就職支援が必要なのは「氷河期世代」だけでない
政府が「就職氷河期」世代の就職支援を始めると、報道された(日本経済新聞、8月15日)。
正規雇用で半年定着したら、研修業者に成功報酬型の助成金を出す。支援対象は100万人規模。8月中に支援策をとりまとめる。
◇氷河期世代だけの問題でない
現在40歳前後の年齢の人々が学校を卒業したときは、「就職氷河期」にあたり、希望したような就職が出来なかった人が多いと言われる。
これは、事実だ。
それがいまも、非正規雇用者が多いことなどに尾を引いているといわれる。
そのため、この世代の所得は低く、「この世代が高齢者になる時代には、生活保護費が爆発的に増える」との予測がある。つまり、この世代は、日本社会が抱える時限爆弾だというわけだ。
これが問題であることも事実だ。
希望する働き方ができていない人々に対して政府が就職支援を行なうのは、大変望ましいことだ。
しかし、報道されるような内容の支援策には、いくつかの疑問がある。
◇なぜ氷河期世代だけを対象とする?
第1に、老後不安があることなどの問題は、現在の日本で、あらゆる世代が抱える問題だ。
非正規雇用者が多いという問題も、この世代に限られたことではない。現在の日本社会で、一般的に存在している問題だ。
これは、さまざまな統計データで確かめることができる( 「将来爆発する「時限爆弾」を抱えるのは団塊ジュニア世代だけでない」)
では、なぜ氷河期世代だけを対象とする政策を行なうのか?
政府の政策は年齢層で絞ることになるようだが、これでは、不公平が発生するだろう。わずかな年齢差で政策の対象外とされて切り捨てられてしまった人々はどうなるのか?
また、政府支援策の対象は100万人というが、35-44歳層に限っても、非正規雇用者、非労働力人口、完全失業者の合計は500万人近い。この中からどのような基準で100万人を選ぶのだろうか?
全年齢階層を見れば、非正規雇用者は、2018年で2120万人いる。このわずか21分の1未満の人々を対象にした政策を行なっても、どれほどの効果が期待できるのだろうか? 「何もやっていないわけではない。対策はした」というアリバイ作りにならないだろうか?
◇政策の中身に対する疑問
「正規雇用で半年間定着したら、研修業者員に助成金をだす」という政策の手法にも疑問がある。
第1に、こうすると、非正規雇用者だけを対象にすることになると思われるが、それは適切か?
新しい職につくための訓練の必要性は、現在正規の雇用者であっても持っているはずである。
第2に、補助金は、研修業者に出すのでなく、受講者に出すべきだ。そうしないと、受講者は望む内容の研修を選ぶことができない。
第3に、どのような業種への就業誘導を行なうかだ。現在の日本の状況を考えると、介護分野が中心となる可能性が高いが、そうした方向でよいのかどうか?
第4に、最も深刻なのは引きこもり者への支援だと考えられるが、それには、職業訓練以前のメンタルケアなどが重要と考えられる。こうした問題はどうなるのだろうか?
第5に、これが最も重要な点だが、この問題は、日本経済全体のパフォーマンスを向上させることによってしか真の解決が得られないものである。
本当に必要なのは、非正規雇用者が増え、実質賃金が上がらない日本経済の状況をなんとかして改善することだ。つまり、アベノミクスが実現できなかった課題を実現することである。