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どうでもいい話(2023年 11月分)


一家全員、アレ⑤

物書きには二種類有ると、最近思う。
あ、ここで言う物書きって、小説書く人のことね。

綺麗な言葉を連ねて文章を作れる人と、頭の中のイメージを文に起こす人。

同じでは?

と思うかも知れないが、私は大きく違うと思う。

私は学が無いのも有るし、野暮ったい粗野な文しか書けない、明らか後者の人間である。

一応、言葉の勉強もしてるよ。
でもね、高校とか大学とかで真面目に勉強してきた方々に比べると雲泥の差。

言葉の引き出しが、圧倒的に少ないんだ。

もっと他に良い言い回しとか有るんじゃないかな~、と思う言葉も、引き出しが無いから自分では閃かない。

だから、出来る限りで“伝える”事に重きを置く。
簡単な言葉でも繋げれば文章になるんだから。

何でこんな話始めたかって、そりゃぁ…

虫の話でもテンション上がらなかったからだよ(泣)!
書きたい話は固まってるのに身動き取れなくて、めっちゃ困ってんだよ(号泣)!

先日、姉に言われた心無い言葉が、あんまりにも深い傷になってるらしい。愚痴らせてくれよ!

先に言うが、姉は悪くない。
先日始まったドラマの所為。

まずね、これな~、下手に話すと燃えて消されそうだから、大分に お茶を濁すけど…

私の現在の生活水準から、語らねばなるまい。

私って、作家でもないし、何やってる人?

これね、ちょっと過去記事辿って考えれば分かる問題だからズバリ言うけど、年金受給者だ。

年金で おまんま食ってる。

年金つっても還暦で貰えるやつじゃなくて、障害年金ね。

カッツカツなんだよ、特に食費が。
肉食いてぇんだよ。

それを踏まえてもらって、先月末の出来事に遡る。

あの日は初めてミュージカルに誘われて、母姉一家揃って観劇に行った。

晩御飯にイタ飯 食わせてもらって、グラスワインも呑ませてもらって、私は上機嫌であった。

舞台上でキラキラ輝く演者さん達にもあてられてて、つい、夢を語っちゃったんだな。

そしたらさ──

猛反対を受けた。

理由は分かってる。
姉らも母親も、私の体調を気遣っての事。

私の体調じゃあ、真っ当な仕事なんか就けないって、自分が一番分かってる。

前前職も前職も それで失敗してるから、同じ轍は踏みたくないのは、私が一番思ってる。

「アンタの体調、分かってる人なの?」

これまでは周囲に私の体調面を浸透させられなくて、表面上の気遣いだけで、実際は理解なんかされてなかった。
その辺もね、心配してくれてたんだよ、姉らは。

「ん~、多分、今までよりは ずっと、私のこと分かってくれてる人とは思う…
いや、まださ、決まった話じゃないんだし、聞き流してよ!あはは~」

私は、誤魔化した。

「アンタさ、仕事のうんぬんの前に、自分の世話くらい自分で出来るようにならなきゃ」

当たり前のように母親もそう言う。

私は「こんだけやる気が出たんだよ」って伝えて背中を押してもらいたかったのに、全否定されて散々に言われて、凄く悲しかったし落ち込んだ。

何とか自分を立て直しては、トラの件て打ちのめされて、それでも とにかく自分が決めたルーティンくらいは こなそうって、自分で発破を掛け続けた。

つい漫画ばっか読んじゃったけど…

そして、つい先日の出来事。

母親が泊まりの日の翌日、姉も顔を店に来た。

姉「ケ○タ買って来たよ~」

私「うわぁい♪ケ○タ、ケ○タ~♪」

私小さい頃からケ○タが大好きな私が喜ぶから、姉はケ○タをお土産に持ってくる。

母姉が喋ってる間、私は夢中になってケ○タを頬張っ…いや、骨しゃぶってた。

姉「○○、静かだね~」

だって、カニとケ○タは無言になるじゃん。ならない?

うまうま♪

一つ しゃぶりきり、二つ目を しゃぶっていた時、ふと、昔の事を思い出した。

私「毎日、ケ○タ食ってたな~…」

姉「え?毎日って、駅前の頃?」

私「違う違う、休憩中にさ…」

昔は路面ケ○タって席でタバコを吸えたから、C店勤務の頃は昼休憩で良く使ってたんだ。

懐かしいなぁ~…

姉「食べに行けばいいじゃん?」

私「遠いんだもん」

姉「別に歩いて20分くらいでしょ?」

私「いや、その20分がキツいんだよ~」

姉「動物病院のついでに買って帰れば?」

私「いや、猫連れてケンタ買いには行けないし」

姉「ドライブイン、無いの?」

私「いや、ドライブインに徒歩で侵入したら怒られるからね」

姉「そおなの?」

私も言い訳がましいとは思うけども、姉との会話も こんな感じである。

私「ケ○タの近くに引っ越して、毎日ケ○タ食いたい!」

姉「国民の血税で、毎日ケ○タ食って良いと思ってんの?」

姉の口から辛辣な言葉が出たのに驚いて、私は口を つぐんだ。

直ぐに気付いたよ、あのドラマの台詞だって。

姉はドラマや漫画の台詞を そのまま使う人間だから、この言葉に大した意味は含んで無いって。
ただの冗談だって。

──だけど、国民の血税で生かされているだけの私の状態で、国民の血税を無駄に浪費している自覚はしてるし、私一人が居なくなれば僅かでも国が豊かになるって常々思ってるし…

国民の血税って言葉は、地雷である。
国民の血税って言っていいのは、自衛官ぐらいである。

私だって、今のままで良いとは決して思ってない。

グッと言葉は呑み込んで、大人の対応しなきゃって思ったんだけど、お口は我慢しきれなかった。

私「何。私は夢を視るのもダメなの?」

冗談に本気で答えてしまった。

仕舞った、とは思ったけど、一度開いた口からは次々と思いが溢れて止められない。

私「──私だって、社会復帰したいんだよ!!!」

社会復帰したい気持ちは十二分に有る。

でも、私は必ず会社に疎まれる。
周りの同僚には迷惑しか掛けない。

表面上に歓迎してもらえても、裏では何を思ってるかなんて、ましてや何かしてるだなんて、分からかいんだ。

言い訳でしか無いけど、それが怖くて勤めに出れない。

私「あー、もう、嫌だ!」

私は しゃぶり途中のケ○タの肋骨を捨て、タバコ咥えてベランダに出た。

頭を冷やさないと…

一服して戻ると、母姉は別の会話をしていた。
私は もう一個ケ○タ食いたかったけど、まだ気持ちが くすぶっていたので、ベッドに上がって ふて寝した。

怖いんだよ。
また、邪魔者扱いされんのが。

今の活動が何の役に立つかも分からないし立たないかもしれないし。
傍から見れば、ただの道楽だし。

こんな不毛な活動してて良いのか?
もっと建設的な私にも出来ること、有るんじゃないのか?

そう考えちゃうとさ、筆が進まないんだ。

たわごとです。ただの、言い訳です。
さぁて、やるか!

⑥に続く──

シーン・ビジネス(26)

I店の店長が希望していた本社異動に決まったため、私がI店に戻る形になった。

「それでね~、○○さん。ちょっと お願いがあるんだけど~」

「…何でしょう?」

私は知っている。
課長からこういう切り出し方をされる時は、ろくな話では無い、と。

「C店に新しく来る店長なんだけど、店長職初めてでさぁ。教育係もやって欲しいんだよね」

「──は?」

私は耳を疑った。
教育係って、言ったか?今。

「いやいや、何言ってんスか!私だって店長成りたての半年目っスよ!? 出来ません!他に適任が居るでしょ!」

「大丈夫大丈夫。○○さん勤続年数は長いし」

勤続年数の問題じゃない。

「勤続年数ならC店にはMさんも居るでしょ!私がわざわざ教育する必要無いじゃないスか!」

「だってMさん早専で遅番知らないじゃない。C店特殊だからさ~、何とか。ね!よろしくね!」

「ぇえ!? ちょっと!課長、課長~!」

てな感じで、逃げるように早足で立ち去る課長に、半ば強引に店長教育を任されてしまったんだ。

──困った事になった。

店長教育っつったって、私が受けてもいない教育を、どう施せと言うのだろう(遠い目)

とりあえずレジ締めの伝票類、きちんと理解してもらうくらいしか思い浮かばない。

I店には良くヘルプにも入っていたし、異動に決まった三人目のI店長とも仲良くしてたし喫茶店で口頭引き継ぎのみで済ませ、C店の引き継ぎに時間を作る事にした。

新しいC店長は新卒入社で地方から転勤して来た。

一年くらいは平のまま店舗経験有りだから、接客とか採寸とか、そういうのは要らないんだよな…

え?何教えたら良いの???

もうちょっと具体的に課長に聞いとこ。
私は店舗携帯をパカッと開いた。

『シフト組んだ事も無いから、その辺も教えてあげて。あと、予算組み』

…私シフト組みも予算組みも、誰にも教わってませんが。

大した情報は得られなかったんで、私が店長になりたてで自発的に行った事を思い出そう…

あ~、館への挨拶回り、行かないとな。
それと稼働時間計算・シフト作成と、予算組みと、特殊レジ締め…

銀行の使い方と帳票の貰い方と両替機の稼働時間と…

あ、釣り銭の連休対策と、販促でバンバン出る商店街の金券の取り扱い、クレカ伝票の発送…

いかん、やる事がいっぱいだ!?

