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【対談集 vol.4】 鈴木ユキオ「刻の花」/「moments」について

中央線芸術祭2021で初演した『刻の花』。写真家・八木咲さんとのコラボレーションは、これまでの鈴木ユキオソロ作品の感触は残しつつも、「美術」「アート」としての側面を強く感じさせ、劇場ダンス作品を「体験」するという新しい感覚を探りあてた。この作品が生まれ、育ってきた歩みを聞くと、「生きる」ということに切実に向き合い続けるふたりの人間像が浮かび上がってきた。

リハーサル風景 ©︎Hiroyasu Daido

ユキオ「この作品が生まれた発端は、コロナの自粛期間にあるんです。僕は、山梨の自然が多いところで暮らしていて、稽古場も集落の小さなスペースで、生活とダンスがとても近い環境にいるんだけど、自粛期間中は都会に出なくなったから、自分にとって「生活」とか「暮らし」がさらに濃くなってきた時期。そんな時にクリエイションは始まって。咲ちゃんはコロナ以前からよく遊びにきてご飯を食べたり、一緒に山を歩いたりしていたんだけど、彼女がとても自然に僕の暮らしを写真で切り取ってくれていた。写真には、そのときの時間が閉じ込められているんだけど、咲ちゃんの写真は止まっているようで動いてるようにも感じる。切り取られた『瞬間』が生きているように感じるんだよね。その時興味あったのが、ミヒャエル・エンデ『モモ』の時間どろぼうだったり、制作依頼を受けた中央線芸術祭のテーマが「美術としての身体」だったり、いろんなことが繋がって、写真と身体を展示するような作品が作りたいと思った。そして、そのクリエイションの最中から、これをシアタートラムに発展できたらいいなと思ってたよ」

「初めにお話をもらったときは正直不安もありました。舞台はもっぱら観る側だし、パフォーマンスを撮ることはあっても『見られる』という行為がそもそも恥ずかしい。お客さんの視線の先に自分がいることに一瞬不安がよぎったんだけど『ユキオさんとなら大丈夫かな』という安心感の方が強かったです。ユキオさんは『暮らしの延長線上に作品を作る人だな』と思ってて、それは、自分にとっての写真ととても似ている気がしてたから」

『刻の花』中央線芸術祭2021 ©︎MILLA

ユキオ「この作品では咲ちゃんだけではなく、他のスタッフも『見られて』いるし、写真という媒体を通して、そこにいる観客自身も、ある意味『見られて』いる状態になるもんね」

「そうなんです。テルプシコール(中央線芸術祭)の時は、観に来る人も含めて『みんなで作る』『観るというより体験する』『時間を共にする』という感覚を、持って帰っていただけたかなと思っています。そして、今回のシアタートラムという大きくて全く違う環境になって、悩むことももちろんあるけれど、作品の中心はしっかりできているから、そのまま旅をすればいいかなとも思ってます。『刻の花』はどんなところに行っても、その場に馴染むことができる作品だと思うんです、写真も身体も気持ちも。今回がその旅の始まりになればいいな、と」

中央線芸術祭での上演中に八木咲が撮影した写真 ©︎Saki Yagi

ユキオ「会場の違いは大きいよね。お客さんと一緒に体験する良さを僕たちも体験しちゃったから、ついつい同じようにしたくなるけど、やっぱり違う。でも、今回の場所オリジナルの『体験・体感の仕方』を作り出せば、それでいいんだってわかってきた。咲ちゃんの写真も長い時間かけて丁寧に集められたものだし、僕の踊りも自粛中にコツコツ積み上げてきたもの。写真とダンスという骨格にブレはない。だったら、場所が変わったことに、どうフィットさせるかというだけなんだよね。もちろん試行錯誤の時間は必要だけど、本質はうまく伝えられるんじゃないかなって思ってる」

『刻の花』中央線芸術祭2021 ©︎MILLA

「やっと今日、今回の作品の構造を頭で理解して、ギミックを整理できて『あとは感覚で動ける!』と思えました。でも、それは自分達の問題だけではなく、スタッフとの共有も大きいですよね。サウンドデザインの梅さん(齊藤梅生)が今日初めて隣に座ってオペをしたんですけど、隣にいて、梅さんのPCに描かれる音の波形を見たり、オペの様子を近くで感じて、すごく安心したんです。技術部が一緒にいる心地よさ。普通はスタッフが視界に入ると気になるんだろうけど、『刻の花』はそれがない。人が見えて安心する、まさに『暮らし』ですよね。そこに作品の本質があると思うんです、うまく言えないけど(笑)」

