『日本の税は不公平』全文公開: 第1章の2
『日本の税は不公平』(PHP新書)が3月27日に刊行されました。
これは、第1章の2の全文公開です。
2 政治資金非課税扱いの根拠は薄弱
政治家個人への政治資金は雑所得
税法では、政治資金に対する課税をどのように規定しているのだろうか?
東京都や広島県などの都道府県が「政治団体の手引き」という公式ページを公表しており、政治資金に関する税法上の扱いについて説明している[1]。
これらを整理して示すと、次のようになる。
まず、政治団体に対する課税と、政治家個人に対する課税を区別する。
政治団体には、法人格を有するものと、有しないものがある。法人格を有するものは、「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」により法人格を取得している政党等と、政党の指定する政治資金団体だけだ。これ以外の政治団体は法人格を有しておらず、「人格なき社団」として取り扱われている。
政治家個人に対する政治資金への課税については、次のように説明している[2]。
1.政治家個人が政治活動に関して受けた政治資金は、雑所得であり、他の所得と合算して課税される。この場合、政治活動のために支出した金額は経費として控除。ただし、赤字が生じても、他の種類の所得と損益通算ができない。
2.選挙運動に関して受けた寄附で、公職選挙法第189条の規定に基づく収支報告がされている場合には、課税されない(所得税法第9条第1項第19条、相続税法第21条の3第1項第6号)[3]。
パーティー券収入は、事実上、非課税扱い
政治団体が受けた収入は、寄付と事業収入とに区別される。
広島県公式ページは、寄付につき、「政治団体が受けた政治活動に関する寄附については原則として非課税」としている(第3篇、第1)[4]。
次に、収益事業による所得については、法人税が課税されるとし、その例として出版事業を挙げている。
ただし、一定の条件が満たされれば、課税対象外になるとしている。なお、政治団体も消費税の課税対象となる。
パーティー券収入は、実際には非課税とされているのだが、それは、法律上の明確な規定に基づくものでなく、事実上そうした扱いになっているというだけのことであるようだ。パーティー券を販売して収入を得たとしても、それは法人税の対象である「収益事業」とは見なされないと、実務上、解釈されていて非課税となるのだと言われている。
なお、公益法人の活動には課税されないが、政治家の団体は公益法人ではないので、これとは関係がない。
政治家個人への寄付は、禁止の場合が多い
政治家個人への寄付については、次のような制約がある[5]。
•個人から政治家個人への政治活動に関する寄附は、金銭及び有価証券によるものは原則禁止。年間150万円以内の物品等に限られる。
•政治家の資金管理団体や後援団体などの政治団体に対する寄附は、年間1団体につき150万円まで金銭による寄附ができる。
•例外として選挙運動に関するものに限り、年間150万円以内で金銭による寄附をすることができる。
•会社、労働組合やその他の団体などが政治家個人や後援会へ寄附することは一切禁止。会社、労働組合等は、政党及び政治資金団体に対してのみ寄附することができる。
政治資金規正法は、課税については何も規定していない
政治資金規正法は、政治団体が受けた寄付について公表することを義務づけているが、課税の扱いについては何も規定していない。
政治資金規正法は、1988年のリクルート事件を契機として、1994年に改定された。政治家個人に対して寄付を行なうことが禁止され、寄付は、政治団体に対して行なうこととされ、それを収支報告書に記載して公表することが義務付けられた。この法律の目的は、政治資金の流れを透明化することなのである。
なぜ政治家の活動だけが特別扱いなのか?
以上のように、政治団体が、会費や寄付金等を受け取った場合、それに税金はかからない。
では、なぜ非課税なのか? 政治活動は社会的に有意義だからだろうか?
