仲良く話すとか出来んくて、凄い微妙な一ヶ月間だった。
かくして始まった引継ぎでは、私は新しく配属されたM店へは、一日入ったっきり。
残りの日数は全てT店。
なかなかにハードな始まりであった。
それもね、M店の店長はホラ、覚えておいでかしら。
私が入店 間もなく棚卸でカウントミス連発しちゃった棚のスキャン担当だった、色素の薄い店長。
怖…
恐怖しか無かったよ(遠い目)
─新入社員歓迎会─
なんか知らんが、私が社員になった途端、アウトオブ眼中されてたN課長が、やたらめったら世話を焼いてくれ始めた。
「今度新卒入社の歓迎会が有るんだ。飲み放題だよ、おいでよ」
「行きます✨」
タダ酒に引かれて、私は参加を決めた。
てっきり新卒のコ達と同じ扱いなんだと思い、ペローンと何の気なしに新調したばかりのスーツにネクタイで赴いた。
もう一人、前年度に社員になったI店のM店長も お呼ばれしている、という。
仲良く喋る仲だったから、席近くだったら良いな~なんて思っていたんやが。
「あれ!? ○○、何で居んの!?」
「え?N課長が『おいで』って言ったんで」
顔見知りの本社の面々が、私の顔を見るたびに、口を揃えて言うんだ。
あれ~?? 私が来ること何で誰も知らないの???
反対にM店長は周りから「よく来たな~」的に歓迎されている。
若干 不思議に思いつつ、会場の名札が出てた円卓に座った。
…隣が、監査の部長に、商品開発の部長なんだけど!!?
監査部長は定期的に対面で話をしたけど、仕事上の話だし。
商品開発部長に至っては、本社面接
の集団面接官でしか対面していない。
話題が…無い…
でら恐ろしい席配だった(遠い目)
各卓には本社の人間と新卒が半々で着いていて、私は何故か本社側の人間だった。
「では、ここで代表して、既存店の店長に話をしてもらいます」
?????
司会の方から、マイクを手渡された。
聞いてませんけど!?!??
あんまり驚いたんで何を語ったか覚えとらんよ(遠い目)
なんか扱い的には、凄く優秀な人材的にヨイショされ過ぎてて、猛烈に困惑した。
よく分かんないけど、まあ、お喋りには困らん性分なんで、商品開発部長と商品の話を めっちゃした。
ううん…私は良いから、新卒のコ達と会話してあげて欲しい(汗)
なんて考えていた折。
そこそこ全体的に酒が進んで、あちらこちらで離席して お酌に回る方々が立たれている。
私も お酌に回った方がいいんじゃ…
思いはせど、ルンルンで商品を語る部長が離してくれない。
会話が切れても、新卒のコ達から質問攻めになる。
「僕、服飾学校 出身なんです!」
赤ら顔の青年が一人、部長に お酌しに回って来た。
「将来、自分で商品を作りたいんです!これ、自分で縫いました!見て下さい!」
割り込む形で広げられた上着を、私も覗き見た。
黄色い、スカジャンだった。
──うちのテイストとは、180°違うんじゃ…
「あー、うん、そうなんだ、凄いね。それでね…」
言ってる部長は新卒のコに見向きもしないで、私に会話を振ってくる始末。
いや あの…
私は放っておいて良いから、新卒のコに夢を視せてあげて(号泣)!採用したの貴方方でしょ!?
もの凄く、しょっぱい思いをしたよ(遠い目)
いきなり現実叩きつけられて、あのコ、辞めちゃわないかな…
一応、部長にも それとなく誘導を試みた。
「凄いっスね、自分で縫えちゃうんだ、商品みたい。ああいうコは将来的に商品開発に行くんスか?」
「あれは無理(小声)」
おっとお。
私の漕ぎ出した助け舟は、あえなく転覆されましたよ。
アレかな、企業が毎年とらなきゃいけないらしい新卒人数の補填要員だったのかな。知らんけど。
─勧誘─
SV O氏が お客様相談室に異動になって以来。
数年に渡り「お客様相談室に来い、来い」と熱烈に勧誘され続けた。
お客様相談室かぁ…
クレームの電話を日々受け続けるしか浮かばん。
花形では無いにしろ、お客様の生声を会社に伝える、重要な部署である。
お客様優位な考え方の私としては、悪くない話ではあった。
んだが。
当時の お客様相談室となると、内勤、本社勤め一択。
と言うことは、フルタイム デスクワークである。
──そんな長く座ってらんない。
長年 立ち仕事 続けていると、座り仕事なんか出来なくなるんだよ、マジな話。
座ってじっとしてるの、もの凄~い苦痛。20分も座ってらんない。
O氏に加えてM氏も お客様相談室兼務になったから、気心知れた おじさま方に囲まれて、楽しそうな部署とは思うんやが…
なんか、そんなに還暦過ぎた おじさま ばっかり集めた部署って、なんて言うか…言い方悪いが、姥捨山なイメージが。
なんかね、行ったら最後な気がして、行けなかった。
私が お客様相談室でラストサムライしてたら、また、別の未来もあったかもね。分からんけどw
─商品開発─
これは聞いた話。
私が入社する以前は、年間の商品に使う布柄を選抜する儀が有ったらしい。
本社近隣の店長が集まってサンプルから選んで行くんだって。
もうね、ウン百ウン千という柄を見ていくから、一日の終盤には全員ゲシュタルト崩壊 起こして、同じような無難な柄ばかり選択しちゃうんだそう。
何ソレ、面白そう✨
一度は参加してみたかったな。
─ポスターモデル─
あの日は全国のPOP刷新に先立ち、全店配布用のPOPセットを作りに、本社へ出向したんだっけかな?
