老後生活問題を、いかなる形で参議院選の争点とすべきか?

 「100年安心年金」とは、「100年間維持できる年金制度」という意味であって、「老後生活を年金だけで支えられる」という意味ではない。
 このことは明らかであって、多くの人々は、そのように認識している。

    これは、私が実施したアンケート調査の結果からも明らかだ。
 7月1日までで、194件の回答をいただいたが、「老後生活のために蓄えが必要」とする金融庁の報告書を「適切なものだ」とする回答が81.6%になっている。「いたづらに不安を煽った」との回答は、7%に過ぎない。

 野党が、「政府は年金だけで老後を支えられると言っていたが、実はそうなっていない」と攻撃するとしたら、間違っている。

 政府は、本来は、「年金だけで老後生活を賄えるとは約束していない。だから蓄えが必要だ」と言うべきだ。しかし、はっきりそう言ってしまうと、選挙前に不要な議論を引き起こすことを怖れて、そのことを強調していない。金融庁の報告書の受け取りを拒否したのも、そのような考えに基づくものだ。
 新聞の投書欄などを読むと、「これまで真面目に保険料を払ってきたのに、年金で老後生活を支えられないのはおかしい」といった類の投稿が見られる。こうした誤解をとくことは、老後生活問題を議論する出発点だ。

 「老後生活で必要な資金が場合によって異なり、平均値だけで一律に判断できない」というのは、事実である。
 しかし、様々な条件を入れれば、ある程度の目安がつく。例えば、家族構成、現役時代の収入、年金以外の収入、毎月生活費を決める諸要因、健康状態等々を入力すれば、必要生活費や、そのために必要な貯蓄額を計算するのは、機械的な作業によって可能である。
 したがって、「平均値だから不適切」というだけでは不十分だ。野党としては、そのような計算サービスを提供することを要求すべきだし、政府はそれに応えるべきだ。

 こうした計算を行なえば、多くの人にとって、「現在の状況では老後生活を支えるのに不十分」という結果になる可能性が高い。
 老後生活への準備が不十分であることを認めるのは、誰にとっても嫌なことだ。しかし、「嫌だから目を背ける」というわけにはいかない。
 実際、私が行なったアンケートでも、70%の回答が「現在の蓄えでは不十分」としている。多くの人々は、冷静な判断をしているのだ。

 以上の諸点は、参院選の争点にすべきものだ。また、参議院選が終わっても議論を続けるべき問題だ。しかし、事態はそのような方向には動いていない。


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