どうでもいい話(2022年 9月分)
就活⑤
『線維筋痛症と私』で語った、一身上の都合という名のクビ宣告を受けた直後。
月末には職を失う。
住宅ローンに支払い関係、とにかく次の仕事を見つけねば、生活が崩壊する。
体力は今より全然有ったと思うが、いかんせん お薬も低量処方で痛みと痺れは強く、猛烈な疲労感に襲われる。
立ち仕事は、もう出来ないな…
どうしても小売では、販売メインの立ち仕事になってしまう。
椅子に座ったまま出来る仕事、異業種への転身は余儀ない。
ただな、立ち仕事長いと長時間 椅子に座ってられんのよ。不思議な事に。
まあ 元々 接客から離れたかったのだし、私的には不幸中の幸いである。
─30歳─
現役時代末期の手帳が残っている。
当時「気持ちだけは明るくいよう」と思い、ビジネス手帳に黒ペン愚痴書きを止め、乙女ティカルな手帳にカラフルなペン・アイコンシールで可愛らしく楽しい感じに装飾するようにした。
目に痛いほどカラフル…カテゴリ色分けされてて追い易くはあるが。
休みの度にエントリーシート作成や履歴書郵送、どれも✕印だ。
ううん、思ってた以上に未経験の30代って厳しいかも…
翌月からは失業保険を受給しながら、方方 応募。
受給期間の3カ月の間に、何とか職に就けないと。
面接に こぎつけた会社も幾つかある。
その中に、Web系の出版社があった。
配信漫画の編集者だ。
多彩であろう編集の仕事、体力の衰えが若干ネックではあるが、大好きな漫画に携われるだなんて、好条件過ぎる。
エントリーには漫画の感想文を2本分、添付した。
普通こういう時って、その出版社の出してる漫画を選択すべき、なんだろうが…
漫画を買う費用も抑えていたから、手元にあった別出版社の漫画の感想文にしちゃったのよ…2本とも。
それで、良く面接に こぎつけたな。と、今でも不思議だ。
経歴の方に興味を持ってもらえたのかな?
面接当日、知らない土地で迷っても良いように余裕を持って家を出過ぎ、予約時間の3時間前に出版社のビル前に到着してしまった。
どうしよう…
とりあえず時間潰しに喫茶店を探し、タバコを吹かしながらコーヒーを飲んだが、きっかり一時間。
これ以上、じっとしてられない…
職業病である。
周囲を散策して、雑居ビル郡の裏手を観察して、小さい神社で野良猫の写真を撮ったりして、とにかく時間を潰したが、まだ30分有る。
仕方なく、出版社ビル前のガードレールに腰を下ろし、ちょい早だけど15分前にビルに入った。
迎えてくれたのは、編集長と部下だろうか。
お二方とも、整ったスーツ姿。
──失敗した!私もスーツで来れば良かった(泣)!
転職でスーツだと堅すぎかな、なんて思い綺麗めの私服にしてしまったんだ。
会議室で対面で着座。
履歴書を渡し、形式的な受け答えの後、編集長が尋ねてきた。
「BLとか、読む?」
読みます!ていうか、描きます!
全力で答えるべきであったが、お茶を濁した曖昧な回答をしてしまったんだ。
まだ羞恥心の残っていた私…なにやってくれてんだ。
その編集長も奇特な方だった。
リアルに『働○マン』の世界に生きていて「編集者はこうあるべき」という筋の通った確たる持論を、お持ちであった。
有難い事に 未知の編集の仕事の話を、たくさん聞かせて下すった。
面白く、大変勉強になりました。ありがとうございます♪
最後の最後に、質問された。
「漫画とか、描く?」
当時、机に向かえど簡単な絵は描くものの、漫画漫画した漫画は描いていなかった、私。
「ええと…イラストくらいなら…」
コラ!当時の私!何やってんだ!
正直に現状を言ってしまったんだ。
もし、全力で「描きます!」と答えていたら、別の未来もあったのだろうか…?
結果、桜散りましたよ。
失業保険の受給にあたり、毎月一度以上 ハローワークへ求職に行かねばならない。
個人で職探し応募しつつ、定例のハローワークへ行った、ふた月目。
端末でポチポチ検索するも、やはり資格無し未経験では全然ヒットしない。
有っても大卒以上だったり、色々と私には足りてない。
ため息が出ちゃう。
やっぱ小売の道しか無いのかな…三ヶ月位の店舗研修で立ち仕事、接客頑張るしか無いのかな…
それさえ済めば内勤の仕事も無くはなかった。
うーん…でもなあ。
どうしても店舗研修が引っかかってしまう。下手したら、そのまま店舗勤務になる可能性が拭いされない。
端末を閉じ、何となく上を見た。
太い柱にポスターが貼ってある。
パソコン初心者コース“職業訓練”の募集告知だ。
──これだ!!!
未経験なら学べば良い。
私は早速、職業訓練の相談窓口に移動した。
パソコン自体はブラインドタッチ出来るし、帳票グラフやマニュアル作成でE○cel・W○rdは何となく使える。
初心者…では無い。
プログラミングやアプリ作成のコースに応募したかったが、難易度 高。
相談員さんと相談しつつ、一足飛び過ぎる、との事で中級のパソコン系コースを探した。
有ったのがWeb制作の三ヶ月コース。すぐに申し込んだ。
職業訓練は受講にあたり、面接をクリアせねばならない。
求職もしつつ、面接当日。
全くノープランで赴いて、大したアピールは出来なかった。
そして、落ちた。
──ヤバい!
受かる気満々だった受給最終月。
大慌てで行った、ハローワークの職業訓練窓口。
相談すると、ギリギリ今日応募締切の、Web制作とプログラミング・職業実習付きの四ヶ月コースが有った。
学校がやや遠いが背に腹はかえられない。
念の為、確認した。
「これって、職業訓練中に受給期間 終わっちゃったら、どうなるんですか?」
「開校日がギリギリ被っているので、職業訓練終了まで延長されますよ」
めちゃめちゃ助かる!
駆け足で応募、面接にこぎつけた。
──ここまで数十の企業に落ちた。
後が無い。
バイトするにも、この歳で未経験は厳しい。小売での再出発しか、思い浮かばない。
同じ轍を踏む、それだけは、どうしても避けたかった。
異業種転身へのラストチャンスである。
一度、面接は経験したので、中身は分かる。
自分の略歴やスキル、受け答えをコピー用紙に数枚 書き込んだ。
面接の待合室で、コピー用紙と にらめっこ。
私の受験番号的には、定員オーバーしている。
面接に通らねば、道は潰える。
決死の思い、万全の体制で面接を受けた。
──結果、合格。
晴れて職業訓練生として、小売からパソコン業界という異業種、未知の世界への進行が開始した。
⑥に続く──
職業訓練ほんのり
クラスには、漫画家やイラストレーターとして活動しながら自費で受講されている方々もいらした。
その方々にペンタブの使い方を教わった。
担任の講師は現役のWebクリエイター。
あざとい手法も、ちょこちょこ話して下すった。
現在の私の礎だ。
本当に、ありがとうございます♪
偏食歴
これぞ、ザ・どうでもいい話、私が克服してきた食べ物達の話である。
いやね、真面目な話続いちゃったから、こういう すんごく くだんねえ話がしたくなっちゃうんスよ…
基本、ちゃらんぽらんな人間なので、よろしくお付き合い下さい(礼)
食べられない食べ物が 無い、のが現在の自慢。
あ、虫は無理。
ヤツら食べ物と認識してないから。一生 相容れないから。
コオ○ギせんべい とか食わせようとしてきたら、頬っぺた真っ赤になるまでビンタかまして はっ倒すよ。
小さい頃は好き嫌いが多かった。
気に入った食べ物は ひたすら食べ続ける偏食ぶり。
セロリ、レモンは生で良く食べた。
ひとえに、母親の手料理が不味…コホン。素材の味が最大限に活きた、素材の味しかせず味気なかったのも原因と思う。
高校から自分で晩飯を作るようになり、随分と色んな食材にチャレンジして、好き嫌いは減っていった。
そんな中、どうしても食べれなかったもの、克服への経緯 三選。
いってみよー☆
─貝類─
まず、ビジュアルがダメだった。
貝殻の中身って、なんかグロいじゃない。
母親の作る アサリや しじみ の味噌汁しか知らなかったが、身は砂を噛みまくってジャリジャリ ガリガリする、砂を食ってるイメージしか無く、身を食べることは しなかった。
完全な、食わず嫌いである。
魚屋時代、朝一の業務が落ち着くと、併設された寿司コーナーにヘルプに行く事が良くあった。
その小さいブースで一人お寿司を作っていた お姉さん(?)が、
「食べいー、食べいー」
言いながら、良く寿司ネタの試食をさせてくれた。
部門長が自ら仕入れた新鮮な お魚達。
とにかく何でも美味かった。
アジにイワシ、マグロも赤身から大トロまで。
もうね、うんまいのよ。
「ネタの味を知る、これも仕事」
という職人気質な お姉さん(?)の お陰で、連日 美味しい思いをしていた、私。
今日は何を食べさせてくれんのかな♪
ルンルンでヘルプに行った寿司ブースで、とうとう巡り会ってしまった。
つぶ貝である。
ええー、貝は無理(汗)
しばらく抵抗したが「食べいー」攻撃に負け、白い隆起のある身を手に持った。
ビジュアルは大人しめ。
頑張って脳内変換すればイカにも見え…なくもない。
──ええい、コレも仕事だ!!
ぱくん。
もぐもぐ…
ごくん。
──あれ?
意外や意外、飲み込めた。
どころか、コリコリとした食感に、後残る磯の香りに旨みが感動物だ。
うんま~い(喜)!!!
その日から赤貝・トリ貝・ホッキ貝。
ビジュアル的に一番ダメだったカキですら、自ら買い物カゴに入れた。
どれも美味い!
貝類は私的寿司ネタランキングで一気に2位に上り詰めた。
因みに、1位は茹でダコ。
─熱っつ熱つ─
超絶、猫舌であった。
ゆえに親友らと食事しても、いつも一番最後。
鍋やカップ麺ですら、小皿に薄く延ばして冷ます始末。
とにかく、冷めねば口にも入れられなかった。
だって、熱いんだもの。
現役時代中期、同棲していたパートナーが、めちゃめちゃ大食い早食いの人だった。
私も大食いではあったが、外食に行くと 私が半分も食べ終わらないうちに、食後のタバコに火を点ける。
「いいよ、いいよ。ゆっくりで」
なんて言ってはくれるものの、待たせてるのも 食べてる姿をじっと見られてるのも落ち着かない。
急いで食べ終わんなきゃ!
懸命ゆえ、会話無く無言のテーブル…
折角の外食だというのに、全く盛り上がらない。
「コレ美味しいね!」
「ソレちょっと ちょうだい!」
なあんて やりとり してみたいもんだが、夢のまた夢である。
だって、向うの お皿は既にカラッポなんだもの。
くうぅ…
何より負かされてばかりな気がして、私の なけなしな自尊心はズタボロ。
負けるものかー!
──そう、私の持ち前の負けん気に火がついたんだ。
意味わからんだろ。
その日から、普通のご飯も早食い修行。
とにかく大口でかっこむタイムアタック。
熱っつ!熱つ熱つ!
口の中を火傷しようと手は止めない。
早食いを習得しつつあったが、まだまだパートナーには届かない。
ううん、熱いものをフーフーしてから食べるのが時間ロスだな…
パートナーはフーフーすら、ほぼせずに口に入れている。
…これ、口の中で冷ませば良いんじゃ。
試しに一口、フーフーしないで口に入れ、ほふほふ空気も一緒に食べてみた。
熱さに ひるむものの、火傷する程ではない。
──いける!
こうして 熱い食べ物を克服し、パートナーと同着で食べ終わる早食いスキルを手に入れたんだが…
まあ、二人とも食べるのに夢中だから、無言のテーブルには変わりなかったですね。
強いて言えば、薫り高い淹れたての熱つ熱つコーヒーが 出されて直飲めるようになったのが、猫舌治って良かった点かな。
─旨辛─
テレビで観るような激激辛は流石に自信ないけど、かなり最近 辛い食べ物を克服した。
まずは、私が辛い食べ物が一切ダメになった経緯から話さねばなるまい。
それまで得意では無かったがピリ辛くらいは食べれていた、中学時代。
毎年 姉らと共に、父親の自宅兼仕事家に泊まりに行ってた。
料理が趣味だった父親。
ふるまうのが好きで、いつも食卓いっぱいの料理の数々。
プロも顔負け、本格的で もの凄い美味いのよ。つい料理下手な母親と比べてしまうよね。
父親が最も得意としていたのが、中華。
それも、四川風。
お分かりですね。
「美味し~い!」
美味しい料理たちに舌鼓。
料理名なんか分からんけど、とにかく美味かった。
調子に乗ってパクパク食べ進め、大皿のピリ辛な炒め物を口に入れ噛み締めた、瞬間。
──痛ッ!!?
口の中に突き刺さる痛みが走った。
何何!? 痛い痛い!! 痛痛痛痛!!!
それもそのはず、炒め物には鷹の爪が丸っと入ってたんだ。
声も出せない。
そのうち、私の異変に気付いた父姉。
「あ、鷹の爪食ったんか!?」
鷹の爪かどうかも自分ではわからんが、とにかく口を押さえてコクコクうなずいた。
「吐き出せ、吐き出せ!」
と言われたが、既に飲み込んでしまった。
喉まで焼け付く疝痛。
「──辛~い(号泣)!!!」
コップに水を貰ったが、口の中から喉から、水が流れて行く刺激でも痛い。
もう、ご飯どころでは無くなりましたよね。
独り辛味の痛みと戦いましたよ、数十分。
以来、“辛味”自体に過敏に反応する様になってしまった、私の舌。
僅かな辛さも無理。
とにかく、辛味の有る食べ物を避けて避けて生きた、トラウマから数十年後。
どうしても、カレーが食べたい日が訪れた。
カレーは好きだもんで、王○様カレーだとか甘口カレーのレトルトばかり食っていたんだが…
食費ストッカーに入っていたのが、数年前 親友が引越し祝いにくれたレトルトカレーセットの中で、唯一 手が出せなかったグリーンカレー。
唐辛子の模様、5つ。
激辛レベルである。
ええー、どうしよう…
賞味期限はギリギリ、カレーが有るのに わざわざ甘口カレーを買いに行くのも面倒臭い。
──食べるか。
勿体ない性分 と 無精精神 が、いい塩梅に均衡をとった。
一口食べて無理だったら買い物に行こ…
温めたご飯にグリーンカレーを掛け、一さじ掬う。
ぱくん。
辛ーい!
