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第1章の2 高齢者が働くと、税率50%の税がかかるのと同じことになる

 年金受給資格がある人でも、働いていると年金の一部または全額が支給停止されることがあります。これを、「在職老齢年金」制度といいます。この制度は、高齢者の就業を抑制する効果があると考えられます。
 政府はこの制度を見直す方針を表明しました。
 高齢者の就業率を引き上げることが必要であることを考えれば、当然すぎる措置です。
 以下で、その仕組みについて説明しましょう。

 停止額は、「基本月額」と「総報酬月額相当額」によって計算されます。

 「基本月額」とは、年金額(年額)を12で割った額です(老齢基礎年金や加給年金は含まれません)。
 「総報酬月額相当額」(以下、「報酬月額」という)とは、毎月の賃金(標準報酬月額)と、「1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額」の合計です。

 計算方法は下記のとおりで、それほど難しくありませんが、最初は取りつきにくいと感じるでしょう。ウェブには早見表がいくつも提供されており、「在職老齢年金 早見表」で検索すればすぐに見つかるので、それを見るのがもっとも手っ取り早いでしょう。例えば、このようなサイトがあります。https://hokenstory.com/zaishokurorei-nenkin-hayamihyo-simulation/

報酬が2万円増えると年金は1万円減額
1)60歳以上65歳未満の場合
 基本月額+報酬月額が28万円までは、減額しません。
 基本月額+報酬月額が28万円を超えると、報酬月額が2万円増えるごとに、年金が1万円減額されます。

 例えば、基本月額が10万円の場合、報酬相当額が20万円なら1万円減額されます。報酬月額が38万円以上になると、年金は全額カットされます。

 基本月額が20万円の場合は、報酬相当額が10万円なら1万円減額され、報酬月額が48万円からは年金は全額カットされます。

(2)65歳以上の場合
 基本月額+報酬月額が47万円までは、減額しません。基本月額+報酬月額が47万円を超えると、報酬月額が2万円増えると年金は1万円減額されます。

 例えば、基本月額が10万円の場合、総報酬相当額が38万円なら、0.5万円減額され、報酬月額が58万円以上になると、全額カットされます。

 基本月額が20万円の場合は、28万円なら0.5万円減額され、報酬月額が68万円からは全額カットされます。

賃金に50%の税が課されるのと同じ
 65歳以上で基本月額が20万円の場合をもう一度考えてみましょう。総報酬月額が26万円までは年金はカットされないので、年金と労働報酬を合わせた額は、働くだけ増えていきます。したがって、この部分については、働くインセンティブが残っています。

 しかし報酬月額が28万円を超えた分は、働いて得た報酬の半分が取られるのと同じになります。つまり、実質的な賃金は半分に低下するわけです。
 これは、限界税率50%の税金がかかるのと同じことになります。これは、きわめて高い税率です。
 ですから、就労のインセンティブは著しく低下することになります。

働かないほうがトク
 働いて得た報酬に税がかかるのは、高齢者に限ったことではありません。しかし 、高齢者の場合には税率が非常に高いのが問題です。

 年金カットが始まる報酬額は、基本月額が大きいほど小さくなります。例えば、基本月額が30万円の場合は、報酬額が18万円から年金減額が始まります。

 つまり現役時に給与が高かった人ほど、退職後は労働を続けるインセンティブを失うことになります。

 実は、問題はそれだけでありません。この制度は、高齢者の賃金を低く抑える働きをしている可能性があるのです。
 

 冒頭で述べたように、政府はこの制度を見直す予定です。
 在職老齢年金制度によって、現在1兆円程度年金支給額が減額されています。したがって、仮にこの制度を廃止するとすれば、財源手当が必要です。これは簡単ではありませんが、制度が見直されれば、働く高齢者にとっては大きな福音です。

 ただし、これで高齢者が働くことに対する制度上の障害がすべてなくなるわけではありません。実は他にも、制度上の深刻な問題があります。それは医療保険制度です。

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