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『生成AI革命』全文公開:第4章の3

『生成AI革命』(日経BP 日本経済新聞出版)が1月19日に刊行されました。
これは、第4章の3全文公開です。

3.知の独占の崩壊 
    ChatGPT が弁護士や医者に取って代わる日は来るか?

 法律や医療に ChatGPT が進出
 本章の1と2で見たように、医療や弁護士などの専門家が行なっている仕事を ChatGPT が担う可能性がある。まだ完全には現実化していないが、その方向への変化が着実に進行しており、これから大きな変化が生じることは間違いない。現在、ただちにこうしたことができない大きな理由は、ChatGPT が間違った答えを出す可能性があることだ。そのため、これらの技術を使用することに対しては、慎重論が強い。とくに医療への応用に関しては、人間の命に関わることなので、強い反対意見がある。
 しかし、出力の誤りに対する対策は急速に進んでいる。法律の分野においては、AIを使用した訴訟において、さまざまな成果が期待される。また、典型的な契約文書の作成なども、AIの力を借りて効率化されることが考えられる。
 このような状況になると、専門家間での差が生じるだろう。とくに弁護士の分野で、このような状況が生じる可能性が高い。AIサービスを使えてより良いサービスを提供できる弁護士は、仕事を効率的に増やし、依頼者が増えることになるだろう。一方、AIを活用できない専門家は仕事が減る可能性がある。

専門家の価値の低下

 それだけではない。現在は医師や弁護士が行なっている仕事の一部を、ChatGPT が代替できるようになる可能性が高い。医師や弁護士だけでなく、これまで一定の資格を持った専門家でしかできなかったことを、実質的には、ChatGPT でもできる。これは、明らかに専門家の役割、あるいはその価値を低下させるものだ。
 もちろん、それによってただちに専門家が失業するというわけではない。とくに医師の場合、今後の日本では、高齢化に伴って医療需要が増えることが予想されるので、ChatGPT が医師の仕事の一部を肩代わりすることによって、負担を軽減する効果のほうが大きいだろう。
 ただし、専門家による仕事の独占が崩れていくことは、間違いない。たとえば、法律関係の仕事では、行政書士や司法書士が行なっている仕事の多くは、ChatGPT で代替できるかもしれない。たとえば、ChatGPT の助けを借りれば、契約文書などを自分で作成することが可能になる。これは、低所得者にとっては大きな恩恵となる。
 同様のことが、さまざまな分野において生じる可能性がある。こうして、専門家がこれまで行なっていたことの一部が、専門家の力を借りなくても、普通の人でもできるようになるだろう。弁護士や医師は、依然として強力なサポート役として存在し続けるだろうが、これまでよりは、必要性が低下するかもしれない。もちろん、弁護士や医師は政治的にも影響力のある集団であるため、簡単にこのような変化を受け入れないだろう。しかし、長期的には技術の進歩に逆らうことは難しい。


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