もぐもぐ…
辛い!…けど、食えるな。
吹き出る汗は拭い拭い、辛い と思いつつ、完食出来た。
──そう、数十年 辛さを避けて生きた事により、味覚が正常に戻ってたんだ。
多分。
辛さを克服してからは、今まで嫌煙していた七味が大活躍。
何にでも大量に振り掛けて食う。
辛口のカレーですら、何か物足りないと思って七味を掛ける。
それはそれで問題有りな気もするが。
今ではハバネ○スナックも全然平気。
でも、辛さを克服して 何が一番 嬉しかったって…
ケ○タのレ○ドホットチキンが食えるようになった事だよ!
食ってみたかったんだよ!
食えなかったんだよ!
オ○ジナルチキンを超えるチキンは無いと思ってたけど…超えたね。
シーズンそろそろかなー、早く食べたいなー♪
マジでグリーンカレーをくれた親友に、感謝だ✨
食わず嫌いはアレルギーの可能性が有るらしいから、無理にとは言わんが…
食べれる物が増えると、世界が広がるよ!
レッツチャレンジ!
あ、私 ハウスダスト初め刺蛾にG、軒並みアレルギー持ってるから。
虫系はアレルギー全滅だから。
一生涯、口にしないよ。誓って。
好き嫌い克服を目指す方々に、贈る。
「肉は骨付きがウマい。
リンゴは皮付きがウマい。」
最近では親友らに先に言われちゃう、私の名言。
これ、言いたかっただけw
偏食歴・裏
何でも食べれるからと言って、好みが無い訳では無い。
この歳だし、独り身で わざわざ食わんでもいいかな。
ていう食べ物も幾つか存在はする。
ここからは、何でも食べれる人間の選り好み、要は我儘。
自分では まずチョイスしない食べ物達、三選。
虫は除く。
もう少し、続くよー☆
─バナナ─
小さい頃、バナナが大好きだった。バナナばっかり食ってた。
だから…一生分のバナナを幼少期に食べてしまったんだと思う。
飽きちゃったんだ。
母親が私がバナナ好きな想い出が強すぎて、数年、毎月毎月バナナを置いていくんだ。
あれにはマジで困った。
なかなか食べる気しないので食品庫代わりの電子レンジに、ずうっと入ってるもんだから、レンジ開けると むわ~んと甘ったるいバナナ臭…
甘ったるい…
香りがどうもね、キツくってね。
新鮮なうちに食べちゃえば良いだけの話なんだが、母親が買ってくるバナナは既に完熟ものなんだよ。
余計に食を そそられなくてね…
「バナナは、止めてくれ」
て毎月毎月 言い続けて、ようやく最近 買ってこなくなってホッとしてる。
5年位、言い続けたかな…
別に食べられん訳でもなく、たまには食べたいと思うんだけど…
私が「バナナ食べたがってる」て 母親の耳に入ろうものなら、再びバナナ地獄が始まるから、内緒ですよ。
─パクチー─
いつだったか忘れたけど、実家に居た頃。
私と姉1号 二人の休日、姉が昼飯を作ってくれた。
「こないだエスニックな居酒屋で美味しかったから」
ラーメンばち に入って提供されたのは、ベトナム料理の“フォー”。
初めて見る食べ物である。
一面に、波波 泳ぐ、深緑の草。
…何コレ?
「パクチー、美味しいよ」
美味しそうには見えないんだが。
独特な香りのする草を箸で持ち上げる。
麺らしきものには辿り着かない。
「茂みに分け入る味がする…」
そう、姉は「他に使い道無くて 勿体無いから」と、小松菜位の束のパクチーを、ドバッと全投入してたんだ。
その後、私は別件でエスニック料理に ちょこっと乗ったパクチーを食したが、美味かった。
だがね、どうも「パクチー=茂みに分け入っていく味」それも“うっそうと茂った真夏の裏山的茂み”と 認識されてしまっていてね…
パクチーと聞くと、ちょっとね…
食べれば美味いって、分かってるんだがね…
何事も程々が良し。
─ミラクルフルーツ─
冒頭にサラッと書いたが、私 生まれつき欠落している味覚が一つ有る。
果物の酸味を一切感じないんだ。
酸味自体は分かるようで、酢や梅干しは「酸っぱい」と感じるんだが、不思議な事に“果物の酸味”だけ、感じない。
レモンやライムは爽やかさの後に“甘み”すら感じる。
唐揚げの付け合せのレモンは絞らず、食うもんだ。
流石にこれだけ生きていると、周りが「酸っぱ~い★」て なる果物の味の違いが分かるようになった。
酸味の強い果物には、独特のエグ味が有る。
そういったのに当たると、わざと周りに「食べてみい」て食わせて「酸っぱ~い★」を面白がるんだが。
ただ 自分では酸味の強弱が分からないもんだから、先日も美味しいと思ったレモネードを人に勧めるのに、先に母親に飲ませて「飲める?」か確認した程だ。
一時 流行ったミラクルフルーツ、ご存知かな。
食べると酸っぱい食べ物が甘く感じる、不思議な果物だ。
酸っぱければ酸っぱい程、甘いらしい。
連れ合いが居た頃、スーパーに並んでいたので、面白がって レモン や すもも と一緒に買ってみた。
熟れていないハズレの酸味の強い(らしい)すもも は、私には味が無い。
香りしか分からない。
どんな味になるのか気になるじゃん。
食べてみたいじゃん。
ミラクルフルーツを一粒、口の中で転がしてよく噛んでから飲み込んだ。
レモンをかじった連れは
「凄~い!甘~い!」
て めちゃめちゃ喜んでいる。
私もレモンをかじってみた。
──いつもと、変わらない。
そう、全く味覚に変化が無かったんだ。
足りないのかな、と思って何粒か追加で食べてみたけれど、何度やろうが 結果は同じ。
気になっていた味の無い すももも甘くなる訳で無く、味の無いまま…
私のミラクルな舌に、ミラクルフルーツは不要なんだ。
ミラクルフルーツ自体は別に美味くない。
全く何も変わらんのに、わざわざ味も香りもしない美味しくない思いをする必要は無いかな、と。
私には、ポ○カレモンは飲み物。
─番外編・スイカ─
小さい頃の夏の風物詩。
『○時だョ!全員集合』ド○フの怪談コントだ。
そのひとつに、名前は知らんが「スイカのお化け」があった。
スイカは大好きで「おねしょするよ!」て怒られようが、むしゃむしゃ食べていた、幼少期の私。
コントの中で、スイカの種を飲んだ志○けんが翌朝起きると、頭がスイカの「スイカ人間」に なってしまうんだ。
照明も赤や青に点滅して、悲鳴を上げるド○フメンバーを追いかけ回す、スイカ人間…
もう、めちゃめちゃ怖い!
うっかりスイカの種食おうものなら、スイカ人間になってしまうんだよ!
子供騙しの怪談に まんまと騙され信じ込んだ。
以来、一切スイカを食べれなくなってしまった、私。
だって種が、種が~!
スイカの実の、どこに居るのか分からん“種”。
その上、薄い種なんか食べても気づかないかもしれないんだ。
とにかく、スイカ人間になってしまうのが怖くって怖くって、全く口にも入れられない。
そんな私に、何故か母親はどうしてもスイカを食べさせようと躍起になった。
「美味しいから食べなさい!」
「嫌!」
「騙されたと思って食べなさい!!」
「い~や~!!」
それはそれは凄まじい やりとりであったろう(しみじみ)。
問題はスイカの“種”。
考えた母親は、スイカの実を さらし で搾ってジュースにした。種は無い。
「これなら、どうだ!」
何でそこまでスイカを食わせたかったのか分からんが、私は少し泡立つ赤い液体を チビっと飲んだ。
以来、スイカはジュースになって出てくるようになり、私も段々と“スイカの味”は好きだと思い出した。
箸で種を全部取り除いたスイカの実は、食べれるように戻っていった。
お陰様で現在ではスイカは全然平気、むしろ好き。
種を食おうが、気にしない。
面倒臭がってガリガリ食っちゃうくらい、黒い種すら平気。
そのうちスイカ人間になってしまうかもな。
こうやってね、食べられないものが有ると無理矢理 食べさせられてしまうんだよ。
何でも食べれるようになる訳だ。
SOS発信①
─歩道の中心で救を叫ぶ─
過去4回だったかな?救急隊の お世話になっている。
いずれも自分で119にコールしたん訳なんだが…
一件だけ、あまりにも はた迷惑でマヌケな事例。
もの凄く無理の有る副題を どうしても付けたかった。
そう、酒での大失敗だ。
皆様、真似しちゃダメですよ。
以前にも話したが、どんなに深酒しても意識はハッキリしている、私。
この時の記憶は失わなかった。
おそらく、語り継ぐ為に──
あれは職業訓練の企業実習前、壮行会かなんかの時。
本格中華にビールに生グレサワー。
いつもの鉄板を回して更に2~3杯 呑んでいた。
私は そこまで弱くは無い。
が、決して酒豪では無い。
若い頃に失敗を重ね、自分の限度を知っている口だ。
ビールなら7~8杯いけるが帰宅が危うくなる。
5杯も呑めば充分。
その時も、そうする つもりでいた。
円卓の私の両隣は、九州出身の方々…
もの凄え、強いのよ。
「まだ呑むよね♪!?」
「う~ん…あと一杯くらい♪」
でーん☆と円卓に提供されたのは、中華のラスボス“紹興酒”。
ヤバ。
本能的に「これは呑んではいけない」と察知した。が。
紹興酒は料理にしか使った時 無いし、ちょっと呑んでみたいかも…
欲に負けた。
テキーラグラスに注がれたストレートの紹興酒。
恐る恐る クピッと呑んだ。
ウマー♪♪♪
うん、旨かった。
旨かったんだよ!呑みやすいしさ!
一杯空けて、二杯目を半分呑んで、流石に これ以上はヤバいかな、と思ってコソッと離席した。
数階建て小さいフロアの大多数は同校であったが、片隅に別のサラリーマンの一団が居た。
酔っ払いの私は、その無関係なイケメン サラリーマンに紛れそっちの方々に名刺を貰ったり、だべったり。しばらく自由に楽しんでいた。
数分後。
──気持ち悪い。
煙草を吸ったら一気に来た。
盛り上がっている一団を よそに、トイレに向かう。
丁度、誰かが使用中。
ヤバい。待てない。
私は一階層 下フロアの個室トイレに入った。
内内はお察し下さい。
どれだけ こもっていたのかな。
外で「トイレが空かない」と騒ぐ人の声が聞こえた。
あー…出なくちゃ…
立ち上がりたくもないが、ヨロヨロとトイレから出た。
待っている方にペコリ一礼すれば、ぐるんと回る頭。
いかん…これは、いかん…
霞み揺れる視界を堪え、何とか階段を上り会場に戻った。
クラスメイトや講師に迷惑は掛けられない。その思いだった。
コートと鞄を抱え、フロアを見渡しクラスで隣の席の女の子を探した。
「ごめーん、先 帰るね。会費5千円だったっけ?」
一気に要件を言い、財布の中身も見えて無かったけど、多分 五千円札を引っ張り出し、困惑する女の子に押し付けた。
「足りなかったら明日払うから~。じゃ、ゴメンだけど みんなにも よろしくね~」
そして、私は独り 中華料理屋から外に出た。
通りの左右を見渡し光が多い方面、おそらく駅 に向かい歩く。
──うえーん(泣)ここ、どこ???
いい大人が、迷子である。
会場の中華料理屋は駅を挟み反対側。
土地勘の一切無い、自宅から遠方の駅。
おまけに、来る時 みんなに くっついて来ちゃったから、道が全く分からない。
マジで分かんないのよ。
たいして中華料理屋からは離れてなかったと思う。
ベターンッ!