本社というか、当時は基本、私は毎日ビジネススーツに白シャツ・ネクタイだった。
あの時はグレー無地の上下だったかな。
各部署に軽く顔を見せてから帰ろうと、挨拶回りをしていた折。
「あ!○○、ちょうどいいところに!ちょっと撮影、手伝って!」
販促部のS女史に呼び止められた。
撮影だなんて面白そう✨
レフ板持ったり傘移動させたり、商品撮影のお手伝いをした。
「凄いっスね、機材がめっちゃ充実してる✨」
「社長におねだりしたら、全部揃えてくれたんだ♪」
「マジっスか!パねぇ!」
なんてケチんぼな会社とは思えないくらい、楽しい撮影ブースだった。
「最後にちょっと、そこに立って」
「?」
S女史に指されたのは、青い全身撮影用の布が降りた一角。
「はい、ポーズ」
カシャッ☆
「!??」
ボケッと突っ立った所を、写真に撮られた。
「ちょっと、モデルやってくんない?」
「ぅえ!? 何の!?」
聞けば、リクルーター用のポスターに丁度いい、シンプルなスーツを着てくる社員が居ないんだそう。
「何か適当に動いてみて」
「こ、こう?」
「ぶはッ(爆笑)」
運痴な人間にポージングさせるもんじゃないよ(遠い目)
S女史の指示で、どうにかいくつか真面なポーズの写真も撮れたんだけど…
大っきい集合ポスターは普通のポーズなのに、小さい単独ポスターは爆笑された変なポーズの写真が採用されてた。
地味に恥ずかしい想い出。
⑲に続く──
シーン・ビジネス⑲
私は、自分のテリトリーを脅かす他者に対して、強烈な反発とストレスを覚える。
自分が仲間としている人間は、自ら進んでテリトリーに招き入れ、どんなに勝手をされても無関心なんだが。
我が家に例えると、親友らが遊びに来てセルフで台所や居間で色々しつつ くつろいでくれるのは嬉しくて、母親に家の中の物を勝手に使われ移動されるのは不愉快極まる。
これに自覚したのは割と最近の話で、社会人の頃は「何でこんなにイライラするんだろう」と思ってた。
店舗を担う、つまり店長となった瞬間、担った店舗は私のテリトリーとなっていたんだ。
─お掃除─
既存店に異動して初日は挨拶回りや遅番に集中。翌日から最初にテコ入れするのは、鏡である。
何故ってね、酷いもんなんだよ、鏡が。
長年 蓄積された洗剤の油膜で、ギラッギラ。
試着室内付近の姿見から、什器に設置されている置き鏡数台…全部ギラッギラなんだよ、全部!
洗剤吹きかけて拭けば綺麗になる、と信じられているから、油膜が出来てても放置されちゃってるんだ。
鏡の隅には土台に押し込められた洗剤カス…
もうね、気になって気になって かなわん。
店舗によっては掃除用のタオル雑巾を発注なんかしないんだろう。
もうね、全部の雑巾に洗剤が染み込んじゃってるの、全部!
鏡をペカーッとクリアに磨き上げるには、洗剤の染みていない乾拭き雑巾が不可欠。
真っ先に雑巾を発注する。
「ちょっと雑巾、洗ってくる」
て既存スタッフに言うと、必ず変な顔をされる。
皆ね、二度拭き不要の洗剤を拭いた雑巾を、洗うだなんて考えもしないんだろうな。全くもう。
前に書いた気もするんやが、一応もう一回、私の鏡の拭き方おさらい。
用意するのは、濡れ拭き一枚と乾拭き一枚のみ。
洗剤は使わない。
濡れ拭きは汚れた雑巾で構わないが、洗剤が染みていたら ものすっごい濯いで、水分多めに軽く絞る。
乾拭きは真っさらな下ろしたての綺麗な雑巾。
濡れ拭きでガラス面を縦方向・横方向一方向に何度か拭きフレームの周囲を拭ったらたら、水分が乾ききらないうちに乾拭きする。
それだけ。
しつこい油膜も中にはあるけど、基本、それだけで真っさらクリアな鏡になるんだよ!それだけなんだよ!
鏡全部拭いてやる。
─お掃除─
これも以前どこかで書いたけど、皆「ホコリなんて、床にモップ掛れば無くなるでしょ」って意識でいるから、長年 降り積もったホコリに微塵も気付いていない。
否、ディスプレイ替え等で気付いていても、作業に追われて見ないフリしてる。
ディスプレイ替えの時こそ、絶好の お掃除タイミングなんだがなぁ。
棚の裏・ディスプレイ用の縦か掛け什器・トルソーを置いてる一番上のガラス板に至るまで、既存店でホコリの積もっていない場所は無い。
2~3日掛け、全部 掃除して綿ボコリ除去してやるんだ、全部。
ただこれらの お掃除は、既存スタッフの目の前でやっちゃうと、昔ながらのお姑さんが指で つつ〜 とホコリを寄せつつ「あら、掃除なさったの?」みたいな感じになりかねんので、気を遣う。遣いまくる。
誰も居ない独りの時間に、せっせと お掃除するんだよ。
既存スタッフにこそ教え込みたいんで「あっこ、ホコリ ヤバかった!豪雪地帯だった!」て馬鹿っぽく言うけどね。
時には小芝居を挟んだりもする。ディスプレイ変更を一緒にやる体で
「うぎゃあ!? ここホコリヤベェ!パタパタ!パタパタ持ってきて!」
ていうと、みんな慌ててお掃除してくれる。
一度綺麗になると、皆しばらくは綺麗に保とうって意識が働くらしく、マメに掃除してくれるようになる。
うまくいくと、習慣化するから、多少わざとらしい大根演技も無駄では無い。
─商品レイアウト─
次にテコ入れするのが、レイアウト。
あんまりね、みんな一度設置した商品を別の所に持って行こうて、考えないみたい。
私は しょっちゅうレイアウト変えちゃうから、中には
「場所変えちゃうとリピーターさんが無いと思って帰っちゃうから」
と進言してくるスタッフもいる。
それも確かに有るとは思う。
「欲しいなって思ってた商品が、サイズ欠けてて自分のサイズなかったら、帰るじゃん。
だったら、サイズ欠けた売れ線以外の、揃ってる商品出しておいた方が、リピーター様以外も お手に取り易くない?どうかな」
て伝えて、考えてもらう。
最終的には論破する形に近いけど、売れ線の商品は目を引くけど、2~3枚しか無いんよ。
そういう売れ線は売上上位店舗に移動指示来るんだし、どうせすぐに店舗からは無くなっちゃうんだよ。
勿体無いじゃん、他にも良い商品沢山有るのに。
おっと、脱線してた。
N課長をはじめ、本社の方々には「店舗作りが上手い人が少ないんだよね~」とボヤかれてた。