引き継ぎ内容、まず、ここをクリアせねば。

次にC店の引き継ぎをする時に、新人ちゃんが困ってしまうし、新新店長も困ってしまう未来が視える。

一日…いや、二日は欲しい。

新店長には日付指定で中番と遅番で入ってもらうよう、勤務先の店舗の店長とシフト擦り合わせ。

希望休は あらかじめ聞いて、翌月分の仮シフトを組んでおく。

私は私でI店の翌月分シフト組みと翌半期予算組み。

やる事が、いっぱいだ…(涙)

「初めまして~、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします。私、誰かに店長業教えるの初めてなんで、不明点や至らない点が有ったら、バンバン聞いて下さいね」

「分かりました~!」

新しくやってきたC店長は、ちょっと小柄のキリッとした女のコちゃん。

はあぁ…若いのに、しっかりしてそうやなぁ…

この思いを後日Mさんに言ったら「○○さんも大して歳違わないじゃない」って、爆笑された。

2日ばかりでぶっ込んでも、恐らくメモ取って終わるだろう。

…いいんだ、それでも。

新C店長が移動する時、同じ流れで引継ぎ出来るように、箇条書きスタイルでメモが作れれば。

内容なんかは務めていくうちに覚えるだろうし、電話かかってくるだろうし。

私は引き継ぎも遅番マニュアルと同じ構成で進める事にした。
順番は逆。
先に “やる事” のリスト名目を並べてもらい、後に一つ一つ説明をする。

「え~… 結構沢山有りますね(汗)」

でしょう。

並行してMさんにも口頭で説明しておく事にした。

だって ほら、不安じゃない。私が。

「クレカの署名入り伝票は期間分の枚数と金額をチェックして発送するんだけど、署名漏れが有るとクレカ会社に連絡して お客様に確認入れてもらってから対応済み記号を入れなきゃなんで時間かかる。んで、出勤したら毎日でも署名確認しておいた方が楽。遅番でもチェックはするけど、何回でも確認するのは いい事だから、」

「ふむふむ」

「商店街の金券は期間分を保管しておいて、まとめて集計して組合に持っていく事が多いけど、仕様とか提出方法は変わる事が多いから、都度 確認して」

「ふむふむ」

「釣り銭準備金は他店より多くして貰ってるけど、連休とか年末年始は両替出来ないから、注意して。私は自分の財布の小銭は常に多めにしてたり、千円札50枚と棒金全種2本ずつ、カバンに入れてたりする」

「え、そんなしないとダメですか?」

「うん、準備金だけでは足りんのだよ。特に小銭が(遠い目)」

何度、自分の財布に助けられたか分からん。

「万券は在っても釣り銭には出来ないから。 Mさんなんか、こないだ独りの時に千円札枯渇して、コンビニATMダッシュしたらしい。最悪お隣さんに両替してもらえるように、関係は良好にしておいた方が良い」

私が小銭持ってるもんだから とあるショップ店員さんは毎日のように、ウチに両替に来ちゃったりしたけど…

まあ、困った時はお互い様だ。
時々お土産くれるし。

「経費で必ず落ちる領収書は郵便局のと…」

あ!あーっ!しまった!

私は額を平手打ちした。

組合費の事、忘れてたー(大汗)!

自分だけなら「自腹でもいっか」なんて気楽に考えてたけど、よく考えたら他人に強要出来るものじゃないって、この時 初めて気が付いたんだよ(遠い目)

「?」

「…ごめん、領収書の事は次回、説明するね」

ぅああ、私の不行き届きでメモが分断してしまった。何たること…

早急にN課長に連絡したいところだが、出先では また うやむやにされる可能性が高い。

対面、若しくは、本社に居る時に捕まえねば…

予定表を確認したら その日は留守だったので、翌営業日に交渉を先伸ばした。

スタッフが居るうちに、両替バッグと鍵と封筒を持ち、C店長を外回りに連れ出した。

最初に行ったのは組合事務所。

「新しい店長、連れてご挨拶に来ました」なんて伝えつつ、そういえば私、M店の時は自発的に独りで挨拶に行ったな…なんて思ってた。

貰える帳票類に休憩室の場所なんかも、ついでに説明。

次に行ったのは、銀行。

両替機の位置と稼働時間、入金袋の返却ロッカー、伝票の発行窓口と依頼方法なんかも説明。

「両替機も伝票発行も結構時間掛かるから、余裕を持って来た方が良いよ」

「残りは郵便局か…ちょっと遠いんだよな、地図印刷してくれば良かった」

んん~ん、また失敗だ。手際が悪すぎるorz

郵便局の場所と簡易書留の依頼方法、領収書を受け取り店舗に戻る。

「経費で落ちる領収書は、失くさないようにね。無いと自腹になっちゃうから」

「は~い」

私は、何度か失くした(遠い目)

店舗PCで周辺地図を印刷し、回って来た各所にマーキングとルート線を引く。

「あ。そうだ、あとね」

最寄りの競合店、電気屋さん、百均にも軽く印を付ける。

「商店街内には電気屋さんが無いから、什器の蛍光灯とか電池とかは向こうに買いに行かなきゃいかん。備品倉庫ではやってないから」

「え?蛍光灯もですか?」

「うん。ラピッドスタートじゃなくて、普通の方ね。あと」

女のコちゃんだと、電気系は疎いかも。
見せた方が良いと判断し、私は什器の一角の商品山を取り除き、しゃがんで指さした。

「見える?コレ。小学校か中学校の理解でやったかな、グローランプ」

「なんですか、それ??」

あ、やっぱ知らんよね~。
私は理科の授業で教わったんだけど。後は苦手な母親に代わって、実家ので実践してきた。

「蛍光灯の点灯に必要なタマなんだけど、コイツが半年くらいで切れるんだ。蛍光灯自体は生きてても、グローランプが切れてて点かないって事多いから、気を付けて」

「え…???」

え~、なんて説明すれば…

「とりあえず点かなくなったら、このグローランプを新しいのに変えてみて。それでダメだったら蛍光灯」

「あ…はい…」

「蛍光灯は長さとかワットとか色味とか注意して、ラピッドじゃないのを選んでね。蛍光灯のココに品番が書いてあるから、メモして買いに行って」

こういうの、私得意でマジ助かったと思ったよ。
知らないこと覚えなきゃなのに畳み掛けられたら、キッツいよなぁ。

「あっこの防犯カメラはダミーだから、点滅してるLECランプが切れたら電池交換。あれは私も切れたの出会って無いから、どのくらい持つのか分かんない」

「あれ、ダミーなんですか!?」

「よく出来てるよね~、配線とかリアルだよね」

電池の蓋、この子で分かるだろうか…

「とりあえず半年立ったから、一応 毎日光ってるか見ておいて。私近所だから、言ってくれたら交換に来るし」

「わー、助かります~」

出来れば、こういう地味な仕事だけしたい。

「そうそう、あっちのミラーとレディース下のストックは、お願いしたら付けてくれた」

「え!? そんなワガママ通るんですか!?」

「通ったんだよ~」

言ってみるもんだ。

「んでね、んでね!ココのハンガー引っ掛ける所とゴミ箱の蓋は、私が付けたんだ!」

「え!? ○○さんが!? え~、凄い!」

えっへん!

いや、コレは単に自慢したかっただけ(笑)

「可愛いね、手帳」

「ありがとうごさいます~」

かなりメモを取らせてしまったので、その日は終わりにして、事務的な話は翌出勤日にする事にした。

──ぶっ込み過ぎだろうか。

絶対、覚え切れる量じゃないよな。我ながら鬼だと思ったよ(遠い目)

次の日、N課長が本社出勤なのを確認して、私は店舗携帯を開いた。

「組合費の件なんですが」

『組合費?突然、何の事?』

──おっとぉ。

「アレっスよ、アレ。カニの五千円」

『五千円???』

うわ。コレ マジで、記憶にございません状態だ。

「オープン前に事務所に挨拶に行った時、組合長さんが説明してたヤツ」

『…え?そんな話、あったっけ??』

ありましたよ(怒)

「その後にも言いましたけど、結局 のところ払うのか払わないのか、どう決まったのか知らないんスけど」

『だって初耳だもん。話がみえないんだけど』

私は今一度、組合費のシステムを軽く説明し、毎月五千円の現金集金に組さんが訪れる旨を説明した。

『今までの支払いはどうしてたの』

「自腹切ってました」

『ダメじゃない!勝手なことしちゃあ!君が良くても他の店長が真似しちゃったら、どうすんの!』

ぐぬぅ…

私は確認だってしたし、完全クリアに忘れられてるだなんて思いもしてなかったし。

テメェだって、カニ食ったろうがー!そのカニ代は どこから出たと思ってんだー(怒)!

私情が噴火しそうだったけど、一番悪いのは確認を怠った私である。
唯一、組合費を覚えていたんだから、フォロー入れるべきだったんだ。

「──申し訳ございません」

少々納得はいかなかったけど、謝罪して下手に出た。

「半年分の組合費は私が勝手したので請求しません。ですが今後、組合費が通るように本社に申請してもらえませんか。流石に引き継ぎで『五千円自腹切れ』とは、新卒の子には言えません」

『ほら!こういうことになるから、金銭が絡む話は特にちゃんとしておかないといけないんだ!』

「重々承知致しました。お手数お掛け致します。申し訳ございません…」

もう、私 分かってるのに、小一時間お説教を喰らいました(遠い目)

みんなも、気おつけなさいよ。金が絡むと怖いよ。絞られるよ。

とりあえず、その日のうちに組合費はN課長が本部に掛け合ってくれて、私も最終月一回分の五千円は変換されました。

──あぁ、不甲斐ない…(反省)

新C店長の翌出勤日には、本社絡みの事務作業。

「そうそう、領収書ね。空白に店番と署名と押印して、課長が回って来た時に提出してね。課長が仮払いしてくれるから。経費で確実に落ちるのは、郵送代と組合費。組合費はこないだ事務所で会った おじさまが、直接集金に来る。毎月五千円」

「五千円!?」

「うん。年末にはカニが食える」

「カニ!?」

組合費 = カニ なイメージ付いちゃってて、つい、カニを推したくなるよね。ならない?

「他にも蛍光灯・電池なんかの備品購入と、面接とかスタッフミーティングの喫茶店代も経費で落ちたりするけど、この辺りは事前に課長に確認してからの方が良いよ」

私みたいな目に遭うよ。

「前店舗の店長から、シフト組みとか月報・半期報の書き方、教わった?」

「チラッとは聞いたんですけど…『店舗毎に違うから、あっちで確認して』って言われちゃいまして」

…投げたな(遠い目)

私は店舗PCの帳票フォルダを教えた。

「帳票類の原紙は纏めてあるあら。編集したら上書きしないように注意してね」

とりあえず、シフトから説明する事にした。

「Mさんは保育所のお迎えが有るから、勤務時間の短い専用早番作ってある。他は普通の早番。Mさんは早専日曜固定休で月ウン時間希望、主婦さんは早遅可土日どちらか休み扶養じゃないから勤務時間は相談出来る。念の為、2人とも話して再確認して」

事前にスタッフから聞いておいた希望休を、空のシフト用紙に写してもらう。

「スタッフ全3人だから、難しいことは無いと思う」

のっぴきならない事情が無い限り、2人は希望休ずらしてくれるし。C店は基本早遅の2人体制だし。

「後はC店長の希望休を入れて、稼働予算と社員の月間労働時間の話は聞いてる?」

「聞いてません」

──そこからか…

「稼働予算は月間予算と月日数と営業時間で計算するんだけど、社内システムに月予測売上入力すると自動計算してくれる。ただ、これ予算通り入力しちゃうと、実売上と差異が出て半期分最終月に調整しないといけなくなるから注意して」