しかし、もしその論理がまかり通るなら、「私の仕事は社会的に有意義だから、非課税であるべきだ」と言う人や企業が続出するだろう。
例えば、「原稿を発表することによって世の中が良くなると期待されるから、原稿料収入は非課税であるべきだ」と言いたくなる。
もちろん、こんなことを言ったところで、笑い物にされるだけだろう。それにもかかわらず、政治資金は非課税とされている。そうなる理由は、政治家には力があるが、原稿執筆者にはない、ということしかない。
多くの⽇本⼈が、私と同じように、この素朴な疑問を⼼の中に抱えているだろう。⼀般⼈が行なっている活動は、税務署に散々調べ上げられて、しかも⾼い税⾦を課される。しかし、政治活動は違う。なぜなのか? という質問は、政治家以外のほとんどの人が⼼の中に抱えている疑問だろう。
選挙は公益のために⾮常に重要な活動である、これは間違いないことだ。しかし、なぜ選挙に必要な資金は⾮課税なのか? それがあるから、それ以外の政治活動についても、事実上の解釈として、⾮課税となることが、⼀般に認められている。
だから、まず、最初に選挙に関する収入がなぜ⾮課税なのかを問題にしなければならないだろう。
外国においても、同じような問題がある。これは⽇本だけの特殊な問題ではない。しかし、「外国でもそうだから」というだけでは理由にはならない。
政治活動である選挙に税務当局が介⼊してきて、何らかの政治的意図を持って、ある政治勢⼒だけを厳しく調査するようなことになれば問題だ、ということはあり得る。そういう⾏為を排除するために、選挙活動に必要な資金を非課税にするという説明だ。
しかし、それは選挙活動に限らない。私が意⾒を述べることも、ある種の政治活動だといえないことはない。では、なぜ選挙だけが非課税なのか?
パーティーは、本当はビジネスではないのか?
前項で述べたことは、とくにパーティー券収入について言える。すでに述べたように、これは非課税とされる。しかし、パーティーの実態はビジネスなのではないだろうか?
パーティーの本来の趣旨は、支持者が政治家の志を支えようということであり、そうしたパーティーもあるだろう。しかし、実際には、パーティー券を購入することによって、何らかの見返りを受けられるという期待があるはずだ。あるいは、購入しないとさまざまな嫌がらせを受けるかもしれない。
そうだとすれば、それは、一種のビジネスだと見るのが自然だろう。だから、特別扱いするのはおかしい、ということになる。
江田五月氏は、『国会議員 わかる政治への提言』(講談社現代新書)の中で、企業が政治家に「車や秘書を提供し、赤坂や銀座で接待し、多額の献金をする」のは、「企業として損得のバランスがとれると見込んでいるからだ」と述べている。
国会議員には非課税の所得が多すぎる
国会議員には、課税所得である「歳費」の他に、非課税の収入がたくさんある。まず、「調査研究広報滞在費」(「文書通信交通滞在費」)が、月65万円、年に780万円。
そして、立法事務費が月額65万円、年に780万円。それに加え、JR特殊乗車券・国内定期航空券や、3人分の公設秘書給与や委員会で必要な旅費、経費、手当、弔慰金などが支払われる。
率直に言って、うらやましいと思う。われわれの生活とはあまりにかけ離れているので、そもそも「おかしいのではないか?」と言う気力さえ失ってしまう。
これほど多額の非課税収入を得られると、納税者意識など麻痺してしまうのかもしれない。しかし、政治家が納税者意識を失ってしまっては、困るのだ。
第4章で述べるように、国民負担率は、5割に近づいている。平均すれば、所得の半分近くが、税・社会保険料として徴収されている。そして、これから高齢化がさらに進んで社会保障費が増えれば、国民負担率がさらに上がることは不可避だ。
こうした状況で、税の不公平は、絶対に許されない。負担率の引き上げを実現する責務を負っている国会議員が税負担を免れるようでは、いったいどうやってそれを実現できるのかと、暗澹たる気持ちになる。
[1]東京都選挙管理委員会事務局「政治団体の手引」2023年2月
広島県選挙管理委員会「政治団体の手引」2023年9月
この他、千葉県、茨城県、栃木県、宮城県、福島県、山形県、新潟県、 長崎県、滋賀県などが、「政治団体の手引」を作成、公表している。
[2]広島県「政治団体の手引き」第3篇、第2
[3]「選挙運動に関して受けた寄附」とは、正確には、次のとおり:公職選 挙法の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し贈与に より取得した金銭、物品その他の財産上の利益で同法第189条(選挙 運動に関する収入及び支出の報告書の提出)の規定による報告がなされ たもの。
[4]根拠規定は、次のとおり。法人税法第7条、法人格付与法第13条第1 項、相続税法第21条の3第1項第3号、相続税法第1条の4。
[5]総務省「なるほど!政治資金 政治資金の規正」