老後生活資金の問題
老後生活資金の問題は、いまの日本では、誰にとっても極めて重要で、切実な問題です。
この問題は、伝統的な日本社会においては、それほど深刻ではなかったものです。
その理由は2つあります。第一は、退職後の平均余命がそれほど長くなかったこと。第二は、退職後は子供の世帯と同居して生計を一にするという家族内の扶養が一般的だったことです。
この状況はだいぶ前から変わってきましたが、それでも問題はさほど深刻化しませんでした。その理由は、年金の水準が比較的高かったからです。とくに大企業の場合は、企業年金や退職金が十分な水準である場合が多かったと考えられます。
このような状況が変わってきたために、あるいは将来において深刻化すると予想されるために、老後資金の問題がクローズアップされてきたわけです。
この問題については、金融庁試算の以前から、様々な試算がなされ、公表されてきました。
ただし、誰にも当てはまる共通の金額があると言うわけではありません。必要貯蓄額は、その世帯の置かれた状況によって大きく異なるものです。
一般的に言えば、老後生活資金は次のような式で計算されます。
所要蓄積額=不足額×必要年数
不足額=必要な生活費ー年金等の収入
金融庁の試算では、必要な生活費=1ヶ月あたり26万4000円、年金等の収入=1ヶ月あたり20万9000円、不足額=1ヶ月あたり5万5000円、必要年数=30年として、必要蓄積額が2000万円だと計算しています。
必要年数は、家族の年齢から平均余命を調べることで、ある程度は客観的に推計できます((ただし、健康状態等によって異なるでしょう)。
退職後の収入について、年金額等はある程度は見当がつくでしょう。
必ずしも正確に把握されてないのは、必要生活費です。これは自分ででコントロールすることができます。
したがって、年金等の収入と平均余命を所与として、生活費をそれに合うように調整していくことが必要です。
ただし、必要生活費は、医療費によって大きく異なる場合もあることを考えておく必要があります。
この計算は、若い世代にとってこそ必要なことです。なぜなら、蓄積は長年の努力の結果としてしか実現できないからです。
こうした計算に関しては、公的な情報提供サービスが提供されてもよいと思われります。
「老後資金2000万円問題」をきっかけににして、そうした動きが活発化してもよかったのですが、残念ながら、目立った進展は見られません。
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