「え、予測はどう立てれば?」

「勘」

「ぇえ!?」

勘…としか言えない。

「とりあえず半期分の売上見てもらって、月予算に8掛け位が今のところ妥当かなぁ」

すごく薄らぼんやりとしたアドバイスしか出来ん。

仮シフトは組んであるのは内緒にして、試しにシフトを組んでもらうことにした。

だって、在るって知ったらやらなくて良いと思っちゃうかもじゃん。
私が組んだ仮シフトは、あくまでも答え合わせ用の予備である。

「出来た?」

「出来ましたー。これでどうですか?」

小一時間ほどして、仕上がったシフト表を見せてもらった。

──C店長、連勤多いな。

この子、身を子にしちゃうタイプだ。
人員に余裕が有るのに、これじゃあ疲れちゃうよ。

「ここC店長8連勤になってるけど、こっちの4日間見て、何か視えてこない?」

「分かりません」

諦めるの速いよ。もう少し考えてみようよ。

思いはせど、シフト組むの苦手な方は多いって聞くから、も少しヒント出すか。

「ココとココとココの休みを入れ替えてごらんよ」

「──あ!連勤がバラけた!」

でしょう。

こんな感じで、とりあえず無理の無いシフトが組めたので、それを使うことにしてPC入力までしてもらった。

「月報な~…」

私も別に習ったわけじゃないし、店舗毎に全然違うし。
どことは言わんが「え、こんな一言で良いの?」みたいな店舗や、兼務店だとスタッフが書いてる店舗もあった。
私は用紙ビッチリ全部自分で書く派だったけど。

要は、締切を守っていれば良いらしい。
まぁ、営業さんが薄い内容についてボヤいてるのは聞いた時有るけど。

シフトを組むのに時間を使ってしまったし、遅番も覚えてもらわねばいかんし。

時間が、足りん…

「今月分の月報と今期の半期報は私が書いてPCに保存しておくから、提出だけお願い。翌月分は これまでの月報を参考に書いてみてもらって、提出前にI店にちょうだい」

「分かりました~」

私は翌月の自分に、託す事にしましたよ(遠い目)

幸いにもI店とC店は連絡良ければ15分程の近さだし、いつでも来れるし。

「あ、あとね、聞いてるかな?Mさんなんだけど…お子さんがお熱出しちゃうと保育所が預かれないから、早退しないといけない時が有るのね」

「え、そうなんですか?急に?」

「うん、小さい子供は熱を出すものだからね。そこは主婦さんも分かってるから、みんなで協力してるんだ。I店に連絡くれれば、休憩交代に来るから、安心してね」

こればかりは、嫌な顔をされたくないんで、みんなで子育て、を強調して伝えたつもり。

Mさんの肩身が狭くならないか心配だ。

最後に、ストック内の床下収納の中身について説明して、引継ぎは終了。

「うわ~、色んなところに色んな物が入ってるんですね~…」

「忍者屋敷だよね」

色んな隙間をフル活用してたから、物の場所を覚えるだけでも一苦労と思う。

床下収納は冬眠後のリス化健忘を懸念して、半期帳票保管の1箇所しか使ってないと、その時 私は思い込んでいた。

「分からない事があったら、I店か私の携帯に電話してね」

「は~い」

C店は とりあえず、何とかなりそうだ。

私は私でI店の問題を一つ抱えていた。

それは──

翌月いっぱいで常勤スタッフが一名、退社が決まっていたのだよ(遠い目)

有給が丸っと残っていたから、半月程で私と常勤スタッフの二名になってしまうんだ。

一応、募集は掛かっているらしいけど…

まだ誰一人として、引っ掛かってはおらなんだ。

困ったなぁ…

─おまけ─標語

C店にはMさんが作った “清掃ノート” なる物が存在した。

往来多い通路に挟まれた壁無しの中島は、恐ろしいほどホコリが積もる。

一日お掃除サボっただけで、綿埃出来るんだよ。真っ白な什器が灰色になるんだよ。

清掃ノート自体は、お掃除チェック項目に済んだらレ点を入れる式になっていて、私自体は習慣に無いし普段やらない所を掃除する派なんで、ついレ点忘れちゃうんやけど。

…鏡の拭き方が、なってない。

アレよ。鏡にね、洗剤吹きかけ過ぎて、ギラギラ線が出来ちゃってた。
特にC店は鏡が他店より多かったから、気になって気になってしゃあない。

オープンすぐはヘルプで来てくれる方が多かったから、誰が拭いたかまでは特定出来ない。

一応、自店スタッフには今一度「洗剤は少量、雑巾に1プッシュで。汚れてなかったら乾拭きで良いよ」と、伝え直した。

が。

今度は汚れが目立つようになってしまった。

半月に一度は全部の鏡を自分で拭き直したけど、やっぱり日々の清掃が肝心である。

私は、清掃ノートの裏表紙を見詰め、キュポッと、黒マジックのキャップを取った。

『ガラスの曇りは、売上の曇り』

ちょっとばかし お姑感がしちゃうけど、書いちゃった。

翌日。

「コレ良いね!私、こういう標語みたいの、好きだよ♪」

よく分からんが、私だったら こんなん言われたらイラッとするだろうものを、Mさんは喜んでくれた。

新C店長も気に入ってくれた。

良かった、優しい方々ばかりで(ホッ)

(27)に続く──

線維筋痛症と私⑬

これも発症前の話なので直接は関連していないかもしれないんだが。

もの凄く、お腹を壊した。

ちょうど秋口に入った頃だろうか。
家を買って初年度、I店に勤務していた私。

もうね、食べると出ちゃう。
もうね、お腹の中 空っぽ。

なのにトイレから立ち上がれないくらい、ずぅうっと便意が止まらない訳で。

──もう、水しか出ない…

水すら、出なくなった。

勤務中にもトイレダッシュしなきゃで、そんなのが一ヶ月くらい続いちゃって体力持たないんで、流石に病院に行ったよ。

「過敏性腸症候群ですね」

とりあえず、整腸剤を出してもらって数週間で治まった。

それからというもの──

毎年10月に入ると、お腹を壊すようになった。

市販や病院でついでに処方してもらった整腸剤でしのぐんだけど、最初は ひと月程で治まったのが、数年後には2~3ヶ月間続くようになり、長い時は半年続いた。

水になっちゃう時期は、野菜しか食えん。
胃は元気だから、めっちゃ腹が減る。

またね、10月になると「お腹壊れるんじゃないかな」って恐怖で身構えちゃって、不要にお腹壊す要因だったんじゃないかなって思う。

数年前に田舎に引っ込んでからは、気分転換になったんだか、お腹壊れなくなった。

ここ数年は落ち着いてたんだけど…

この時期に盛大にお腹壊すと、また再開しちゃったんじゃないかって、恐怖なんですよ。

続かないことを祈るよ(遠い目)

⑭に続く──

シーン・ビジネス(27)

時系列は前後するが、ちょっと語らせてくれ。

店長及び準じた役職に就くにあたり、店舗スタッフの面接を数こなした。

電話口で軽くやりとりした程度では判断つかないので、余程悪条件や勤務地が無い場合を除き、全員と面接した。

多い日は30分置きに5人くらい。
面接当日に連絡無く来なくて時間いっぱい待ちぼうけしたり、ハズレの場合ばかりであったが、生産性引くとも こればかりは直接対面してみないと分からない。

私が採ったスタッフ方は皆よい子で、長く続くし勤勉で働き者ばかりだった。

人を見る目は、そこそこ有ると自負する。

んだが。

そんな私でも手を焼いた、ちょっぴり扱いに困ったスタッフ(?)3ケース、行ってみよー☆

─ケース1─

筆頭に上がるのが、C店の学生君。
私が初めての面接だから、N課長が同行して採用になった子。

因みに、課長及び営業が同行したのは、この時 限りである。

採用当時、私は2店舗兼務であったから、最初にレジ締めや接客等の基本を教えた後、しばらくシフトが被らなかった。

ほら、早番充実してたからC店は ほぼ遅番だったし。

でも、全く会わない、というのも店舗を守る身としては おかしな話なので、忙しくとも月に一度はシフトを被せていた。

いつも私はスタッフが居る位置の対角線上になるように周回していたから、被せたところで接点は薄いんだけど。

防犯ミラーで確認する学生君は、真面目に商品整理をしているように映っていた。

ううん、什器に かじりつき過ぎ…

声も小さく、来店があっても「いらっしゃいませ」を言っているのかさえ分からない。

面接の時に「接客勉強したい」て言ってたから、挨拶とかお辞儀の角度とか発声なんかも一応やった。

「学生君、ちょっと作業に集中し過ぎかな。什器にピタッと向いてしまっていると、通路を往来する お客様に背を向けてる形になってしまうから、少し こう 顔は什器に向いたままで良いから、体を60°くらい開いて作業して欲しいな」

言ったよ、ちゃんと。

帰ってくる返事は生返事。
やる気は全く感じない。

そのうち お客様に失礼を起こしそうで、怖い。

──要らなかったな。

正直に言おう。
持て余していた。

私が一時C店専任になると、人が余る。
必然的に、私がヘルプに出る日が増えた。
ほら、主婦2人も学生君も時間に制約が有って、ヘルプ行かせられないじゃん。

学生君も土日どちらか休み、両方終日勤務出来たら、ヘルプに行かせたりも出来たんやが。

──無理してまで、この子を他店に立たせなくて良いや。

採用から数ヶ月が経ち、ふと防犯ミラーに映る学生君をチラ見して、気付いてしまった。

もちろん、私が言った什器に張り付き過ぎも治ってはなかったんだが。

──何やってんだ、アイツ???

学生君が熱心に行っている作業に、盛大にハテナが飛んだ。

什器のワイシャツを手に取り、畳まれている襟後ろと裾の折り返しを指で引き開け、中を覗いて元に戻す。

これを一枚ずつ丁寧に行い、1番上から順に下がって行き、全商品の背中を見る…という、謎の行動をしていた。

「Mさん、学生君…何か変な作業に没頭してるの、気付いてた?」

「いっつも商品整理してるよね」

「私もそう思ってたんだけどさぁ…」

実演して見せた。

「…………何の確認???」

「ね。何の確認なんだろうね」

Mさんの返しから察するに、学生君は誰かに教わって あの儀式を行っている訳では無いようだ。

レイアウト変更で商品移動をしている時は、声を掛け指示を出せば取り掛かる。

だが、作業終われば儀式に戻る。

──これ、多分だけど、時間潰し。

せめて お客様の動向に気づくのでなら、百歩譲って儀式続行には目を瞑ろう。
何でかって一応、はた目からは商品整理に見えるからだ。

──レジで立ち尽くしているよりかは幾分か、マシ。

「もう少し、回りにも目をやって欲しいな。ほら、ウチ死角が多くて万引き し放題だからさ。商品を整頓するのも大事だけど、30秒に一回は首を左右に振ろうか」

言ったよ、目に余るんで。

──主婦さんと同じ時給、貰ってんだけどな~。

とは、流石に言わなかったけど。

作業指示を出せば動くけど、以外では品出しすら、せん。

そのうち周りのスタッフが何やってるか、気付くかな…

学生君の自主性に、任せる事にした。

三ヶ月後──

確かにさ、シフト時間短いし、フルタイムでバリバリ働いてる方々と比べちゃいかん、て思ってるけど。

接客するでも無し、作業を手伝うでも無し、手の塞がるスタッフの代わりにレジ対応するでも無し。

試しに何度か学生君が居る間に、お掃除したり 少しレイアウト動かしたり、スタッフも出来る作業をしてみたけれど「やる事有りますか?」とか「手伝います」とか、君だって一言くらい言えるでしょ…