千鳥足がもつれ、転んだ。
バラバラと散らばった鞄の中身、羽織るのを忘れていたコート。
もたもたと、文具に教科書・小物類、コートを手繰り寄せるまでは出来たんだ。
──立ち上がれにゃい。
ペタリと歩道に座ったまま、寄せた私物を鞄に納める事も、上着を羽織る事すら出来なかった。
とりあえず 歩道にお店を開いたまま、透明なマイボトルに先刻トイレで汲んできた水道水を口に含む。
困ったにゃあ…
往来は有るものの、帰宅に急ぐ人々は皆 足速に。
誰一人声を掛けてくれない。
まあ、明らか泥酔して道端に転がっている酔っ払いなんだから、関わり合いたくないだろうな。
来た道を振り返るも、そんなに歩いたり曲がったつもりは無いんだが、中華料理屋の看板すら見えない始末。
これは自分で何とか出来る状態を、とうに越えている。
私はスマホを点け、電話を探した。
ええと…何番だったかな…
時報や天気予報に繋がっちゃう。
119、そんな事すら分からない。
暫くあれやこれやと奮闘して、どうにか救急に繋がった。
『火事ですか?救急ですか?』
「救急お願いします!」
『救急が必要な方は、どなたですか?』
「私れす!」
経緯を伝えるも、ろれつも回らない。
『救急車を向かわせます。場所はどこですか?』
「知りましぇん!」
分かっているのは駅名だけ。
住所は勿論、駅の何口や中華料理屋の名前すらも分からない。
対応した係の方、参ったろうな…(しみじみ)
看板でも何でも良いから 何か場所の目印になるものを探してくれ、と言われ 辺りを見回した。
「あ!向かいの看板に電話番号が書いてありましゅ!」
『何番ですか?』
「フリーダイヤル…」
『フリーダイヤルじゃ駄目です』
あ、フリーダイヤル駄目なんだ。
そりゃそうか、市外局番無いもんな。
『う~ん…誰でも良いので、電話を代わって貰える人を探して下さい』
「分かりました!」
私はきく息を吸い込んだ。
「誰か~ッ!!!助けてくだしゃあ~い!!!」
私の いきなりの叫びに 行き交う人々の視線は落ちるものの、帰宅を急ぐ足は止まらない。
「…だぁれも 助けてくれましぇん…」
『諦めないで!叫び続けて!』
係の方の激励に、私は歩道の中心で救けを叫び続けた。
都会の人は冷たいな…
なんて思ってるうちに、人の往来すら途絶えてしまった。
「…人っ子一人、居なくなっちゃいました」
『ああ~…』
係の方の消沈ぶりは凄まじい。
結局、スマホのGPSを辿ってくれた。
──スマホの位置情報offにしてるのに、分かるんだ…
ちょっぴり近未来的な光る板が怖くなった。
私の細かい位置の特定には至らなかったが、近くの交差点に銀行が在った。
救急車は直ぐに手配出来ないが、先に寄越す消防と銀行前で合流することになった。
ああ…何とかなりそう。
どうにか荷物を鞄に詰め込む。
歩道に広がっていたコートを羽織りかけた時だった。
「大丈夫ですか?お手伝いしましょうか?」
なんと、歩道に座り込む私に ご婦人が声を掛けてくれたんだ!
だが──時すでにお寿司。
「あ、救急車呼んだんで、大丈夫れ~す!」
私は笑顔一杯 手を振り振り、お断りを告げた。
移動途中で何かの看板の下で、一度そそうしてしまった。
本当にスンマセン(礼)繁華街だし、バケツに砂、用意されてたかなぁ…?
戻した事により、少し思考がクリアになった。
合流地点の銀行前で花壇に腰掛け、ぼんやり消防車を待つ。
私たった一人の為に、消防車や人員を割いてくれるの申し訳ない…
イメージ的には消防署に停まっている、真っ赤なワゴン車が来るんだと思ってたけど、甘かった。
oh…
サイレンと緊急ランプを点滅させ、交差点で停車したのは、放水ホースを備えた立派な消防車。
ガチな消防車が到着した。
今 この時、どこかで大火事でも発生したら、どうしよう…
気が気でない。
とはいえ 消防車を間近で見るのは小学校の社会科見学以来で ワクワクしたのは、内緒だ。
「○○さんですか?」
「は~い、私れす!」
降りてきた消防隊の方々は3名は居ただろうか…
大火事発生しませんように(泣)
一人の方と名前なんかの確認をしている間、他の方が現状報告しているのが聞こえる。
「合流しました。どうしたら良いんスか?
水飲ませて吐かせりゃ良いんスか?」
なんか私、もの凄い体育会系な処置を ほどこされようと している…
さっき自分で やりましたがね。
電話先は救急隊か、水を飲ませられる事は無かった。
消防隊の方々に囲まれて、待機。
目が霞んでるのが勿体無い(泣)
オレンジ色の制服、ちゃんと見たかったな…
数分して、救急車も到着した。
消防隊と救急隊で、現状報告。引き継ぎを行なっている。
──なんか、喉 渇いた。
ボケ~ッと座っている私は、マイボトルの蓋を開け 飲み口に口を付けた。
「これは何ですかッ!!?」
突然、大慌ての救急隊員にマイボトルを取り上げられてしまった。
「水、水れす!ただの水道水れす!」
日本酒や焼酎ではありませんから!断じて!
「水も駄目です!戻しちゃうでしょ!」
ええ~、お水 飲みたいよう!
嘔吐に嘔吐を重ね、脱水症を進行させない対応であった。
お喉が渇いた~(泣)
駄目と言われると余計に飲みたい。
引き継ぎを終え、消防隊員の方々は引き揚げられた。
ストレッチャーに寝かされ、救急車に乗り込む。
まず搬送先の病院が決まらねば、救急車は走り出せない。
意識レベル、酩酊状態と合わせ、バインダー片手の救急隊員に 私個人の情報を尋ねられる。
「お名前やご住所の分かるもの、お持ちですか?」
「財布の中に免許証が」
鞄を検めてもらい、免許証を探してもらう。
「持病は有りますか?」
「線維筋痛症なんれす」
救急隊員の方はキョトンとされた。
「せんい…何?」
「せんいきんつうしょう、なんれす!」
まだガ○様が線維筋痛症に罹る以前、認知度は底の底。
「漢字はどのように?」
「ええと…繊維の繊…」
そして、私も漢字を覚えられていなかった。
症状や かかりつけの病院を聞かれ、答えたり財布を あさってもらったり。
この問答が、ぐわんぐわん回る頭では かなりキツい。
「飲んでる薬、有りますか?」
既に5種は超えてた薬類、ジェネリックも有り、把握しきれていない。
こんな時の為に、当時は薬局で貰うA4用紙の お薬情報を鞄に入れていた。
「鞄の中に お薬書いた紙が…あ、猫のトートバッグの方…」
引っ張り出して見てもらう。
別隊員の方が かかりつけ病院にも問い合わせたり、なんだか凄い大変そう…
そう、私の病気、面倒臭いんだ。
「迎えの人は呼べます?」
「連れが居るんですけど、どうかなあ…出れないと思いましゅ…」
恐らく仕事中の配偶者、ちとセキュリティが強くって外部からの電話は繋いでもらえない。
いや本当に面倒臭いな、私…
一応、スマホの電話帳を探ってもらった。
浸透途中のスマホ、操作する隊員の表情が楽しそうなのは、気の所為だ。
「弱ったなあ…どこもベッドが満床で、迎えが無いと受け入れられないって言うんですよ。
一緒に呑んでた方は居ないんですか?」
「おりましたが、知らない人れす!」
職業訓練という短期間の付き合い。
授業中かしましく お喋りしたり、話上 出身地も知ってるが、居住地はおろか連絡先すら知らない。
何より、会場の中華料理屋の名前すら分からず、合流は ほぼ不可能。
くうう…誰かに迷惑掛けたくないからって先上がりして、今まさに ご迷惑をお掛けしまくっている…
どっちが迷惑甚大かって言えば、今の状況だろう。
悔やんだところで後の祭り。
「お家の方、連絡付きました。迎えに来るって」
なんと!
普段は外線繋がらないが、事情を説明したら回してくれたそう。
流石に緊急事態と判断してもらえたらしい。
「少し遠い病院なんですが、これから移送します」
救急車に乗ってから小一時間は経過していた。
ええもう、本当に申し訳ございません(泣)
走り出す救急車、曲がり跳ぜ揺れが凄い。
「戻したくなったら、これに」
エチケット袋代わりのビニール袋を顔の前に設置してくれたが、悪心が「おえっ」と込み上げるものの、もう出る物は残っていなかった。
揺れに回る視界に目も開けていられない。
──折角、折角 救急車に乗ってるのに、内装が全く見れない(号泣)
こんな事ばかり考えてて、スンマセン…
病院に到着し、病院のストレッチャーに移動する。
「ありがとうございました」
本当に✨
ベッドは空きが無いので、ストレッチャーのままパーテーションで囲ってくれた。
「胃も空っぽでしょうから、洗浄はしませんね」
あい。
点滴を打ってもらい、様子を見る事になった。
点滴が終わるまで二時間位かな。
──お喉が渇いたよう(泣)
時折、点滴交換と様子確認に回ってくる看護師さんに、言ってみた。
「お喉が、渇きました…」
「点滴入れてるから、水分補給は出来ています。
辛いでしょう?自業自得です」
ごもっともです(号泣)!
ズバッとした お説教が染み渡る。
点滴入れてる腕が、めっちゃ冷えて寒い。
もうね、ぐったぐたなボロ雑巾な気分。
「あなた大丈夫!?」
心配してくれたのは、点滴終わり頃に到着した配偶者だけ。
「ありがとうございました…」
夜間窓口で必要事項だけ記入して、翌日 診察券作成と支払いに来るよういわれ、悪夢の一日は終了した。
帰り道すがら、速攻でコンビニ寄ってもらい、スポーツドリンクを買った。
関わって下すった全ての方へ、改めて御礼申し上げます。
誠に、ありがとうございました✨
なんて思ったけど、薬飲んでて大酒呑むなって話。
ちゃんぽん は特にヤバい。
──お酒は楽しく程々に──
適量守って過ごしたかと言えば、そうでもなく…この後も失敗を度重ねるんですがね。
学びませんね、私…
あ、後は お酒で 救急の お世話にはなってません(汗)
道端で寝っ転がってる人には「風邪引きますよ」って声掛ける習慣が出来ました。
田舎 引っ込んでからは見掛けて無いけど。
だって、ほら。
誰かしら救けられるかもじゃないですか。
皆様も、もし。
歩道の中心で救けを叫ぶ声が聞こえましたら、少しだけ、立ち止まって話を聞いてあげて下さいまし✨
あとはね、
“酒は呑んでも呑まれるな✨②に続く──
就活⑥
職業訓練の企業実習中、学校で企業の合同説明会が もよおされる。
異業種 未経験の私は、職業訓練生というブランドが付いている今のうちに、何とか職にありつきたかった。
可能性として有りそうなのは、企業実習先に拾われる 又は 合同説明会で ご縁が出来る。
企業実習は楽しいが、特に
これといった秀でたパソコンスキルの無い私。
時々Webサイトの構成修正やサムネイル画像作成を任せてもらうものの、残りの時間はひたすらデータベース用の画像背景抜きを行っていた。
マウスで。
いや、こういう地味な作業 すんごい楽しいんですがね。
うん百という画像を抜いたが、それまでだ。
ここは やはり、合同説明会に掛けるしかない…
Web系の企業が大半だが、中にはアプリゲーム制作会社なんかもあって、プログラミング系に進みたかった私にも、チャンスである。
一覧の要項を確認する。
「要 経験者」
oh…
職業訓練なのに、何故に経験者を欲するのだろう。
と思ったのは、内緒だ。
Web・プログラミング系の派遣会社もあった。
順当に行くなら 派遣勤めで経験値付けて、そこから正社員転職が固いかな。
私は その二社の会議机ブースに行くことにした。
一社めは 他のブースと同様に、パリッとスーツの担当者が二名。
軽く企業説明を聞き、後日 派遣登録に行くことに決まった。
次の一社。
会場の一番隅の机で、他のブースとは全く異なる空気を放つ初老の御仁が一名。
正直、近寄り難い…
浮いてる茶系のスーツにオーラ、カタギには見えない。
そう感じるクラスメイトも多いか、初老の御仁は暇そうだ。
ううん、行くなら今しかないか…
自分を奮い立たせ、御仁の机に赴いた。
“私はね、第一印象で採るか採らないか決めるの”
椅子に座り 何となく、過去に聞いたフレーズを思い出した。
これも星の巡り合わせだろうな。
そう、初老の御仁に一目で気に入ってもらえたんだ。何でか分からんが。
だから説明は軽く流し、殆ど世間話で盛り上がった。
奇妙なご縁も有るものだ。
これは別件で語るが、何だか おじいちゃん系に好かれ易い、私。
後日、この御仁は わざわざ スキルも経験も無い私の為に、勤める企業実習先に出向いてくれたり、職業訓練の卒業式にまでノーアポでいらして下さったりした。
しかも卒業式の日、御仁の来訪を知らずに、数時間も待たせてしまった。
「いいよ いいよ、今日は卒業祝いに来ただけだから」
何でそんなに気に入られたか本当に分からんが、「卒業祝いに」と プレゼントを渡された。
開けてみれば蒔絵のほどこされた お高そうなボールペン。
「こんな お高そうなの頂けません!」
一応は、お断りしましたよ。
関連企業に贈る年賀の残りと 言われてしまい、本当かなあ…?と思いつつ、渋々 有難く頂戴することにした。
派遣登録にも面接は有る。
御仁の会社は もう必要書類も書いてしまったので、一社目の方。
私の武器は、卒業制作で造った架空のWebサイト2種のみ。
やはり、未経験でプログラミングに進むのは極めて困難なようだ。
画面で実際にサイトをチェックしてもらうが、感触は よろしくない。
素人が初めて造ったもの、仕方がない。
自分でも決して誉められた出来では無い。
だって、クラスメイト達は凄いの造ってる方々ばかりだったもの(泣)
派遣登録はしたが、保守系の仕事で未経験でもOKな所が在れば、との話だった。
職業訓練後、即日 働き出したかったが、そうはいかなかった。
ううん、今月中には なんとかならないと…
個人でも架空サイトを方方に送ってみたが、面接にも届かない。
職業訓練の仲間内で のんびり お花見行ったり 掲示板で近況報告し合えば、決まっていく方々ばかりで、内心 焦りは募る一方。
登録した派遣会社一社目からも連絡は無い。
そんな折、御仁から連絡が入った。
「未経験でも出来る仕事 見つけたんだけど、話 聞いてみない?」
なんと!
聴きます聴きます是非とも聴きます!
御仁の話では 自社の出向先では見つからなかったので、別会社の出向先にも問い合わせてくれたらしい。
あんまり詳しく書いちゃうとアレかなぁ…
結構年数経ってるし、お茶を濁す感じなら平気かな。
まず、出向元の会社の上役と御仁と三人で喫茶店面談。
仕事の詳細伝達と打ち合わせを行った。
出向先は自動車関係。
車の部品 配備システムの保守と顧客窓口。
要は、セキュリティ関連とヘルプデスクだ。
自動車関係だなんて、願ってもない!