私は上手い方に分類されていたらしい。
まあね、他の店長さん方と違って接客嫌いだからね、他の部分で回収しないと。
配属された店舗では お掃除を進めつつ、出退勤時や休憩上がり時に、店舗を通路から見る事にしている。
通路の往来、エスカレーターやスロープが店舗付近にあったら上りながら下りながら。
店舗を見ようとはせず、できる限り ぼんや~り店舗側に顔を向けておくんだ。
そうするとね、何となく同じ辺りに目が行く事に気付くと思う。
そこが、一番、お客様の視線に入る場所。
だから、そこに、重点的に色を置いたり商品積んだりするんだ。
時には何にも無いデッドスペースに一番目が行く店舗もある。
そういう時はね、稼働できる平什器ごとデッドスペースに移動しちゃうんだ。
「車椅子のリピーターさんが通れなくなっちゃう」
なんて言われもする。
そういう時は通路採寸して、館から車椅子借りてきて実際に通してみたりもする。
「でもさ、コレ、前の配置だと店内は良くても、入口狭くて入店出来なかったよね?」
なんて時も有った(笑)
そうやって私は苦手をVMD(ヴィジュアル マーチャン ダイジング)、技術的な面で補ってきた。
実際、最初のM店では会社的にもVMDを評価されたし、半期予算も達成した。
…その一ヶ月くらい前に、所属が別の店舗になってしまったんやがね(遠い目)
─ハイエナ─
私が既存店の店長方に抱いた率直な感想。
2ケースを例に上げよう。
M店では初めての店長職という事も有り、エリアの店長方が集まって、店舗作りの講習会が催された。
店長方が集まるからと、せっせと店舗改修を完了させた、翌日の事だった。
みなまで言わんでも分かるやろ、せっかく作った店舗を勝手されまくって、面白く無いよ。
次の日全部戻しちゃった。テヘ。
納得のいく理由は必須だ。もっともだ、と思えれば私も素直に言うこと聴くんやが。
次にN課長が回ってきた時「なんか、ごめん」と言われた。
何だろう…私あの時、不満たらたらな顔でもしてたんだろうか…
あれ以来、新人店長が何人か出現したけれど、店長らが集まって店舗を改修する事は二度と無かった。
話は逸れるが、レディースのハンギングを横掛けだったのをアタッチメントを付けて縦掛けにした。
「後ろの方が見えなくて、商品少なく見えるんスよね~」
「アタッチメントを斜めに付けて段差とか付けられないかな」
「それは出来ないっスけど…」
段差…段差…………ハッ!
「T店にハンガーを段差掛け出来るL字があったっス!」
「何ソレ、そんなのあんの!?」
「多分あっち使ってないと思うんで、借りれないスかね!?」
なんて流れでね、T店で眠りについていた謎の棒は、M店で日の目をみれる運びになったんだ♪
在って良かった、謎の棒。
因みに私、所属した全店舗のレイアウト図、空で描けるよ(えっへん)
T店長の手からは離れていたTI店が閉店する事になった。
撤退前には閉店セールを開催し、在庫が幾分か減った店舗の商品やら備品やらを、終日かけてパッキングする。
私もヘルプで初めて撤退現場に行った。
「あ、コレも良いわね、アレも良いわね、アレもソレもコレも…」
T店長は古巣から好きなだけ備品を頂戴して、N課長に許可取ってT店に配送準備。
その背中は紛れも無く──ハイエナ。
閉店する店舗の店長やスタッフの哀愁漂う視線に、T店長は全く気付いていない。
「ほら、○○さんも!M店に欲しいもの選んじゃいなよ!」
「あ~…じゃあコレとコレとコレと…」
申し訳ない思いは有ったけど、私もハイエナの仲間入りをはたしたよ(遠い目)
⑳に続く──
都会の家電無し生活③
都会ではないんやが、家電つながりで。
田舎に引っ込んで、まず欲しいと思ったのは冷蔵庫。
だって置き場出来たんだもん。
アイス食後に食べたかったんだもん。
とは言え、新品は小さいものでも万はする。
だって冷凍庫欲しいじゃん。
むしろ冷凍庫だけで良いかもとも思いもした。
ある時、とある人が教えてくれた。
「冷蔵庫、中古品なら一万しないよ。うちのも一万しないけど、2ドアだったよ」
マジか!中古という手が有ったか!
有益な情報を得た私は、早速Amaz○nさんで “冷蔵庫 中古” を検索してみた。
あるある、かなりなお品数がヒットした。
こんな有るなら、送料無料のも在ったりしないかなwkwk
リストを下げていて気が付いた。
この、直冷式って、何だ?
商品写真は昔ながらの1ドアの上部に、冷凍庫が付いたもの。
なんかコレ、覚えが有るな…
例えるならばビジホに備え付けの冷蔵庫。
あの小さな冷凍室、よく氷が分厚く降りて効きが悪くなってたりするけど。
──あ!アレか!? ひょっとして、霜取りが必要なヤツか!?
検索したら、その通りだった。
冷蔵庫には直冷式とファン式と2種類有り、直冷式は霜が降りるので定期的にお世話せねばならんのだ。
ファン式は自動で霜が降りないように温度調節されるらしい。
え~…
絶対、霜取りなんて面倒臭くて自分やらない。
直冷式の方が同じ大きさでもファン式より お安かったりするんやが、自分の性格上、ファン式を買うことにした。
ううん、なかなか良いの無いな…
検索して検索して、ようやく見つけたのが、レビュー☆1の冷蔵庫。
ファン式だし、Nati○nalだから古いけどメーカー品だし、何が悪いんだろう?
なんて思ってレビューを読んでみた。
『ニンニク臭苦手なのに、キムチ臭くて失敗した』
それは、前の使用者の所為なのでは。
冷蔵庫本体の評価では無かったので、ポチっと購入しましたよ。6千円で2ドア、冷凍室も大っきいんだもん。
搬入は玄関までだけど、どうにかダンボールを滑らして冷蔵庫置き場に設置。
臭ったら嫌だな、と若干思いはしたものの、6千円ならキ○コ置いて耐え忍ぼう。
怖々、冷蔵庫のドアを開いてみれば…
冷蔵庫の臭いだった。
分かるかな、冷蔵庫の臭い。
普通に冷蔵庫の臭い。
やっぱり、レビューした方はハズレを引いただけやったんやな(安堵)
一日放置して冷媒が落ち着いてからコンセントを差してみた。
冷んや~
おおお✨冷風が出た!