──気が利かなすぎる(涙)

こんなんと一緒に働いてて、Mさんも主婦さんも何も思わないんだろうか…

それでも いい加減、指示無しでも動けるくらいに作業は知ってるんだ。

私は学生君の自主性に、賭ける事にした。

休日フルタイムの学生君が遅番の日、私は早番シフトで入り、おやつの時間過ぎ。

商品レイアウトを変更し始めた。
店舗3分の2は跨ぐ大きな変更。

流石に反対側に居る学生君の視界にも入る筈。

始めた時間が時間なので、独りでは定時までに終わらない物量。
このままではサービス残業は必至。

──気付け気付け気付け。

作業そのものが出来んでも良い。
空いた棚のホコリを拭ってくれるだけでも、かなり助かる。

小一時間作業して、新しく出来た袋入り商品の区画が完成した。

「はぁ~…」

作業途中では有るが、学生君は全く声を掛けてこない。無言で手伝うも無い。謎の儀式だけが捗っている。

流石に、ここまで察しが悪いのは、ちょっとな。

多分このまま小休憩に出て帰ってきても、お店の中は そのまんまだろう。

私は一服前に、学生君に話をしてみる事にした。

「今さ、私が作業してるの、気付いてた?」

「はい」

気付いてんじゃねぇか。

「じゃあさ、お店の中 見て、何か思わない?」

「何も」

いやいやいや。

「お店の中ぐちゃ~って、なってんじゃん?これを見て、本当に何も思わない?」

「思いません」

あ。ダメだ、コイツ。

「私がさ、作業してるよね?あっちからこっちに商品移動させてるよね?君には、何か やる事が有るんじゃないかな」

「分かりません」

──はぁ!?これだからゆとりは~(憤怒)!!!

仏の顔も三度まで。
私は平成生まれに向かって、大人気も無くブチ切れた。

「あのさ!

少しは周りを見なよ!目の前にやる事あるでしょ!」

「そんなこと、言われないと分かんないッスよ!!!」

なぬ!!?

先に怒鳴り声を上げてしまったわたしも悪いが、学生君は私に対して怒号で返して来た。

「あるよね!! ココに!! やる事、あるよね!!」

出したばかりの商品区画の前で大手を広げ指し示した。
誰でもやれる商品の袋出しが、文字通り山となっている。

「何をすれば良いのか、分かりません!!!」

いやいやいやいや、あれだけ散々 袋出しさせたじゃん。袋から出すしか無いじゃん。

「ちったぁ自分で考えろ!!!」

「分かりません!!!」

怒鳴りに対して怒鳴りが返る。
お互いヒートアップしてしまい、引き下がるに引き下がれない。

不毛な怒鳴り合いは、気付けば40分。

店頭で怒鳴っちゃうとか、私が青過ぎた。

一通りの多い休日の夕方。
このままでは客離れを起こしてしまう。現に、怒鳴り合いが始まってから全く来客が無い。

だけど、この わからんちん は自分で考えることを完全に放棄している。

言わないと出来ない、言っても聞かない、分からない。

──ぁ゙あ゙も゙ゔッ!!!

ここまで時間が押したら、お店が片付くのは閉店時間に乗るだろう。
どうせ閉店まで居残り確定なら、いっそ通しシフトに変更して独りで作業したい。

「やる気が無いなら、帰れ!!!」

学生君の手は要らない。
私の放った言葉に対し、学生君は間髪入れずに言い返した。

「帰りませんけど!!!!!」

あ、帰らないんだぁ(冷)。

まさかさ「帰れ」と言って「帰りません」なんて返って来ると思わないじゃん。

あれだけ憤っていた私の頭は、一気に沈静化して、冷めた。

「──あっそ。じゃあ、私一服して来るから、その間にこの辺の商品袋出ししといて」

普通に指示を出して、普通に喫煙所に向かい、私は閉店間近まで残業付けずに居残りましたよ(遠い目)

──後日談。

翌日のこと。

「昨日、学生君を叱ったんだって?お隣さんが言ってたよ」

「あー…」

狭い高架下の商店街。
あんだけ騒いでいたら、嫌でも隣店に気付かれる。

「聞いてくださいよ、Mさぁん(泣)!」

例の如く、早速Mさんに愚痴った。
経緯を伝え、どうしてもアレの話をしたい。

「『やる気が無いなら帰れ!』て言ったら『帰らないですけど!』て言われて私、帰らないんだぁ、って思いましたよ!」

「え!?○○さんが『帰れ』とか言うなんて信じらんないんだけど!しかも帰らなかったの!? 普通、そこまで言われたら帰るよね!?」

「私だったら、謝るか帰るかします…」

「私も…」

メンタル強靭なのは分かったんで、学生君には対策を立てないといけない。

「これから学生君とMさんのシフト被る日は、出来る限りレジ側で何か作業指示出して下さい。掃除とかで良いんで。お時給貰ってんだから、仕事はしてもらわないと」

「そうね、分かった。何かやらせるわ」

こうして、我々は学生君の自主性には蓋をして、指示をキチンと出す方向で結託した。

正直、いちいち作業内容まで指示を出すのは、めんどい。

それから ひと月程して、N課長が来たので学生君の話をした。

「そこまで言われて、続いてるんだぁ(引)」

「何か辞めないんスよね…こういう時どうしたら良いッスか?」

「ヘルプOKな子だったっけ?ヘルプ出しちゃう?」

「ぅう~ん…」

ぶっちゃけると、半年近く働いていて あのレベルを他所様の店舗に託すのは申し訳無い…というか、恥ずかしい。

「僕のエリアは今は人足りてるから、他エリアも聞いてみるよ。彼、土日いけるんだっけ?」

「いや、土日どっちかッスね」

「あー…」

他エリアの営業さんや店舗にまで、生き恥晒したくない。

少し悩んだN課長が口を開いた。

「…クビにするのは問題有るから、出来れば自分から辞めて欲しいんだよね。僕だったら、シフト極限まで減らすけど」

「それは、ちょっと」

まさか、営業自ら職権乱用的物理攻撃を打診してくるだなんて、思わなんだ(ドン引き)

「ヘルプなら私が行くんで、必要な日教えて下さい。調整します」

「あ、ホント?○○さんが行くなら、どこのお店も喜ぶよ♪」

嬉しそうにしやがって、コンチクショウ…

良かれ悪かれ どの道、人が溢れれば私がヘルプに出る事を見越して学生君を採ったのなら、課長は相当やり手である。

雇う側はね、一度契約交わしてしまうと おいそれとは解雇出来んのだ。覚えておきたまえよ。

こうして、私は自分がヘルプに出ることにより、苦手な学生君と物理的に距離をとる手段を選んだ。

まあ、今までも兼務でC店にかじりつきだった訳でも無いし、ノープロブレムだ。

そこからは他エリアにヘルプに行って、Mさん主婦さんには申し訳無いけれど、理由を話して極限まで学生君との接点を減らさせてもらった。
二人とも協力は惜しまない返答をくれた。ありがたい(涙)

学生君とは月イチではシフト被せたけど。

ヘルプ先の他エリアの営業さんも店舗スタッフも皆、口を揃えて「店長自ら!?」て言ってた。

ついでに営業さんや他店長らに「困ったスタッフの取り扱い」に聞いたら、皆「シフト減らす」って言ってた。怖い世界だな(遠い目)

オープンから半年強、私の手からC店が離れる時が近づいた、気の重い学生君とのシフト被りの日。

「私、異動になったから」

もう誰かから聞いてるかもしれないが、学生君にもキチンと話をするべきだ。

「店長、話が有るんスが」

「…何?」

異動話を終えると、学生君は神妙な顔をした。

「学業との両立が難しいんで、バイト辞めます」

あらそう。

一瞬、私が学生時代にガススタの店長から学業両立なんて皆やってる事だ!と、お叱りを受けた逸話が頭をよぎったが。

「ん。じゃあコレに日付と名前と押印して」

私はさっさと退職届を印刷して、学生君の気が変わらないうちに さっさと署名させた。

「今月いっぱいで良い?残りのシフトはどうする?」

「今月いっぱいは出ます」

「ん、分かった」

私基本的に、去る者は引き留めない主義。

本音は、何で怒鳴った直後に辞めなかったかな。
そこから数ヶ月、よく頑張ったとおもうよ、うん(悟)

余談であるが「平成生まれのゆとりが!」と思ったのは、後にも先にも彼一人だけである。

─ケース2─

I店に移動した直後、バタバタと連日面接をこなしていた。

こんなに募集に引っかかるだなんて…やっぱ時期かな。

オープン前のC店に応募無く冷や冷やさせられた日々とは雲泥の差である。

年度始めの春先、契約更新や心機一転で転職する者も多かろう。

よりどりみどりだ。

とはいえ、自店の条件と照らし合わせると「いい子だな」と思っても厳しかったりする。

土日のみ だとか ガッツリ週5~6、となってしまうと、既存フルタイムスタッフとは兼ね合いが悪い訳で。

週3~4くらい、のスタッフが欲しいんだけど…

自店に採用出来ない応募者で いい子は「あっちの店舗でも募集してるんだけど、どうかな?」と許可取りして、面接その場で課長に連絡して履歴書は預かる。

応募者は再度、営業か他店長と面接予約を取る。
交通費も掛かるのに、二度手間で申し訳無いと思う。

なかなか条件の合わない方々ばかりであったが、一人、週3希望の男性から応募があった。

男性でガッツリ働く職場は避けているようで、条件的には自店にもってこい。

女の子が欲しかったけど、この際 性別なんか どうでもいい。

感触さえ良ければ、ほぼほぼ確定である。

面接当日。

近場の喫茶店に陣取り、他の面接を2~3名こなした後、最後の面接に その男性は来た。

「好きな飲み物、頼んで良いよ」

「面接でコーヒーおごってもらえるとか、初めてなんスけど!」

ややテンション高めの20代。
フリーターさんなのかな?

履歴書に目を通し、条件等を細かく聞き出し、社保や制服の話をする。
1人あたり30分枠で予定しているが、大抵15分も有れば終わる。

最後に、気になっている事を聞いてみた。

「週3で、本当に大丈夫?」

働き盛りの男性、後から「やっぱり足りません」と言われても困っちゃう。

「実は…」

ゴクリ。

男性はカバンを開いて手を突っ込んだ。

「自分、漫画描いてまして。M誌で連載が決まってるんス」

──な、何だと!!?

漫画家のたまご、いや、連載決まってるってプロだ。凄くない!!?

こんなSSR、まず出会わない。

「私も漫画好きだよ!」

「良かったらコレ、自分が描いたんスけど、読んでみて下さい!」

は、はわわ、生原稿!!!