パーツショップに憧れた想いが揺り返す。
しかも フルタイムの常勤枠。
もちろん、二つ返事ですよ。
ようやく仕事が決まりそうで上機嫌で、道を間違え独り さ迷っていた 私。
以前 働いていた路面店の前を通りかかった。
なんとなく覗けば、見知ったスタッフ。
普段なら遠巻きにして絶対 近付かないんだが、その日は気まぐれに入店した。
「あ、店長!辞めたって聞いて驚きましたよ!何してるんスか!」
私の退職理由は流石に伏せられていて「ちょっとね、あはは」と、話に花を咲かせ近況報告をしあった。
辞めても暖かく迎えてくれるって、何か良いですね?
常勤なので、出向先に面接に行った。
御仁から別会社の上役に引き継がれ、同行したのは上役の方。
会議室の会議机を挟み着座、私は大学ノートを会議机と膝の間に広げ、蒔絵のボールペンを構えた。
私はメモはあまりとらんのだが、傾聴時は 対象の首元以下に視線を下げず、紙は目視せずに走り書く。
出向先の必要人材は、車の部品に詳しく 且つ、顧客パソコンの様々な事象を電話で解決出来る能力、説明力を備えた者。
当時は まだパソコン技術者には専門用語を並べ立てる人が多く、問い合わせ者には?が飛ぶ。
誰でも分かる簡単な言葉に置き換えた、素人目線と合わせて会話出来る人材が良いとの事。
自動車整備学校卒、小売の商品説明、パソコン覚えたての素人…
こんなにバラバラだった私の経歴が、綺麗に まとまる職が有るものか!と 耳を疑う。
しかも、空き時間に開発側がプログラミングを教えてくれる という。
もう こちらから土下座してでもお願いしたい、神職である。
面接の感触も良く、晴れて桜は咲いた。
職業訓練校を卒業してから、僅かに半月後には 勤め始める事が出来た。
あんなに数十社も落ちてた頃が嘘のよう。
あれだけ落ちまくってると能天気な私でも、「世界に私は必要とされてない」なんて暗黒面に脅かされた。流石にね。
転職が上手くいかない方、職業訓練、良いですよ✨
派遣会社を二社またぎ、マージンは二社分引かれる。
手取りはギリこちらの要望通りであるが…
ただ一つ、懸念は存在する。
登録した会社とは別会社の派遣社員、というフリをせねばいかんのだ。
黙ってるだけなら、得意なんだが…
初っ端からね、嘘を貫き通さねばならん状況なのだ。
⑦に続く──
母親は、アレ【番外編】
─タイピング音は子守唄─
私が物心ついた時、母親は内職に従事していた。
内職と言っても、割り箸袋や造花なんかの よくある造作系では無い。
出版社の下請け、作家の手書き原稿を活字に起す、ワープロ打ちだ。
私は 四六時中ワープロに向かう、母親の背中を見て育った。
今では信じられないかもしれないが、ワープロは恐ろしいほど高価であった。
当時、数百万するワープロ・プリンター・ファクシミリ、そういった機器を母親は揃えていた。
高額機器に対し、決して高収入では無い。
想像出来るかな、1字辺り30銭~1円なんだ。
文字数多く1円の仕事は稀。
基本は50銭。
そう、母親は物量をこなす事で収入に変換してたんだ。
母親のタイピングは神速。
美しいほどに神がかった轟速タイピング。
母親以上に綺麗なタイピング音を奏でる人間は知らない。
それでも休みは ほぼ無く徹夜徹夜、睡眠時間は いくばくもなかったろう。
幼少期、母親が布団で寝てる記憶が無い。
商業高校出身の母親は簿記等の資格も有していたが、ワープロ検定1級だ。
母親の高校時代は タイプライターが主流で ワープロは出始めな上に高額、悩んだ末に「これからはワープロの時代」と ワープロ検定を受けたのだと言う。
母親の先を見通す力は私には無い。羨望ものだ。
普段は アレなのに、ね。
母親がワープロに向かっている間、私は背後で独り遊んでいた。
そういうの平気なタチなので、全く淋しくもなかった。
強がりとかじゃなく、マジで。
お腹が空くまで、独りの世界を楽しむんだ。
「お腹空いた、お腹空いた~!」
コレ、一番言った言葉。
「♪お~なかすいた~、お~なかすいた~」
私が空腹を せがむと、母親は歌いながら食器棚の上に置かれた大きな箱から、お菓子を出してくれる。
私専用のお菓子ストックが常にされていた。
何か食わせときゃあ、大人しく静かになるからだ。
仕事の納品には まず、けたたましい音のプリンターで印刷した原稿を、ファクシミリで出版社に送る。
校正された原稿が感熱紙のFAXで返り、修正した原稿を印字した用紙・15cmの紙に包まれたフロッピーディスクを郵送する。
時には出版社に出向く事も有り、私も よく手を繋いで連れて行ってもらってた。
出版社の おじさんは いつもニコニコ笑顔で、私の つたない お喋りに付き合ってくれたっけ。
プリンターのインクリボンの交換やFAXの巻感熱紙の補填など、事務作業はよく教えてもらった。
多分「遊んで、遊んで!」攻撃に負けて致し方なくだと思う。
私にとっては、機械に触れる事は遊びの一環だ。
小三の時、母親がローマ字を教えてくれた。
多分その時も、遊んで攻撃に負けたんだと思う。
当時ワープロの英字は渡来したままで統一されていたが、かな入力は競合二種に別れていた。
母親が仕事で使うのは かな入力だが「どっちに統一されても良いように」と、ローマ字を教えてくれたんだ。
こういうところ、本当に凄いと思う。
母親の手書きローマ字表と、壊れたキーボード。
私の玩具だ。
とっかかりのブラインドタッチのホームポジション「人差し指はポッチに置く」だけ教わって、後は放ったらかし。
ひたすらキーボードを叩いて遊んだ。
だもんで、私のブラインドタッチは正確ではなく、一癖有る我流。
文字入力出来ているから、問題無い。
そのうち、古いタイプライターをくれた。
そもそもが伝わってるのかな?
タイプライターは 活字の印字機械、超 物理的な。
レトロなレジスターの様なフォルム。
収納された文字判子が文字ボタンを押し込む事により 連動したアームに押し出され、ビョーンッと飛び出しインクリボン越しに紙に押し込み活字を印字する。
仕組みはピアノに近い。
用紙をリールに巻いて、文字入力すると1字毎に左に動くんだけど、改行は出来ないから自分で一行分巻いて、最初の右端にガッて戻すの。
失敗すると、行間が無くなって文字が重なったりしてね。
結構な力技だけど、面白いんだよ。
貰ったのは英字タイプライターで、ギリ インクリボンも生きてた。
英語は分からんけど、ローマ字で ちまちま文章こさえてたな。
種類の違う判子が飛び出して、全く同じ中央に印字するの。凄ぇんだよ。
細長い判子アームも絡まないしさ。
いや、たまには絡んで引っ込まなくなってたな。解いた記憶が有る。
インクリボンが無くなってからも、白紙の活字印刷したっけ。
小五位でみっけたのが、電子工学やってた父親の残したノーパソ。
後、押し入れに隠されてたフ○ミコン…これは別の話か。
ノートパソコンって言ってもWind○wsの もっと以前、10cm厚B4位グレーの箱で、半分しか開かないの。
液晶画面も今のスマホ位。
ちっせえよねw
一応8cmフロッピーだったかな。
それでも ひらがなや漢字変換 出来たから、よく分からん文章 創ってた気がする。
でも、一番 遊んだのは『倉庫番』
白黒ドット絵で、ひたすら 倉庫から荷物を押し出すだけ、という シンプルな仕様。
いや、めっちゃハマったよ、アレ。
今も何かで出てんのかな?
また、やりたいなあ(しみじみ)
タイプライター、実家から持ち出しとくんだったな。
それだけは後悔だ。
何か脱線しまくってるな。何の話だったっけ…
そうそう。
その頃 母親は勤めに出ていたんだけど、一件だけ、どうしても母親でないと出来ないワープロの仕事を請け負ってた。
ううん…お名前をな、ど忘れてしまったんだが…
著名な作家さんの手書き原稿で、かなり流麗な癖字であるから、母親でしか解読 出来なかったのよ。
その方の原稿は確か1字2円の破格である上に、文章も面白いから好きだ、と母親は喜んでいたな。
「アンタも、面白いから読みなさい」
入力済んで床に散らかった原稿を、連番に並べ直し眺めたもんだ。
推理小説の暗号解読してる気分で、楽しかった。
だんだんと私も、その お方の文字を読めるようにはなったんだが…
文章の意味は分からんかったな、お馬鹿なもんで。
母親は確か、その頃は 着物の着付け と 清掃 の掛け持ちしてて、本当に不眠不休の日々だった。
静かな深夜に、タイピング音が響く。
カタカタカタカタッ
て。
毎晩、毎晩、私が小さな頃から ずうっと、毎日。
カタカタカタカタッバシンッ!
あ、今日は機嫌悪いな、近づかないようにしよ。
とか、タイピング音だけで分かっちゃう。
このカタカタ音がね、聴こえると安心出来るんだ。
ああ、今日も母親は近くに居るな、って。
時代はパソコンになって、実家もWind○wsに切り替わったけど、母親の使っていた かな入力は無くなった。
ローマ字入力で しばらく頑張っていたけれど、入力キーは倍、時間がかかるって辞めてしまった。
でもさ、私、あのカタカタ音が無いと安眠 出来ないんだ。
困った体質になってしまったのだよ。
線維筋痛症と私⑧
再就職から半年後、離婚した。
理由は簡単だ。
重荷に押し潰れたんだ。
家庭と仕事の両立、通勤ラッシュに新しい学びの場、呑み会・通院、痛み・性癖・恋愛…
そもそもが抱えきれる物量では無かった。
健常時でもキツかったろう。
そんな事すら、俺は気付けていなかった。
帰る場所の無い私は“家”を守りたかった。
自分と姉、誰かの帰る場所を保持したかった。
仕事と家庭、どっちを取るかと言われれば、迷わず「仕事」と答える。
働いて収入を得られなければ家は保てない。仕事は必須。
抱えたもののうち 真っ先に切れるのが、夫婦関係だった。
重責を手放したい。
楽になりたい。
一心だった。
親友らに相談した 、夫婦間のずれ・将来展望の差・金銭意識・不平不満…よくある離婚理由は表向き。
心の内、裏向きの事情は、“拒絶” と “解放” だ。
結婚当初から、寝所は別だった。
既に痛みが出始めていて、誰かに触れられたくなかった。
触られると、痛むんだ。
仕事で消耗し、家の中での移動は最小限に、私は居間で寝ていた。
あの人は、寝室を使っていた。
元々、生活リズムが違うんだ。
あの人の睡眠を邪魔立てしない、それで良いと思ってた。
だが、どうだ。
私の連れ子である、愛猫のシロには噛みグセが有る。
ドアノブに飛びついて扉を開けられる。
あの人は「睡眠をシロに脅かされたくない」と 寝室の鍵を閉める。
猫を締め出したんだ、私ごと。
これが、どんなに辛いか分かるか?
確かに邪魔せぬよう、とは思っていた。
だが、あの人が寝室の鍵をカチャリと掛ける金属音が、私の心に突き刺さる。
寂しいよ。
先に私を拒絶したのは、あの人だ。
せっかく一緒に居るのに、温もりは感じられない。
触れられれば痛む。
私は、あの人に 寄り添いたかったのに。
新しい仕事リズムは、完全に 真逆。
一緒に暮らしているはずなのに、全く顔を合わさない。
私は独りコンビニ飯を食い、あの人は自分の分だけ自炊する。
こんなの、夫婦って言えるか?
時には休日が重なって、久方ぶりに会う事も有った。
ほんの少しで良い。
温もりを感じたい。
あの人の肩を僅かに寄せれば、求められる。
ああ…そういうんじゃ、ないんだけど…
少しだけ、くっつきたかっただけなんだ。
求められれば応じるけれど。
だが、数分もしないうちに、痛みに耐えかねる。
「ごめん、やっぱ無理…」
何度、この言葉を言っただろう。
何度、あの人を態度で斬りつけたろう。
心は触れ合う事を渇望するのに、体が拒絶する。
夫婦の営み ひとつ、私はまともに出来る状態では無かった。
こんなの、夫婦だなんて言えない。
夫婦で無いなら、夫婦の責務から解放されたい。
責任だけが存在する法律上の紙の関係は、今の体調では維持出来ない。
夫婦関係を解消すれば、抱えた重荷が一つ軽くなる。
浅はかな考え方しか出来なかった。
結果として、あの人を壊してしまうんだけど。
あの人を壊したのは、俺だ──
「離婚して下さい」
親友らに離婚を相談した、翌日のこと。
あの人の帰りを待ち対面に正座して、離婚を切り出した。
あの人は「嫌だ」と言った。
掃除・洗濯・家事一切、あの人に任せきり。
小間使いのような今の扱いに、何の執着が有るのだろう。
このままでは、あの人は一生を私の介護に費やして終わる。
私は何一つ、あの人に与える事は出来ないのに…
あの人は まだ若い。子供だって望める。
私では幸せな家庭は造れない。
私以外の誰か良い人と、どうか、幸せな家庭を築いて下さい…
ただただ、あの人の幸せを願った。
ただただ、あの人の将来を慈しんだ。
あの人を、私から解放しなければ。
一晩説得して、一つ約束して、あの人は離婚に同意した。
「病気が治って その時お互いフリーだったら、また、一緒になろう」
復縁の約束だ。
私は本気であったが、そんなもの、儚い夢物語に過ぎない。
病気が治る見込みなんて、そもそも存在してなかったんだ。
そんな気概は後の ひと月で失せましたがね。
それは置いといて。
翌晩、あの人の帰りを待ち、
二人で一緒に役所の夜間窓口に、離婚届を提出しに行った。
「婚姻届は二人で来るけど、離婚届は大概一人だよ。珍しい事も有ったもんだ」
夜間警備員さんに感動された。
これで、一つ重荷から解放される…
心が僅かに軽くなった。
急な離婚である事も有り、しばらくルームシェアして生活する。
このままルームシェアし続けても良い、と さえ思っていた。
──だが、現実はそう上手くはいかない。
「あなたは物事を小出しにし過ぎる!」
これは 金切り声で罵る、あの人の言葉の一つ。
離婚の翌日、あの人は豹変した。
離婚のストレスに耐えられなかったんだ。
そんな事、私は想像出来ない。
あの人が壊れた一番の要因は、私にある。
お互い“夫婦”という重責から解放されて、自由になったと思ったんだ。
だから…
私の感覚は“友達”に切り替わっていた。
それが いけなかった。
あの人にとって、私は“友達”では無かった。
そんな事も気付かず、私は今までしなかった自分の話を漏らした。
仕事事情、お財布事情、ひいては…
恋愛事情。
「やっぱり そういう事だったんだ!おかしいと思ったんだ、急に『離婚したい』なんて言うなんて!」
あの人が何を言ってるのか、当時の私には理解出来なかった。
「『お金のためじゃない』なんて言って、結局お金のための結婚だったんじゃない!」
違う。
違うんだ。
本当に、お金では得られないものが欲しかったんだ!