いや、当たり前の事なんやがね。
中古品って、そういうところ怖いよね。
こうして、6千円で再び始まった冷蔵庫生活は快適過ぎて、もう二度と冷蔵庫無し生活なんか出来ない、と、今は思う。
④に続く──
シーン・ビジネス⑳
M店に配属され、一ヶ月。
N課長が定例の店舗回りで自店を訪れた。
喫煙可の喫茶店でコーヒーを奢ってもらって、喫茶店ミーティング。
コーヒーを ひとすすり、咥えた煙草に火を点けようと、ライター点火。
「実はさ、今日は話を持って来たんだ」
「…何スか?」
お互い煙を吐きながら対峙、あらたまった言い回しに、若干、嫌な予感がする。
「C駅の高架下の商店街知ってる?」
「知ってます。学生の時 良く使いました」
ほぼほぼ沿線への通り道だが、主要駅なので人は多い。
「あそこ、今 改装工事しててね、小さい坪数なんだけど、出店が決まったんだ」
あ~…また新たなお客様確保争奪戦が始まるのか~…
なんて、チェーン出店、距離近過ぎだと思ってた。
「新しい店舗の店長、やってもらうから」
「──は?」
N課長の言葉に、耳を疑った。
「いやいやいや、待って下さい!私、今月 店舗持ったばかりなんスよ!? M店はどうなるんスか!!」
「兼務」
MAJIKA。
「いやいやいや、無理です!兼務した時も無いし、店長経験浅いし、新店なんて無理ですよ!」
「○○さんなら、大丈夫!」
ぐうっ…
なかなかに自分が認められての抜擢のようだったから、反論する言葉を呑んでしまった。
もともとC店を私に任せるために、事前に店長経験を積ませるつもりが、工事予定が早まって出店も早まっちゃったんだそう。
一年、否、半年は既存店の店長経験したかったんだが…
新店設営なんて面白そうじゃん。
オープニングスタッフやりたいじゃん。
「でね、兼務になると人が足らなくなるから、今まで通りヘルプ程度じゃ回せなくなるから」
M店の従業員は今のところ、私とヤンチャな風貌の既存スタッフH君、のみ。
休みは近隣店舗からのヘルプで回している状態。
「M店には、今度閉店するTI店のKさんを入れる」
おおお✨あの お綺麗なママさんか!
「あ、それは楽しみです」
「でね、C店も募集を掛けるんだけど、元K店のMさんに入って貰おうと思って」
え゙…
数年前に一度だけT店にヘルプで入ってもらった時があった、K店の店長。
K店閉店後、T店の副店長として配属予定だったがT店長が嫌がった為、私がスライドしてT店の副店長になったんだ、と後から聞いた。
一度一緒に働いた感じではツン度が高くて、私も苦手系な方でもある。
他にも色々と噂が耳に入っていたりして、正直、やりづらい。
だけど…
店長経験の有る長く働く既存スタッフが身近に居るのは、店長に上がりたての私には心強い。
「て言うか、だったらMさんをC店の店長にすれば良いのでは」
「お子さん小さくて保育園のお迎え有るから、駄目」
あー…なんか、産休取られてた時期も有ったっけな。
「じゃあ、Mさん副店長とか?」
「それも無い」
あー…
上手くやって行けるか、不安しか無い。
だが、こんな良い話は多分、願っても まず無い。
「とりあえず、やってみるだけ やってみます」
と返事した。
「折角だから、新店準備も、一緒に回ろ?」
「あ、それはやりたいっス✨」
よく分からんけど、出店までの約ひと月、ヘルプを増やして貰って、N課長の準備回りに同行する機会をつくってもらった。
不安よりもワクワク値が、まだ高い。
─楽しい名刺交換─
M店の店長になって、本社から一通の封書が届いた。
中に入っていたのは…
横書きの名刺。
それも、名前の左側に役職の印字された名刺。
おおおお✨
お名刺だなんて、自分が持つ時来るだなんて思いもしなかった。
なかなかに感動ものである。
青い紙箱に入った百枚一箱。
箱の表面には中身の見本が一枚刺してある。
早速H君と一緒にキャッキャ言いながら、じっくりじいっくり見てみた。
「凄いねコレ!店名も印刷されてんだ!ていうか百枚とか、誰に配れば良いの!?」
まず、配布先が分からない。
「店長は お客さんに配ってましたよ」
「へえぇ、お客様にかぁ…」
グイグイ接客苦手な私には、消化方法が思い付かない。
館の挨拶回りの時に間に合ってれば、多少は使えたんだがなぁ…
もうとっくに、デベロッパー挨拶回りも周囲のテナントにも挨拶回りしちゃった後。
あ、そうそう、ひとつ忘れてたけど、基本的に異動後店舗の既存スタッフには役職では呼ばれない。
名前にさん付けで呼ばれる。
何でかってね、既存スタッフにとっては、自分を雇った店長、つまり前任店長が、唯一の“店長”なんだよ。
私は役職呼び無理強いしないし。恥ずかしいし、呼ばれ慣れてないから。
「“店長”呼びに慣れなくちゃ」
て事で、即“○○店長”と呼んできてくれた営業さんも中には居たけど、身近な人達はみんな役職付けてこなかったな。
ほい、脱線しました。
新店準備でN課長に追従したら、きっと沢山の関連業者さんと ご挨拶するし、その時に消化しよ。
早速、文房具屋でマットなステンレス製のシンプルな名刺入れを購入した。
名刺交換の方法も知らんから、ガラケーで検索しまくって、何となくはイメージを固めておいた。
「新店は形態が商店街になるから、今日は商店街組合に挨拶に行くから」
「え、あっこ駅ビルじゃないんスか???」
「そうなんだよ、手前の施設は駅ビルなんだけど、次の区間からは商店街なんだよ。僕も商店街は初めてでさぁ」
「はぇ~…」
世の中、色んな経営形態が有るもんだ。
C店は高架下に長くダーッと続く商業施設だけど、商店街。アーケードみたいなもん、で伝わるかな?