男性が出したのは、それはそれは綺麗に描き込まれた、30ページ程のアナログ漫画原稿だった。

うわー、うわー、私が描くより全然綺麗だし描き込みも緻密なんだけど!!!

自分も漫画を描いてた話は伏せつつ、知らない業界の話を聞きまくって話は弾みまくって早一時間。

喋っちゃってたからペラペラめくっていた漫画の内容は一切 頭に入らなかったのは、内緒だ。

お気付きだろうか、私、私欲に負けたんだ。

最初の本社研修の日程を擦り合わせ、面接は終了。

「ごめん、遅くなっちゃった(汗)」

「長かったね、いい子だったの?」

「いや、聞いてよ、それがさあ!何と、漫画家さんだったんだよ!」

「マジで!!?」

I店の既存スタッフも漫画好きであるから、もちろん食いついた。

「条件も良いし、決めちゃった」

漫画っていう共通点が有れば、既存スタッフとも仲良く出来んじゃねぇかな、ていう打算も有り。

本社研修の間の様子は、指導員から報告が有る。
そこそこ感触は良かった模様。

早速、中で2日 早で2日店舗に出てもらう事にした。
早番指導は既存スタッフにお任せ。

とりあえず早番で開店準備さえ出来れば、私シフトを通しにして遅番を教えられる。

既にここまで10日程。
4日目には独り立ちして貰わねばシフトが回らない。

初日は問題無く終了──したかと思ってた。

この時 私は失念していた。

──漫画には、人それぞれ好みの “ジャンル” が、有ることを。

初出勤の翌シフトは男性は休み。

「どうだった?」

既存スタッフに感触を聞いてみると、彼女は重々しく口を開いた。

「──なんか、私を『主人公に漫画を描きたい』って、言われた…」

「──え」

職務の感想では、無かった。

「漫画に描かれるなんて、凄いじゃん。気に入られたんだ」

「キモい」

…………あ。

「あの子の漫画読ませられたけど、絵柄も話も好きじゃない」

あ、あー……

「なんか私のこと『好き』なんだって。キモい」

やべぇコレ、生理的に受け付けてないやつだ。

「どうやって断ったら良い?」

「ぅう~ん…」

まさかの、一目惚れ事案であった。
ていうか、アプローチ速過ぎない???

「彼氏が居る話は、した?」

「した」

「ぅうう~ん…」

私は昔からヘルプや商品移動で ちょいちょいI店に顔を出していたから彼女と彼氏さんが長い事も知っている。
年頃だし、そろそろ結婚するんじゃねぇかな、と思ってる。

──まさかの、NTRだけは避けたい。

私個人は職場恋愛も有り派なんやが、既に出来上がってるCPのNTRになっちゃうと話が別だ。

正直言おう、面倒臭い。

せっかく まとまりかけてるメインCPには、波風立てずに そのままゴールインして欲しい。ハピエン至上主義。

ううん、どうしたものか…

ぶっちゃけ、自分の体調も傾いて来ているのに、面倒事は御免である。

翌3人シフトの日。

超夜型店舗の日中は、めちゃめちゃ暇である。

新人君には一通り基本業務も教えたけど、来客が無いから練習にならん。

「“お客様ごっこ” しようか」

私をお客様に見立て、接客練習する事にした。

基本的な 採寸・試着・会計・サッカー等の流れを何パターンかやり、それでも時間に余裕が有り過ぎる。

早番・遅番の指導が始まったら、以外の業務は詰め込めないしなぁ…

「少し応用編もやってみようか」

応用編すなわち、あしらいが難しいお客様の対応である。

本社研修も2日行って1日出勤で、トータル3日は接客学んだ訳だし。
ちょっぴり早いけど、物怖じしなさそうだし、I店は特に厄介なお客様多いし。

明後日には独り店番になる。
他スタッフが居ない時間が、とにかく怖い。

「2千円現金払いで、残りの端数クレカ払い出来ますか?」

「──え、そんな事出来るんスか??」

「うん、出来るよ。ここをこうでね…」

新人君の やや軽めな対応が若干気になるが、暗いよりかフランクな方が幾分かマシか。

── “ごっこ” と、してしまったのが悪かった。

過去自分が受けた実際のお客様を演じ、何パターンか軽めの応用練習をしてるうちに、ふつふつと私の悪い癖が出始めた。

──そう。いつの間にか遊びから、本気になってしまっていたんだ。

入って間もない新人には明らか答えられない、相当な厄介事案を提示。

「まったまたぁ。意地悪言わないで下さいよ、そんな客 居る訳無いじゃないッスか(笑)」

完全に接客練習とも思ってない遊びの延長線な返答をされ、つい。

「遊びじゃねぇんだよ…(怒)」

うっかり素で、すごんでしまったんだよ(遠い目)

──ハッ。

やばやば!怒鳴っちゃったら、いつかの二の舞じゃん!

再び不毛な言い争いになるのだけは避けたい。
だが、一度カッとなった私の頭では、どんな言葉が口から出るか分からない。

──頭を冷やさなきゃ。

「一服して来る」

私は一言残して、喫煙所に逃げた。

灰皿をパイプ椅子が3つ囲んだ狭い従業員喫煙所。
いつもの定位置に座って、タバコ咥えて煙をひと吐き。

「ぷはぁ~……」

我ながら身勝手な店長だな、と反省する。

一本吸って落ち着いたらキチンと、どういう事例なのか説明し直そ…

ガチャッ

半分程吸った辺りか、喫煙所に人が入って来た。誰が来たかなんて気にもとめない。

「店長…!」

私以外に人の居ない喫煙所。見上げれば、真顔の新人君。

え。来ちゃったけど、どうしよう。

「店長、申し訳ございませんでした!」

新人君は足を組み座る私の真横で膝を着いた。

え。こういう時、私はどうしたらいいの。

「あー…何で来たの」

「『追いかけて謝れ』って言われて…」

え。そういうの要らない。

新人君は既存スタッフの心遣いに感化され、狭い喫煙所まで来てしまった。

「あー…」

私もう頭冷えてんだけど。
もう お店に戻るつもりだったんだけど。

新人君は折角、反省して ここまで来たのに「怒ってない」て、追い返して良いものだろうか。

いや、これは指導のチャンスなのでは。

新人君に小銭を渡し、自販機のコーヒーを奢った。

「何で私が怒ったか、分かってる?」

「…よく分からなかったので、ご指導下さい」

薄々、新人君はもう理解しているけれど、怒った上司を立てて分からないフリをしている感じがしたけれど、全部理由を伝えた方が新人君の勉強にはなるかな、と考えた。

「とりあえず他の人達の邪魔になるから、椅子に座んな」

私は正面のパイプ椅子を指差しながら、殆ど吸えなかったタバコを灰皿に押し付けた。

「いえ、ここで」

あのね。君が椅子に座る私の真横で正座してたら、せっかん してるように他テナントの人達に思われちゃうでしょ…
私 異動して来たばっかなんだよ、怖い噂立てたくないんだよ(涙)

「いいから、お座わんなさい」

2~3回 着席を促したが、新人君は断固として椅子には座らなかった。

──くうぅ…さっさと話を片付けてしまうしか、無い(涙)

「さっきの練習もさ、実際に有った事例なんだよ」

私はポツポツと語り始め、時折「分かる?」とか「自分がお客様だったら、どう思う?」とか質問を挟んだ。

──ガチャ。

うわ!人が来ちゃった!

「え、取り込み中??」

「あ、気にしないで下さ~い(汗)」

しかも何故か喫煙時間が被るマダムショップのスタッフさん。
よく喋る顔馴染とか、勘弁してくれよ(号泣)

訝しみつつ着席するマダムさんを他所に、私は早々に締めに入った。

「リアルに人間を相手にする商売だしさ、何か起きた時の対応一つで、お店の評判が変わるんだ。
ここら辺は特に気難しい方々が多い地域だから、クレームにでもなって嫌な思いをするのは お客様だけじゃなくて、本社の人もだし君もなんだよ」

あー…疲れた…

私は癖でソフトパックを振ってタバコを咥えていた。

「──あ。私もう一服するから、先に お店戻ってて」

「分かりました…本当に申し訳ございませんでした!」

「もう分かってるなら頭下げなくて良いからさ、ね?」

「コーヒー、ご馳走様でした!」

新人君は深深と頭を下げ、ようやく退出して行った。

「…なんか、凄いところに居合わせちゃった」

「あ~、休憩中なのに変なもん見せて、ごめんなさい…」

マダムショップのスタッフさんには申し訳無い事をしてしまった。
気が休まらなかっただろうな、この人(遠い目)

「てっきりドライな人かと思ってたんだけど。何〜?結構 熱い人だったんだね~(笑)」

「いや…お恥ずかしい限りで…」

マダムさんは茶化して場をとりなそうとして下さって、私は顔から火が出るほど恥ずかしかったですよ。

この人に知れたって事は、瞬く間に館中に正座の話が広がるんだろうな…(諦め)

その後は普通にお店に戻って、普通に新人君のフォローに付きつつ業務終了。

そして、翌日──

私は通しシフト、新人君の独り立ちに向け、口出しせずに観察をしていた。

まぁ この分なら、明日独りにしても平気かな。

翌シフトは新人君が早番、既存スタッフが遅番、私は休み。

私の休憩で独り店番を軽く経験させて、特に電話も掛かって来なかったので問題無かったんだろう。

もちろん心配だから、シフトの休憩時間いっぱいなんて取らずに戻ったけど。

新人君の休憩を回し、おやつの時間過ぎ──

「店長、話が有るんですが…」

神妙な顔で口を開いた新人君に、嫌な予感がした。

「今日で、バイト辞めます」

──やっぱり!??

