【対談集 vol.2】 鈴木ユキオ「刻の花」/「moments」について
コロナウイルスに翻弄される月日が始まるまさにその時に、上演された前作「人生を紡ぐように 時の流れを刻むように」から約2年。その間は、鈴木ユキオプロジェクトも例外なく、活動は延期や中止が続いた。その中でも、オンラインイベントや映像作品への制作、野外でのパフォーマンスなど、挑むことを続けられたのは、メンバーの存在が大きかったかもしれない。久しぶりの劇場作品制作に向かうカンパニーメンバーに、今の思いを聞いた。
ユキオ「このメンバーで3年くらいやってきて、久しぶりに劇場作品のクリエイションという機会。さらに、新しい試みとして、ゲストダンサーの共演もあり、みんなぞれぞれに思うこと、感じていることがあると思うけど、どうかな?」
はるか「ゼロからのクリエイションという感覚は久しぶりで、新鮮な思いで日々リハーサルに臨んでいます。みんなが向かい合って、一つの作品を一緒に作ろうとする姿勢を肌で感じることは、新作制作の醍醐味だなと思います」
朱里「私は前作の時は、言われたようにやるだけで精一杯だったのですが、時間が経ってようやく『この空間に自分の身体を置く』ということを感じながら、ダンスに向かい合うことができている実感があります。例えば、自分が出ていないシーンを袖で見ている時間に、どれだけ自分の身体を舞台上に馴染ませることができるかどうか。他のダンサーが作った空気の一部に既になった状態で、舞台に一歩を踏み出す。それを意識すると、自然とユキオさんが求めている身体の状態になるんですよね。重心が下半身に下がってきて、視線も落ち着く。日々学んでいます」
葉月「私は前回のトラム公演は出演しておらず、『六本木ヒルズ』や『キラリ☆ふじみ』など屋外パフォーマンスが多かったので、劇場の舞台に立つということ自体が、自分にどんな影響を与えるのか、不安と期待でいっぱいです。そして、何より刺激になっているのは、ゲストダンサーの存在ですね。私はメンバーとして何ができるのかーー。ただ、それは頭で考えてできることではなくて、経験や時間を積み重ねたことで、無意識に出てくる身体の質感や動きに『鈴木ユキオメソッド』が染み付いている、ということを再認識しています」
菜緒「きらり☆ふじみでのパフォーマンスで、朱里と葉月はすごく変わった気がするよね」
ユキオ「真冬の水の中で踊ったからね。あの冷たさに鍛えられたかな(笑)」
葉月「確かに。実際、考えてる場合じゃない環境でしたね(笑)」
ユキオ「僕の振付の特徴は『間(ま)』にあると思っていて、それをメンバーが共有してくれているのに、すごく助けられていると思う。ダンスに回収されないダンスでいるための『間』。その『間』が『身体の質感』になって、ダンスの空間になる。それはメンバーとの積み重ねてきた時間が大きいね」
暁「僕自身がどれくらい体現できているかわかりませんが、以前よりも、ユキオさんの言葉や振付を頭で理解し、身体でアウトプットすることができるようになってきた感触はありますね。そのプロセスがとても楽しく、自分がメンバーであることを、改めて感じる日々です(笑)。それはゲストダンサーのおかげですね、ある意味、客観的な目で自分の存在を見ざるを得ないので」
菜緒「確かに。今作では『個』を試されているような気がするね。それぞれがどういう身体でどう立つのか問われているような。そのためにこれまで積み重ねた経験の引き出しから、それぞれがいろんな『在り方』を引っ張り出している感じ。みんなの顔が見えてくるような作品になりそうな気がしてる。バラバラな『個』が、ユキオさんの演出で、呼応して繋がって、でももちろんみんな違う顔で」
暁「それでも共有している『間』的な何かで繋がっている」
ユキオ「『間』か『真』か、あるいは『魔』か….」
みんな「…..笑…..」
はるか「何を共有しているのかと言われると、一言で説明できないことも多いですよね、正解は一つじゃないし。対峙して、お互いが発し合って、そこにある空気が一緒になるグルーヴ感がでればいいなと思います。共有しているから生まれるダンス」
暁「クリエイションの中で即興的に動いてシーンを組み立てていくことがあるけど、やっと最近、気持ちよく思いっきりできるようになった感覚があるんです。今まではメソッドを考えすぎて、動けなくなってた。でも、ようやく頭で気にしなくても大丈夫になった。多分、身体に染み付いてきたんだと思います。カンパニーで初めて出演した京都公演の映像を観ると『この時は何も考えてないだろうな』と応援したくなったくらいです(笑)」