運営しているのは商店街組合。
これまでのスーパー系のデベロッパーとは、若干異なるかな。
一応、商店街組合の事務所は隣接した数回建ての建物に有り、そこに行く。
「あ、名刺持って来た?」
「持ってきました✨」
「お、流っ石!」
やや緊張しながらN課長の半歩後ろに付いて、事務所の扉をくぐった。
社名店名アポイントメントを受付の方に伝え、革張りのソファーに案内された。
「どうも、初めまして~、よろしくお願いします」
事務所長さんと部下の方が お一人。
「よろしくお願いします!○○者のNです!」
課長がお二人方と名刺交換する様を、胸ポケットから名刺入れを出した私は、ギっと見た。
だってさ、生名刺交換、初めて見たんだもん。
勉強はしたけど、N課長の渡し方に合わせて真似した方が無難じゃん。
「組合長さんなんですね!いやぁ僕ら商店街に出店するのは初めてで…」
N課長、話が長ぁい。
なかなか私の番が回って来ない。
先に部下の方と交換しちゃっても良いものか…でもな、部下の方も名刺入れ構えたまま待機してるし…
こういう時は、やっぱり上役方が済むの待つのが無難だろうて。
ようやく解放された所長さんには「○○と申します!お世話になります!」程度で済ませた。
だってホラ、あんまし会話延ばして立ちっぱなしにするのも、悪いじゃん。
「若そうだけど、店長になって、どれくらい?」
「一ヶ月です!」
て力一杯答えたら「え、大丈夫…?」て声が聞こえそうなくらい、大分不安そうな顔をさせてしまったよ。
N課長が焦って、私の勤続年だとか仕事面だとか、なんやかんや とりなしてくれた。
─楽しい商店街─
「商店街は組合が運営していてね、組合費を毎月支払ってもらうから。毎月五千円」
あ、そういうのも有るのか~。
一体全体 何の費用なんだろう。気になったんで聞いてみた。
「それって、販促費とかになるんですか?」
「うん、販促のノボリだとかにも一部使われるけど、残ったら年末の忘年会にカニだよ」
か、カニだと!?
「それって、必ず支払わなきゃならないんですか?テナント費とは別なんですか?断ることも出来るんですか?カニの為に毎月五千円は高くないですか?」
N課長…まあ、ツッコミたい気持ちは分からんでもないけど。
「え…組合費の支払い渋って来た所、無いよ。僕が毎月集金に回ってるけど、みんな快く払ってくれるよ」
でしょうね。
商店街に出店するのは、正式名称分からんのだけど、個人経営に近い。
出店する場所を借りてる代わりに、売上の一部を組合に計上する。
だから、もちろん毎日売上は組合に報告する。
ううん、当日突然 伝票を見ても困ってしまうかもしれないな…
「その手書き伝票って、見本見れますか?」
「いいよ。折角だから、先に一部持ってっちゃいなよ」
「わ、助かります~✨」
言ってみるもんだ。
部下さんが事務のお姉さんに取りに行ってくれて、私の手元に複写式の伝票が渡ってきた。
早速めくってみる。
ペロリン。
「…あれ?コレ、駅ビルの伝票と同じ?? ですか?」
「え、よく知ってるね。昔は駅ビルも商店街だったから、同じ伝票だったんだよ」
「へえぇ…」
私が伝票をペラペラまくっている間に「何で知ってるの?」的な顔をされていたので、補足を入れた。
「あ、私いまはM店なんですけど、色んな店舗にヘルプ行ってレジ締めしてて、隣駅の駅ビルが同じ伝票使ってるんですよ」
「へえぇ、そうなんだ」
「○○はレジ締めに強いって、本社でも評判なんですよ!」
N課長、また そういうヨイショを…
「なかなかレジ締め強い人って居ないかも。特にアパレルだと」
なんて関心されちゃうと、嫌な気はしない。
まあ、私はレジ締めだけが取り柄ですから。私からレジ締め取ったら何も残らんですから。
折角レジ締めの話になったんで、もう少し突っ込んでおくことにした。
「過不足金が発生した時は、どう伝票に記載すれば良いですか?」
「え…?」
凄っごい不思議そうな顔をされた。
「どこのお店も溜め銭作って、それぞれが管理してると思うよ」
「自社だと過不足金は当日売上に過剰または不足のまま、入金する決まりなんです」
「え、あー…そうなんだ…じゃあ、そういう時は備考欄に書いといて。翌日、事務員に確認してもらうから」
何か、凄ぇ面倒臭い奴 来たな…的な顔をされてるけど、気にしない。
今までのデベロッパーとは異なり、小煩い取決めは無い模様。
一応だけど、小さい休憩室と喫煙所も完備。長い建物の随所に従業員用の灰皿が設置されていた。
特に驚いたのが申し出れば休業自由なところ。
他所も一応はそうだけど、申請うんぬん簡単な理由では許可は降りない。
店長会も無し、金庫無し、入金機無し、定休日有り。
クレジットや電子マネーの取り扱いは、店舗側が自分達で各個契約する。
事務所は17時には閉まってしまうから、有事の際は保安室に相談するんだと。
─楽しい現場視察─
「まだ改装工事中なんだけど、中入れるよ。見てみる?」
「見ます✨」
所長さんのはからいに速答した。
N課長と共に従業員入口近くの保安室へ移動。
警備員さん方にも お名刺を配布した。
開店前に出勤したら保安窓口で防火管理札を受け取り、開店確認。
閉店後に札と伝票袋を保安窓口に返却して、閉店確認をとっているんだそう。
札の受取返却を忘れてしまった時の対応も、ついでに聞いといた。
「売上報告の伝票で分からない事があったら、ここに聞いたら分かります?」
「あ~、僕らじゃ分からないから、翌日 事務所の営業中に確認して」
なるほどな、これは なかなかに、なかなかだぞ。
今は落ち着きつつある、レジ締めに困ったスタッフからの電話が、増える予感しかない。
「一応、安全の為に」
警備員さんから渡されたのは…
安全第一!ミドリ十字の安全第一の白いヘルメット!