突然来なくなるよりかは出勤したんだから褒めるべきなんだけど、私としては今日で辞められてしまうと、困る訳で。

「辞めるのは止めないけど、せめて明日まで働かない?」

「いえ、今日いっぱいで辞めます」

うー、あー…

私は瞬時に頭の中でシフトを再生、自分が何連勤になるか数えた。

いやいやいや…せめて明日だけでも出て欲しいんやが…

辞める、と言い出したら、やる気も失せてるだろうし、明日の朝 突然来なくても困る訳で。

「──ちょっと営業に電話して来るから、お店番してて」

私は店舗携帯片手に、お店の見える館入口の隅で課長に電話をした。

「実は、こないだ採った新人君が『今日付けで辞める』と言い出してまして…」

『ぇえッ!? ちょっと○○さん、何やらかしたの!!!』

かくかくしかじか で。

『ヘルプもこんな突然じゃ用意出来ないし、募集も下げちゃったし、明日から どうすんの!』

電話先からガサガサと紙ずれの音が聞こえる。
多分、エリアのシフトを確認してるんだ。

「とりあえず、明日は私出勤するので…あとはスタッフさんに通し出来るか確認して、C店から休憩交代 入れてもらえればシフトは回るんスけど」

『あ、そっか。なら、辞めさせちゃいなよ。もう やる気無いでしょ』

「そっスね」

とりあえず話してる間にシフトは回る事に気付けて良かった。

『募集も再度掛けるけど。経費がかさむから直ぐに、とは行かないんだよ』

はい、仰る通りで…

バイトの募集広告を出すのには一週一枠十万くらい飛んじゃう訳で。

『まぁ、君は分かってると思うけど。雇っても雇っても すぐ新人が辞めちゃう所とか、店長の評価が下がるんだからね』

「はい、面目次第もございません…次は無いように重々気を付けます…」

2~30分お小言というか愚痴を言われたけれど、そこまでお咎めは受けずに電話終了。

誤記
一週 ✕ → 一回 ○

こうして、新人君は三日で辞めて行った。
まぁアレがアレやから、面倒が起きる前で良かったと思う(遠い目)

翌日。
課長から電話が来た。

『新人君に支給したワイシャツの価格と品番、教えて』

本社研修と合わせて5日ぶんの給与は日割り交通費と共に指定口座に振り込まれるが、日数が浅く退職した場合、最初に制服として支給した商品は、丸っと給与から天引きされる。

しっかりしてんな、と思う。

余談であるが、私が面接して採用した方で初日来なかった例を除き、三日で、ましてや半年も経たずに辞めたのは、後にも先にも彼だけである。

この一件で学んだよ。

“私欲にまみれるて面接すると、人を見る目が曇る” んだな、と。

なんやなかんや気難しいのは、地もピーである私も例外で無かった、なんて今なら思うけど。

彼のペンネームも漫画のタイトルも忘れちゃったけど、この出来事が創作の一助にでもなって、今も漫画界で活躍されていれば幸いだ。

─ケース3─

現役中に一度結婚した私。
入籍後、しばらくは旧姓のまま働いていた。

お店も同じだし、みんな呼び慣れているし、私も新姓 呼ばれ慣れてないし。

そんな期間に何か知らんが、ウチのお店で働きたいんだと、しつこく電話を掛けてくる女性が居た。

特に募集もしておらずスタッフも定着していて「採れない」と再三お断りをしたんだが。

他の店舗でも掛けてるようで、店長間で噂になっていた。

何でそんなにウチで働きたいんだろう(遠い目)

最初は丁寧にお断りしていたんだが、女性は何か知らんが私を気に入っちゃったみたいで名前もおぼえられちゃって。

半年くらい割と決まった時間に、毎日のように『○○さんと一緒に働きたい』と、電話が掛かって来てたかな(遠い目)

あんまりしつこいんで他にスタッフが居る時は、代わりに電話に出てもらって「○○(旧姓)は出ています」と伝えてもらってた。

要は居留守である。

東日本大震災直後、私は新店を任される事になった。

もれなくバイトの募集が掛かる。

連絡先も私が受けられるように、メインのI店になっていた。

しばらく なりを潜めていた女性だが、募集が掛かったと知るなり動き始めた。

今度は無理矢理入ろうと言うのではなく、正攻法。

──困ったな。

既に再三のしつこい電話で面倒な人だと分かっている。

お断りしたいのは山々なんだがスタッフが決まっても、募集記事は次のフリーペーパーが配布されるまで残ったままだったりするんで。

何より募集枠で新店の場所も明かされちゃってるから、あっちでも しつこくされたら厄介なんで。

──今のうちに、どうにか諦めさせるしか。

「…新店への応募ですね。面接を行いますので、I駅かC駅まで来れますでしょうか?」

私は一度 面接してから、お断りする事にした。

電話で言ってもどうにもならないんだから、直接 会ってザックリ斬れば諦めるかな、なんて考えで。

『K駅の募集じゃないんですか?どちらも遠くて行けません』

──何だと!?

「新店はまだ開店していないので、私が所属するI店かC店で面接を行いたいんですが…」

何度か来店を促したが、女性は頑として『行けない』の一点張り。

いやアンタさ、あんだけ散々I店で働きたい、て言ってたじゃん。

通常ならば指定場所に来れないだけで

断る口実にもなるんだが。

「──では、K駅でお会いしましょう」

私は仕事が休みの日にK駅まで出向き、その辺の喫茶店で面接する事にした。

初めて会う人間と店舗外での待ち合わせ、私もK駅には詳しくない。

「携帯番号を教えていただけますか」

文明の利器、ガラケーが無ければ合流も難しい。

『携帯、持ってないんです』

──何だと!?

『固定電話なら有るんですが』

いやいや、固定電話じゃ意味ないじゃん!

「…ご自宅からK駅まで お近いんですか?」

『30分くらいです』

──詰んだ。

せめて5分圏内だったら、出向いたK駅で出口や目印を伝えられもしたんだが。

うぅ~ん、う~ん(悩)

「一応、固定電話の番号を教えてください…私の携帯を教えておきます」

連絡先を控え、日時を すり合わせ。
自分の個人携帯の番号を知らない人間に教えるのとか嫌過ぎるんだが、致し方ない。

迎えた面接当日──

なんかな~、わざわざ休みの日に15分くらいの面接のためだけに小一時間電車乗るのも、なんかな~…

断る前提でいるので、モチベも上がらん。

ぼんやり車窓から川やらス○イツリーやら富士山やらを眺め、辿り着いたK駅。

改札を出て直ぐに、目立つ銅像が目に入った。

良かった~、あの前に居れば改札でも、左右の出口どちらから来ても、見付け易いに違いない。

私は銅像の前に陣取って、きょろきょろ見回し女性を探した。

まだ来てないのかな。

ちらほらコンコースを往来する人は居るんだが、待ち合わせっぽい人は居なさそう。

そして待つこと──30分。

来ないんだけど。

待ち合わせ時間はとっくに過ぎている。
携帯に固定電話からの連絡も無い。

すっぽかしか…

面接予約ではよくある事。
無連絡遅刻の段階で お断りなんだが。

ううん…

帰っちゃっても良いかな~なんて思うけど、下手に帰って「待ち合わせに来なかった」なんて難癖つけられても困る。

私は携帯をパカッと開いて、固定電話番号を押下した。

♫プルルルルル…

──出ないし、留守電にもならんのだが。

弱った事になった。
ひょっとしたら こちらに向かっていて留守なのかもしれない、と思うと、帰るに帰れない。
伝言も残せない。

身動きとれない…

数分待ち、再度コールする。

♫プルルルルル…

さっきは20コール程で切っちゃったけど、も少し長く待ってみるか…

30コールを超えた時だったろうか。

──ガチャッ

『もしもし』

繋がった!

「私○○社I店の○○と申します。○○さんはいらっしゃいますか」

『私ですが』

──はい???

貴女、何でまだ家に居んの。
時間間違えてんの?

「面接時間を過ぎておりますので、今回の話は無かった事に…」

『30分待ってください!すぐ行きます!』

えー…ヤダ。

だって所要時間30分て面接予約の電話で言ってたじゃん。
何で待ち合わせ時間に間に合うように家出ないの。

思ったけど、本人と通話出来ちゃった以上、下手に断ると後々面倒臭いかも…

「承知致しました。私K駅の銅像前に立っておりますので」

苦渋であるが更に30分、待ちぼうけを喰らいましたよ(遠い目)

「お待たせしました~!面接の○○です!」

あ~、ようやく来た~。

歳は30代くらい、地味目のお姉さん。

肩で息をして、ちょっとは急いで来た風に見えるが。

「走って来たんですか?」

「いえ、自転車飛ばしてきました。自転車なら10分なんで」

──ちょっと待て。

最初に聞いたのが徒歩時間だったのは置いといて、自転車で10分て事は何だ、残りの20分は何してた?
身支度か?
身支度すら してなかったのか?

おかしいだろ。面接する側が身支度込で1時間以上 待たされるとか。

来るつもりだったんなら、私が電話する前に家出ろよ。

と思ったのは、内緒だ。

駅から少し歩いた純喫茶にでも行こうと思ってたけど、もう面倒臭い。

「あそこで良いですか?」

私が指し示したのは駅に良く在る、コンコースの小さなチェーン喫茶。
席数少なく奥行狭いカウンターしか無い。

面接するのに横並びだとか、凄ぇやりにくいんだけど、履歴書預かったら帰るし。

「好きなの頼んで良いですよ」

今日私が面接でK駅まで出てくる話は永久さんにしてあるし、コレ絶対、本社に交通費と一緒に請求してやる。

女性の遠慮の無い注文に加え、いつもなら一番小さいコーヒーにする私だが、一番大きな入れ物にしてもらった。

「では改めまして、今度P店を任される○○です。早速ですが、履歴書を頂けますか」

いつもの喫茶店面接なら先に飲み物少し飲ませてから始めるんだが、一分でも早く終わらせて帰りたい。

女性がカバンから取り出したのは…

クタクタな四つ折りのA4コピー用紙。

──う。

お世辞にも綺麗とは言えない使い込まれたコピー用紙を恐る恐る開いてみると…

パソコンで印字された活字の履歴書だった。

手書きじゃないんかーい!

初めてだったよ、たかだか販売のバイト面接で使い回し印刷を持って来た人。

──まぁ、昨今は活字の履歴書も増えてるらしいし。

「パソコン、お得意なんですか?」

なんて世間話で繋ぎながら履歴書の中身を確認。

片面印刷のA4が一枚。
経歴、の部分しか無い。

──まぁ、バイトの面接だし得意科目だとか趣味だとかは無くても良いけど。

良いっちゃ良いけど、なんか納得いかない。
こんだけ しつこくされたんだから、志望動機くらいは欲しい。

何より気になったのが──証明写真が未添付だった。

「お写真は持って来てます?」

「採用されたら提出します」

──そういう問題じゃ無いんだけど。

「募集要項にも『顔写真を添付した履歴書』とあったと思いますけど」

「まだ撮ってないんです」

写真代も馬鹿にならんから捻り出すのも大変なフリーターさんも多いし、過去にはプリクラが貼られていた時あるし。

でもなぁ…

貴女、ご実家でしょ?
写真代くらい何とかならんかったの?
そんなに顔を晒したくない理由が…???

色んな疑問が溢れてきちゃって、頭ん中たいへん。

だが、不採用が確定しているのに質問攻めにして、時間掛けるのは避けたいところ。

せめて志望動機くらいは聞いとくか。

「履歴書に書込みしても?」

「この履歴書は返却して欲しいので、書かないで下さい」

──何だと!!?