朱里「今回は自分が成長できるきっかけがたくさんあるような気がします。ゲストダンサーの言葉を聞くのも面白い。カンパニーでよく使うユキオ言語みたいなものがあるとしたら、それとは全く違う言葉で表していたりして『なるほど、そういう風にいうのか。じゃあ、私はどうなんだろう』って考えたり」
はるか「前作は自分で判断する隙がないくらい全て振付されているような作品だったよね。それが今回は、もちろんたくさん決まっているけど、その中でも細かい部分は自分で考えて判断しているように感じさせる仕組みになっているように思います」
菜緒「みんなすごく成長してるんだなぁ。思考することが身につくと『ダンス』がもっと楽しくなることを実感するよね」
ユキオ「それは今回強く感じてる。個人で活躍しているゲストダンサーと並んで舞台に立っている姿を見ると『みんな変わってきたな』と思うし、これまでのプロセスを知っているから嬉しくなる。そして、確かに今回の挑戦は前作の『人生を紡ぐように 時の流れを刻むように』とはいろんな意味で違うかもね。ダンサーそれぞれの存在の仕方も、関係性も、身体性も、全てにおいてフラットでい続けるというか」
菜緒「シアタートラムで発表する新作は、毎回身体性が違うのがうちの特徴でもある気がする。古いところから言うと『沈黙とはかりあえるほどに』の暴発的な120%の身体から始まり、エネルギーを抑制し続けるような『揮発性身体論』。そして子どもが遊ぶような『堆積』、そしてグッと変わって、大人のダンスを思わせる『人生を紡ぐように 時の流れを刻むように』、そして今回。また全然違う身体に挑戦してるよね。今、やろうとしていることは難しいけど、できたら面白いと思う」
ユキオ「2-3年の周期で変わり続けることはいいことだと思ってる。チャレンジする姿勢を持ち続けていたいと思うし、劇場での新作公演は新しい挑戦をしないと、自分にとっても刺激がないしね。『moments』では、これまで話に出てるカンパニーの特徴でもある『間』に真っ向から対峙してるね。瞬間をどうとらえて、紡いでいくのか。ダンサー8人で、常に『瞬間』に向かい続ければ、バラバラに見えるピースや身体も繋がって見えてくると思う。本番に向けて、みんなの力を借りていいものにしたい。ぜひ多くの方に観に来てほしいですね」
<安次嶺菜緒 Nao Ashimine>
3歳からクラシックバレエを始め、お茶の水女子大学・舞踊教育学コース卒業。鈴木ユキオプロジェクトでは、多くの作品に出演する他、振付補佐・ドラマトゥルグ・ワークショップアシスタントも行っている。個人の活動では、自身の振付作品の発表、山田せつ子との共演などダンサーとしての活動の他、大学非常勤講師、子供ダンスWS講師も担当。STスポットラボ20「ラボアワード」受賞。
<赤木はるか Haruka Akagi>
3歳よりクラシックバレエを習い始め、日本女子体育大学・舞踊学専攻に入学。大学卒業後、谷桃子バレエ団準団員として入団。高野美和子、山下残、おやつテーブル、黒沢美香等の作品に出演。2009年伊藤キム主宰「輝く未来」にて解散まで在籍。2011年より鈴木ユキオプロジェクトに参加し「揮発性身体論」、ヨーロッパツアー、アメリカツアーなど、以降すべての作品に出演している。
<山田暁 Sato Yamada>
新潟県出身。高校の創作ダンス部でダンスに初めて触れる。大学在学中に、鈴木ユキオの学生への振付作品に出演し「堆積-Accumulations-」京都公演にアンダースタディとして同行したことをきっかけに初出演。その後2019年からカンパニーダンサーとして鈴木ユキオプロジェクトに参加する。個人でも活動しており、BUoYやセッションハウス、カフェムリウイなどで作品を発表している。
<小谷葉月 Hazuki Kotani>
5歳からクラシックバレエを始め、お茶の水女子大学芸術・表現行動学科舞踊教育学コース及び同大学修士課程卒業。在学中は自身の作品の創作活動も行い、「SAI International Dance Pre Festival 2017」にてSAI Award 受賞。卒業後、2019年から鈴木ユキオプロジェクトに所属。
<阿部朱里 Akari Abe>
幼少期からクラシックバレエを習う。日本女子体育大学・舞踊学専攻卒業。在学中、水曜日のカンパネラ、藤あや子などのバックダンサー、清水フミヒト、岩渕貞太等作品に出演。「JUICE」をきっかけに、2019年よりカンパニーダンサーとして、鈴木ユキオプロジェクトに所属。また、インストラクターとして児童館やダンススタジオで指導している。
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