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『日本が先進国から脱落する日』   全文公開 第1章の3

日本が先進国から脱落する日“円安という麻薬"が日本を貧しくした‼ (プレジデント社)が3月1日に刊行されました。
これは、第1章の3全文公開です。

3 知らないうちに
  日本の地位が低下した

10年前、日本はビッグマック指数で世界トップクラスだった
 日本のビッグマック指数が本章の1で見たような低い位置になったのは、比較的最近のことである。昔はこうではなかった。
 ビッグマックの2010年の価格(ドル換算値)で見ると、つぎのとおりだ。
 日本は3・91ドルで、アメリカの3・71ドルやイギリスの3・63ドルより高かった。日本より高かったのは、スイス、ブラジル、ユーロ圏、カナダぐらいだった。韓国は3・03ドルで、日本より低かった。この頃には、日本人が海外に行った時に、多くの国で物価が安いと感じたはずである。
 アベノミクス直前の2012年との比較でもそうだ。2012年6月に、日本のビッグマック価格は320円であった。このときの為替レートは1ドル=78・22円であった。これで換算すると4・09ドルとなり、アメリカの4・33ドルとあまり変わらなかった。
 つまり、日本は、国際的に見て、アベノミクスの期間に急速に貧しくなってしまったことになる。アベノミクスの期間に生じた最も大きな経済的事件がこれだ。
 もっとも、それ以前を見ると日本の値はさらに高かった。2000年では、日本のビッグマック指数は10・5で、世界第5位だった。指数がプラスだったので、アメリカより高かったことになる。日本より高い国は、イスラエル、スイス、デンマーク、イギリスしかなかった。この10年、20年の間に、日本の国際的地位が大きく下がったのだ。

アベノミクスの円安政策が問題―吠えなかった番犬
 賃金やGDPの日本の立ち後れについてよく言われるのは、過去20年以上にわたって、日本経済がほとんど成長しなかったことだ。それに対して、世界の多くの国では経済が成長した。「このため、日本が取り残された」と言われる。
 この考えによれば、日本が貧しくなった原因は、日本の成長率の低さだということになる。確かにそうだ。しかし、ここでとどまらずに、さらに検討を続ける必要がある。
 なぜなら、アメリカで物価が上がり日本で上がらなければ、あるいはアメリカで名目賃金が上がり日本で上がらなければ、第2章の1で述べるように、為替レートが円高になって調整されるはずだからである。
 ところが、日本は金融政策によって為替レートを円安に導いた。このため、国際的に見て日本の物価や賃金が安くなったのだ。
 したがって、現在の日本の低い賃金や「安い日本」を問題とするのであれば、その責任はアベノミクスにあるということになる。
 シャーロック・ホームズ・シリーズの『銀星号事件』で、ホームズは、犯人が侵入した時間に「犬が吠えなかった」ことが不思議だと言う。あって当然のものがなければ、それが問題を解くカギだ。異常な円安に対して、番犬が吠えなかったのが、日本の問題なのだ。

国内にいると、日本の国際的地位の低下が分からない
 以上のような変化が起きていることを、日本人はあまり意識していない。
 これは、下りのエレベーターに乗っている人のようなものだ。閉ざされたエレベーター内からは、外の様子は見えない。そして、エレベーターの中にいる人たちとの間の相対関係は変わっていない。だから、自分の位置は変わっていないと感じる。しかし、エレベーターの外との関係では、その人の位置は下がっているのだ。
 日本は島国であるため、海外旅行に出かけないと世界における自国の相対的地位を実感できない。だから、外国との比較で日本の地位が下がっていることを自覚しにくいのだ。そうしている間に、これまで述べたような大きな変化が生じてしまった。


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