このクッタクタのコピー用紙を再利用しようと言うのか?
だから志望動機を入れられなかったのか?
ていうか、活字なんだから何枚でも同じの印刷出来るだろ?
他所でも採用されないぞ、こんな身薄な履歴書──

もうね頭ん中、大洪水。

誤記
永久さん ✕ → 営業さん ○

「──はい。返却希望、ですね」

いつもなら直接履歴書に聞き出した注釈なんかを矢印書きしちゃうんだが、私は面接官用のチェックシートの空白にメモを取る事にした。

せめてな、履歴書に日付くらい入れたまえよ。

──いや。使い回す前提だから、それすら出来んのか。むむむぅ…

いつでも締めちゃって良いと思ったけど、他の面接した方々と同じく、時間帯希望だとか勤務時間だとか聞いて、社保・制服の説明までした。いちおう義務なんで、多分。

「──では、今日は以上です。採用の場合は一週間以内に連絡します。連絡が無い場合、若しくは、履歴書がお手元に戻りましたら、今回はご縁が無かった、という事で」

「ありがとうございました!私もう○○さんと働けるのが楽しみです!」

──そんな未来は、訪れませんよ。

「じゃあ私、本社に連絡しなきゃなんで、ここで」

女性を追い返し、ようやく解放されたのは私が家を出発してから かれこれ3時間後。

私は残ったコーヒーを持ち、喫煙席に移った。

──あぁ…疲れたなぁ…

一服して面接終了の一報を営業さんにメールすると、どっと疲れが押し寄せる。

あ~ぁあ、明日から連勤、嫌ぁだな。

翌日、営業さんに面接状況を電話する。

『どうだった?』

「無いっス。無連絡で30分遅刻して来ました、無いっス」

『うわ、無いわ。私だったら5分も待たずに帰るけど』

「私も そうしたいのは やまやまでしたけどね、ちょっとばかり厄介な方で…」

もうね、営業さんに一気に愚痴っちゃったよ(遠い目)

さて、履歴書のコピーも一応取ったし、返却返却。

店舗にあった適当な封筒に履歴書を入れようとして、考える。

──この折り方じゃ、封筒に入んないじゃん。

生憎と長封筒しか店舗に無い。
A4四つ折りのままでは入らない。

えー…

切手代も掛かるってのに、大きな封筒使うのもアレだし、わざわざ横封筒 買いに行くのもアレだし。

──えい。

少し悩んで、私は四つ折りを更に縦に、八つ折りにした。

即ポストに投函したいところだが、4日程 寝かせてから返却する。

だってほら、一週間猶予を貰っちゃった手前、先に届いちゃっても何か起きそうじゃん。

──つい癖で「一週間」て言っちゃったけど「3日」にしとけば良かったな。

そして、面接から一週間後の日中──

♫プルルルルル…

店舗の電話が鳴った。
いつも通り1コール置いて出ようと受話器を手に取り掛け、私は静止した。

──嫌な予感がする。

あの方からの電話な予感が、ビンビン手を伝わって来る。

「──大変お待たせ致しました。○○店△△(新姓)が受けたまわります…」

いつもなら2トーン声高に明るく出る電話に、私はガチトーン尚且つ今まで名乗った時の無い新姓で応対した。

『ぇえと、○○さんは…?』

「どちらさまですか。どういったご要件で?」

やや口調強く、つっけんどんに返す。

『先週面接してもらった○○なんですが、履歴書が返却されて来たので どういう事なのかなって…』

「ああ。○○さんですね、○○(旧姓)から伺ってます。不採用です」

『え…???』

女性は理解が及んでいないのか、説明をしてくれと何かの間違いだと食い下がってくる。

「おかしいですね。○○(旧姓)は不採用の場合の説明はしてませんでしたか?」

『採用の場合は一週間以内に連絡すると…』

「不採用の場合は連絡しない、とも必ずお伝えする筈ですけど」

咄嗟に△△(新姓)という別人を装った訳だけど、伝えた本人だからね。
嘘は言ってないよ、一応。

『不採用なんておかしいです!すっごく気に入ってもらえて話も弾んで…何でですか!』

それは素の自分だと何言うか分かんないから、接客スイッチを入れてただけ。

「採用基準は お伝え出来かねます。営業中ですので、失礼致します」

ガチャン!

別に怒っちゃいないけど、嫌な感じのスタッフが居ると思わせたくて、いつもなら通話ボタンを押下して切ってから置く受話器を、切らずに強めに土台に置いてみた。

これで一件落着──な訳なかろう。

その日の就業後、自分の携帯をパカッと開いて、戦慄した。

──着歴が “非通知” で、埋まっている…だと!!?

ダーッと入った非通知履歴は、ざっと十数件。
残された伝言メモは勿論、無言。

いきなり こんなに非通知の連絡来るだなんて、あの女性から以外 考えられない。

──ぬかった…

そう私、待ち合わせの為に自分の個人携帯を女性に教えちゃってたのよね(遠い目)

少し逸れるが この話を営業さんや他店長に聞いたら
「店舗携帯を教えて持っていく」
とか
「店舗に電話してもらってスタッフに伝言を回してもらう」
とかの回答を得た。

知らない人間に、うかうかと個人携帯を教えるもんじゃありませんよ。

「さっき電話あったよ『○○(旧姓)さん居ますか?』って。多分、あの人」

「マジか」

もれなく店舗にも電話が毎日のように掛かってきて、私は異動する日まで新姓で電話に出る事にした。

私が△△(新姓)で電話に出ると、即切られたり無言電話だったりするんだな。
もうね、営業妨害の域だったと思うよ(遠い目)

携帯も「発信者番号通知をして、おかけ直し下さい」メーセージの非通知着拒にしたら、今度は公衆電話から掛かって来るようになってしまった。

終いには無言電話に私「○○(旧姓)は異動しました!二度とI店には出勤しません!」つって、ガチャンッ!と切ったよ。

後日談──

私はP店の帰りに仲の良いスタッフと喋る為に、I店に ちょくちょく顔を出していた。

「X店長が こないだ面接した人、あの人だと思うんだけど…」

「マジか」

何が楽しくて そうまでして、うちの会社に務めたいんだろう…

I店に残されていた履歴書を見せてもらうと、確かに あの、くったくたのコピー用紙であった。

「うーわ、まだコレつかってんだぁ…」

証明写真も未添付である。

「前の時も同じのだったの!?」

「うん。封筒入らなくて変な八つ折りにしたの、私だから」

「うーわー…」

やっぱ酷いと思うよね。

「X店長が『面白そうだから、採っちゃった』って…」

「マジで!??」

何考えてんだ、X店長…私あの人の話してた筈だけど(引)

「なんか、本社研修一日だけ参加して、次の日 来なかったらしいよ」

「マジか」

こうして、恐らく二度と女性から連絡が来ることは無くなった訳だ。
X店長、様々…なのか???

─おまけ─人を見る目

冒頭で語った このスキル、仕事面では発動するけど、プライベートでは ほとんど発動せん。

仕事は「会社の利益」だとか「優秀な人材」だとかのフィルターが掛かる。

恋愛面では「いかに尽くせるか」だとか利益度外視だったりする。

だから失敗しちゃうんだよなぁ、いつもいつも(哀れ目)

── “恋は盲目” とは、言い得て妙。

(28)に続く──

ネットリテラシー

時折、ウッカリした米のアクセスが爆伸びしたりすると、もの凄い恐怖を感じる。

元々、自己顕示欲なんて殆ど無いチキンの引きこもりなんやから、仕方ない。慣れるしかない。

…一年半経過したけど、全然慣れん。

ただアクセスが集中してる、てだけなのになぁ。
作家を目指すには致命傷とも思う。

それと言うのも、かれこれ十年ほど昔。

私は自称サービスエンジニアという、SEだった。

システム系の職場では、中途参加の私みたいな新参者は知らない事が多過ぎる。

ある時、務めるオフィスビルに続く遊歩道で、カニを見掛けた。

おおッ!? こんな所にカニが✨!

多分サワガニというやつ。

海岸からは少し距離があるけれど、こんなとこまで歩いてきたのかなwkwk

私はカニを視認してから通り過ぎるまで、じぃっと観察した。

5m程進んだ時。

──あ!写真撮ろ!

思い立った私はスマホを出し、来た道を振り返った。

すると、別の女性がカニの辺りで腰を折り、懸命にスマホでカニの撮影を行っていた。

ぅうん、私も撮りたいんだけど…

カニを追う女性は、なかなか撮影が終わらない。

──もぅ、いっか。

始業時間も迫っているので、私はカニの撮影は諦めた。

「おはようございまーす!聞いて下さいよ、さっき道にカニが居て!」

──ザワッ

早速、世間話にカニの話をしようとした瞬間、何故か職場がザワついたのを感じた。

よく分からないけど、私は気にしないでカニの写真を撮れなかった話を一気にした。

「──あぁ、驚いたぁ」

話を聞き終わるしな、先輩方は胸を撫で下ろした。

「知らない?ちょっと前にね “道端にカニを置いておいて、通りすがりの個人を特定する” てのが流行ったんだよ」

「え。カニで?どうやって…?」

「カニって、コレでしょ」

!?!??

先輩のPCモニターに映し出されたのは、紛れもなく先刻通り過ぎたカニの画像。
背景が遊歩道の塗装だったから間違いない。

「コレ…さっき撮影してた女の子の…???」

カニさん、とことこ。

「うん。コレはTwitterに呟かれたツイートだけど、ここから…」

!!???

先輩はSNS類を駆使し、あれよあれよと言う間に、女の子の氏名年齢・勤務先から出身校、更には居住地まで割り出した。

──怖ーッッッ!!!!!

目の前で楽しそうに個人情報を暴くSEの姿は、派手なトラウマになってしまった。

世の中には出来ちゃう人間が五万と居るんだよ、世界中ならもっとだよ。
SNSは怖いんだよ。

ネット上で身を守るのは自分しか居ないんだよ。
みんなも、注意してね。

あ、もちろん先輩方が女性に米して画像下げさせたし、検索してもその子は出ませんよ。(確認済み)

シーン・ビジネス(28)

I店に着任して、早速 直面した人員不足。

3日で辞めた男性スタッフの代わりに、早番で出勤した。

「あれ?○○さん早番??」

突然のシフト変更に遅番で出勤した、既存スタッフのHちゃんは驚いていた。

「ごめん、実は~…」

かくかくしかじかは『シーン・ビジネス(27)─ケース2─』を、ご参照下さい。

「突然だけど、明日 通し お願い出来る?流石に私、休みたい」

「いいよ~」

シフトに融通の利く子で、本当に助かった。
C店に休憩交代の依頼をし、課長にシフト変更の連絡をする。

私含むI店スタッフは全2名。
暫くは どちらか休みの日は 片側が通しで休憩交代を貰う。

当面のシフトはどうにかなるけれど、いつまでも このまま、という訳にもいかん。

早急に人員を確保せねば…

自社には友達紹介システムが有る。
スタッフを紹介して定着すると、報奨金が貰える。

一回分4分の1程度、何回掛かるか分からん募集広告費に比べれば お安いもん。

むむぅ…

一人、直ぐに務められそうな知人にアテがある。

──だが、私が既に「辞めたい」と思っている仕事に、誘うのも…

気が引けまくったが、一応、聞くだけ聞いてみた。

答えは──応。

ありがた~い✨✨✨

という思いと、

こんな会社で ごめ~ん(大汗)

という思いを、同時に抱いた。

もちろん「辞めたくなったら、私に構わず即辞めていいからね」とは伝えましたよ。

課長に知り合いを紹介したい、と電話した。

『そんないい話 あったんなら、こないだの男の子 要らなかったじゃん』

「あの時は知り合い紹介しようだなんて考えて無かったんスよ。いいこなんで、よろしくお願いします」

紹介であっても、形式的なものは必要らしい。
写真を添付した簡単な履歴書を作ってもらい、お店に持ってきてもらった。

面接はどうだったかな、希望だけ聞いて他はしなかったと思うけど。
採用してから課長がミーティングに連れてったかな?