どんな釈明も、あの人には届かない。
君を、守りたかったんだ。
君を、壊すつもりなんて無かったんだ…
その日以来、あの人は毎日言い分が二転三転八転して、私を叩き起こして罵倒したかと思えば、翌日には ひたすら謝罪する。
精神から疲弊して、比例して痛みも増悪する。
勤めに出るので精一杯で、自分の世話すら ままならない。
結局、ルームシェアなんて言葉の上で、家事一切あの人に任せきり。
毎日されてた掃除も、されなくなった。
なにもかもが、離婚前より酷くなった。
私は、あの人と仲良くしたかっただけなのに…
離婚してから ほんの数日、全てが激変した。
私は あの人の ころころ変わる言い分に、着いて行くので やっとだった。
そんな日々が続く、ある深夜。
あの人が寝静まっている頃合に、突然、バシンッと勢いよく窓が開く音が響いた。
「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!!」
ベランダで奇声が轟いた。
建物も震撼して響く様な、悲鳴。
──あの人だ!
ハッと目が醒めた。
あの人の声と分かりつつ、私は動けなかった。
何故なら、飛び起き開こうとした寝室の扉が、施錠されてたんだ。
しばらく続いた叫び声が止んだ後、しいんと静まり返った。
──扉の先に、あの人が居なかったら、どうしよう!!!
最悪の未来が脳裏を過ぎる。
十円玉で鍵を開く事も可能だが、確認するのが怖くて出来なかった。
一晩中、怖くて怖くてたまらなくて、私は耳をそばだて、寝室の人気を探り続けた。
何一つ、物音は無い。
屋外で誰かが騒ぐ声もしない…
平常時なら真っ先に外の様子を確認に行ったろうが、それすら
怖くて出来ないまま、眠らず夜が開けてしまった。
明るくなって、ようやく私は十円玉で寝室の鍵を そうっと開けた。
息を飲み、ドアノブに手を掛け、ゆっくり扉を開く。
──居たあ!
よかったああぁ(泣)!
寝室の中では、布団の上で あの人が寝息を立てていた。
なんてことない、騒いだだけだ。
だけど その日以来、私はもう あの人の そばには居られない、と思うようになった。
決定打は、あの人の言葉。
「あなたのパンツは、もう洗いたくない」
あれは堪えたなあ…
結局、私は家庭も守れず、家すら捨てた。
全てを捨てて、猫だけ連れて、逃げたんだ。
あの人から。
⑨に続く──
ええい!くさくさしてても始まらん!女々しいぞ!
後戻り出来ん過ぎた事!
こんな時のために とっておいたんだ。
明日はヤツの話をするぞ!
怖気に震え上がるがいい!!
フハハ八八ノヽノヽノヽノ \!!!
嫌いなヤツの話をするとテンション上がるよねッ☆
何でだろねッ!
性格 悪いよねw★
蟲の縁(むしのえにし)①
私と虫。
私と言えば、虫。
そう、私を構成する一番の存在は“蟲”。
言ってて自分でキモくて凄いヤダ(号泣)!
思い出すのも戦慄だけど、虫の話をして「うわッ」「きゃあッ」言う諸君らの顔を想像するだけで、ニヤリほくそ笑んでしまうのだよ。
心底 悪ガキなんだ。にひひ♪
あれは 汚部屋先輩宅 卒業、数ヶ月後。
2DKの築浅アパートを借り、人生初の同棲生活を満喫していた頃の話。
最寄り駅からは離れ、住宅地一軒一軒の敷地は広く庭木が繁り、近くに墓地が在ったり、庭の裏手は畑だったり、そこそこ自然に溢れていた。
私の伴侶であるシロも、我が家に迎えたばかり。
仕事から帰り、まったり居間で過ごしていた。
パートナーの帰りまで、まだしばらく時間が有る。
もう少ししたら晩飯作ろ。
なんて、一度腰を着けちゃったものだから、根っこが生えてしまっていた。
コタツテーブルの上に紙が散らばってるから、その頃ハマってたカリグラフィーでも やってたのかな。
築浅であるから、Gとは遭遇しなかった。
それが、あの家の良いとこだったな。
コトンッ コトンッ コトンッ…
ふと、天井付近で物音がした。
まるで木の板を割り箸で突っついているかの様な音だった。
お2階は小さな子供の居る若夫婦。
赤ちゃんが台所で戸棚でも叩いているのかな。
そう思ってた。
一定のリズムで響くコトコト音は、なかなか止まない。
コトンッ! コトンッ! コトンッ!
何か、音が大きい気がする…
ひょっとして…家の中からしてる!?
まさか、ネズミでも這入ったか!?
私は音のする方を凝視した。
見上げた先は、台所の吊り戸棚。
引越して日も浅く、大して物も入れていない。
ええー(汗)ネズミとか、どう対処したらいいんだ??
齧歯目は実家で飼ってたハムスターと はつかねずみ、小学校のモルモットしか知らない。
ドブネズミのガ○バは大好きでアニメも見たし原作も読んだけど…
リアルドブネズミって、確かめっちゃデカいんだよな…
ここは、シロに頑張ってもらうしか。
なんて毎度ながら阿呆な事 考えつつ、冷や冷や吊り戸棚に手を伸ばした。
パコッ…
戸板のハメが外れ、身構え全開した戸棚。
──んん?何も出てこない。
気が緩んだ瞬間だった。
バサバサバサッ!
大きな羽音と共に飛び出したのは、真っ黒な塊。
「うひゃあッ!!?」
羽付きなんて思いもしない。
突然顔面に向かって来た黒い塊。
咄嗟に しゃがんで身を かわした。
──何何何何ー!!?
一瞬 コウモリかとも思ったが、違う。
頭上を大きく旋回し、蛍光灯にカツカツ頭突きする羽ばたく物体。
蝶!!?
──いや、それも違う。
クロアゲハなんて可愛いものじゃあない。
あの、ずんぐりむっくりとした
ボディに、特徴的な葉型の触覚。
──蛾だッ!!!
私は足元のシロを引っ掴み、抱えて寝室に逃げ込み、バタンッと扉を閉めた。
な…何アレー(号泣)!!!
あんな でっかくて真っ黒な 蛾は見た時 無い。
ドッドッと破裂しそうな心臓を押さえ、脂汗がドッと吹き出す。
少し隙間を作り居間を確認する。
なおも居間中を飛び回り 蛍光灯に体当たりする、蛾。
鱗粉系、無理ー(号泣)!!!
晩飯もまだ作ってない。
このまま放っておく訳にもいかんが、間の悪い事にゴ○ジェットは下駄箱の上…
た…戦えない…
戦う術の無い私は そっと扉を閉めきり、籠城を決め込んだ。
うえーん、この状況どうしたらいい!
アブラゼミ位はある胴体、丸めた新聞紙で叩けるか!?
運痴な私でクリーンヒット出来るか!?
いや、無理だ!
ワンパンで落とせる気が全くしない。
ポ○モン的にシロを けしかけるか!?
いや、決められない!
相手は蛾なんだ、どんな毒を持ってるか知れん。
だいたいにして、何ゆえ蛾が戸棚の中に!!!
いやもう寝室の扉を押さえたまま、心中 大パニックですよ。
──ていうか、おしっこしたい(泣)!!!
狭くともトイレに逃げ込むべきであった。
数時間に渡る籠城、膀胱も限界だ。
居間を中心として、台所・2部屋・風呂・トイレ・玄関が繋がる間取り。
今居る部屋から居間を挟みトイレはそう遠くない。
そうっと扉を数cm開いて、居間の様子を覗う。
あれ?蛾が居ない…
時間が経ち、飛び狂っていた蛾も疲れたか。
どこかで羽休めしてんだ。
キョロキョロと視線を動かせば──居た!
玄関扉の上の余白にとまってる。
この配置なら、間の下駄箱上ゴ○ジェットまで詰められる!
けど、やっぱ怖いな…
なかなか足が動かないでいた、その時だった。
──ガチャッ
「ただい…うおっ!何やってんの?」
パートナーの ご帰還だ。
私は必死に半泣きで指差した。
「上!上!上上!やっつけて!」
目をしばたたかさせ、振り向く彼。
「うわ。この子、まだ居たんだ」
──んんん?
彼がゴ○ジェットに手を伸ばしたので、私は一度 部屋の扉を締めた。
なんか、蛾の存在を知ってる的な事、言ってなかったか…??
「終わったよ」
私はビクビクしながら居間に出て、彼の前に立ちはだかり 睨みつけた。
「ヤツが居るって、知ってたの…?」
「うん。出勤前に洗濯物 取り込んだら、入ってきちゃった」
てへぺろ☆じゃ、ねえよ。
「テメェこの野郎!知ってたんならトドメ刺してから出勤しやがれ!!!」
「あはは、ごめーん。生きてるだなんて思わないしさ」
それは君もポ○モン的感覚で、シロがオート戦闘するだろうと思ったって事かい?
違うか。
「テメェの所為で…ていうか、戸棚に閉じ込めんな!」
「え?戸棚…??」
──あれ?
どうも彼は、家の中で蛾が飛んでいる事は知っていたけど、吊り戸棚の中に蛾が入っていた事は知らないようだった。
え…じゃあ、どうやって戸棚に入ってたの…???
謎が謎を呼び、深まってしまった。
ともあれ、蛾は居なくなり万々歳だ。
──これで終わると思うなよ。
翌日。
仕事から帰宅した私は、雑巾を手にした。
鱗粉系が飛び回ったんだ、降り注いでるに違いない。
掃除しないと、無いかもだけど、考えるだけで全身がカユイ。
コタツテーブル、床を拭き、ふと、吊り戸棚を見上げた。
…ヤツ、大暴れしてたよな…
鱗粉が落ちてると思うと、戸棚が使えない。
小さい椅子を脚立代わりにパコッと戸棚を開き、中を覗き込んだ。
ううん、何かが入り込めるような隙間は見えないんだけど…
裏側にでも板の隙間が有るんだろうか。
思いつつ棚板を拭き終え、閉めようとした、瞬間。
──こんな所に、においだま が。
サイズは私が知ってる米粒大の においだま より小さく、とびっ子位の1mm程。
だが、私には綺麗な透き通ったエメラルドグリーンの においだま に見えた。
戸の内側 側面に点々と規則正しく くっついている。
──まさか!!! 卵かッ!!?
爪先から天頂部まで一気に鳥肌が立ち上がる。
あわわ、あわわわ(汗)
慌ててゴ○ジェットを振りかけまくった。
なんということでしょう。
パートナーが放置したばっかりに、卵を産み付けられてしまったんだ。
あの蛾、メスだったんだ…
ハッとして、私は手に握っていた雑巾に目を落とした。
そうっと開いてみる。
うひゃあああぁッ(泣)!!!
バシーンッ!とシンクに投げ入れた。
においだまがね、雑巾にもね。
もう嫌だよおぉ(号泣)!
べそかき 両手にビニール袋をはめ お掃除シートをバシバシ使い、戦慄しながら戸棚に着いた においだま を撤去した。
雑巾も、もちろんビニールに包んで縛って捨てましたよ。
──数日後。
台所で食器を洗っていた、休日の日中。
角部屋なので明り取り用の横長い窓が有る。
今日、いい天気だなー…
蛾の恐怖も薄れ始め、窓から差し込む太陽光を見上げた瞬間。
フリーズして体が強ばった。
窓枠に、あの記憶に忌まわしい、透き通ったエメラルドグリーンの物体が。
それも、おびただしい数。
しかも、なんか長い。
1mmの球体じゃない。
なんか、なんか…動いてる!!!
体長1cm弱の、よちよち這いずるニ○ッキ様方。
『は○ぺこあおむし』のニ○ッキ様。
透き通るエメラルドグリーンのボディに、頭には三本の黒い棘が生えていて…
もうね、ニ○ッキ様としか形容出来ない。
嫌ああああぁッ!!!
ゴ○ジェットを振り撒き回しましたよ。
窓枠全体に。
な…何で何で何で
卵は撤去しきれずに、残ってたんだ。
戸棚の中も確認すれば、数匹のニ○ッキ様…
退治しても退治しても出るわ出るわ。
もう嫌だよおおぉ(号泣)!
退治したら撤去せねばならんくて、その作業が、またね…(遠い目)
「テメェの所為でな!テメェの所為でなあ(泣)!!」
「痛て!痛て(笑)!」
帰宅したパートナーを泣きながらバシバシ叩いて八つ当たり。
あヤツめ、笑ってましたがね。
笑い事じゃねぇんだよ!!!