はわわわわわ✨
チビの頃に憧れて憧れて憧れ続けていたミドリ十字の安全第一、まさか、被れる時が来るだなんて~✨✨✨
もうね、感動のあまり言葉が出なかったよ。
世の中ひょんなところで繋がってるもんだ。
この感動を、是が非でも誰かと共有したい…
けど一緒に居るのは気心知れないN課長のみ。
こ、これは…言えにゃい(号泣)
だって「うわぁ」と声にされなくても、ドン引かれるの、分かるもん。
言っていい人 悪い人の分別、そのくらいは大人になったもん。
なんて葛藤をヘルメットを握りしめたまましてたんで、それまで能弁に語っていた私のお口にチャックがされちゃって、一分くらいは無言で立ち尽くしたよ。マジで。
ミドリ十字のヘルメットを颯爽と被り、警備員さんに従業員入口を解錠して貰って、いざ、工事現場へと突入した。
辛うじて床だけ敷かれた館内は、コンクリート打ちっぱなしで、店舗なんか一つもないガランとした高架下の空間。
はわわ、はわわわわわ~✨
めっちゃ楽しかった。
「あ、ここら辺だ、僕らの店舗」
N課長がカバンから取り出した設計図と床に目張りされた印を元に、出店区画を発見した。
「──小っっさ」
話には聞いていたけど、ついポロッと出ちゃうくらい、小さな小さな区画だった。
「5.5坪、でしたっけ?」
「うん、そう…あ、微妙に5.5坪も無いや。5.4くらい」
だそうだ。
パッと見、実家の居間より小さいんやが。
通路と通路の間に挟まる小さな中島。
「三角州みたいっスね」
「三角州だね、三角州」
もうね、三角州以外に表現出来る言葉が無いよ。
入口近く通路の合流点、これは、上手く店舗を魅せられれば、化けるかも。
「四面通路っスけど、試着室は無いんスか?」
「ううん、店舗の中央に在るみたい」
え。
どんな状態なのか、全く想像付かない。私も図面を覗き見せて貰った。
え、いや、コレ…
中央に鎮座した四角い空間は、店舗の中で一番場所を食っている。
「これ、試着室が邪魔で、お店の半分も視認できないんじゃあ…」
レジなりどこなり、一角から全体が見れる場所が無ければ、お客様の入店に気付けない。
「なんかね、従業員から死角がある方が入店率上がるらしくて『柱に鏡設置する』て、店舗開発が言ってた。ホラ、コンビニみたいな鏡」
MAJIKA。
「いやいや、でもココ、通行量は凄いっスよ!? 片側の通路に壁敷いて塞ぐとかって、案は無いんスか!?」
「それもあったらしいよ、一応。でも通ったのは、コッチ。それに一応、一辺はガラスの壁」
あんまりにも小さな区画だわ、台形だわで、店舗設計のテストケースにされちゃったんだな。
えぇー…
これはなかなかに、なかなかやぞ。
「いや、一人店番でレジ会計なんか入ったら、万引きし放題じゃないっスか!」
「うん。だから、お店 回って回って回り続けて」
いや、だから、それが一人では停滞する時が必ず有るんやって、今 進言したやん。
かなりね、店舗の造りに対して不安が募ったよ。
─楽しい日割予算─
新店の売上目標、予算を日割りにするのは店長のお仕事。
半期に先立って月間予算が知らされた。
──何コレ。
繁忙期のT店を軽く超えた、えらい桁数だった(遠い目)
これを、あの坪数で稼ぐって、どんだけ…
オチを先に言えば、坪単価だけは群を抜いて全国一番だったよ、坪単価だけは。
─楽しいシフト作成─
決まったE○cel雛形はあったけど、使いづらい。
以前T店長にお願いされて作成した兼務用手書きシフト表を、私も使うことにした。
「まだスタッフ決まってないけど、ヘルプ用意するのに仮シフト組んでおいて」
との指示だったので、M店に配属のKさん・C店に配属のMさんの希望休と希望労働時間・既存H君にはMAX何時間入れるか、なんかを尋ねて回り、空のシフト表と睨めっこ。
31の月だから、社員の私は月最低174時間・最高190時間に納めねば残業代が付いてしまう。
いつもはね、最高時間ギリギリでシフト入ってるんよ。
なんやが。
──圧倒的に、人が足らない…
オープンでどれだけ忙しくなるかも分からない、新人さんをいきなり一人にするなんて出来ない、オープン前には搬入で3日間使う。
新人スタッフの希望も分からんのに、仮組みしろ とか、なかなかな無茶である。
C店には新人常勤一人入ったと仮定、私もC店だけ入れば良いと言うものでも無し、M店スタッフの休みも回して店長会も出なければ…
仮組みしたシフトは、1~3日くらい私の休みも無くはなかった。
んだが。
ぼ…募集、誰も来ないんやけど(号泣)
大規模な商店街が一斉オープンするから、どこもかしこも人手確保に奔走してただろうな。
自社は特に地域最低時給ギリの募集だから、競走に負けてるの めっちゃ思ってたけど、お時給決めるのは本社だし紙面広告出ちゃった後だし。
…ヘルプもらうしか。
ヘルプくれくれ言うてもオープン1週前まで人くれなかった。
ここで私、こすい手に出た。
自分休み無しの278時間シフト組んで、課長に送り付けたんだよ。
したらね、ヘルプは増やして貰えた。
「なんで○○さん、休み無くなっちゃってるの?」
「それは、仮シフトは架空の新人枠が有りましたが、今現在、その新人枠が空欄のままだからです。その穴埋めの為ですよ」
実際、そうだし。
急だって集められた人員は、色んなお店・通える範囲から一日二日。
くうぅ、一人二人同じ人が入ってくれれば組み易かったのに…
文句言っても始まらない。
人手が確保出来ただけでも上々だ。
だが、後述もするがC店のレジ締めは特殊である。
ヘルプの方に一度は対面で教えねば困り果てるだろう。
纏まって3日くらい入れる方には早番やってもらって…
助かることに、M店とC店の閉店時間には1h半タイムラグがあった。
原付飛ばせば、C店締めてM店締めに間に合うな。
ほぼ連日 通しなハードスケジュールだったけど、若かったからかな、246時間ガッツリ働いて残業代も しっかり頂いて、初月は乗り切った。半休も4日くらい取れたよ。
こうして生まれたのが、私の特技、その名も“ダブル締め”。
まんまやん(笑)
因みに この技、さらに進化を遂げる時が来る。
─楽しい面接官─
仮改定シフトで ほぼ決定したオープン5日前。
電話応対していたH君に、盛大に手招きされた。
「○○さん!バイト希望の方から!」
「ま、マジで!!?」
そりゃあもう小躍りしたくらい、嬉しかったさ。
しかも同日、二人も問い合わせがあったんだよ。
N課長から「面接に同席する」と言われていたので、同じ日の30分刻みで面接予約をとった。
場所はM店のフードコート。
若干、落ち着かない。
一人は学生、一人は主婦の方。
主婦の方は お子さんも独立されてて早遅 出来て、週4日程勤務希望、元銀行員さんで金銭収受にお強い、再優良物件だった。
学生君は、バイト初めてらしい。
「主婦さんは決まりっスね。学生君は、どうしましょう…下手すると人手 溢れちゃいそう」
「KさんもMさんも主婦で勤務時間少ないし、二人で一人分じゃない?主婦さんは0.75人前だから、学生君付けて一人前勘定じゃないかな」
それもそうか。
「溢れたらヘルプ出せば良いし」
という訳で、お二方とも採用になったんだな。
主婦さんは設営三日のうち、二日本社に研修に行ってもらい、学生君はM店で私が研修する事になった。
─楽しい夜間銀行─
商店街の入金システムは、銀行振込。
翌日昼までに前日売上を振込むか、夜間金庫を利用する。
「夜間金庫 使うことになったから」
MAJIKA。
夜間金庫 使ってる所、関東には無かったんじゃないかな。知らんけど。
銀行契約にも同席させてもらった。
「あ!○○さ~ん!」
え、どなた???
