米中経済戦争が新たな局面に
米中貿易戦争がエスカレートし、世界経済に動揺が広がっている。
日本企業も生産拠点移転などの対応を迫られている。円高進行の可能性もあり、日本経済も大きな影響を受ける。
◇エスカレートする米中貿易戦争
トランプ大統領は、アメリカが輸入する中国製品の約3000億ドル(約32兆円)分に9月1日から10%の関税を上乗せすると、8月1日にツイッターで明らかにした。
今回の対象は中国からの輸入総額の約5割を占め、これまでの制裁関税の対象より規模が大きい。
中国は、報復措置として、アメリカからの農産品の購入を一時停止した。
2018年に始まった米中貿易戦争で、2019年5月初めまでの段階で、中国からの輸入500億ドルに25%、2000億ドルに10%の追加関税がかかっていた。
トランプ政権は、今年の5月10日に、中国からの輸入品2000億ドル相当に対する制裁関税を10%から25%に引き上げた。これを受けて、世界の株式市場は急落した。
6月末の米中首脳会談で第4弾の発動はいったん見送られたものの、中国側に譲歩の姿勢がみえないとして、今回の強硬策に打って出たのだ。
今回の引き上げで、中国からの輸入のうち、2500億ドルに25%、3000億ドルに10%の追加関税がかかることになる。
なお、トランプ大統領は、3000億ドル分について、「段階的に引き上げる可能性がある。25%以上もあり得る」と述べた。
◇米中経済への影響
今回の対象には、中国からの輸入依存度が高い消費財が多く含まれている。スマートフォンやPC(パソコン)、衣料品、玩具など、消費者への影響に配慮してこれまで避けてきた品目が中心だ。
高関税が実施されれば、消費財が値上りし、企業業績も下押しされるだろう。
国際通貨基金(IMF)は、今年の4月に発表した「世界経済見通し」において、米中両国が全ての輸入に対する関税率を25%に引き上げた場合、実質GDP成長率がどの程度低下するかについて推計した。
それによると、中国の成長率は0.6~1.2%ポイント、アメリカは0.1~0.2%ポイント下押される。
中国に生産拠点を持つ日本企業への影響も避けられない。タイやベトナムなどへの生産拠点移動などの動きが急ピッチで進むだろう。
◇金融市場への影響
8月5日の株式市場で、ダウ工業株30種平均は大幅に続落し、前週末比767ドル(2.9%)安の2万5717ドルと、6月5日以来2カ月ぶりの安値になった。
ダウ平均の下げ幅は今年最大で、2018年12月4日以来ほぼ8カ月ぶりの大きさだった。
6日午前の中国市場では、株価は大幅続落した。代表的株価指数である上海総合指数は一時3%超下落した。
6日の東京株式市場で日経平均株価は3日続落し、一時は前日比600円超下げた。終値は、前日比134円98銭(0.65%)安の2万0585円31銭となった。これは、7か月ぶりの安値だ。
◇通貨戦争の様相も
5日の中国・上海外国為替市場の人民元相場は対ドルで続落し、1ドル=7・0352元となった。1ドル=7元を超える元安は、2008年5月以来11年ぶりだ。
これを受けて、中国人民銀行は5日朝、人民元の対ドル相場の基準値を昨年12月以来の低水準となる1ドル=6・9225元に設定した。一定の元安を容認したことになる。
これによって輸出を下支えする意図がある。
他方で、元安に歯止めがかからなければ、資産を海外に持ち出す大規模な資本流出が加速し、中国の金融市場が不安定化する恐れもある。
アメリカ財務省は5日、中国を「為替操作国」に指定した。これは、1994年以来、25年ぶりのことだ。事態は通貨戦争の様相を呈してきた。
6日の東京市場では、円相場が一時、1ドル=105円台半ばまで上昇した。