『経験なき経済危機』:第5章の5
『経験なき経済危機』が、ダイヤモンド社から刊行されました。
10月28日から全国の書店で発売されています。
これは、第5章の5の全文公開です。
5 異次元金融緩和の無意味さを再確認
異次元金融緩和時とは大きく違う
以上で見た状況は、異次元金融緩和で起きたことと大きく異なるものだ。コロナ以前には、マネーがこのように増えることはなかったのだ。
2013年4月に導入された異次元金融緩和では、日銀は国債を大量に購入してマネーを増やし、物価を上げようとして、失敗した。それは、日銀当座預金を増やしただけの結果に終わり、貸し出しを(したがってマネーを)増やすことがなかった。
また、16年1月にはマイナス金利を導入した。この目的も貸し出しを増やすことだった。しかし、実際には貸し出しはさして増えなかった。
異次元金融緩和は、日銀当座預金を増やし、金融機関の採算を悪化させただけの結果に終わったのだ。こうなってしまったのは、マネーに対する需要がなかったからだ。マネーに対する需要がないにもかかわらず国債を購入したりマイナス金利を導入したりしても、マネーを増加させることはできないのである。
異次元金融緩和は空回りだった
異次元金融緩和措置でターゲットとして設定されたのは、国債買い上げ額(最初は年間50兆円程度、2014年10月の追加緩和後は年間80兆円程度)と消費者物価上昇率(年率2%を2年以内に達成)であった。
国債買い上げはほぼ目標どおりになされたのだが、物価目標はいまに至るまで達成されていない。
それは、マネーに対する需要が増えなかったからだ。日銀が国債を購入した代金は、日銀の当座預金になる。これが増加することでマネーストックが増えることが目的とされたのだが、そうはならず、単に当座預金を増やすだけの結果となった。つまり、異次元金融緩和政策は「空回り」したことになる。
日銀保有長期国債の対前年同月比増加額は、15年から16年頃には80兆円程度になったが、最近では図表5‐2に見るように、大きく減少している。
異次元金融緩和のときには、日銀当座預金が増えて、預金は目立って増えなかった。ところが、いまは、日銀当座預金はあまり増えていない。
つまり、マネーに対する需要が弱いときに無理やりマネーを増やそうとして国債を大量に購入したが、マネーは増えなかった。そして、国債購入量を減らしてきたときに、マネーに対する需要が急増して、その結果、マネーが増えたのだ。これは、誠に皮肉な結果だ。
国債購入額が異次元金融緩和前の水準に戻ったいま、マネーが増加している。これは、異次元金融緩和がいかに無意味な政策だったかを再確認させるものだ。