一週間くらいニ○ッキ様と遭遇するフィーバー状態。
でっかい真っ黒い蛾はね、エメラルドグリーンのニ○ッキ様を産むんだよ…果てどなく。
皆様もね、お気を付け下さいましね。
─おまけ─ VS蛾
あの日はヘルプ先で、お姉さん系の美人スタッフと お店番。
出向先は1階出口付近。
夜型店舗で日中は手隙。
ヘルプ先で お店いじくったり勝手するのもアレなので、美人スタッフと世間話に花を咲かせておりました。
ふと、出入り口の自動ドアが開いた刹那、紛れ一匹の蛾がご来店。
パタパタひらひら羽を羽ばたく、中サイズの茶色い蛾。
よく電灯に集ってる、よく見るヤツ。
うわっ(汗)
ふよふよ、ふよよ~。
なんと、蛾は人波を通り越し、お店の中に入ってきたのです。
一歩引き、身構える 私。
こ、怖いけど、お客様に迷惑だし、何とかしなくちゃ…
そう思った時でした。
美人スタッフが、むんずと釣り銭置きのカントレーを手にし、ちゅうちょ無く
スパーンッ☆!
蛾を叩き落としたのです!
そのままガチャッとバックヤードから ほうき と ちりとり をだし、サッサ
ボスッ!
ゴミ箱に押し込んだのです!
ここまで僅かに数秒の出来事。
「…でねぇ、それでねぇ」
そして全く何事も無かったかのように、彼女は雑談の続きを始めたのです。
──かっ…カッケエェ✨
まさしく勇者。まさしく武人。
私は心の中で、彼女を「?姐御?」と、崇め奉るようになりました。
強い女性って、素敵ですね✨
マジ尊敬。マジ羨望。いや、マジで。
②に続く──
母親は、アレ⑧
離婚した翌々月、勤務地まで数駅、繁華街の駅近マンションに引っ越した、私。
5.5畳の1K、かなり手狭だが、借金抱え 家電も家具も慰謝料代わりにくれてやったし「寝起き出来れば良いや」とだけ思っていた。
築超浅のオートロックに宅配ボックス付き、家賃はちょい高だが、即決した。
だって、こんな都会に住むの初めてで怖かったんだもの。
私、なんか巻き込まれ体質だし。
しかも一人よ。完全な一人暮らし。
その時してた恋愛も、ただの片想い。
しかも嫌われてたからね、片想い中の殿方に…
そう、何を隠そう この私、三十過ぎて初めて一人暮らしを始めたんだ。
猫付きですが。
引越したからと言って、元家は売らねばいかんし、荷造りする余裕もなくて、猫も しばらく引き取れなかった。
ベッドと猫ケージだけ置かれた部屋はテレビも無く、夜は まあ大概呑んだくれてたけど、しいんと静まり返り空調の音だけ聞こえる。
冷たい寝床に横になれば、人肌恋しい…
寂しかったのよ。
だから…魔が差したんだ。
母親から届いた物凄くどうでもいい内容のメールに、返信してしまった。
「離婚して、一人暮らし始めた」って。
──それが、現在まで続く運の尽き…いいえ!毎度お世話になっております(礼)!感謝してます!
母親から直ぐにメールが帰ってきた。
『新居、見てみたい』
えー…ヤダ。
とは、思いましたよ。
母親に、新しい住所 教えたくねえな、ってね。
だけどまあ…一度遊びに来るくらいなら、良いか。久々だし。
寂しかったもんで、軽い気持ちで最寄り駅を教えて、仕事上がりに 待ち合わせ する事にした。
ほら、待ち合わせなら、住所 教えなくて良いじゃない。
なんやかんや お互い仕事で即日、とは いかんかった。
直前の休日に猫も引き取って来たばかりの時。
夜に駅で母親と待ち合わせ、新居まで一緒に歩いた。
「前のマンションに似てる。いいとこ、住んでんのね」
うん、いいとこ 住んでました。
郵便受けを執拗に眺める母親を、少し不審に思ったけど、エレベーターを昇り、共用廊下を歩いて、我が家の前まで先導した。
「ここ」
「へええ…」
何故、上を見上げる…
母親は、真っ直ぐに表札の入っていない、部屋番号を見ていた。
ううん、何か、嫌だな…
思いつつ、鍵を開けガチャリと扉を引いた。
ガツンッ!
──え?
ガツンッ!ガツンッ!
扉は数cm開いた所で、何かに引っかかり、開かない。
何事!?
僅かに開いた隙間から屋内を覗えば、U字の内錠が扉にかかっている。
え!?家間違えた!?
「にゃあーん、ふにゃあーん」
家の中からシロの鳴き声が聞こえる…部屋番号も間違ってない。
──まさか!シロが飛びついて内錠 掛けたのか!!?
若干 緩いな、とは思っていたU字の内錠。
シロはドアノブに飛び付いてドアを開けられる。
シロが内錠を掛けた。
それしか考えられなかった。
えええ!どうしよう!
「どうしたの?」
「シロに締め出された…ちょっと待って、鍵屋に電話する」
私はスマホを点けて鍵屋を検索し、電話をかけた。
初めに「鍵が開かなくても出張料は支払い」と注意事項を受けた。
「それでも良いです。とりあえず来てください…あ、住所?」
私は手帳を開いて住所を伝え始める。
その時だ、初めて母親の行動に戦慄したのは。
母親はパッとしゃがみこみ、鞄から紙を出して、床で住所を写し始めた。
──怖ッ!!!!
今まさに目の前で、個人情報が抜き取られている…
身内の手によって。
こんなに怖い事は無い。
物凄く嫌だ。物凄く。
ど、どうしよう!!?
視線を母親から ずらし、平静を装い通話を続けるので手一杯だ。
母親は住所を書き終えると私を見上げ、見られていないか確認してからサッと鞄に紙を仕舞った。
いやもう、動きが犯○者。
こういう時って、どうしらいいの…?
「止めて!」て 訴えれば良かったの?
そしたら「じゃあ、住所教えて」て なるじゃない。
いずれにしても、手は詰んでたんだ。
「──鍵屋さん、1~2時間で来てくれるって。お茶でもしに行こう」
私は見なかったフリを決め込んだ。
一応、扉を引いてみて内錠がかかりっぱなのを確認し、冷えた肝に動悸を堪えつつ、喫茶店に移動した。
「何か食べる?」
「ううん、お腹空いてない」
食欲なんか、湧きません。
でも何も腹に入れてないのも胃に悪そうなので、久々にブラックではなくウインナーコーヒーを頼んだ。
美味しかった。
こういう時、便利なスキルが身についていて本当に良かったと思う。
“お仕事スイッチ”である。
このスイッチが入ると 接客モードがONに、自分を切り離し、斜め上から客観視している状態になる。
要は、クレーム対応スキルだ。
何で身内に そんなスキル発動せねばならんのだ。
と思うが、本来の自分では、ボロが出まくり“見て見ぬフリ”など出来はしない。
正直、何の会話をしたか覚えてない。
だらだらと1時間強 世間話をして、スマホが鳴った。
「鍵屋さん、到着したって。戻ろう」
マンションに戻れば、オートロックの自動ドアの前で鍵屋さんが待っていた。
三人でエレベーターを昇る。
部屋階のエントランスに出た瞬間だった。
母親が 吹き抜けを通り階上階下、マンション中に響く様な大きな声で、鍵屋さんに
「この子ね、初めてなのよ一人暮らし。もう心配で心配で…」
「止めてッ!!!」
流石に母親の肩を引っ掴んで、止めた。
「あらやだ、この子ったらー。照れちゃって(笑)」
違う。
子供扱いされて恥ずかしかったんじゃない。
これ以上の個人情報流出を せき止めたかったんだ。
世の中、隣人に どんな悪い事 考えてる人が居るか分からないんだよ?
しかも、相手は鍵を開けられちゃう赤の他人なんだよ。
それを…それを~…
別に鍵屋さんを疑ってる訳では無いんだが。
部屋の扉の前でツールボックスを開いた、鍵屋さん。
扉に手を掛け引いてみれば…
カチャリ。
──あれッ!!?
なんと、あれだけ ガツン ガツン引いても開かなかった扉が、難なく開いた。
「開いてますね」
パチクリ目を瞬かせ扉の内側を確認すれば、定位置に戻っているU字の内錠。
え、何で???
「にゃあーん、ふにゃあーん」
鳴きながら、足元で客人を もんどりうって出迎える、お客様 大好きな、シロ。
お前…もっかい飛び付いたな…?
なんということでしょう。
恐らくだが、喫茶店に移動した事で 扉の外に人気が無くなり、シロが再び扉を開けようと飛び付いた弾みで、内錠が解けたんだ。
「あー…たまに有りますよ。猫が内錠 閉めといて、開けちゃうこと…」
場を とりなしてくれる、優しい鍵屋さん。
「では、出張料だけ頂きます」
ですよね。
くうう…
1万円近い出張料だけ支払うのは物凄く痛い。
だが出張を依頼した手前、支払う以外に選択肢は無い。
「他に何かございますか?」
流石に出張料だけでは…と思ったんだろう。気を使って下すった、鍵屋さん。
ええと、何か…何か無いかな…
あッ!
「養生テープとか、有ります?」
「車に積んでますよ。持ってきましょうか?」
ありがたい。引っ越したばかりで、そういう類は家に無かったもんだから。
鍵屋さんに養生テープを車から持ってきてもらった。
「ここ、ですよね?」
「ですです。もう一思いにバシバシ貼っちゃって下さい!」
鍵屋さんが指すのは、U字の内錠。
内錠を養生テープで扉に固定してもらったんだ。
動かぬように、これでもかと。
1万円の養生テープ数切れにより、二度と内錠が掛かる事は無くなった。
一悶着は起きたが、母親を新居の屋内に案内して、ふうと息を着く。
「じゃあ、母ちゃん帰るね」
──早くない?
屋内を見てから10分も経ってなかった。
荷物を抱える母親。
多分だけど、母親は目的を達成したから 我が家に用が無くなったんだ。
新居の「住所を手に入れる」という、最優先目的を…
狭いから直ぐ見渡し終えちゃった、てのも有るでしょうけど。
今となっては 分かりませんね。
でもまあ、帰ると言ってくれたのだし 引き止めるのも、なんだかなあ。
仕事で消耗してる上でのハプニング。
加えて高精神力消費のスキル発動。
残HPは黄色、MPはゼロ。
これ以上、母親と居たくなかった。
「玄関までで良い?」
駅まで見送る力も残ってません。
玄関から母親を送り出し、扉を閉めた。
──何か、嫌な感じがする…
直ぐにでもベッドに横になりたかったが、虫の知らせに扉の覗き穴から外を見た。
ほの暗い穴から見えるのは、玄関前でグズグズ何かしている母親の姿。
何やってんだ…
母親は廊下の手すりパネルに寄りかかり、何かを紙に書き込んでいた。
そして、鞄から携帯を出し、構えた。
パシャッ
──怖ーッッ!!!
母親が携帯カメラで撮影したのは、恐らく 我が家の玄関扉と部屋番号。
もうね、恐怖しか、ありません。
爆音の鼓動を耐え、母親が居なくなるまで見守った。
何か…何か、見ちゃいけないものばかり見ちゃった気がする…
よろよろボフンッとベッドに身を投げ、ばたんきゅ~…ですよ。
リアルはコンティニューなんか出来ません。したくもない。
見ちまったもんは仕方ないんですよ…
この後、痛いほど思い知る事になるんだ。母親の歪な愛情を。
⑨に続く──
ド○キ楽しい
都会には楽しい施設が盛りだくさん。
一番ハマったのが、入口前に たむろするネオヤンキーと、ド○ペン君が陽気にお出迎えしてくれる、多階層のド○キ。
その頃 色々起きて、現役時代最低体重をマークしてた、私。
細っこいから、お洒落が楽しかったのよ。
お化粧品に、ピアッサー。
なんかね、ピアス増やしたくなったのよね。
四つ開けたかな。
カラコンも挑戦したかったなー。
でもでも~、一番は…
アダルトコーナーが超 充実してる☆めっちゃ楽しい!
田舎の方だと目立たないコーナーだけど、ワンフロアとか、素敵過ぎ?
色々レジカゴに放り込みましたよ。色々とね。ウフフ♡
コインランドリー恋歌①
都会に引越して以来、家電と言えば 姉が引越し祝いにくれた電子レンジ、必要性にかられ買ったダ○ソンの掃除機と空気清浄機。
いやね、しばらく ほうきで頑張ったけど、狭いくて三匹居ると、なかなかにニャン毛がね…
三種の神器である、冷蔵庫・洗濯機・テレビは無いまま。
テレビは欲しかったけど、置き場無くて壁に貼るしかねえし、何より あの家テレビのアンテナ線ジャックが無くてね。
どうやって観るんだろう…?
ネットで観るのかな…?
冷蔵庫は冷蔵庫置き場に漫画本積んでしまってね、置けなくなってしまったのだよ。
箱が天井付くくらい、思いの外 持ってた。
基本 呑んで帰ってたし、赤ワイン常温でも呑めるし、近くにコンビニ有るしで、必要性を感じなくなっていった。
ただね、洗濯機は別。
洋服は洗わねばいかん。
クリーニングの単身者パックなんかも考えたけど、プチプラ洋服をクリーニングに出すのもなあ…
何より、下着はどうすんだ?
という訳で、近所にコインランドリーが無いか検索した。
──在った在った、二軒も在るじゃない♪
早速 休日に、百均で買ったトートバッグに洗濯物を詰め 洗剤持って、近い方の一軒に足を運んだ。
商店街の裏手に位置しているとは言え、両側に呑み屋が軒を連ねる細い道。
おおお、こっち側にも沢山 呑み屋が✨
次はここ行こ、ここも旨そう。
なんて予定を組みながら、呑み屋に挟まったコインランドリー前に到着した。
──oh。
一度 通り越してしまい、後ろ歩きに戻って見上げた、コインランドリー。
間口は狭く四畳半程。
設置されてる洗濯機は少なく4台、乾燥機は2台。
…すんごい、きちゃなぼったい。
昭和臭漂う あばら家は、お世辞にも綺麗な状態では無かった。
ううん…この洗濯機、使うの勇気要る…
お部屋先輩宅を思い出す。
そのくらい、汚かったんだ。
どうしよう、もう一軒の方も行ってみるか…?
