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イギリスのEU離脱は、愚かな決定とは言えない
ブレグジットが決定的になった。重要なのは、ロンドンが世界の金融センターとしての地位を維持できるかどうかだ。仮に、その地位が揺るがないとすれば、EU離脱の動きが他の加盟国にも広がる可能性がある。
◇ なぜブレグジットなのか?
12月12日のイギリス総選挙で与党の保守党が下院の過半数議席を獲得し、イギリスのEU離脱(ブレグジット)が決定的になった。
この問題の背景に、移民の急増に対するイギリス国民の反発があると言われる。
しかし、イギリスの移民の受け入れは、他のEU諸国より高い。これがブレグジットの理由とは考えられない。
むしろ、EUの官僚制への反発の方が強いと言える。余計な規制を押しつけられて、経済の活力をそがれているという不満だ。
ブレグジットは、日本では、「愚かな決定、孤立主義」と言われることが多いのだが、必ずしもそうとは言えない。
◇ 重要なのは金融
イギリスはもはや工業国ではなく、大陸への輸出が重要であるわけではない。
重要なのは金融だ。ロンドンのシティは、ニューヨークと世界の1、2位を争う国際金融センターだ。
EU離脱を乗り越えて、生き残ることができるかどうかが、大きな問題だ。
問題となるのは、「単一パスポート制度」である。これは、EUのいずれかの国で取得した銀行免許によって、EU全域で自由に銀行業務ができる制度のことだ。ブレグジットが実現すると、イギリスで取得した免許はEUで通用しなくなる。
このため、金融機関はすでに欧州大陸での免許を取得し、フランクフルト、アムステルダム、ダブリンなどに従業員や機能の一部を移す動きが生じていると言われる。
イギリスで行われている金融業務の約4分の1は、EUの顧客に関連していると言われ、ブレグジットによってシティの業務は15−25%縮小するという試算もある。
ただし、そうなるかどうかは分からない。
ロンドンはEUができる前から世界の金融の中心だった。パスポート条約のために成長したわけではない。
長い年月の間に作り上げた無形のインフラストラクチャーがある。それは、パスポート条約がなくなったところで失われるものではない。だから、EUから離脱したといって現在の地位を失うことはないとの考えもある。
また、イギリスが法人税率を引下げ、規制緩和を推進すれば、金融機関の活動がより容易になる可能性もある。
さらに、フィンテックなど新しい分野では、イギリスの実力は高く、これはパスポート条約とはあまり関係がない。
なお、仮に取引の一部がイギリスから流出するとしても、それはヨーロッパ大陸に向かうのでなく、ニューヨーク、香港、シンガポールなどの金融センターに向かう可能性もある。
◇ 離脱の動きが他のEU諸国に広がる?
ブレグジットをもたらしたEUへの不信感は、イギリス限ったことではない。
仮にブレグジットでイギリスの経済がそれほど大きな痛手を受けるのでなければ、EU離脱の動きが、他の加盟国にも及ぶ可能性がある。
例えば、オランダやベルギーなどだ。
スイスやノルウェーなど、EUに最初から加盟していない国もある。これらの国は繁栄を続けている
スイスは、金融において独自の発展を遂げており、EU単一市場のメリットを享受している。
EUに加盟することが疑問の余地なく正しいと考えている人が日本には多いのだが、決してそうではない。