N課長と共にいらしたのは、経理のS女史。電話では毎月のように やりとりしていたから、何か既に知ってる人間感覚だった。
商店街最寄りの地方銀行の階上で契約締結の様を、じっくり眺めた。
合わせて使用する備品やロッカーの説明は、私がメインで聞いた。
細かい事は何かアレな気がするので伏せるけど、伝票の話だけさせてくれ。
夜間金庫の手書き伝票は複写式、ボールペンで書き一枚を入金袋に同封する。
「もしも書き損じても、用紙は破棄しないで二重線で消して余白に書き直して下さい」
入金手数料先払い式、伝票一枚120円するんだよ。
あれ?200円以上したかな??
まあ いいや。
何度か3回以上書き間違いして修正ごっちゃになった時あるけど、特に問い合わせも無く正確な訂正後の金額で振り込まれてたから、銀行員さんて凄いし、大変な仕事と思う。
土日祝・年末年始 等、営業していないから振込はおろか、釣り銭の両替も出来ない。
入金袋は一契約で3個を使い回しだから、銀行に取りに行けない間も一袋ずつ使っちゃうと、足りなくなっちゃう。数日を小分けして一つの袋に入れたりもする。
ところで、袋袋 言っちゃってるけど、極厚革に何か入っている防刃バッグで、金属の鍵を閉められる。
一度ウッカリ閉めちゃうと解錠するのが難しく手間取るし、空でも結構、重たい。
─楽しい現場視察2─
銀行ついでに、内装工事が完了した店舗を見に行くことになった。
「あ!○○さ~ん!」
え?どなた???
合流したのは店舗開発の係長。
あの、図面を作成した張本人と思われる。
あ、いつかどこかで話したな、私 眠くないのに「眠いの?」て しょっちゅう聞いてきてた人。多分ネタ化してたんだと思う。
保安室で入店許可をもらったが、今度はヘルメット無くて残念だ。
ま、眩しい…!
高架下の建物は すっかり補修が終了していて、新しいテナントの内装工事も殆ど終わっていた。
ひゃああ!新築の良い匂いがする~✨
これも同行者がN課長と係長で無ければ、大はしゃぎで館内響くくらい大声で言ったものを。
「うわぁ…✨」
自店も すっかり出来上がっていて、真新しい真っ白な什器が目に痛い。
大通路を二分した頂点には、ぐるっと店外向かって商品棚、背後には胸丈ガラスの仕切り。
両側の通路に面した試着室を 取り巻くように造られた什器はアクリル製で、ガラス天板。
お隣さんとの通路は僅かに3m程間仕切り僅かに囲われていたけれど、胸丈のガラス製の壁。
「ガ…ガラス…!!!」
先日の新店のガラスを割ったトラウマからか、恐怖しか無い。
「ここ天井低いし狭いから、少しでも開放感 出そうと思って」
くうぅ、理にかなっているけれども、怖くて怖くてたまらない。
「…ちょっと使い過ぎじゃないっスか?」
「あはは、やり過ぎたかな」
貴方には笑い事でも、私には笑い事じゃあないんだよ(号泣)!
「あ、そう言えばTI店の特注ガラス割ったの、○○さんだっけ?」
「そうですよ…」
やっぱり、開発の人の耳には入ってるよなぁ。しかも名前まで(涙)
「設営でガラス割れるなんて良くある事だし、気にしない 気にしない!」
な…なんて いい人…✨✨✨
目の底が笑ってない喋りんぼじゃなくて、こんな人の部下になりたかったな…おっと。
敷地内には高架を支える ぶっとい柱が二本も立っていて、全面に、名前ど忘れしちゃったんやが、アルミ製の横線が付いていて、フックとか引っ掛けられるボードになっていた。
「コレって、商店街のっスか?」
「ううん、ウチで付けた」
マジか✨
なかなかにディスプレイ甲斐のある、にくい仕様。
ボードには立体的な店舗ロゴが引っ掛けてあり、つい、触って確認した。
「わ!? コレ、中スポンジなんスね!!」
表面だけ3mm厚の樹脂ボードで、裏面は目の細かいスポンジ製だった。
面白~い✨
何度かギュッギュして、ハッと我に還りましたよ。
昔、T店の大ガラスの足元内側に鏡文字で貼られてたロゴマーク、みんなシールだって思わないで拭いてて端っこがめくれてしまって、ちみっ子がトドメを刺しちゃったのが2回くらいあって、一度は業者さんに直してもらったけど なかなかな お値段で本社の申請とるのも時間かかって放置だから、二度目は私が黒いビニールテープをカッティングして直した時が有ったっけ。
今まさに私、ちみっ子と同じ事をしている…!
危なく触り過ぎて変形させちゃいそうと気付いて、手を離した。
……
でも折角なんで、文字板表面から押したらどうなるかもやっといた。
板ごとスポンジを押し込められた。
「この柱、AED付いてるね」
何だって…!?