もう一軒は現在地からは距離が有る。通りをぐるっと回らねばいかん。
…それも面倒だな。
洗濯も数機 稼働している。
誰か使ってんなら、まあ 問題無かろう。
私は、そのコインランドリーを使ってみる事にした。
洗濯物と洗剤を投入し、百円玉を入れてスイッチON。
…うん、水は綺麗だな。
水道水なんだから 当たり前なんだけど。
洗濯機を回している間に、乾燥機を確認する。
oh…
二機しか無い乾燥機は、片側に「故障中」の張り紙が。
ええー、一機しか無いんじゃ、使われちゃったら めっちゃ時間かかるやん。
コンクリート打ちっぱなしの四畳半、待合所なども当然 無く。
洗濯機終わるまで3~40分かな。
私はコインランドリーから出て外壁に寄りかかり、タバコを加えた。
待とう。
コインランドリーからは離れずに、ぼんやり時間を潰す事にした。
タバコに火を点け、くゆった煙の奥。
コインランドリーの真正面に、小さな小料理屋が在った。
小綺麗な外装には旬の食材の御品書き。
ワインメニューが貼ってあるって事は、洋食系かな。
カウンター席が僅かに5脚。
奥の調理場では、店主か お兄さんが あくせく仕込みをしている。
──イケメンだな。
緩い癖毛、真面目そうな眼鏡に すらっとした細身。
黒いエプロンに、清潔感 溢れる白いワイシャツを腕まくり。
ぶっちゃけ、一目惚れした。
洗濯終わるまで ぼんやりと、小料理屋の お兄さんを眺めて過ごした。
そんな感じで毎週休日に、小汚いコインランドリーで洗濯しては、ぼんやりタバコを ふかした。
あんまりずっと居るのもな、と洗濯機か乾燥機ぶっこんだ後、喫茶店に移動したりもしたけど。
なんやかんや洗濯する度にコーヒー代込み千円強飛んでんだから、クリーニングに切り替えても良かったと思う。
それでも足繁くコインランドリーを使っていたのは、やはり小料理屋のお兄さん目当てなんだろう。
小料理屋には、お兄さん以外のスタッフは居ないようだ。
一人で切り盛りしてんのかな、大変だなあ…
よし、いっちょう売上に貢献しますか。
お兄さんを眺め約ひと月、私は小料理屋の引き戸を開けた。
「いらっしゃいませ~!
あッ!」
小料理屋のお兄さんは、来店した私の顔を見た瞬間、ぱあっと可愛らしい笑顔になった。
え、なんでだろう…??
「一人なんですけど、良いですか?」
「どうぞ どうぞ、お好きな席に!」
私は手近な席に腰を掛け、カウンター上の癖のある手書きメニュー表を見た。
「いつもコインランドリーの前に居ますよね」
あ、やっぱ気付かれてたか。あはは~(汗)
あのコインランドリーで待機する人間など、そうは居ないだろう。
不審に思われてたろうか。笑うしか無い。
「赤ワイン、ボトルで注文して飲みきれなかったら、持って帰っても良いです?」
「良いですよ(笑)」
折角なので、ちゃんとした所で食べた時の無い、生ガキ・焼きガキ・フルボディのボトル赤ワインを注文した。
「海鮮なのに、赤なんですね」
白より赤が好きなんです。
突き出しと共に出されたボトルワインのキャップを ひねり、ワイングラスに手酌する。
うん、旨い♪
初めて食べる殻付きのカキ。
鮮度よし、殻から ぽってりとした身を すすり頬張る。
うんま~い♪
焼きよし、カキ汁 波々としたところへ醤油を ひと垂らし。
うんま~い♪♪♪
毎度の事だが、私に食レポを期待してくれるな。
とにかく、美味いんだ。
「美味しい♪」
「良かった!そろそろ生ガキ終わっちゃう とこでしたから」
あ、そうか。じゃあラッキーだったな。
そうこうしている間に、洗濯機が終わる時間が来た。
ううん、もう少し呑みたいし 食べたいし…
「ちょっと洗濯物、乾燥に移してきても良いです?」
「良いですよ~(笑)」
なんと、お兄さんはイチゲンの私の外出を許したのだ。
食い逃げとか思わないのかな。
座席そのままコインランドリーまで小走りに、洗濯物を乾燥機に ぼふぼふ移してスイッチON。
「戻りましたー」
「おかえりなさい(笑)」
同じく、乾燥が終わった洗濯物も 畳みトートバッグに詰め込んだ。
「そこ、置いて良いですよ」
大荷物で戻った私に、お兄さんが指し示したのはビール瓶ケース。
なんて、お優しい…✨た洗濯物まみれの私は、赤ワイン ボトル1本空けるまで、お兄さんと雑談に花を咲かせた。
日も高いうちから ほろ酔いに上機嫌で、トートバッグを ぶんぶん揺らしながら帰ったっけ。
また、行こ♪
すっかり胃袋まで掴まれてしまった。
②に続く──
繁華街楽しい
時々は定時で仕事が終わる。
そんなラッキーデーは駅まで早足に、帰宅を急ぐ。
なんでかって、目当てが有るのだ。
昼頃から夕方までアルコール類が お安くなる夢の時間帯。
場所によっては半額になるんだよ!
行くでしょ!行くに決まってるでしょ!
合言葉は、
「ハッピーアワー♪」
形見分け
新盆を過ぎ、じいじ からは愛蔵書の一部、
ばあば からは猫のブローチと手巻き式の腕時計を頂戴した。
手巻き式の時計って、毎日ネジ回さねばいかんイメージだったんやが…
一ヶ月以上 放置しているに、止まる気配が全く無い。時間も狂わない。
昔の物って凄えな?
と、思う反面、
ちょっと怖い。
いや、結構 怖い。
だって私、貰ってから1度もネジ巻いてないんだよ?
なのに、止まらないんだよ…?
九十九神でも憑いてんだろか…
半ばホラーの領域である。
ごめんね、ばあば。てへ。
現在は「どのくらい巻かずに動くのか」検証中。
普通、どのくらい もつもの なんだろか。
形見
流れ的に ついでなんで、こっちも。
生前、父親から仕事で使うノートパソコンを薄型のに買い換えたから、不要になった方を欲しいか聞かれた。
欲しい、欲しい!
私が持っていたノートパソコンはOS三代前、動作も猛烈に遅い。
新しいやつ、欲しかったんだ。
早速、宅配便で送ってもらった。
あ、当時ね。当時のOS換算。
届いたダンボール箱を開いてみれば、出てきたのは ほぼ使われていない、OS一代前のVAI○。
え、こんな良いやつ、何で買い換えた?
父親に届いた お礼ついでに聞いてみた。
「重くて持ち運びたくない」
父ちゃん…
買う前に考えよ。
あとね、仕事のデータは消そうね。
パスワード、パソコンに貼るのも止めようね。
なんか色々とアレだった。
中でも気になったのは、ビニールに入りっぱの未使用リモコン。
最近のパソコンはリモコンとか付いてんだ。
くらいに思って、部屋が狭いんで使いはしなかったんだけど…
「箱にさ、リモコン入ってた?」
「入ってたよ」
「アレさ、パソコンのやつだと思って入れちゃったんだけど、テレビのやつだった」
oh、父ちゃん…
何か いっぱいボタンが付いてるリモコンだから、無いと困る事も有るだろう。
テレビ無いからリモコン要らんし。
何かの ついでに、返却しよ。
と 思ってはいたんだけど、どうにも存在感が希薄で、ついでが有っても忘れ物しちゃったり、なんやかんや返す機会を逃したまま、父親は亡くなってしまった。
パソコンはDVD見るのに大活躍した。
猫に踏まれて画面が へし折れちゃったから、今は使ってない。
手元に残った全く使い道の無い、立派なリモコン。
父親の形見だ。
…あれ?どこ仕舞ったっけ?
コインランドリー恋歌②
「実はさ、ずっと『食べに来てくれないかな~』て 思ってたんだ」
洗濯待ちで小料理屋で一杯。
なかなかに普通のお値段だから毎回とは いかんかったけど、何回目かの来店で お兄さんに言われた。
どういう意味だろう?
言葉通りかな。
地味にこういった意思表示に疎い私。
だってさ、言葉通りかもしれないじゃん。
「暇してんなら飯を食え、酒を呑め」て、集客的な意味かもしれないじゃん。
今となっては、どういう意味だったのか、分かりませんがね。
基本的に確認しようの無いグレーな言い回しは、真っ向ストレートに言葉通りにしか とらえられない性分だもんで。
言葉の裏に隠された真意が脳裏に過ぎっても、持ち前の妄想力かな、て なっちゃうのよ。
変なところ、恋愛音痴なんだ。
お兄さんから名刺を頂いた。
役職は店長か。
てか、チェーン店だったんだ、ここ。
「メアドも書いたんですけど、ライン交換しませんか?」
え?えええ???
どういう意図だろう。
普通なら多分、やったー☆てなる状況なんだろうが…
何故、私なんかのラインを欲する…
て、なっちゃう訳で。
「常連さんとは、結構やりとりしてるんですよ」
あ、そういう事か。
そういえば、しょっちゅうスマホチェックしてる姿を見る。
最近の若者的なアレなのかな。
同い年なんだけどね。
お兄さんの申し出にスマホを出した。
位置情報offってるので、フルフルは出来ない。
…あれ?言葉が出てこない。アレよアレ、アレで交換した…
あ、そうだ。QRコードだ。
ライン自体 使い始めたばかりの時だったもんで。
意図せず お兄さんの連絡先をゲットした、私。
アプローチしたかと言えば、珍しい事に、そうでもない。
多分だけど、直前に片思い中の相手にブロックされちゃったり、色々と起こしてたから臆病になってたんだ。
だから、連絡先 分かってからも 最初に軽く挨拶して、放置。
自分からは連絡しなかった。
お兄さんが しょっちゅう投げるタイムラインだけ、読んで過ごした。
そんな ある日。
「今度、商店街の祭りが有るんですよ。ウチも出店するから、遊びに来ませんか?」
お兄さんからの申し出を詳しく聴けば、沿道に露店を出し 来店者にビール一杯、無料で提供するのだと言う。
行きます!行きます!
ビールがタダだなんて、捨て置けぬ。
「遊びに行く」約束をした。
毎日 楽しみで楽しみで、ウキウキとして過ごした。
正直、お兄さん目当てなのか ビール目当てなのか、分からん。
多分、後者だろうな。
当時、華金に仕事を快速で終わらせるつもりであったんだが…
私の力量では そうも行かず、最寄り駅に着いた頃には、そこそこ遅くなってしまった。
しかも、雨。
駅のコンコースから出れば、ザーザーとした降りっぷり。
ううん、遅いし この雨じゃあ、店仕舞いしちゃってるかもな…
小料理屋へ続く小道の枝。
曲がるか、真っ直ぐ自宅に向かうか、凄く悩んだ。
仕事で疲れ果ててたのも有り、真っ直ぐに帰宅する事を選んだ。
徒労で終わる可能性が高いんだもん。
あーあ、残念だなあ…
ベッドに横たわり、ニャンコを はべらせ、私はスマホを点けた。
約束破るなんて、自分らしくない。
お兄さんに何て弁解しよう…
考え考え 言葉も浮かばず、占い覗いたりしてるうちに、寝落た。
翌日。
ハッと目が醒めた。日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。
やっちまったあー!
既に昼近く、休日出あったのが幸いした。
スマホを点けてみたが、お兄さんから特に連絡は入っていなかった。
ううう…約束破る最低なヤツだと思われたかも…
後悔先に立たず。
天気は晴れ。
明日は旧居側で予定が有る。
洗濯行くなら 今日しかない…
物凄く、行きたくない。
もたもたと身支度して、いつもより時間を掛けたものだから、結構お洒落に気合いが入った出で立ちになった。
…お兄さんの様子だけ見て、今日のところは喫茶店に行こう。
小汚いコインランドリー。
いつものように洗濯機を掛け、外壁に寄り掛かりタバコに火を点けた。
スマホを見てる体を装った。
ううん、一言くらい謝りたいんだけど…
いつもより遅い夕刻、小料理屋には先客に若夫婦かカップルが二組、ほぼ満席。
調理場では せっせと働く、お兄さんの姿。
物凄く、入り辛い…
軽く引き戸を開け「昨日はごめんなさーい!」だけ言うには、難しい空気…
調理が切れるタイミングを推し量った。
そうこう しているうちに占いに夢中になっちゃってた、私。
いや、凄いのよJ先生の占い。
初めて自分の人間性を言い当てられた時は、あまりにもピタッと当たってから、度肝を抜かれた。
そうだな、例えば…
「一人で何人もの人生を歩んでいるような数多の経験をしてる」
だとか。
ね、思いません?
色々と的確に言い当てられたもんだから、だんだんとJ先生に惹かれていく訳なんだが…
これは別の話か。
相手が何考えてるか分かんない時とか、どうしても占いに頼ってしまうのだよ。
心中を推察するにも、付き合い浅いと その人の性格だとか情報無さ過ぎて?が全力で飛ぶから、私には安心材料なん。
「昨日、何で来てくれなかったんですか?」
ハッと声に顔を上げれば、お店から出きて私を覗き込んでる、お兄さん。
うえッ!? お客様はけた!?
気付かないうちに手隙になったのかと思いきや、店内には同じくカップルが二組座ったまま。
「あっ…ごめんなさい。雨だったから流れちゃったかと思って…」
「そうだったんだ。はい、これ」
ニコッと可愛らしく笑う お兄さんが差し出したのは、大きめのプラカップに波々 泡立つキンキンに冷えたビール。
「えっ??」
「昨日 呑みに来れなかった分、サービス」
それだけ言って、お兄さんは私にビールカップを押し付けて駆け足に お店に戻って行った。
──な、なんか甘酸っぱい!
