消費税の基本問題は解決されず、矛盾が拡大
◇免税、簡易課税制度が残ることの問題
今年10月から消費税制度が変わるが、これは、2015年12月12日の自民、公明両党の合意に基づいている。
ここでは、つぎのようにされていた。
(1)2017年4月1日に消費税の軽減税率制度を導入する。
(2)21年4月にインボイス(税額票)制度を導入する。それまでの間は、簡素な方法とする。
もう少し詳しく言うと、つぎのとおりだ。
①現在、売り上げ高によって前段階の税を推計する簡易課税制度があるが、売上高5000万円以下の中小事業者には、17年4月以降も認める。17年4月からは、軽減対象品目の比率についても推計を認める。
②売上高1000万円以下の零細事業者については、17年4月以降も免税制度をそのまま残す。
③税額票の導入から6年間は、免税事業者から仕入れた場合でも、税額控除を受けられる。
上記の合意内容で最も問題なのは、免税業者制度や簡易課税業者制度が残ることである。日本の消費税制度にはインボイスがなく、転嫁が完全にできない場合があるので、それを補うために、免税制度や簡易課税制度が導入されていた。
本来は、インボイスを導入することによって転嫁を容易にし、それによってこれらの制度を廃止すべきであった。これらが残ることによって、消費税制度の問題点は改善されず、むしろ、以下に述べるように、問題がさらに拡大することになった。
◇最終段階で免税業者が排除される
軽減税率を導入すると、最終段階の免税業者が取引から排除される場合が発生する。免税業者は、前段階の税を控除できないので、小売価格に転嫁せざるを得ないからである。
この問題は、すでに説明した。
一般に、当該段階での付加価値が少なければ、免税業者であることのメリットが少なくなり、前段階の税を控除できないことのデメリットが大きくなる。
食料品については、零細小規模業者が多い。その多くは免税業者であろう。また、付加価値の比率も低いだろう。すると、こうした店での価格が高くなり、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで買う方が安くなる。したがって、免税業者のほうが、価格競争上不利な立場に置かれることになるわけだ。
免税業者が価格競争力を維持しようとすれば、自ら消費税を負担せざるをえなくなり、利益が減少する。
これは、現実にかなり大きな問題になる可能性がある(なおこれは、非課税制度に関連して、すでに現実化している問題である)
これは、軽減税率のメリットが免税業者のメリットが上回ってしまうという問題である。したがって、軽減税率を導入することによって初めて生ずる問題である。軽減税率というのは、もともと免税制度のメリットを少なくする制度なのだから、こした問題が生じるのは、当然なのだ。
この問題は、それまでの免税業者が課税業者になることによって解決できる。ただし、還付額の計算は正確に行われなければならない。したがって前段階の税額を正確に把握する必要があり、そのためにはインボイスが不可欠である。つまり、この問題の解決は、インボイスの導入によってしかなしえないのである
◇簡易課税制度をどうする
現在、課税仕入れと非課税仕入れの区別は行なっている。複数税率が導入されれば、その区別も仕入れについて行う必要が生じる。
これは本来の課税の場合についても必要となることであるが、簡易課税の場合には、仕入れのデータを用いず、売り上げのデータのみを用いて前段階の税を計算しているため、仕組みが極めて複雑なものにならざるを得ない。
軽減税率が導入された場合に簡易課税制度を残すか否かは、重要な問題である。自民・公明合意では、簡易課税制度を残し、さらに推計の範囲を広げることとした。簡易課税の適用業者数は数が多く、社会的にかなり重要な役割を果たしている。したがってこの制度の廃止は、政治的にかなり難しい問題を含んでいる。
しかし、具体的にいかなる計算方法を用いるかについては、何も提案されていない。計算の方法によっては、益税の可能性がさらに拡大する可能性もある。
◇「非課税」から「ゼロ税率」への転換が必要
まったく議論されなかった大きな問題として、非課税制度をどうするかがある。
これは、免税事業者制度と似ているが、異なるものだ。免税事業者制度は零細業者を対象とするもので、どんな財・サービスであっても、年間売り上げが1000万円以下の場合に認められている。それに対して非課税制度は、特定の財やサービスのみについて認められ、事業者の売上高は関係がない
社会政策的配慮から非課税取引とされているものとして、社会保険診療(公的医療保険でカバーされる医療)、介護保険サービス、住宅の貸付けなどがある。
ところで、非課税とされる取引には消費税が課税されないので、非課税取引のために行った仕入れに関しては、仕入れに含まれている消費税額を控除することができない。
このため、消費税の税率が引き上げられると、前段階の税の増加をどうするかという問題が発生する。引き上げ分を家賃に転嫁できない、あるいは、社会保障診療費に反映されないという問題である。その場合には、増税分を事業者が負担しなければならなくなる。これは、消費税率を5%から8%に引き上げる際に問題となった。
「社会政策的観点から消費税負担を軽減する」という意味では、軽減税率も非課税制度も同じだ。これまでは、軽減税率がなかったために非課税制度によらざるを得なかったが、軽減税率が導入されたことによって、矛盾が生じている。
例えば、借家の家賃は生活必需品であるにもかかわらず、消費税の税率引き上げで値上げせざるをえなくなる(あるいは、家主がその分を負担する)。それに対して食品の場合には、高級な加工食品であっても、軽減税率で価格を低く抑えられる、といったような問題である。
軽減税率が導入されるからには、現行の非課税制度は廃止して、軽減税率の一環として扱うことが考えられる。具体的には、これまで非課税の対象とされていた財サービスについては、税率をゼロとするのである。輸出は、ゼロ税率の消費税を課税するという扱い(輸出免税制度)になっているが、それと同じ扱いにするわけだ。
こうすれば、前段階の税を控除できることになり、現在問題とされている医療費や家賃の問題は解決できる。
ただし、ゼロ税率であるため必ず還付をすることになるわけで、前段階の税を正確に把握する必要があり、インボイスは絶対に必要だ。
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