『ブロックチェーン革命[新版] 分散自律型社会の出現』終章(その2)
『ブロックチェーン革命[新版] 分散自律型社会の出現』が、日経ビジネス人文庫から刊行されました。
・8月5日(水)から全国の書店で発売されています。
これは、終章の全文公開(その2)です。
終章(その2)
主役は交代したが、新しい勝者が市場を支配
確かに、ITによって情報が仲介者を介せずに直接に伝達されるようになったため、情報に関するフラット化は進んだ。しかし、その結果、世界は本当にフラット化したのだろうか?
世界的な水平分業は確かに進んだ。しかし、アメリカとインドの間には依然として所得格差がある。GM(ゼネラルモーターズ)などの古い組織が衰退したことは事実だ。大型コンピューターからPCへの移行で、個人でもコンピューターを使えるようになった。しかし、その結果生じたのは、マイクロソフトという巨大企業がすべてを支配する世界だった。利用者もコンピューター・メーカーも、マイクロソフトが決めたことに従うしかない。
マイクロソフトが巨大化していくとき、小企業の特徴を残していたアップル・コンピューター(現アップル)に拍手を送る人が多かった。しかし、アップルは iPhone という機械を発明し、企業価値がアメリカ最大の企業になってしまった。
街の小さな書店が、巨大なウェブサイトであるアマゾンによって淘汰されるような事態が生じた。グーグル、アマゾン、フェイスブックといった企業の時価総額が巨大になった。
結局のところ、企業間の格差は消滅しなかった。確かに経済をリードする主役企業は変わった。しかし、世界をフラット化すると期待されたその主役が、成長し、大企業となり、市場を支配するようになったのだ。
IT革命の初期、“fast eats slow”(速いものが遅いものを呑み込む)といわれた。大組織は動きが遅いのに対して、小企業は変化に対する反応が速いから、大組織を呑み込んでしまうというわけだ。しかし、いまにしてみると、結局のところ、経済を支配するのは大組織だ。
これが、これまでのITがもたらしたものだ。実際に実現したのはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の世界だ。主役は交代したが、依然、大組織だ。
零細企業は、ITの恩恵を受けられなかった。資金調達もできず、莫大な収入を得ることもできない。そして、依然として経理などのルーチンワークをこなさなければならない。
組織内の階層構造も変わらない
それだけではない。組織内の階層構造も健在だ。
フリーランサー的な仕事が増えたのは事実だ。クラウドソーシングによって専門家が自由に働ける機会も増えてはいる。しかし、全体から見れば、まだ限界的だ。
企業によっては、副業を解禁しつつあるところもある。しかし、伝統的な大企業では依然として組織内階層があり、コマンド・アンド・コントロールが続いている。
そして、組織の中においても、所得格差が拡大している。特にアメリカでは、CEO(最高経営責任者)など企業トップの所得がきわめて高い。これは「第二の金ぴか時代」といわれるような状況だ。
クリスティ・アフリータンド『グローバル・スーパーリッチ』によれば、19世紀末から20世紀初めにかけて、それまで世界で最も平等な社会であったアメリカが、大きく変質し、ジョン・D・ロックフェラー、コーネリアス・ヴァンダービルト、アンドリュー・カーネギー、ヘンリー・フォードなどの大金持ちを輩出した4。この時代を、「第一次金ぴか時代」と呼ぶことができる(「金ぴか時代」[Gilded Age]とは、マーク・トウェインの小説の題名)。そして、いま「第二次金ぴか時代」と表現できるような時代になっているというのだ。
しかも、高額の所得を受けている金融機関などのトップが、それに見合う仕事をしていたのかといえば、大いに疑問だ。その証拠が2008年に起こったリーマンショックだ。問題の多くが、トップリーダーが金融機関のリスクを把握していなかったことによって引き起こされたのだ。
ITの利用が始まってからもう30年以上たつのだが、われわれはいまだ約束の地に到達していない。この意味で、われわれは、IT革命に裏切られたことになる。