いやホント、ヨダレ出るほどマジで甘酸っぱい…
こういう青春的な扱い、受けた時 無かったもんで。
このビール、呑みに行った訳でもないのに タダで貰っちゃったけど、お店的に良かったんだろうか…
なんて、自分の良識に思考を占領されつつ、ちびりビールを呑んだ。
洗濯機が終わり、ぼふぼふ乾燥に移した頃にも小料理屋は盛況していた。
予定通り、今日はサ店行くか。
その前に…
私は小料理屋の引き戸をガラッと引いた。
振り返るカップルの背後から、お兄さんに声を掛ける。
「ごちそうさまでした!美味しく頂きました!」
「良かった!カップ回収しますよ」
「あ、ども…」
なんと、ゴミまで回収してくれる、優しい お兄さん。
私は空のプラカップを お客様の頭の上から お兄さんに手渡した。
「次は、呑みに来ますね!」
「あはは、お待ちしてますー」
そのまま私は扉を閉め、喫茶店に向かった。
なんか、なんか…感触 良くない!!?
浮き足立つよね。
その後、喫茶店で一服しつつコーヒー飲みながらも、占いばっかり見ていた訳なんだが。
…お兄さんの誕生日、いつなんだろう…
占星術には必須だもんで。
まだ聞いてなかったんですよ、阿呆ですね。
こうして気持ちも少し楽になり、翌週の楽しみが増えた 私。
明日も頑張れる✨✨
仕事も頑張れる✨
なんて、やる気に満ち溢れる。
お気付きかと思うが、私、不思議な事に恋してる時が一番 活力が有るんだ。
悲恋でなくて、良い恋の時は ことさらに…
そうね、こういう星回りに生まれたんだから、仕方ない。
「恋に生きる」
これが、自分。
いやまあ、ロクな恋愛経験してませんがねw
③に続く──
○○の母・続
そういえば、昔J先生に弟子入りしてた時、めちゃめちゃ先生に
「占い師に向いてる。この星回りは完全に占い師。占い師なった方が良い!」
て言われたなー、と 思い出した。
占いもう一度 勉強し直すか…?
いやな、今他にやりたい事 盛り沢山やねん。
ま、老後に趣味の範囲でかな。
やりたい事 その④
初期の頃に2つくらい言っといて、他は言ってなかったな~と思いまして。
やりたい事リスト
① 名分(まだ秘密ですよ)
② “車いす安全整備士”資格取得
③ ダイエット&筋力増強
そしてそして、今回は~その④!
「自主サイトを自分で造る」でーす✨
んだけど、noteで充分と言えば充分だし、私が学んだ頃よりHTML進化しまくってて 勉強し直さなきゃだし、何より現状 素材が圧倒的に少ない…
なので年単位で先々、やれたらな~くらい。
noteで「アレやりたいんだけど…」みたいな部分も有る訳だけど、まだまだ使いこなせてないしな。今はnoteで充分。
(未満)が外れる3年後以降にでも。
私、別に作家になりたい訳では無いんですよ。
難しいとこ なんだけど…
書いたの抱えてても勿体ないから「読んで読んで~」て だけで。
だって このまま もし おっ死んじまったら、お蔵入りするか下手したら焼却されるだけじゃない。
折角書いたのに勿体ないよ。
ただし、やるからには とことん創り込みたい性分だもんで。
私はね、“職人”になりたいのだよ。
あ、コレ⑤ですね(汗)
私の知識もスキルも何もかも、浅くて一つとして極められて無いんだ。
一生のうちに、何か一つでも極めて胸を張りたい。
警官・ケーキ屋さん・戦隊ヒーローの赤い人・漫画家etc…
幼少期からの夢は数 有れど“職人”これだけは一貫して根付いている、なりたいもの だもんで。
なんてったって、物心ついた時の初めて持った夢は
“大工の棟梁さん”
頭にタオル巻いて、作業着ベスト着て、ニッカボッカ履いた地下足袋の。
工具箱 肩に担いでさあ、格好良いじゃない✨
憧れたものです✨
コインランドリー恋歌③
遠方に住む父親が、姉と共に新居に遊びに来た。
二人とも幅が広いから、5.5畳が狭い狭い…おっと。
椅子代わりにベッドに腰掛けた父親に「何か欲しいもの有るか?」て 聞かれた。
欲しいもの、欲しいものなあ…
「レンジとダ○ソンの掃除機と空気清浄機しか無いんだよね」
て 言ったら、笑ってたっけ。
「テレビは?」
「置くとこ無い」
「冷蔵庫は?」
「漫画本 積んじゃった」
「洗濯はどうしてんだ?」
「コインランドリー行ってるけど…」
実は、洗濯機置き場は有るんだ。
玄関横に扉付き、半畳程の良い空間。
ここは流石に物を入れていなかった。
なんだけど…
洗濯機 欲しいって、心の底から言えなくて黙ってしまった。
「コインランドリーなんて高いだろ。洗濯機置き場はベランダか?」
「いや、屋内に有るんだけど…」
「じゃあ、父ちゃんが買って送ってやるよ。何でも良いだろ?」
oh…
「うん、ありがと」
なんたること。ありがたいんだか、何とも…
なんともモヤッとした状態の私を そっちのけ、父親はシロを べらぼうに可愛がって遊んでた。
父ちゃん、猫嫌いなんだと思ってた。
以前、旧居に来た時は ぜんぜん 見向きもしなかったから…
あ、父ちゃん料理作ってくれてたから、イタズラしないように私がシロをネコゲージに閉じ込めたんだっけ。
「父ちゃん、猫 好きなんだ?」
「好きだよ~♡こいつは また人見知りしなくて可愛いなあ♡」
「うん。その子、変なの」
変なのって言ったら「変なおじさん」やってくれるかと思ったけど、流石に忘れちゃってたみたいで、笑ってたっけ。
翌日。
私はコインランドリーに洗濯に行った。
今日は呑も。
洗濯機を回し小料理屋を見れば、カウンター席に出て何かやってる お兄さんの後ろ姿。
カウンターでも拭いてんのかな。
そう思い お兄さんの作業を邪魔しないよう、私はコインランドリーの外壁に寄りかかり、いつものように一服した。。
「こんちはー」
「いらっしゃい!来る頃だと思ってた!」
「あははー(汗)」
すっかり行動パターンを読まれている。
「さ、座って座って」
小料理屋には 私以外お客人は居なかった。
調理場には ニコニコ笑顔の お兄さん。
適当に中央付近の席に着き、平置きメニュー表を覗き込む。
さて、今日は何に しよっかな~…
「僕、沢山食べる人、好きなんだ」
えっ…?
不意の言葉に顔を上げれば「へへっ」と笑う、お兄さん。
それは、どっちの意味ですか…?
沢山 料理メニューを注文する良客、て意味ですか??
大食らいの私みたいのがタイプだ、て意味ですか…???
盛大に飛ぶ?の意味は、聞けないよ流石に。
照れ笑いやがって、可愛いなコンチキショウ…
「今日はね、特別。メニュー表、裏返してみて」
何だろう?
メニュー表をペロッと めくれば、裏側から もう一枚メニュー表が出てきた。
手書きで書かれた『裏メニュー』の表題。
おおお✨
「まだ試作段階なんだけどね、最初に食べてもらいたくて」
最初…何!? コレ、私だけのお品書きか!?
何で私が この席に座るって分かったんだ!?
いつも座る座席は決めておらず、適当に気分で座っている。
どうやって先に知れたんだろう…
なんて、自分だけのメニュー表よりも、手品に感動を持っていかれた。
お兄さんが調理場から、カウンター席に出て来る。
端の席から ペロリン ペロリン、メニュー表を返しては紙を回収して行く…
あっ!全部の席に仕込んであったのかー!
物凄く簡単な手品の種明かしに、すっかり やられた気分だった。
なんか、くやしい…
裏メニューにはガッツリ系の洋食が5品程。
ううぅ…私の好みまで考慮されている…くやしい。
そうなのだ。
呑んべぇには珍しいが、呑むと べらぼうに食うんだ、私。
ほら、呑んだ後ラーメン食べたくなるじゃない。アレが同時に来ちゃうのよ。
そしてラーメンも食べちゃうのよ。
当時は食っても肥えなかったから。
どれも美味そうだな…
と思ったはずなのに、肝心のメニューが思い出せない(泣)
全部 食べてみたいけど、流石にガッツリ5食は無理だな。
なんて思って、一番右の肉系と赤ワインをボトル注文した。
「やっぱり!好きだよね、そういうの」
ええ、肉食なんです…
のんびり手酌しながら、お兄さんの創作料理に舌鼓。
「…実はさ」
談笑していた お兄さんの顔色が 若干、曇った。
「僕、異動になっちゃたんだよね」
──え?
「急なんだけど、来週には新しい店長さんが こっち来るから」
ああー…あるある、そういう急な人事。
どこの業界も同じなんだな。
お兄さんの新しい勤務地を尋ねれば、十駅程 離れた繁華街だった。
ううん、地味に遠い…
しかも勤務地からは反対側。
仕事上がりに ちょろっと寄れる場所では無かった。
「新しいとこは テーブル席も在ってね、厨房も広くてスタッフも何人か雇うんだ」
「え、凄い!栄転じゃないですか!」
栄転なのなら、私も暗い顔してちゃダメだ、祝わねば。
調子こいてガッツリメニューを3品消化、衣類を回収後、追加オーダー。
ボトルも更に追加して のんびり長居、米系2種含む裏メニュー5品全部 完食し、他のメニューも幾つか食べた。
めっちゃ美味かった。
おなかぽんぽん に 酔いどれて、洗濯物ぶら下げたまま コンビニでラーメン買って帰った。
結局、お兄さんに洗濯機の話はしなかったけど、来週には別店舗だし、良いか。
翌週。
父親が地方で配送依頼してくれた、洗濯機が我が家に やって来た。
設置と長期保証も付けてくれてあった。
設置サービス、めちゃめちゃ助かる…✨
ひと昔前なら全部自分で やったけど、洗濯機を動かす筋力は もう無かった。
狭い間口の扉付き洗濯機置き場、どうやって設置すんのかな。
こういうの、すんごい見ちゃいません?
設置する側には、お邪魔でしょうが。
床に敷布を敷いて、廊下に置かれた洗濯機。
うわッ!? Panas○nicやん!!
これ、高かったんじゃ…
プチプラメーカーの お安いので良かったのに。
直立式の全自動4.5L。
洗濯機には珍しく、フタがピンク色で可愛いらしい。
このチョイス、父ちゃん じゃねえな。
話に聞いてたパリピ20代 彼女と きゃっきゃと選ぶ、壮年の父親の姿が浮かんだ。
ともあれ、洗濯機が このタイミングで やってきたのは幸いだな。
早速、洗濯物を ぶっ込んで 水栓 捻り、スタートボタンを押してみた。
ゴウン、ゴウン…ジョバババッ
すげぇ!水出た!
当たり前なんですが…
すげぇ、すげぇ!洗ってる!
当たり前の事なんですがね…
自動計量とか便利過ぎる。
結局、脱水時にフタを閉めてなくてピーッてアラームで叱られつつ、洗濯終わるまで ずっと見ちゃった。
物干し用に買った百均のピンチと洗濯物を持ち、お風呂場に向かう。
うん。あの家、浴室乾燥 付いてたんですよ…
多分ね、飲食代含めたら毎週コインランドリー使うのに、軽く良いドラム式の洗濯機が買えるくらい飛んでると思う。
でも、良いんだ。
お兄さんに出逢えたから。
甘酸っぱい想い沢山 出来たから。
こういう得がたい経験は、お金じゃないじゃない。
時々は、小汚いコインランドリーと 小綺麗な小料理屋の前を通ったけど、中に入る事は無くなった。
チラッと小料理屋を見れば、調理場に立つ 知らない 店長さん。
中の人が違うだけで、別の お店に見える…
お兄さんから連絡来ないし、新店舗は遠いし。
良き想い出へと変換され行き…
④に続く──
父親も、アレ①
父親の話は ちょっぴりセンチになるから、なかなか語れなかったけど、そろそろ吐き出して おこうかな。
そう、察しが良い方は お気付きだろう。
私の父親も、実は“アレ”なんだ。
アレな母親に、アレな父親。
私みたいな お脳が天気の 変な奴が生まれたのも、仕方のないことと思う。
数える程しかない、父の想い出。
あれは私が 幼稚園生の頃かな?
実家の大きなダイニングテーブルで、姉1号が宿題をやってた。
美術のお題か、鉛筆写生した風景画に絵の具で色を塗ってた。
多分 姉は、私の「遊んで」攻撃に負けたんだろうな。
私も隣に座り、画用紙と絵の具を分けてもらってた。
私と姉の間に置かれたパレットとバケツ。
「パレットに出した絵の具は使って良いよ」との事。
私はパレットの絵の具を ゆすいだ筆に取り、画用紙に走らせる。
そうこうしているうち、休日だったのかな、父親が姉の背後に立った。
「○○!なんだ、この塗り方は!木は、こう…こう…こうなんだよ!」
半ば怒り加減で、姉に色塗りレクチャーを始めた父親。
「○○を見てみろ!この年輪の“切り株”グラデーションの掛け方、素晴らしいじゃないか!木はな、こう描くんだよ!」
え?“切り株”なんて描いてないんだけど…
父親に褒められた事より、別の物に見えてる事に混乱して、私は ぽけっとしていた。
そんな私の思いに気付いたか気付かないか、姉が代わって父に告げる。
「お父さん…それ、“バームクーヘン”だよ」
うん、そう。
私はパレットに出された茶色の絵の具で円を重ね、大好物のバームクーヘンを描いていたのだ。
その事を知った父親。
言葉も無いまま、立ち去っていった。
②に続く──