ユキオ「今回は、生活から音を採集して、サウンドを梅さんに作ってもらったり、河内さん(舞台監督)に設えのデザインをお願いしたり、スタッフ陣も作品に入り込んできている。助けられてるね。非常にプライベートなところからスタートしている作品で、共感してくれる人が見てくれたらいいなと言う感覚で始まっているけど、スタッフが加わり、空間が変わり、また新しい観客に出会い、少しずつオープンになっていく。その感じもいい」

八木咲の写真と鈴木ユキオ 『刻の花』中央線芸術祭2021 ©︎MILLA

「ユキオさんが言うように『暮らし』に近い作品の感じがいいですよね。誰もが感じたことがある音や景色。芸術が芸術のためだけじゃなくて、暮らしのための芸術もいいなって。断片的な記憶だったり音だったり、身体の形だったり表情だったり。そういう誰でもなんとなく知っているものが散りばめられている。『超絶技巧の芸術だ』って言うよりも『懐かしい』気持ちになる感じ。そんな断片の余韻が続いていく感じが心地いいんじゃないかと思ってます。『観る』と言うより『感じる』。それは、小さなスペースだから感じられた訳ではなく、トラムのような規模になっても、それを実現できるということが今回わかって、自分自身が納得した感じがあります。やっぱり自分の感覚は合ってたと」

ユキオ「 懐かしい感触というのは、前原秀俊さんの音楽の影響も大きいよね」

中央線芸術祭での上演中に八木咲が撮影した写真 ©︎Saki Yagi

「あと一週間で本番。ドキドキするけど、ユキオさんとは『大切にしているもの』が似てるんだろうなって感じてるから、安心してる。あ、でも実は全然違ったらどうしよう(笑)」

ユキオ「似てると思うよ(笑)、価値観とかね。『生活』とか『生きること』に興味がある。『生きるってなんだろう』ってことからアンテナが伸びていって、それぞれの活動に繋がっているよね。全てはそこから思考が始まるというところは似てると思う、だからこそ共感できる。『刻の花』はそういうある意味、デリケートな部分に支えられているのかもね。作品が始まる導入として、前回はお客さんの近くや体に直接写真を投影するという演出をしていたけど、今回はまた新しい入口を用意してる。ぜひ、劇場に『体験』しにきてほしいね」

鈴木ユキオと八木咲 ©︎Hiroyasu Daido


<八木咲  Saki Yagi>
写真家 埼玉県出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。物語を感じさせる写真が多くの人を魅了し、雑誌をはじめ、アーティストの撮影やファッションブランドのルックなどでも活躍。暮らしの中に溶け込む光を記憶し続けている。
【website】 http://sakiyagi.com
【instagram】https://www.instagram.com/yagisaki_/

YUKIO SUZUKI projects 「刻の花」/「moments」
7月1日(金)19:00
  2日(土)14:00 / 19:00
3日(日)14:00
@シアタートラム(東京都三軒茶屋)
【振付・演出】鈴木ユキオ
【出演】
「刻の花」鈴木ユキオ・八木咲
「moments」安次嶺菜緒・赤木はるか・山田暁・小暮香帆・中村駿・西山友貴・小谷葉月・阿部朱里 

瞬間に捉えられたものは永遠の時間を帯同する
八木咲の写真を通して、過去と現在、少し先の未来を行き来しながら時間のずれを観客と共に体感するソロ作品「刻の花 -トキノハナ」と、一人ひとりのかけがえのない時間が交錯し衝突しすれ違い何かを生み出し破壊する、そんな世界の断片を集めた新作「moments」。
「身体でしか言い尽くせない世界」を求め続ける振付家・鈴木ユキオが描き出す「時間(とき)」にまつわるダブルビル

【チケット】
一般前売 4,000円 当日 4,500円
U24前売 3,000円 高校生以下 2,500円
世田谷パブリックシアター友の会 3,700円 せたがやアーツカード会員 3,800円
【ご予約】
●世田谷パブリックシアターチケットセンター
03-5432-1515 (10:00〜19:00)
●世田谷パブリックシアターオンラインチケット(要事前登録)
http://setagaya-pt.jp
●Peatix
https://yukiosuzuki.peatix.com(オンライン決済)
【お問い合わせ】
http://www.suzu3.com
【公演詳細】
https://setagaya-pt.jp/performances/202207suzukiyukio.html

振付・演出:鈴木ユキオ
舞台監督:河内崇
照明:筆谷亮也
サウンドデザイン:齊藤梅生
楽曲提供:前原秀俊
衣装:山下陽光(途中でやめる)
宣伝美術:八ツ橋紀子
記録写真:大洞博靖
企画制作:鈴木ユキオ制作事務所
制作協力:鄭慶一
主催:YUKIO SUZUKI projects
提携:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター
助成:芸術文化振興基金
協力:公益財団法人セゾン文化財団・中央線芸術祭
後援:世田谷区

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