係長が指し示す先には、赤い袋にAEDの文字。
当時はまだ浸透し始めな頃だったかな、ニュースでしか観た時 無かった。
「AED使った事、有る?」
「いやいや、無いっスよ。見るのも初めて」
「コレ取り出すと音声ガイダンスが流れるから指示通りに使えばいいんだけど、使い方の講習会とか出といた方が良いよ。ココに在るって事は、何か起きたら使うのは君らだろうから」
MAJIKA。
何て物を自店の敷地内に…
講習会受けたいけど、暫く時間が取れないし…
一応ネットで使い方調べて印刷して共有して、何事も起きない事を祈るしか出来なかったよ。
真新しい店舗は、まるで忍者屋敷のようにギミック満載だった。
試着室は左右を白塗りしたベニヤで挟まれていて、重厚な姿見の付いた鍵付きの扉に、突き当たりも姿見には鍵穴が付いていて、開くと奥行40cm程の棚空間。
頂点の什器内側には、小さいレジ用カウンター。人二人 入るのがやっとな、狭き空間。
天板は40cm四方ガラス張りで、浅めのショーケースになっていた。
おおお、格好良✨
「ココ、何入れるんスか(wkwk)?」
「あー、こんな所あったのか~…カフスとかタイピンとか、やるか!」
狭い店舗だから初期入荷予定になかったんだけど、N課長のはからいで小物類もやる事になった。
ショーケースの下には、引き出し式のノートパソコン置き場。
位置的に かなり低くて、しゃがみ込まないと入力しづらい。
レジ横には蓋の無いキャスター付きの引き出しゴミ箱が在った。
「うわ、備え付けゴミ箱の在る店舗、初めて」
普通はゴミ箱は大きなダンボールで作るんだが。
「ココ、狭くてダンボールだと置き場困るでしょ?だから最初から造っちゃった(テヘ)」
か、係長…✨
「あと、館に金庫室が無くて各店管理だって聞いたから、金庫も在るよ」
え???
指し示された床上の扉を開くと、中には50cm四方の小型金庫。
「わ!ダイヤルだぁ✨」
一度やってみたかったんだよね。
「ダイヤル式、結構 開けるの難しいから、皆で練習しておいた方が良いよ」
oh…
いやね、マジで難しいんだよ、ダイヤル式。もしダイヤル式の金庫と勤務先で出会っちゃったら、開ける練習しておいた方が良いよ、マジで。
レジ裏には深さの在る納戸も付いていた。
ココはスタッフの荷物入れだな。
なかなかに収納も考えられていて、何とかなりそうだ。
底辺のガラス壁沿いの棚板上部には10cm幅程の線が入っていた。
「聞いて聞いて!ココが一番 工夫したんだ!」
係長渾身のギミック。
パカッと長方形に棚板奥が外れた。
「ほらほら、見てコレ!」
クルッとひっくり返された白木の裏面には、金属のバーとプラスチックのクリップ。
「凄ぇ!シャツフックだぁ✨!」
「えっへへ、折角ガラス張りにしたから、ディスプレイ出来るように付けちゃった(テヘ)」
ちゃんと箱造りに表からは裏地が見えないように造られていて、ピタッと羽目込められるんだな。
良く見れば規格も直角ではなく、台形の敷地に合わせて角度がある。
ひえぇ、コレ、完全にオーダーメイドじゃん、いくらすんの、この什器だけでも…!!!
天板も厚いし、棚完には蛍光灯が設置されてて商品照らせるようになってるし。
「ここの照明、天井低くて増設しなかったから、館の照明使うしか無くて、暗いと思ってたんだよね」
か、係長…✨
店舗開発の人って、凄ぇな。色んなケースを考え考えお店造ってるんだから、頭が上がらない。
通路側の柱には箱型に凹みが在り、丸いバーが数本渡っていた。初めて見るものだった。
「コレは、何スか?何するもんスか(wkwk)?」
「このパイプにネクタイをぶら下げて、のれんみたいに飾れるよ」
おお✨
「……いや、何で通路側に作るんスか。持って行かれ放題じゃないスか」
「うん、だから、グルグル回って、店舗グルグル」
こういうところはね、商品魅せるか危険をとるか、線引きが難しいよね(遠い目)
電池式のダミー防犯カメラも一応設置されていた。
「あと、アレね、防犯鏡。アレ角度調節出来るから、搬入で脚立来たら調節しておいてね」
「了解っス」
アレかぁ、マジでコンビニみたい…
表面の湾曲した防犯鏡。なかなか意識しないと、存在を忘れそうだ。
「何か質問とか有る?」
「ん、んー…んー…ちょっと待って下さい」
試しに店内を回遊してみる。
すると、とんでもない事に気付いた。
「鏡!鏡増設して下さい!」
設置されていた鏡は台形の底辺一角。
レジ側から覗き見れば多分、試着室の後ろ側は見れる。
置き鏡を設置すれば、もう少し範囲も広がる。
だが、何と、底辺側に居ると、一切レジが見えないんだ。
怖すぎるだろ、レジ放置して接客なり作業なりすんの。
店番、一人なんやから。
「あ、やっぱ一枚じゃ、足りなかった?」
「足りません!二枚、いや、せめてレジ上付近んに一枚、付けて下さい!」
いやもう、冷や汗出たわ。
こういう穴もね、やっぱり一度は現場を見ないと気付かない。
ちゃんと、オープン暫くして二枚目の鏡を設置しに来てくれましたよ。
それまでは置き鏡を通路に背を向けて置いてしのいだ。
─楽しい買い出し─
備品倉庫からある程度、文房具や消耗品も届くけど、以外は店舗で準備する。
M店出勤中にN課長の車で、近くの100均に連れて来られた。
「何買うんスか?」
「ええとね、棒金ケースとジッパー袋と、あと使えそうなもの。経費で落ちるから」
「マジっスか!? 何でも、良いんスか!?」
「経費で落ちそうな分だけね(汗)三千円くらいまでにして」
「あ~い♪」
店内の文房具売り場を中心にウロウロ、ウロウロ。
めぼしい物を見つけては、カゴを持ってる課長の元に行く。
何か小さい頃、母ちゃんと買い物してた頃、思い出すな。
「この札は、何に使うの」
「コレはですね、あの店、やたら鍵類が多いんでネーム付ける為です!」
「このフックは、何に使うの」
「コレはですね、あの店の防火管理札をレジ裏に提げる為です!」
いちいち物品に説明付で渡さねばならんのは、やや面倒だったが、仕方ない。
「この発光シールは、何に使うの」
「コレはですね、玄関入った所の照明スイッチに貼るんです!暗くて見えないんスよ~」
「……」
「……あ!我が家のっス!ポケットマネーで買いますから!」
なんてね、事も有りました(笑)
(21)に続く──