予定されかけていた募集広告も下げてもらい、私は ちゃっかり紹介料を受け取った。

──そして、ここからも地獄である。

仲の良いスタッフ、昔からの知り合い、当然 呑みなんかで仕事の愚痴を言っちゃってた、私。

スタッフに幹部批判しない。

信条だ。

愚痴りたい気持ちと、会社絡みの事は うかうか喋れない気持ちとの せめぎ合い。

──呑み会でも口を滑らせられないの、むっちゃ辛い(号泣)

思い切り愚痴りたいけれど、踏み込み過ぎた話は出来ない訳で。

知り合いと一緒に働くのって楽しいけど、上司と部下になると 非常に やりづらいんよ(遠い目)

楽しかったけどね。
課長さえ絡まなければ、めちゃめちゃ楽しかったけどね。

本社研修も良好で 覚えも良いから教えやすいし、多少の無茶も言い易い。

──あぁ、今までのアレ達、なんだったんだろう…

思ったよ。もっと早くに紹介すれば良かったな、て思ったよ。

こうして すんなりI店のスタッフ問題は解決。

問題は──C店にあった。

新C店長が、毎日のように夜電話くれるようになっちゃったんだ。

あんだけ ガーッと詰め込んだもんだから、ほぼほぼ覚えちゃいなかったんだか、覚えてないフリだったんだか。

営業中も勤務時間外も休日も、お構い無しに長時間。

仕事の話は10分程度で、大概世間話で一時間強。

私が勤務中なら「お客様来たから」て切れるけど、以外は別段 切る理由もなく。

困るのは早番で上がり掛けに電話来て、向こうの閉店時間まで お店に滞留しなきゃだったり、新人が独り遅番で電話待機している勤務時間外。

『電話中だったからメールにした』

ての、良くあったな(遠い目)
ごめんね。

もちろん すぐに店舗に掛けて解決してるか確認、未解決なら そのまま指示を出す。

──あの電話が無けりゃ、も少し早く帰してあげられたのに(涙)

なんて、しょっちゅう思ってた。

引き継ぎとか教育として…よりか度が過ぎると思うけど、向こうに悪気は無いから無下にも出来ん。

私は私で原因不明の手痛やら背部痛やら出始めていて、何より不眠が顕著だった。

鬱積した鬱憤を晴らす場も無く、気付けば家で癇癪を起こす始末。

とにかく、無理が利かなくなって来てて、年かな~なんて思ってた。

夏頃には電話は落ち着き始めたけれど、いつ掛かってくるか分からない電話に身構えるのも疲れちゃう。

またね、ガラケーの着メロ設定で、店舗からの電話を『銭○平次』本社関連からの電話を『水○黄門』にしちゃっててさ、テレビからイントロ流れるだけビクーッてなっちゃって、しばらくトラウマ化してしまったよ。

ちなみに、知り合いからの電話は『ア○パンマン』にしてて、時々ア○パンマン観ると「いい歌だな~…」て 涙が流れるようになっちゃって、終いには号泣するようになっちゃってた。

今思い返しても、重症だな(遠い目)

スタッフ2人は出来れば早番希望だから、私のシフトは遅専で良いと思うんだけど、課長は「店長なんだから早番もやんなきゃダメ」だって。

早番の日は「前日から寝ない」を選択する。
でないと朝起きられる気がしないから。

でもね、二十代後半に差し掛かって そんな無理、続く筈も無く…

普通に遅番の日の遅刻が目立つようになってきた。
大きな遅刻、というでは無く、2~5分の小さな遅刻。

とはいえ、遅刻は遅刻。

「店長で こんなに遅刻するやつ、居ないよ」

自分でも何とかせねばと思っていたから、アナログ目覚まし買ったり携帯アラーム増やしてもダメで、罰金制にしてみる事にした。

空き缶の蓋にコインの通る穴を開け、メモ用紙を貼り付ける。

「何作ってんの?」

「罰金箱。100円から初めて一回遅刻する毎に倍にしていく…あ、もちろん、対象は私だけね」

これで少しでも癖になってしまった遅刻を直せれば…

なんてな、直らんよ。罰金ごときでは(遠い目)

千円超えたらヤバい、と思ってたけど、気付けば万行っちゃってて。

しかもね、月イチの店舗呑み会で基本奢るのに罰金箱の中身も使っちゃうんだから、そもそも罰金の意味をなしていなくって。

「…罰金、止めていい?」

二万超えた所で、自発的に止めた。

この頃かな、不眠とオーバードースで心療内科に通い始めたの。

そして、I店に所属して8ヵ月ほど経過した頃──辞令が下った。

副店長に降格処分。
I店C店 兼務、同じくI店C店兼務のX店長に付き、勉強する事。

あぁ、仕方ないよなぁ…自分が悪いんだもの。

初めて始末書も書かされた。

書式なんか分からなくて、“始末書” “反省文” で検索して検索して、どうにか綴った。

始末書を受け取り一読した課長に言われた。

「これ “始末書” じゃなくて “報告書” だよね」

──え?? 何か間違ってた!??

検索した限りでは日付等のレイアウトは置いておいて確か、事象説明→原因究明→解決策提示→謝罪、みたいな感じだったと思う。

私は始末書の中に “不眠の為、心療内科に通い始めたが、睡眠薬の飲み方に慣れておらず” 的な下りを入れてしまっていた。

課長曰く「こんなのただ “体調不良だから病院通って薬飲んでます” っていう報告じゃん」とのこと。

ぐうぅ… “体調不良は言い訳にならない” って自分に言い聞かせて生きてきたのに、言い訳に使っちまった(号泣)!!!

とはいえ、他に理由も無い。
不眠症だから起きられない、ではなく、起きられないから解決策を講じようと、自力でどうにか出来るレベルじゃ無いんだよ。

弱った、書き直せとか言われても心底困るし(涙)

「…まぁ、初めてだからコレで一応受け取るけど。ほんの5分早く家を出るだけじゃん、気をつけてよね」

その “5分” が、今の私にはキツイんです…!

「承知致しました、重々肝に銘じます…」

としか、言えない(遠い目)

始末書を書いた私は降格し、始末書を受け取り本社に提出した課長は部長に昇進した。

若干、スケープゴートにされた感がしなくも…ごにょごにょ。

この話、知り合いちゃんに言ってないかもしれない。
表向きは “結婚を機に降格” て事になってたけど、アレな、遅刻が原因やから。
ごめんね。

「来月から副店て事は、今月予定されてる本社のエリア店長ミーティング、参加しなくて良いですよね」

エリアミーティング等も8h労働と同義だから、下手すると最低労働176hを下回ってしまう。シフト表を確認して穴埋め出来る日を探す。

「何言ってんの。今月は未だ店長なんだから、参加するに決まってるじゃん」

「──は?」

始末書書いた上に、更に顔見知りの店長らに生き恥を晒せ、と言うのか、この鬼は!!?

「嫌っスよ!来月から副店なんだから出る必要一切無いでしょ!?」

「ダメ。参加しなきゃダメ。強制参加」

くううぅ…絶対ただの思い付きでしょ!こんなの横暴だ!

反感を抱くも、全部自分で蒔いた種やから言い返せず。

もの凄~く憂鬱なまま、その日を迎えてしまった。

「来月からI店、Xさんが来るんだって?○○さんは どうして副店に戻るの?デキちゃった?」

「あッ…ぇえ~とお…(蒼白)」

──終わった。
とっくに私が降格する話は、本社内だけでなくエリア全域に知れ渡っていた。

「あ~…妊娠はしてないんスけど、入籍するんで落ち着くまで…」

「あらやだ!おめでとう!」
「そうなんだ!おめでとう!」

みんな口々に お祝いの言葉をくれて、猛烈に居た堪れない。
下手に顔が売れてると、こういう目に遭うよ(遠い目)

──何かしてないと、今日一日 乗り越えられる気がしない(号泣)!

私は手持ちのビジネス手帳の末尾のメモページを開いた。

ミーティング内容は接客に関してだったかな。

顔は上げて営業スマイル、話に相槌意見しつつ、ひたすら ひたすらペンを走らせる。

ほぼほぼ一言一句余さずメモったから、もうぐっちゃぐちゃで読み返したくもない。

初めて手帳のメモページ、全部使い切ったよ(遠い目)

ミーティングの終わり頃、一服していた私の真隣に課長がやって来た。

「なんか、ごめん…」

何か知らんが、謝られた。

「…今日 私、来た意味、有りました?」

「…本当に、ごめん」

毒づき始めた “ハブ” と、マングースもとい “タヌキ” の闘いは、まだまだ開幕したばかり。

──あ~ぁあ。
私がC店に戻るんなら、あんだけ頑張って引き継いだ意味も、無かったんじゃないかなぁ。

諸事情で閉店した系列フランチャイズ出身のX店長は、課長曰く「接客は凄い人」らしい。
「その代わり、その他が…」ごにょごにょ。

C店長とX店長の引き継ぎは無く、私がI店C店 両方を伝える事に。

兼務シフト、久々に組むなぁ。

たかだか一年しか経過していないのに、もの凄く昔のように感じてしまう。

引き継ぎ前に翌月分のシフト表を作成する。
C店スタッフの条件も特に変わっていなかった。

──お、兼務になった事でヘルプ貰おうかと思ってた入籍予定日が、休みに出来るぞ♪

ちょうど同日入籍予定のHちゃんと希望休被ってて、二人同時には休めないから どうしようかと思ってたんやが、C店スタッフ二人・I店スタッフ一人+X店長 で、回っちゃうわけ。

こんなね、ラッキー(?)も有りましたよ。

X店長は遅番希望…というか、遅専だったから、引き継ぎ 兼 勉強デーは私が早番。

──課長、私に「早番もやれ」って、言ってたくせに。

思わない筈が無かろう。言わなかったけど。

──私はね、慈愛と奉仕の精神に溢れ、ダメな事はダメって ちゃんと叱れる、誰かの為に生きるア○パンマンのような人に、成りたかった──

まぁ、今は あの頃の私に「ア○パンマンだってな、周りのみんなが助けてくれるから闘えてんだよ」って、教えてやりたいよ。

(29)に続く──

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